ナタリー PowerPush - FLiP

4人が奏でる有毒な愛の歌

プロデューサーいしわたり淳治とともに、それぞれ2枚のミニアルバムとフルアルバム、そしてスマッシュヒットを記録した「カートニアゴ」「ワンダーランド」などのシングルを制作してきたFLiPが高らかに独り立ちを宣言。完全セルフプロデュース作となる3rdアルバム「LOVE TOXiCiTY」を発表した。同作に収められているのは、どこまでも力強いプレイと徹底的に練られたアレンジに彩られた、毒性(TOXIC)が高く、切なく、セクシーな11の愛(LOVE)の歌。1stミニアルバムのタイトル「DEAR GIRLS」よろしく、世の女の子代表としてシーンをサバイブしてきた4人が新たな進路に大きく舵を切ったワケをメインソングライター、Sachiko(Vo, G)に聞いた。

取材・文 / 成松哲

曲の幅を求めている次元じゃない

──前作「XX emotion」リリース直前のインタビューでSachikoさんは「ぶっちゃけ次のことを考えてました。充実はしているんだけど、これで満足しているわけではない」とおっしゃっていましたよね。

ええ。

──そして今作「LOVE TOXiCiTY」って、その「次のこと」がはっきりと刻印されたアルバムですよね。特に特徴的なのが全曲バンドによるセルフプロデュースになっていることだと思うんですけど……。

「XX emotion」は音楽性や曲の幅をどこまで広げられるかっていうことに挑戦したアルバムだったんですね。

──デジロック的なアプローチの「CHERRY BOMB」や、Sachikoさんが初めてメジャーコードで書いた「ワンダーランド」、ダンスチューン「YUKEMURI DJ」と、新機軸満載の作品でしたもんね。

Sachiko(Vo, G)

でも去年の夏、今回のアルバムの制作に入った頃、「XX emotion」のインタビューのときに言った「次のこと」について改めて考えてみたら「もう曲の幅を広げている次元じゃないな」って。もっと自分たちをさらけだしたかった。それが当時の私のフラストレーションになっていたんですね。だから曲の幅を広げるのではなく、原点回帰というか、バンドの本質的なところをもっともっと掘り下げてみたかったんです。

──ただ当然ながら「XX emotion」が失敗作というわけではない。デジロックやメジャー進行やダンスミュージックを採用しながらもしっかりFLiPならではの音になっていた。逆に「私たちなんでも作れるじゃん」って万能感に支配されることこそあれ、フラストレーションが溜まるようなことはあまりなさそうな気もします。

うーん……。サウンド的にカッコいいとされている曲って、誰でもって言うとおかしいんだけど、まあ作れると思うんですよ。FLiP以外のバンドさんの作る曲の中にはもちろんカッコいいものがたくさんあるわけだし。だけどFLiPらしい、オリジナリティのあるものは私たちにしか作れない。2ndをリリースしてしばらく経ってから、そのオリジナリティを突き詰めたい欲求っていうのがすごく高まっていたので、曲の幅よりも1曲1曲の濃度を追求しようってなっていて。自分たちらしさっていうもの自体は、2ndのレコーディングのときに限らず常に大切にやってきたんですけど、今回はそれをもっとディープに大切にしたかったんですよね。

ダークサイドにある世界観や心境を音で表現するバンド

──FLiPの本質、自分たちらしさとは?

キレイだけに収まりたくないっていうか、キレイなだけでは済ませたくないんですよ。人間なんだから泣きわめくときもあるし、怒るときもあるし、切なくなってもうダメだとか、苦しくなってもうダメだとか、そういう心境を抱えているのも人間だと思っていて。もちろんその逆サイドにはハッピーな気持ちっていうものもあるんですけど、自分たちはそっちサイドにはいなくて(笑)。結成した頃からダークサイドにある世界観や心境を音で表現するバンドだったし、今もそれが私たちの本質的なカラーだと思ってるので。だから毒っ気のあるものとか、過激さだとか、荒れ狂った感じだとか。そういうものが音と言葉になってるのがFLiPなんだろうなっていうのは、今回アルバムを作るにあたってすごく思いましたね。

──今回のアルバムは「All songs composed by FLiP」とクレジットされているということは、そのFLiP像はSachikoさんだけが抱いていたものではない?

ええ。2ndをリリースしたあとあたりから、メンバー全員「これから先、私たちは1つのバンドとして、1人の人間としてどうなりたいんだろうね?」っていうことは考えていましたから。バンドのミーティングでもそうだし、日常の会話の中でも常にそういう話をしていたし。そして「もっと自分たちをさらけ出そう」「もっと掘り下げよう」「その掘り下げた先に見えた自分たちの本質をサウンドにしてみようよ。それがFLiPの音だから」って感じで向かう先、ゴールはみんなで共有できてましたね。

──その本質って「過激で荒れ狂っていて毒っ気のある私たち」ってことですよね。そういうある種ネガティブな己の姿を改めて見つめ直すのってけっこうしんどくないですか?

でもそれがやりたいことだったので。確かに自分と向き合うのはつらいことではあるし、私自身曲や詞を書いていて逃げ出したくなったことは何度もあるんだけど、人の命ってもちろん永遠じゃないじゃないですか。音楽をずっとやっていきたいけど、いつまでもできるわけじゃない。だから「今は自分と向き合った音を作りたいんだ」と思える、その勢いのままに音を鳴らせることってむしろ幸せなことだと思うんですよ。それに自分の中にあるものを表現できるっていうこともすごく幸せなことだと思うから。

ニューアルバム「LOVE TOXiCiTY」 / 2013年6月26日発売 / DefSTAR Records
ニューアルバム「LOVE TOXiCiTY」
初回限定盤 [CD+DVD] / 3200円 / DFCL-2014~5
通常盤 [CD] / 2800円 / DFCL-2016
収録曲
  1. Tarantula
  2. カミングアウト
  3. ニル・アドミラリ
  4. Raspberry Rhapsody
  5. darkish teddy bear
  6. a will
  7. 永遠夜~エンヤ~
  8. Dear Miss Mirror
  9. 二十億光年の漂流
  10. Log In “Rabbit Hole”
  11. Bat Boy! Bat Girl!
初回限定盤 DVD収録内容
  • FLiP Documentary 2012-2013
FLiP 3rd Album Release Tour「LOVE THE TOXiC CiTY」

2013年7月7日(日)
大阪府 梅田CLUB QUATTRO

2013年7月19日(金)
東京都 LIQUIDROOM ebisu

2013年7月27日(土)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

2013年9月7日(土)
石川県 金沢vanvanV4

2013年9月13日(金)
香川県 高松DIME

2013年9月14日(土)
福岡県 福岡BEAT STATION

2013年9月16日(月・祝)
岡山県 岡山CRAZY MAMA 2nd Room

2013年9月23日(月・祝)
宮城県 仙台enn 2nd

2013年9月29日(日)
北海道 札幌COLONY

FLiP(ふりっぷ)

2005年に沖縄県那覇市で、Sachiko(Vo, G)、Yuko(G, Cho)、Sayaka(B, Cho)、Yuumi(Dr, Cho)の4人が結成したロックバンド。地元のライブハウスで精力的なライブを展開し、2008年6月に1stミニアルバム「母から生まれた捻くれの唄」をリリース。同年8月には「SUMMER SONIC 08」への出演を果たす。2009年3月にはアメリカ・テキサスで開催された「SXSW 2009」に出演。海外でも注目を浴びた。2010年2月、いしわたり淳治プロデュースのミニアルバム「DEAR GIRLS」でメジャーデビュー。2011年5月には1stフルアルバム「未知evelution」をリリースし、ガールズバンドの枠を超えたエネルギッシュなサウンドで高い評価を受けた。2012年2月にテレビアニメ「銀魂」のオープニングテーマとなったシングル「ワンダーランド」を、5月に2ndフルアルバム「XX emotion」を発表。2013年6月、初の全曲セルフプロデュースとなる3rdアルバム「LOVE TOXiCiTY」をリリースした。