ナタリー PowerPush - FLiP

4人が奏でる有毒な愛の歌

Sachiko自身の恋愛を歌う勇気

──当然の話なんですけどFLiPらしさをさらけ出すんだっていう意志はアルバムタイトルや詞にも現れていますよね。というのも、1stミニアルバムが「DEAR GIRLS」で、2ndフルアルバムのタイトル「XX emotion」の「XX」はX染色体が2つ=女性という意味。これまでFLiPってガールズバンドであることにすごく自覚的だったし、対女の子という意識が強かったように思うんです。

そうですね。

──ところが今作は「LOVE TOXiCiTY」。そしてSachikoさんが全曲手がけたという詞の多くはラブソング。ごく私的な恋愛を歌っています。これって勇気が要ったんじゃないですか?

勇気?

──これまで、あまねく広く女の子に向けて歌っていたFLiPが「タランチュラ あたしの体液を ぜんぶ吸い尽くして」(「Tarantula」)、「いじめてよもっと 中途半端な細胞が 愛だの恋だの戯けてる」(「カミングアウト」)と、パーソナルな恋愛感情をけっこうエグい言葉で歌うことに驚くファンもいる気がするんですよ。

ああ、なるほど。でもやっぱり今回のアルバムではもっと主観的になりたかったんですよ。それに今までと同じことをやって「FLiPっていいよね」「カッコいいよね」って言ってもらうよりも「次はどんな音楽をやるんだろう」「未知数な感じだけど、なんかいいよね」って言ってもらいたかった。聴いている人をゾクゾクさせたかったんですよ。そのやりたいことをやってるときってすごく楽しいし、モチベーションも上がるし、怖いものはないじゃないですか。だから今回のアルバムがもしバッシングされたところで、私たちの中では「で?」って話になるだろうし、「イメージしてたFLiPと違うや」って思われてもそれはそれで仕方ないと思っていて。

──とはいえ「まあバッシングされもしないし、リスナーが離れたりはしないだろ」っていう自信も……。

あるんですよね(笑)。これまでだって私たちの思っていることをウソ偽りなく歌ってきたわけだから「カートニアゴ」とかを聴いてくれていた女の子、それから男の子にもカッコいいって思ってもらえるだろうなって。不安は全然ないですね。

聴く人の目の前まで顔を近づけてなんて歌いたくない

──今回のSachikoさんのラブソングって威勢がいいし、間違いなくカッコいい半面、ネガティブな内容が多い。髪を切った女の子に「失恋した?」って聞くくらい野暮な話なんですけど、今、最大の関心事って、こういう悲しい恋だったりします?

Yuumi(Dr, Cho)

あはははは(笑)。ギターを持って初めてバンドを組んだ頃から作る曲はすでにラブソングだったんですよ。別れの曲を泣きながら作ったりとか。その頃に歌詞に乗せたい感情は恋愛感情っていう基軸みたいなものができあがっていて。今回は自分の本質をさらけ出す作品にしたかったので、その基軸を守っただけ。クリエイティビティを発揮しつつ、自分の経験したことや抱いている感情をさらに押し広げて詞を書いてみたって感じですね。

──当然、誰か好きな人とお付き合いすることになったらハッピーにはなるわけですよね?

そういう感情はもちろん持ってますよ(笑)。だけどそれを音で表現するのは、ちょっと違う気がするんです。

──歌うべきことではない?

うん、なんかそういう人間なんですよね。「ハッピー! イエーイ!」って歌っているときほど自分のことが気持ち悪く感じられるときはないし、うれしいことがあってもあんまり創作意欲は湧かないんですよ。歌うってこと自体はもちろん楽しいことなんですけど、歌う内容まで楽しいっていう感情に寄り添わなくてもいいじゃないって思うので。ちょっとマイナスな要素があったりとか、痛い部分があったりするのが自分の表現したいことだし、そういうことを歌うほうが気持ちいいんですよね、自分の中で。あと基本的に「夢を追いかけろ」みたいな熱さを持った人間でもないので。もちろん夢を追いかけたいっていう気持ちはありますけど、ハッピーな恋愛と一緒で、別にそれを中心に歌わなくてもいいんじゃないかっていう思いはありますね。なんか聴く人の目の前まで顔を近づけるような歌は歌いたくないんです(笑)。

絶望の中に光を見出すために本質と向き合う

──このアルバムがエモーショナルでありながらイヤな暑苦しさがないのは、作詞家がそういう気持ちだからなのかもしれませんね。

「ニル・アドミラリ」とか、「二十億光年の漂流」とかみたいに、気持ちいい距離感を保った私なりの夢を追いかけろ系の曲たちもあるんですけどね。恋愛の曲も絶望を歌っている気はさらさらなくて。私自身1つ悩む要素が生まれると、それが身体中を取り巻いちゃって、本当に落ちるところまで落ちちゃうんですよ。で、もう誰ともしゃべりたくないってなって、1回いろんなことをシャットアウトしちゃう。自分のことしか考えられなくなるんですけど、それってそこから這い上がりたいからなんですよね。ある意味、這い上がりたいからあえて落ちてるんです。きちんとその悩みと向き合ってクリアしたいし、私が求めている光みたいなものに到達したいから。すべての歌でそういう気持ちを歌っているので、絶望や苦しみの段階で止まっているわけじゃないんですよね。

──さっきの話と表裏一体というか、暑苦しくはないんだけど、このアルバムがエモく聞こえる理由はきっとそれですよね。悲観だけしている人が作っていたら、エモーショナルな言葉や音にはならないはずですから。

そうありたいですよね。私と同じような痛みを抱えていたり、ちょっと負けそうになったりしている人の背中を自分の歌で押すことができたら、すごく幸せに思うし、誇りに思えるから。それがしたくて自分のダメなところに向き合っているわけですから。

──最後に、自身の本質に大胆に切り込んだセルフプロデュース作っていう、本当にタフな1枚を作ったあと、FLiPは何をしましょう? 確実に評価は上がるだろうけど、そのぶん、よく言えば周りの期待が大きくなる。悪く言えばハードルも上がると思うんですよ。

このアルバムを作れたっていう自信があるから「これを超えるのは難しいよね。大変じゃない? FLiP」みたいな評価に対する不安はもうないですね。それに不安がってたらしょうもないものしかできないと思うんですよ。だから次もカッコいいって思えるものを作るだけ。今回だってなんで本質的なことを作りたかったかって言えば、それがカッコいいことだって信じられたからですから。だからもしかしたら次は全然違うことをするのかもしれない(笑)。

ニューアルバム「LOVE TOXiCiTY」 / 2013年6月26日発売 / DefSTAR Records
ニューアルバム「LOVE TOXiCiTY」
初回限定盤 [CD+DVD] / 3200円 / DFCL-2014~5
通常盤 [CD] / 2800円 / DFCL-2016
収録曲
  1. Tarantula
  2. カミングアウト
  3. ニル・アドミラリ
  4. Raspberry Rhapsody
  5. darkish teddy bear
  6. a will
  7. 永遠夜~エンヤ~
  8. Dear Miss Mirror
  9. 二十億光年の漂流
  10. Log In “Rabbit Hole”
  11. Bat Boy! Bat Girl!
初回限定盤 DVD収録内容
  • FLiP Documentary 2012-2013
FLiP 3rd Album Release Tour「LOVE THE TOXiC CiTY」

2013年7月7日(日)
大阪府 梅田CLUB QUATTRO

2013年7月19日(金)
東京都 LIQUIDROOM ebisu

2013年7月27日(土)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

2013年9月7日(土)
石川県 金沢vanvanV4

2013年9月13日(金)
香川県 高松DIME

2013年9月14日(土)
福岡県 福岡BEAT STATION

2013年9月16日(月・祝)
岡山県 岡山CRAZY MAMA 2nd Room

2013年9月23日(月・祝)
宮城県 仙台enn 2nd

2013年9月29日(日)
北海道 札幌COLONY

FLiP(ふりっぷ)

2005年に沖縄県那覇市で、Sachiko(Vo, G)、Yuko(G, Cho)、Sayaka(B, Cho)、Yuumi(Dr, Cho)の4人が結成したロックバンド。地元のライブハウスで精力的なライブを展開し、2008年6月に1stミニアルバム「母から生まれた捻くれの唄」をリリース。同年8月には「SUMMER SONIC 08」への出演を果たす。2009年3月にはアメリカ・テキサスで開催された「SXSW 2009」に出演。海外でも注目を浴びた。2010年2月、いしわたり淳治プロデュースのミニアルバム「DEAR GIRLS」でメジャーデビュー。2011年5月には1stフルアルバム「未知evelution」をリリースし、ガールズバンドの枠を超えたエネルギッシュなサウンドで高い評価を受けた。2012年2月にテレビアニメ「銀魂」のオープニングテーマとなったシングル「ワンダーランド」を、5月に2ndフルアルバム「XX emotion」を発表。2013年6月、初の全曲セルフプロデュースとなる3rdアルバム「LOVE TOXiCiTY」をリリースした。