音楽ナタリー Power Push - NW-WM1Z / NW-WM1A & MDR-Z1R特集

vol. 1 大友良英

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vol. 2 さかいゆう
vol. 3 小西康陽

大阪・ソニーストア大阪で行われたイベントには大友良英が登壇した。彼は自身が手がけた連続テレビ小説「あまちゃん」の挿入歌「TIME」をNW-WM1ZとMDR-Z1Rで試聴し、「スタジオで録った音と変わらない」と絶賛。またエリック・ドルフィー「Hat And Beard」、富樫雅彦「フィードバック」などを聴いた感想を述べながら、Walkman開発者の佐藤浩朗氏、ヘッドフォン開発者の潮見俊輔氏とクロストークを展開した。

1.8kgある銅の塊を切削して450gに

──イベントに先駆けて大友さんには何曲か試聴していただきましたが、まずはその感想を教えてください。

左から大友良英、佐藤浩朗氏、潮見俊輔氏。

大友良英 最初に今回の話を受けた段階ではまだ新商品で試聴していなかったので、「万が一聴いたときにそこまで音がよくなかったらどうしよう」って思っていたんですけど、実際に聴いた瞬間にそんな心配は無用だったことがわかりましたね。僕は仕事柄ヘッドフォンはけっこう持っていて、それなりにこだわりがあるんですけど、MDR-Z1Rは本当にいい音でした。特に自分の作品だと、現場で録ったときの音からミックス時の音まで全部知っていて、それを自分の家のヘッドフォンで聴くと、変わったなと感じる部分がやっぱりあるんですけど、これで聴くと元のまんまでしたね。

佐藤浩朗潮見俊輔 ありがとうございます。

潮見 MDR-Z1Rは、これまでフラッグシップモデルだったMDR-Z7のさらにその先を目指しました。このモデルでは空気感の追求をしていまして、空気感は何かと言うと、生音や、音を出してる現場の反射音などを含めた臨場感を余すことなく再現するということなんですね。今回はそれが納得のいくところまでできたと思っています。

佐藤 WalkmanはWM1シリーズというものでして、NW-WM1AとNW-WM1Zという2タイプを用意しました。1Aは従来あったZXシリーズの正当進化ということで、アルミシャーシを使用して今までよりも繊細な音を追求しています。一方1Zは、筐体に純度99.96%以上の無酸素銅を使用しています。本日はその無酸素銅の塊を持って来ていまして。

大友 これですよね。ちょっといいですか(と手に取る)。

左から無酸素銅の塊、筐体に金メッキを施したもの、金メッキをする前の段階の試作品。

佐藤 気を付けてください。すごく重いので。

大友 本当だ。これ、四十肩とか五十肩の人は持たないほうがいいね。すごい重い。

佐藤 1.8kgあります。ここからいろいろ削ってできたのが1Zです。銅のほうがアルミの約3.1倍重いので、アルミと同じように削るとかなり重くなってしまうんですね。加工条件や刃物を調整していて、加工時間もアルミの1.5倍くらいかかっています。

大友 この塊のあとに持つとWalkmanも軽い感じがしますね(笑)。

佐藤 本体は450gなので、500mmのペットボトルが鞄に入ることを考えればそんなに無茶な重さではないかなと思います。実は、こんなに重い銅を使うにあたりストーリーがありまして。まずNW-ZX1を作ったときに真鍮でキャビ(筐体)作りたいとデザイナーから提案があったんですが、低音は出るけど高音が出ないっていうのがわかったんですね。それでNW-ZX2のときにアルミを純アルミに変更したところ音質が向上したんです。「じゃあそのアルミに銅メッキして金メッキしたらどうなる?」って試行錯誤を重ねたところ、また音がいい方向に振れてきまして。それで抵抗値を下げることで音がよくなるのであれば無酸素銅でキャビにチャレンジしてみようということになりました。ちなみに金メッキをしてないと10円玉の匂いがしちゃうんですけど。

大友 (嗅いで)本当だ、確かにするね。

佐藤 これにメッキをしたのと金メッキをしたのとありまして、やはり金メッキをしたほうが接触抵抗が少ないので音がよくて。

大友 最初から銅のほうがいい音がするだろうと予想を立ててやったんですか?

佐藤 真鍮のキャビを作ったときに、抵抗値が上がると高音が出ないっていうのがわかっていたので仮説を立てて、それを実証する形でやっていきました。

大友 すごい不思議。この重たい銅の塊を掘っていくんでしょ? しかも型に流し込んで作るのと掘るのとじゃ全然違うってちらっと聞いたんですけど。

佐藤 本当は鋳造で作ったほうが安価なのでZX2の筐体で確認もしたんですけど、切削したほうが密度が濃いのでしっかりした音がするんですよね。

録音しているときの状況まで見えるようなサウンド

大友 ヘッドフォンも普段自分が使ってるやつから換えてみたんですよ。僕もそこそこいいやつを持ってるんですけど、あまりMDR-Z1Rで聴いちゃうと自分の持ってるヘッドフォンが嫌になるから止めようって思ったくらい(笑)。本当にスタジオクオリティだと思った。

潮見 空気感の再現っていうのはレコーディングしたスタジオの雰囲気まで再現するつもりでやっているので、そう言っていただけるとうれしいです。

大友良英

大友 僕ら安易に「空気感」って言っててその正体ってあんまりわかってないんですけど、でも蘇ってくるんですよね。実際に現場にいたときの記憶が。あともう1つ驚いたことがあって。エリック・ドルフィーの「Hat And Beard」って1964年の録音なんですけど、ハイレゾ版のステレオのやつと、オリジナルのエンジニアであるルディ・ヴァン・ゲルダー自身がリマスタリングしたモノラルのやつと聴き比べたんですね。そしたら、個人的にはハイレゾじゃないモノのほうも好みで。要はこれはハイレゾどうこうの問題じゃなくて、そもそもCDの持っているクオリティでも音源さえよければ十分にいい音で再生してくれるなって。

佐藤 今回の製品は“ハイレゾWalkman”ですけど、そもそもCDの音をちゃんと楽しく聴けないとダメだという思想で作ってあります。CDは44.1kHzで、ハイレゾだと48kHzが多いんですけど、44.1kHzと48kHzの2つのマスタークロックを搭載していて、それを切り替えることによってCDの音もしっかり表現できたのかなと思いますね。

大友 「Hat And Beard」はもとがアナログテープでの録音だから、それをハイレゾにしたりCDにしたりするときにエンジニアのクセだったり好みが出て、僕は単純にモノのほうが好みだったって話でハイレゾ版が悪いわけじゃないんですけど。ただ、きれいな音にすればいいわけじゃないっていう気はしたかな。あと加工した音よりは、生音で録った音のほうがよりそのすごみわかるなとも思いましたね。

佐藤 生音の差がわかるって言っていただけるのはすごくうれしいです。今回搭載しているフルデジタルアンプS-Master HXは、DAC(デジタル / アナログ変換器)とアンプが一緒になってるので、生音もきれいに出せるんだと思います。

潮見 Walkman側でも信号をピュアに出すことにこだわったのですが、MDR-Z1Rの再生周波数帯域も最高120kHzとかなりこだわっています。人間の耳って20kHzくらいまでの音しか聞こえないので、120kHzもあっても聞こえないんじゃないかって思われるかもしれないんですけど、楽器の音って可聴帯域外の音も含まれているんですね。その帯域もきれいに再現することでより生音に近い音を表現できるようになっています。

体験会イベントの様子。

大友 なるほど。あと富樫雅彦さんの「フィードバック」は録音した状況が見えるようなサウンドでしたね。1960年代末の、日本ではまだフリージャズの録音経験がない頃で、なので当時のアメリカのレコーディングと比べるとそこまでこなれてる感じじゃないんですが、でもその分、生々しい録音で。その再現性がすごくてびっくりしました。本当に富樫さんやギターの高柳(昌行)さんがここにいるみたいな生々しさなんです。アナログテープって、「ガーン」って強く叩くとちょっと歪むじゃないですか。あの感じが僕好きで。「Hat And Beard」もそうですよね。ミュージシャンって、レコーディングとかライブの前に「はい、サウンドチェックしますから叩いてください」って言われても、本気で叩くわけじゃないんですよ。

潮見 そうなんですね。

大友 だからエンジニアはサバを読むのね。「これ7割だな」って。で、「Hat And Beard」でドラム叩いてるトニー・ウィリアムスは若いから、たぶん本番の力の入り方が全然違っていて、完全に歪んでおそらくエンジニアがちょっとレベル下げてるっていう状況までわかる。あとあの録音って面白くて、出だしと終わりのテンポを比べると全然違うんですよ。メンバーみんな慣れてない曲で、しかも9拍子って変な拍子だから、出だしのほうがゆっくりでどんどんテンポが上がって、途中でみんな頭がわからなくなっちゃってるんですよ。そうするとビブラフォンのボビー・ハッチャーソンが途中で怒って「ここが頭だ」ってバーンバーンって叩くんです。あれたぶん音楽的なことじゃなくて、みんなに指示したんだと思いますよ。その様子まで見えるようで。ジャズの録音って生っぽいから、より状況が見える気はしましたね。

Walkman

NW-WM1Z
NW-WM1Z

価格:オープン価格(※ソニーストア参考価格 32万3870円[税込])

容量:256GB

再生フォーマット:MP3 / WMA / ATRAC / ATRAC Advanced Lossless / WAV / AAC / HE-AAC / FLAC / Apple Lossless / AIFF / DSF / DSDIFF
※著作権保護された音楽ファイル(ダウンロード購入した楽曲など)は再生できません

ディスプレイ:4.0型、FWVGA(854×480ドット)

本体動作対応OS:Windows(R) Vista(Service Pack 2以降) / Windows(R) 7(Service Pack 1以降) / Windows(R) 8.1 / Windows(R) 10 / Mac OS X v10.8~v10.11

外形寸法:72.9(W)×124.2(H)×19.9(D)mm

重量:455g

NW-WM1A
NW-WM1A

価格:オープン価格(※ソニーストア参考価格 12万9470円[税込])

容量:128GB

再生フォーマット:MP3 / WMA / ATRAC / ATRAC Advanced Lossless / WAV / AAC / HE-AAC / FLAC / Apple Lossless / AIFF / DSF / DSDIFF
※著作権保護された音楽ファイル(ダウンロード購入した楽曲など)は再生できません

ディスプレイ:4.0型、FWVGA(854×480ドット)

本体動作対応OS:Windows(R) Vista(Service Pack 2以降) / Windows(R) 7(Service Pack 1以降) / Windows(R) 8.1 / Windows(R) 10 / Mac OS X v10.8~v10.11

外形寸法:72.9(W)×124.2(H)×19.9(D)mm

重量:267g

ヘッドフォン

MDR-Z1R
MDR-Z1R

価格:オープン価格(※ソニーストア参考価格 21万5870円[税込])

形式:密閉ダイナミック

ドライバーユニット:70mm、ドーム型(CCAWボイスコイル)

感度:100dB / mW

再生周波数帯域:4Hz~120kHz

インピーダンス:64Ω(1kHzにて)

質量:385g(ケーブル除く)

接続ケーブル:ヘッドフォンケーブル(約3m) / バランス接続ヘッドフォンケーブル(約1.2m)

大友良英(オオトモヨシヒデ)
大友良英

1959年、神奈川県生まれ福島県育ちの音楽家。主な演奏楽器はギターとターンテーブル。1990年にGROUND-ZEROを結成後、国内外で作品のリリースやライブを行う。GROUND ZERO解散後はフリージャズやノイズミュージックのフィールドで活動を続ける傍ら、DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENなどさまざまな音楽プロジェクトへ参加する。加えてカヒミ・カリィの2010年のアルバム「It's Here!」でプロデュースを担当するなど、膨大な数の音楽作品に携わる。

劇伴制作にも定評があり、「青い凧」(1993年)や「アイデン&ティティ」(2003年)、「色即ぜねれいしょん」(2009年)といった映画、「クライマーズ・ハイ」(2005年)や「その街のこども」(2010年)、「とんび」(2012年)といったドラマのヒット作で手腕を振るう。さらに現代美術やメディアアートの分野でも評価が高く、音響機器を利用した展示作品「without records」「ensembles」などの展示を国内外で開催している。2011年には東日本大震災を受けて、自身が10代を過ごした福島県で「プロジェクト FUKUSHIMA!」を展開。野外音楽イベント「フェスティバル FUKUSHIMA!」の開催をはじめとした一連の活動が評価され、2012年度の「芸術選奨文部科学大臣賞芸術振興部門」を受賞し話題を集めた。

2013年には、連続テレビ小説「あまちゃん」の音楽を担当。ドラマのヒットと共にその劇伴にも注目が集まり、サントラや劇中歌などが次々とCD化された。また「あまちゃん」のオープニングテーマと劇中歌である「潮騒のメモリー」の2曲で「第55回 輝く!日本レコード大賞」の作曲賞をSachiko Mとともに受賞。「第64回NHK紅白歌合戦」にも出演した。さらに劇伴を実際にライブで披露する「あまちゃんスペシャルビッグバンド」を結成し全国ツアーも行い、2014年3月にはこのツアーファイナルの模様を収めたDVD、Blu-ray、CDを発売。 2014年、アジア各地の音楽家の交流プロジェクト「ENSEMBLES ASIA」を国際交流基金と共に立ち上げる。また、2015年から始まった参加型音楽イベント「アンサンブルズ東京」を監修したり、2017年に開催される札幌国際芸術祭の芸術監督を務めるなど、その活動は多岐にわたる。


2016年11月11日更新