Rin音の歌詞が持つ包容力
──「Summertime(feat. Rin音)」について聞かせてください。もともとこの曲は、どんなテーマで制作されたんでしょうか?
HIROSHI コーセーの日焼け止めのCMソングとして書き下ろさせてもらった曲ですね(参照:FIVE NEW OLD、玉城ティナ出演の日焼け止めCMソング書き下ろし)。商品やCMのイメージをモチーフにしつつ、音楽的にはFIVE NEW OLDの初期のスタイルというか、パンクバンドだった頃の自分たちを改めて表現してみたくて。これまでに積み上げてきたものを生かしながら形にした感じですね。CMソングだからといってスタイリッシュにしすぎず、歪んだギターの音なども取り入れて。CMの制作チームからも「こういう違和感が欲しかった」と言ってもらえてよかったです。
──Rin音さんをフィーチャーする際のリアレンジについては?
HIROSHI かなり悩みましたね。これまでのRin音くんの音楽性にフィットするものがいいのか、原曲に近いロックな感じでいくのか。結局、最初にRin音くんに送ったトラックとはかなり形が変わったんですよ。
Rin音 そうでしたね。
HIROSHI ロックバンドであることを大事にしつつ、Rin音くんが入ってきやすいトラックにしたくて、オリジナル音源のデータをサンプラーに取り込んで、再構築したんです。あとはオリジナル曲の英語詞の対訳と、作ったときのテーマも送らせてもらって。一聴するとストレートなラブソングなんですけど、実は“コロナ禍の夏”を描いているところもあるんです。失われた夏に思いを寄せる、ちょっと妄想的な歌でもあるというか。そこからはもう、Rin音くんがどんなラップを乗せてくれるか楽しみにしてました(笑)。
Rin音 リリックを書いた時期、かなり忙しかったんですよ。「やっちまったな。間に合うかな」と思ってたんですけど、取りかかったらすんなり書けて。たぶん1時間半くらいで全部できたのかな。たまたま東京にいたから、知り合いのトラックメイカーのスタジオでレコーディングさせてもらって、すぐに送って。事前の説明が丁寧だったから、やりやすかったです。
HIROSHI Rin音くんの歌詞の1行目が「上書きのできないセーブデータ」だったので、「ゲームが好きなのかな」と思ってニヤッとしました(笑)。
Rin音 バレてた(笑)。
HIROSHI とにかくフロウが気持ちいいし、Rin音くんが持ってる包容力みたいなものを感じて。あらゆるものを受け止めて、それをプラスの方向に変えてくれるというのかな。安易な前向きではなくて、すべてを噛み砕いたうえで肯定してくれるんですよね、Rin音くんの歌は。うれしいラインもいっぱいありますね。「Trip on my mind.」というフレーズもそう。これはたぶん、僕が書いた英語詞とつながっていると思うんですよ。
──どういうことですか?
HIROSHI 原曲の中で、主人公が「あの夏はよかった」と思い出している描写があって。「恋人と一緒にタイダイ染のTシャツを着て、海辺でハシャいだよね」というノスタルジックな瞬間を歌ってるんですけど、それを英語で表現するとまさに「Trip on my mind.」だなって。タイダイ染のTシャツはサイケデリックな雰囲気もあるし、すごくリンクしていて。憎いですね。
Rin音 僕はあとから歌詞を書いているので、原曲の要素をかいつまんでるところもありますね。後出しです(笑)。
HIROSHI ファンタジーの要素もあるんですよ。「もし地球が2つあったら君はどうする」というフレーズが突然入ってたり。これも質問してみたかったんですけど、どういう映像を思い浮かべて書いてたんですか?
Rin音 もともとそうなんですけど、ちょっと遠回しに表現したいんですよね。「もし願い通りになるとしたらどうしたい?」ではなくて、パラレルワールドというか、“コロナがある / コロナがない”とか“希望通りにいく / いかない”みたいなことを含めて、「どっちの地球がいい?」というリリックにしました。
HIROSHI 遠回しというのは、全部聴いたときにつながるようなリリックということ?
Rin音 そうですね。あとは1番と2番のヴァースの違いによって、フックの聴こえ方が変わってきたり。リスナーの感情だったり、思い浮かべる情景によっても違うだろうし。
HIROSHI そういう気付きがあるのは素敵ですよね。
Rin音 あと「もし地球が2つ〜」に関しては、アメリカンジョークの影響もあるかも。海外の映画を字幕で観るのが好きなんですけど、字幕って、かなり意訳されていますよね。「このシーンでは、この英語をこういう日本語にしているのか」という発見もあるし、英語にしかないジョークや皮肉を日本語でどう表現してるのかも興味があって。
HIROSHI 字幕の翻訳の文字数って、かなり少ないじゃないですか。セリフをそのまま訳すのではなくて、端折ることも必要だし、どうしても「Lost in Translation」が起きる。そこが面白さでもあると思います。
──なんだか作詞の話みたいですね、それ。
Rin音 そうなんです。言いたいことや描写したいことを全部書くわけにはいかないし、どこを省いて、どう表現するかが大事なので。「Summertime」は原曲が英語詞だから、自分のリリックは翻訳みたいな感じにしたくて。そのことをちゃんと意識して書いたのは初めてかもしれないですね。
HIROSHI なるほど……あの、もう1つ村上春樹さんの話をしていいですか?(笑) 村上さんは1979年に「風の歌を聴け」で新人賞を獲ってデビューしたんですけど、この小説、書き方が面白いんですよ。まず日本語で書いたんだけど、つまらない。そこでどうしたかというと、英語に翻訳してタイプライターで打って、それをもう一度日本語に訳したんです。そうすることで日本語がどんどんシンプルになって、無駄がなくなって。Rin音くんがやってることも、それと同じような感覚かもしれないですね。
Rin音 面白いですね! 「風の歌を聴け」、読んでみます。
──FIVE NEW OLDとRin音さんのクリエイティビティが交差し合う、意義深いコラボレーションになりましたね。
HIROSHI 本当にそう思います。僕たちの楽曲の世界をさらに押し広げくれたというか。さっき「ノリでやってる」と言ってたけど、まったくそんなことないですね(笑)。
Rin音 ははは(笑)。
HIROSHI 簡単な言葉になっちゃうけど、すごく刺激をもらいました。また一緒に何かやりたいです。
Rin音 こちらこそ。ありがとうございます。
HIROSHI 話しててもすごく共鳴できるというか。曲を作る前に、まずごはんにいきたい(笑)。
イベント情報
- FIVE NEW OLD "Summertime EP" Release One Man TIE-DYE LIVE SHOW
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2021年7月29日(木)東京都 LIQUIDROOM