FIFTY-FIFTY Records特集 古川朋久×渡辺淳之介(WACK)対談 |元音楽ナタリー記者がレーベル立ち上げ、アイドル運営の“WACKな先輩”と初対談

アーティストマネジメント、ライブや映像制作、飲食業などを展開するFIFTY-FIFTY inc.が新音楽レーベル・FIFTY-FIFTY Recordsを始動させた。FIFTY-FIFTY Recordsでは今後音楽シーンを盛り上げていくであろう女性アーティスト、グループのさまざまな楽曲を発信。レーベル所属アーティスト第1弾であるPiiiiiiiNのほか、真っ白なキャンバス、KRD8、バクステ外神田一丁目など数組の所属が決定している。

音楽ナタリーでは、レーベル発起人であり、元音楽ナタリー編集部の古川朋久と、旧BiSのマネージャーを担当していたころから古川と長い付き合いのあるWACK代表・渡辺淳之介による対談を実施。音楽ナタリーの記者出身で主にアイドルを担当していた古川が会社や音楽レーベル・FIFTY-FIFTY Recordsを立ち上げたいきさつ、今後の展望、レーベルとしての強みなどについて話を聞いた。また渡辺が旧BiSをマネジメントしていた頃の思い出や、昨今のアイドルシーンにおける2人の思いなども語っている。

なお本特集では、古川がレーベル発足以前よりプロデュースしている鈴木友梨耶(ROSE A REAL、ex. Cheeky Parade)、セントチヒロ・チッチ(BiSH)、MAINA(大阪☆春夏秋冬)、湊あかね(predia)の4人からなるボーカルユニット・ARC∀DIA(ex. NATASHA)の現状についても触れられている。

取材・文 / 田中和宏 撮影 / 外林健太

元音楽ナタリー記者によるレーベル立ち上げ

──元音楽ナタリー編集部の古川さんから「レーベルを立ち上げることにした」と連絡がありまして。

渡辺淳之介 まさかの(笑)。

古川朋久 そうなんですよ。僕は今まであまり表に出るタイプではなかったんですけど、会社を立ち上げたあと、ふわっといろんなことをやり始めていて。ちょうど会社を始めて1年経ったしレーベルなんて始めちゃったもんだから「誰がやってて、どういう会社なの?」というのを自分の口からちゃんと話したいという思いがあって、今回古巣にお願いするという(笑)。で、どうせ出るなら業界の先輩である渡辺さんとお話したかったので「一緒に出てほしいんですよ」って声をかけさせていただきました。

左から古川朋久、渡辺淳之介。

渡辺 でも業界自体は古川さんが先輩ですよね?

古川 いやいや。本業として音楽、アイドルに携わっているという意味では渡辺さんのほうが大先輩だし、独立して会社を立ち上げたという部分でも先輩ですよ。なので今日は渡辺さんのお話を聞きつつ、自己紹介も兼ねてできればと。

渡辺 なるほど。

──なぜ古川さんはFIFTY-FIFTYを作ったんですか?

古川 発端はいろいろあるんですけど、ナタリー在籍時代に発足したNATASHAっていうユニットの話から。2018年の年始にNATASHAとしては区切りをつけてARC∀DIA(アルカディア)というユニット名にして再スタートさせることを発表しました。後付けになっちゃうんですけど僕はARC∀DIAをちゃんとやるためにナタリーを辞めたみたいな理由も実はあります。NATASHAのプロジェクトにメンバーも運営さんもすごく協力してくれていて、続けたいという気持ちがみんなにあったんですけど、ナタリーとしては立ち上げた本人である僕がもう会社にいないのにこの先も存続させるのはどうか、みたいな議論があって。

──はい。

古川 でも僕も続けたいという思いがあったので、僕がグループを運営していくことにしました。ただ個人としてやるとなると、各メンバーが所属しているレーベルさんは法人なので、法人と個人でいろんな契約を交わすのがなんやかんや難しくて、まず会社を作ろうと思ったんです。なので弊社はARC∀DIAをちゃんとやるために作ったというのが8割くらいの理由。このプロジェクトを動かすために松隈(ケンタ)さんや渡辺さんに相談して楽曲やグループのコンセプト、イメージを細かく作って、実際に松隈さんには曲も発注してました。でもNATASHAを立ち上げた2年半前と今だと、各グループを取り巻く状況が全然違うので、とにかく「メンバーが集まれない」というのが悩みの種でしたね。

渡辺 本当にスケジュールがまったく合わないんですよ。

古川 そう。改名してからこの1年くらい決して無駄にしてたわけじゃなくて、曲を作ろうって動き出して、各運営さんのスケジュールを調整してたんですけど、折り合いが付かなくてこれはどうも無理だなという状況になり。

──ARC∀DIAの今後は?

古川 この特集で初出しになってしまうんですけど、ARC∀DIAのプロジェクトは凍結になりました。なぜ凍結という表現にしたかというと、解散とかではなくて、未来に可能性を残したいからであって。またみんながそれぞれの活動をいろいろやっていく中で、どこかのタイミングで集まれたら一夜限りでもいいのでライブをやりたいし、アルバムをある日突然ポンと出す、みたいなことがあってもいいかなと思ってます。一夜限りだとしても、曲を新たに作ってでもやりたいというのが僕の思いです。ファンの皆さんには早く状況を伝えたかったんですが、僕が単純にあきらめきれなくてもがいてた、というのが本音です。本当にすみません。渡辺さん、松隈さんにもご迷惑をおかけしてしまって。

渡辺 とんでもないです。ARC∀DIAとして再始動するタイミングで古川さんと長電話していろいろ話したんです。古川さんが明確なコンセプトやビジョンを持っているので、「忙しくて1人出れませんというのは、なんか違いますよね」という話になり、「これは無理そう」という結論に(笑)。

古川 凍結は残念ですが、その反面うれしいのは、BiSHもそうですけど各メンバーがさらに成長してがんばっていること。すごくいい状況だと思うし、改名前に脱退した吉田凜音も含め、あの5人を選んだのは間違ってなかったなと。だから今以上にみんなが大きくなって、どこかのタイミングで一夜限りでも復活できたら。夢のまま終わっちゃうかもしれなけど待っててくださいっていうのが今言えることのすべてです。僕は全然あきらめてないので!

バカな運営いるなと思ったら

──レーベル事業をスタートさせた矢先、プロジェクトの凍結を発表するなんて大変なことですよ。

古川 やりたいと思ってたことができなくなったからどうしようとは思いました。でも会社をせっかく作ったので、やりたかったことを進める過程で会社自体も大きくなるだろうし、何かやりたいと思ったときに実現できるような体制を整えておこうと。実は今、いろんなアイドル運営にまつわるコンサル業とか、アイドルカレッジさんのライブプロデューサーを務めていたり、イベントとしては「@JAM」シリーズにも携わっていて。あと会社としては所属グループのDEAR KISSをプッシュしてて、今年の年始に渋谷のマルイの外壁にワンマン告知の大幕を出したんですよ。

渡辺 あー見ました! 超値段高いじゃないですか。

古川 高いっす。隣が大河ドラマの広告という謎の並びになって。

渡辺 バカな運営いるんだなと思ってたら古川さんだった(笑)。

古川 いや、渡辺さんだって渋谷駅の上にBiSHの看板を出してたじゃないですか! 渋谷でああいうのをやれる渡辺さんはすごいなと思って。やっぱり渡辺チルドレンの僕としてはこれに追随していかなければという気持ちで(笑)。

渡辺 僕も見せ金じゃないですけど、勢いあるぞってところを示すようにはしてます。今っていろいろ窮屈になってきちゃっているので、いい話じゃないものが大きく拡散されることもあるから非常に華のある部分は見せていきたいんです。

古川 バブリーさを出すことで、「ここにはまだ夢があるよ!」というのをアイドルの子たちや運営さんに見せたいし、あとは単純にメンバーのモチベーションが上がる。DEAR KISSは3月31日にTSUTAYA O-EASTでワンマンライブをやりますし、会社としてはプロモーションにも力を入れながらダンススタジオの経営や飲食も展開していて。そしてレーベル事業は今年の初めに本格的にやり始めました。

渡辺 誰が所属してるんですか?

古川朋久

古川 所属はそれこそ以前松隈さんに楽曲を手がけてもらったPiiiiiiiN(参照:PiiiiiiiN「Jumping / 黒板のメロディー」インタビュー)。メンバーを全員変えて、2018年に再始動したんです。僕が先代のPiiiiiiiNのライブをガッツリ観ていて、その流れの中で面倒を見たいと思っていたし、第1弾はやっぱり縁が深いところがよかったのでPiiiiiiiNをやっていきましょうと。あとは真っ白なキャンバス。若手の運営さんから学ぶことも多いし、今の若いファン層を学びたいという思いもあって。だから特典会で僕もチェキを撮るスタッフをやってますし、特典のスタンプカードのスタンプも押してます。

渡辺 そこまでやってるんすね。

古川 うちのレーベルはスタッフがそんなに多くないですけど、総力戦でやることを売りにしているので。社長だからとあぐらをかいてる余裕もないですし。

渡辺 すみません(笑)。

古川 (笑)。でも渡辺さんも現場でチェキ撮る係やってましたよね?

渡辺 はい。でも最近はさすがに撮れなくて。

古川 僕は以前、渡辺さんが汗をかいていた姿を見てたから。

渡辺 確かにBiSHは僕しかマネージャーがいなかったので1人でやってましたね。「次!どいて!」とか言いながら(笑)。

古川 それを見ていたからやるのが当たり前という気持ちでやってます。

ライブが先か、特典会が先か

古川 今のアイドルだと対バン形式のイベントはもはや「ライブの時間そんなに長くなくていいので」とファンから言われるんです。運営側でさえ「ライブなくても特典会だけあればいいです」みたいな。

渡辺 お金稼ぎってことなんですかね? 何が本分なのかわからなくなってる部分は確かにあるかもしれない。僕がずっと思っていたアイドルというのは、曲ありきで、いい音楽を届けて、それに付随した握手会に価値を見出すみたいな。

古川 若手の運営と話していると「チェキ券に価値を付けないとダメですね」と言われるんです。

渡辺 チェキ券に価値?

古川 チェキ券の枚数を極力、制限する。そこで売れるだけ売っちゃうとチェキに価値がなくなっちゃうから、逆に人気も集客も落ちるという考え方で。

渡辺 そんなこと考える前にいい曲を作って売ったほうがいいんじゃないかって気もしますけど(笑)。

古川 その通りなんですけど(笑)。

渡辺 でもうちはあんまりCD売れてないんですよ。

古川 いまだに?

渡辺 はい。この前、愕然としたことがありまして。アイドルのお客さんってライブ後にチェキを撮ると思うじゃないですか。でもライブ終わったらすげえ満足した顔でスタスタ帰っていくんですよ。「これからチェキ会だよ!」ってタイミングなのに(笑)。

古川 それはライブの満足度が高いってことですよ!

渡辺 そんなに高くないと思うんですよねえ。

古川 アイドルファンというよりはバンドファン、アーティストファンみたいな層がWACKファンには増えてきたんじゃないですかね? 時代はちょっと変わってきてますね。

渡辺 ホントに変わってきてますね。