音楽ナタリー Power Push - NW-WM1Z / NW-WM1A & MDR-Z1R特集
vol. 3 小西康陽
30年近く経ってようやくありがとう
──ピチカート・ファイヴの「眠そうな二人」を聴いたときの印象も教えてください。
小西 僕、実は1987年に発表した「カップルズ」(「眠そうな二人」が収録されているアルバム)は、作ってからほとんど聴いてなかったんですね。それは欠点がありすぎたから。今年復刻リリースされるってことで聴き直したときに思いのほか出来がいいなと思ったのが、「眠そうな二人」だったんですよ(参照:ピチカート・ファイヴの初期作品がCD、アナログ、配信で再発決定)。そういう好印象があってこの装置でも聴いてみたいと思ったんですけど、そしたらすごいよくて。ほとんどエンジニアの吉田保さんのおかげなんですが、プリントの状態のよいカラーの映画を観てるみたいでよかった。
──長い年月を経て吉田保さんのメッセージが伝わってくるって、ちょっといい話ですね。
小西 保さんには本当に、30年近く経ってようやく「ありがとうございました」って感じで(笑)。長い間、欠点しか見えなくて嫌なレコードだったんですけど、若いわりにはよくやったなって思えました。
潮見 製品開発をしていても似たようなことがありますね。昔作ったヘッドフォンで聴くと「あれ、こんな感じだったっけ?」って思うこともあるんですけど、ちょっと間を置いて聴くと「これはこれでいいな」って思えたり。
寺井 僕も以前の製品を引っ張り出してきて確認するときがあるのですが、当時は「もうちょっとこうしておけばよかった」と思っていたことが実は「よく考えられているな」って気付くことがあって。今小西さんがおっしゃったのと同じような感覚なのかなと思いますね。そういう過去のものを新製品にフィードバックさせたりもしますし。
小西 そういう意味では、今回の製品は一切妥協なしって感じなんじゃないですか?
潮見 妥協なしですね。開発もかなり年月かかってまして、部品単体で見ると例えばこの音響レジスターは10年以上かけて開発しているので。
小西 10年ってすごいね。
潮見 今回やっと形になったんですけど、パルプは北緯45°以上のカナダ産の針葉樹を使っています。緯度が高いと繊維が長くなるので、繊維同士の絡み合いがしっかりして丈夫になるし、通気させすぎない効果があるんですね。それを東北の最上地方の雪解けの地下水を使って漉きました。年間を通じて温度やpH(水素イオン指数)が安定しているので、長期間使っても劣化しにくく、品質の安定化ができるというのが理由ですね。もう1つ、これはぜひ小西さんに試していただきたいんですが、この灰色のハウジングを耳に当てると貝殻を当てたときにみたいに「コー」っていう音がすると思うんですね。でも、新しく開発したレゾナンスフリーハウジングだとそれがない。
小西 (試して)おお。
潮見 これまでの密閉型だと余計な音が発生してしまうので、空気を少し抜いてやることでハウジング内のノイズを排除しています。
小西 そもそもこのヘッドフォンは耳より大きいってインパクトがありますよ。小さいスピーカーを耳に当ててるのと同じじゃない。
潮見 まさに先ほど話したスタジオのスピーカーと聴き比べながら作ったんですよ。ヘッドフォンってアコースティックの楽器と近くて、ドリルで穴を開けたりしながらその場で通気抵抗を調整して。なのでそういう印象を持っていただけたのは光栄ですね。
そのうちこの重さが心地よくなってくる
小西 話を聞いていて改めて思ったけど、本当にこのシステムは1つのオーディオルームと言ってもいいですよね。
潮見 まさにそれが目指したところでもあって。オーディオセットをそろえるとなると、スピーカーとプレーヤーを買って、アンプも買って。さらにこだわるなら部屋自体を防音にしたり、音がちゃんと反射するようにしたりとか、かなり作り込みが必要になってくると思うんですけど、この商品ならそれが自分の耳元と手元で完結するので。
小西 あとさ、Walkmanのこの重さがすごいんだよね。最初に受け取ったときはその重さにびっくりしました。
寺井 もともと1.8kgある無酸素銅を削り出して450gにしてあります。初めはその重さに戸惑うと思うんですけど、ずっとこれを使っていると、別のものに持ち替えたときに逆に「え? こんな軽いの?」って感じるくらい重みがしっくりきちゃうと思うことさえあるんですよね。そこが人間の面白いところで(笑)。
小西 そうそう、そのうちこの重さが心地よくなってくるっていうか、強い説得力があるように感じるんですよ。
寺井 無酸素銅を使ったことにもちゃんと理由があって、実は前のフラッグシップモデルのNW-ZX1やNW-ZX2を開発していたときに中身は何も変えないでシャーシの素材だけいろいろと変えて試作品を作っていたんですね。そのときに無酸素銅シャーシのサンプルも作っていて、「これはいい」ということには気付いていまして。ただ当時は重すぎるとか加工が難しいという理由で製品化は見送ったんですけど、次のWalkmanに生かそうということで、今回、念願叶ってNW-WM1Zに採り入れることができました。
小西 音が変わるのはどうしてなんですか?
寺井 抵抗値が低いことのほかには、通電による振動の影響などいろいろと理由は考えられますが、銅がもつ懐の深さというのか不思議なほど変わるんですね。ちなみにこれが世界に1台しかない、銅で作ったZX2の試作品です。上から3元合金のメッキをしています。
小西 へえ。面白いな。
知らない間にWalkmanの中にも
小西 もう1つ気になったことがあって。ケーブルもすごいですよね?
潮見 そうなんです。別売りになるんですが、KIMBER KABLEと協力して開発したケーブルがありまして。ビジュアル的にもインパクトがあると思うんですけど、ソニーのエンジニアとKIMBERの音に対するこだわりを合わせて作り込んでいます。オーディオ信号の劣化を最小限にとどめ、ノイズのレベルを下げるので原音の持つ音の透明感を余すことなく再現できるという特長があります。実は、インナーイヤー型イヤフォンのためにより細いものを作っていたところ、それをWalkmanの開発チームに持っていかれまして(笑)。
寺井 そうなんです。ヘッドフォンチームから端材をもらってきて試してみたらすごくよかったので、Walkmanのほうでも内部配線に採用させてもらいました(笑)。
潮見 知らない間にWalkmanの中にも入ることになっていて僕らもびっくりしましたね(笑)。
小西 ははは(笑)。
寺井 それによりアンプから直でKIMBER KABLEがヘッドフォンジャックまでいくので、オプションのヘッドフォンケーブルも使っていただければ耳元まで同じ構造のケーブルで通すことができるという。統一されたケーブルで最後まで通せるっていうのは、たぶんソニーだからできたことなんじゃないかなと思いますね(笑)。
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Walkman
NW-WM1Z
価格:オープン価格(※ソニーストア参考価格 32万3870円[税込])
容量:256GB
再生フォーマット:MP3 / WMA / ATRAC / ATRAC Advanced Lossless / WAV / AAC / HE-AAC / FLAC / Apple Lossless / AIFF / DSF / DSDIFF
※著作権保護された音楽ファイル(ダウンロード購入した楽曲など)は再生できません
ディスプレイ:4.0型、FWVGA(854×480ドット)
本体動作対応OS:Windows(R) Vista(Service Pack 2以降) / Windows(R) 7(Service Pack 1以降) / Windows(R) 8.1 / Windows(R) 10 / Mac OS X v10.8~v10.11
外形寸法:72.9(W)×124.2(H)×19.9(D)mm
重量:455g
NW-WM1A
価格:オープン価格(※ソニーストア参考価格 12万9470円[税込])
容量:128GB
再生フォーマット:MP3 / WMA / ATRAC / ATRAC Advanced Lossless / WAV / AAC / HE-AAC / FLAC / Apple Lossless / AIFF / DSF / DSDIFF
※著作権保護された音楽ファイル(ダウンロード購入した楽曲など)は再生できません
ディスプレイ:4.0型、FWVGA(854×480ドット)
本体動作対応OS:Windows(R) Vista(Service Pack 2以降) / Windows(R) 7(Service Pack 1以降) / Windows(R) 8.1 / Windows(R) 10 / Mac OS X v10.8~v10.11
外形寸法:72.9(W)×124.2(H)×19.9(D)mm
重量:267g
ヘッドフォン
MDR-Z1R
価格:オープン価格(※ソニーストア参考価格 21万5870円[税込])
形式:密閉ダイナミック
ドライバーユニット:70mm、ドーム型(CCAWボイスコイル)
感度:100dB / mW
再生周波数帯域:4Hz~120kHz
インピーダンス:64Ω(1kHzにて)
質量:385g(ケーブル除く)
接続ケーブル:ヘッドフォンケーブル(約3m) / バランス接続ヘッドフォンケーブル(約1.2m)
小西康陽(コニシヤスハル)
1959年、北海道札幌生まれ。1985年にピチカート・ファイヴでデビュー。豊富な知識と独特の美学から作り出される作品群は世界各国で高い評価を集め、1990年代のムーブメント“渋谷系”を代表する1人となった。2001年3月31日のピチカート・ファイヴ解散後は、作詞・作曲家、アレンジャー、プロデューサー、DJとして多方面で活躍。2009年にはアメリカ・ニューヨークのオフ・ブロードウェイで上演されたミュージカル「TALK LIKE SINGING」の作曲および音楽監督を務めた。2011年5月に「PIZZICATO ONE」名義による初のソロプロジェクトとして、アルバム「11のとても悲しい歌」を発表。2015年6月には2ndアルバム「わたくしの二十世紀」をリリースした。2016年8月にはピチカート・ファイヴの初期作品「カップルズ」と「ベリッシマ」のリマスター盤を、CD、アナログ、配信の3パターンで復刻リリース。また9月には、音楽を担当したHuluオリジナルドラマ「でぶせん」のサウンドトラックが発売された。