音楽ナタリー Power Push - NW-WM1Z / NW-WM1A & MDR-Z1R特集

vol. 1 大友良英

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vol. 2 さかいゆう
vol. 3 小西康陽

4Hzから120kHzまで

潮見 MDR-Z1Rのドライバーユニットなんですが、今回70mmのものを使用しています。人の耳のサイズは平均65mmなので、それよりも大きいサイズになります。実は私、ソニーの中で研究用に人の耳型を取って収集する“耳型職人”の6代目なんですけど……。

大友 今6代目って言いました? ソニーの歴史の中で耳型を収集する人が今まで5人いたってこと?

潮見 そうですね。

左から、従来のグリル、フィボナッチパターングリル、シリコンの耳型。

大友 へえ、面白い。(サンプルのシリコンの耳を手に取って)うわ、妙にリアル。耳ってほんといろんな形状がありますよね。

潮見 はい。普段人が聴いてる音は平面波に近い音になってるんですね。耳の近くで小さい形で音を鳴らすと点の形になっちゃうんですけど、そこを人の耳のサイズよりも大きい形状にすることで、自然な音の響きに近づけることができます。このドライバーの振動板はドームにマグネシウムのかなり薄い金属の膜を使ってできていまして、これにより先ほども話した120kHzの再生ができるようになっています。

大友 120kHzってすごいよね。

潮見 イルカとかだと聞こえるらしいんですけど。

大友良英

大友 僕自身も聞こえるかどうかをサイン波でチェックするんですけど、残念なことに年齢と共に高域が聞こえにくくなっていて、15kHzより先は聞こえないんですね。だから15kHzより先は関係ないとも思うんですけど、でも「ここから先は聞こえないからいいや」って切っちゃうと、聞こえてないはずなのにはっきり差がでるんですよ。それは経験的にすごいよくわかる。

潮見 あと高い周波数を再現するにあたりグリルも特長的な形状をしてまして、フィボナッチ数列という自然界の黄金比から導き出される曲線を参考にしています。ひまわりの種の配列とか、あとは台風や銀河の渦だったりとか。そういうものを参考に描いて作ってみたところ、空気の伝搬を阻害せず、なめらかな高域再生を実現できました。

大友 これって開発するときって「この形にしたらこうなるだろう」と予想しながら作るんですか? いろいろ試行錯誤しながらやるものなの?

潮見 試行錯誤するんですけど、今回のものは最初のひらめきによるところが大きいですね。本とか読んでそういうアイデアが浮かんだり。今回、上は120kHzですけど、下は4Hzから出るようになってまして。

大友 4Hzって風みたいな感じじゃない?

左から大友良英、佐藤浩朗氏、潮見俊輔氏。

潮見 そうですね。広いスペースの音って、低い波長の音がすごい重要になってくるんですね。そういったところも表現することで、まさにスタジオのサイズであったりホールのサイズを感じられるように作り込んでいます。

大友 かつてWalkmanが出てきてヘッドフォンが流行り出したときに、僕は「人間と音楽の間に空気を入れないのはありえない」って思ったんです。音楽を直接鼓膜に届けるのがなんで嫌かっていうと、要するに自分と音楽の間に、世界がなくなってしまうからなんです。耳と音楽の間に空気が入るってことはノイズが入るってことで、ノイズはなくさないでほしい。ノイズに満ちあふれているのが世界ですし、そもそも僕はノイズをやってますから(笑)。でも、悔しいことにこのヘッドフォンは空気感がちゃんとあるんですよね。

潮見 スピーカーで聴いてるような音の先を目指しているので。スピーカーもヘッドフォンも、生音が最終的なターゲットなんですね。なので同じ方向を向いてやっています。

中心を少しだけセンターからずらす

──大友さん、ご自身が手掛けた「TIME」を聴いた感想はいかがでした?

大友良英

大友 スタジオで録ったものがプロダクトになる段階で音が変わるのは、仕方ないことだと思ってるんですね。当然CDだとこうなるんだとか、テレビだとこうなるんだっていうのを前提に作ってるんだけど、今回のWalkmanとヘッドフォンで聴いたら何も変わらない。そのまんまって感じがした。

潮見 レコーディングしたときの音そのものを再現するというのは、実はレゾナンスフリーハウジングというのも効いています。

大友 レゾナンスフリーハウジング? なんかマンションでも購入するときの何かみたいだね(笑)。

潮見 (笑)。こういうカップのものを我々はハウジングと呼んでいるんですけど、一般的な密閉型はグレーのほうで通気がないもの。耳に当てていただくと貝殻を耳に当てたような「コー」っていう音を感じると思うんです。それに対して今回設計したレゾナンスフリーハウジングはそれがない。静けさを感じると思います。

大友 (試してみて)ああ、ないですねえ。これ吸音材が入ってるのかな? スタジオで使う吸音材に耳を近づけた感じにすごく似てる。

潮見 そうではないんですけど、吸音材に近い効果はあると思います。微小な量なんですけど、面全体から空気を抜くことで空間で共鳴するものをなるべく排除する効果があります。グレーのほうのハウジングだと発生してしまうノイズをこのレゾナンスフリーハウジングではなくすことができ、音源のそのものの音をよりきれいに再現しています。

左が通常のハウジング、右がレゾナンスフリーハウジング。

大友 なるほどね。形状もちょっとセクシーな感じですね(笑)。

潮見 実はこれも意味があって、従来のモデルだと平面の部分があるですけど、そうすると太鼓の膜のような感じで面自体が振動しやすくなるんですね。それに対してこういう曲面でつないだ形状だと余計な振動が乗らなくなります。中心を少しだけセンターからずらしてるんですけど、それによりさらに振動を抑える効果があるんです。

大友 面白いなあ。中心からちょっとずらすんですね。今ちょっとリズムのこと思ったんだけど、きっちり正確なテンポに打点を合わせていくより、ちょっとタイミングをずらすというか、あるズレみたいなもんがグルーヴになるようなところがあって、そのズレをみんな楽しんでいて。それと一緒かわからないですけど。

Walkman

NW-WM1Z
NW-WM1Z

価格:オープン価格(※ソニーストア参考価格 32万3870円[税込])

容量:256GB

再生フォーマット:MP3 / WMA / ATRAC / ATRAC Advanced Lossless / WAV / AAC / HE-AAC / FLAC / Apple Lossless / AIFF / DSF / DSDIFF
※著作権保護された音楽ファイル(ダウンロード購入した楽曲など)は再生できません

ディスプレイ:4.0型、FWVGA(854×480ドット)

本体動作対応OS:Windows(R) Vista(Service Pack 2以降) / Windows(R) 7(Service Pack 1以降) / Windows(R) 8.1 / Windows(R) 10 / Mac OS X v10.8~v10.11

外形寸法:72.9(W)×124.2(H)×19.9(D)mm

重量:455g

NW-WM1A
NW-WM1A

価格:オープン価格(※ソニーストア参考価格 12万9470円[税込])

容量:128GB

再生フォーマット:MP3 / WMA / ATRAC / ATRAC Advanced Lossless / WAV / AAC / HE-AAC / FLAC / Apple Lossless / AIFF / DSF / DSDIFF
※著作権保護された音楽ファイル(ダウンロード購入した楽曲など)は再生できません

ディスプレイ:4.0型、FWVGA(854×480ドット)

本体動作対応OS:Windows(R) Vista(Service Pack 2以降) / Windows(R) 7(Service Pack 1以降) / Windows(R) 8.1 / Windows(R) 10 / Mac OS X v10.8~v10.11

外形寸法:72.9(W)×124.2(H)×19.9(D)mm

重量:267g

ヘッドフォン

MDR-Z1R
MDR-Z1R

価格:オープン価格(※ソニーストア参考価格 21万5870円[税込])

形式:密閉ダイナミック

ドライバーユニット:70mm、ドーム型(CCAWボイスコイル)

感度:100dB / mW

再生周波数帯域:4Hz~120kHz

インピーダンス:64Ω(1kHzにて)

質量:385g(ケーブル除く)

接続ケーブル:ヘッドフォンケーブル(約3m) / バランス接続ヘッドフォンケーブル(約1.2m)

大友良英(オオトモヨシヒデ)
大友良英

1959年、神奈川県生まれ福島県育ちの音楽家。主な演奏楽器はギターとターンテーブル。1990年にGROUND-ZEROを結成後、国内外で作品のリリースやライブを行う。GROUND ZERO解散後はフリージャズやノイズミュージックのフィールドで活動を続ける傍ら、DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENなどさまざまな音楽プロジェクトへ参加する。加えてカヒミ・カリィの2010年のアルバム「It's Here!」でプロデュースを担当するなど、膨大な数の音楽作品に携わる。

劇伴制作にも定評があり、「青い凧」(1993年)や「アイデン&ティティ」(2003年)、「色即ぜねれいしょん」(2009年)といった映画、「クライマーズ・ハイ」(2005年)や「その街のこども」(2010年)、「とんび」(2012年)といったドラマのヒット作で手腕を振るう。さらに現代美術やメディアアートの分野でも評価が高く、音響機器を利用した展示作品「without records」「ensembles」などの展示を国内外で開催している。2011年には東日本大震災を受けて、自身が10代を過ごした福島県で「プロジェクト FUKUSHIMA!」を展開。野外音楽イベント「フェスティバル FUKUSHIMA!」の開催をはじめとした一連の活動が評価され、2012年度の「芸術選奨文部科学大臣賞芸術振興部門」を受賞し話題を集めた。

2013年には、連続テレビ小説「あまちゃん」の音楽を担当。ドラマのヒットと共にその劇伴にも注目が集まり、サントラや劇中歌などが次々とCD化された。また「あまちゃん」のオープニングテーマと劇中歌である「潮騒のメモリー」の2曲で「第55回 輝く!日本レコード大賞」の作曲賞をSachiko Mとともに受賞。「第64回NHK紅白歌合戦」にも出演した。さらに劇伴を実際にライブで披露する「あまちゃんスペシャルビッグバンド」を結成し全国ツアーも行い、2014年3月にはこのツアーファイナルの模様を収めたDVD、Blu-ray、CDを発売。 2014年、アジア各地の音楽家の交流プロジェクト「ENSEMBLES ASIA」を国際交流基金と共に立ち上げる。また、2015年から始まった参加型音楽イベント「アンサンブルズ東京」を監修したり、2017年に開催される札幌国際芸術祭の芸術監督を務めるなど、その活動は多岐にわたる。


2016年11月11日更新