「Fate/Grand Order Original Soundtrack V」芳賀敬太&毛蟹インタビュー(聞き手:石谷春貴) (3/3)

高床式住居みたいな曲

──今回のサントラが使用されているシナリオは、邪馬台国、平安京、鎌倉などが舞台になっています。今回のサントラには収録されていませんが、最近のイベントだと昭和という設定のもの(「昭和キ神計画 ぐだぐだ龍馬危機一髪! 消えたノッブヘッドの謎」)もありますよね。同じ日本の中でもさまざまな時代や場所が描かれていますが、どういうふうに差別化して曲を作られているんでしょうか?

毛蟹 僕も聞きたいです。芳賀さんの和風曲の引き出しが多い理由。

芳賀 その時代にどんな楽器があったかはぼんやり把握していて。ただ、単にその楽器を使って曲を作ればいいのかといったら、まあそういうわけではないんですよね。そのあたりは皆さんの中のイメージと擦り合わせていくのが大事なのかなと。なので平安時代だから三味線は鳴らさないとか、そういうことはしていないですね。実際その時代にその楽器が存在するかというよりは、音のイメージのほうが大事かなと。第2部 第5.5章の「地獄界曼荼羅 平安京 轟雷一閃」で言えば、「災いのカミ」が比較的時代に沿ったサウンドの曲ですね。ただ全体のサウンド感がこの曲と同じになるのはちょっと違うかなと。この曲を立てるために、あえてほかの曲は“平安感”はそれほど考えていないですね。

陳列されているTYPE-MOON作品を眺める石谷春貴。

陳列されているTYPE-MOON作品を眺める石谷春貴。

──マップの曲では、「地獄界曼荼羅:平安京 ~陽~」と「地獄界曼荼羅:平安京 ~陰~」で対になる言葉がタイトルに使われていますよね。裏と表、陰と陽、昼と夜など、異なるイメージのマップの曲の制作でこだわっている部分はありますか?

芳賀 「地獄界曼荼羅:平安京 ~陰~」が使用されている「平安京」後半については、詳しい状況は教えてもらってなかったんですけど、全体的にマップが赤くなって空想樹が現れて最終局面だということは聞いていました。1曲作るときはいつもだいたい、その先のことはあえて考えないですね。できた曲と向き合って、仕切り直してもう1曲のマップの曲を作っています。イベント「虚数大海戦イマジナリ・スクランブル ~ノーチラス浮上せよ~」の曲だけは少し作り方が違いましたが。

──「虚数大海戦」はマップが進んでいくたびに音が重なっていきますよね。寝る前まで頭の中であのレーダーのような「ポーン」という音が流れていました(笑)。僕たちが考えているイメージをそのままサウンドに落とし込んでくださっているなと感じます。「ぐだぐだ邪馬台国」の曲は鈴っぽい音が鳴っているのもその時代を表しているというか、聴いたら「あっ、これは邪馬台国だ」と思うようなサウンドに仕上がっているんですよね。

毛蟹 「ぐだぐだ邪馬台国」のときに経験値さんから芳賀さんにきた発注、どんな内容でしたっけ?

芳賀 「高床式住居みたいな曲」って(笑)。

毛蟹 ははは(笑)。

芳賀 「ぐだぐだショップ大炎上 ~鏡~」ですね。イベントの中でこの曲だけ、もしかしたら邪馬台国時代の音楽はこれに近いものかもしれないというところをイメージしてますね。この時代のオカリナ的な土器が出土しているという記事を見て、その土器が出せる音が3音くらいだったのかな?というところで、3音から5音くらいで曲を作りました。音色的にはオカリナをちょっといじった感じで。波のない譜面です。

毛蟹 すごい(笑)。

イベント「超古代新選組列伝 ぐだぐだ邪馬台国 2020」より。

イベント「超古代新選組列伝 ぐだぐだ邪馬台国 2020」より。

いろいろな顔を持つベリル・ガット

──リスナー側には厳密な邪馬台国の音楽のイメージはないと思うんですけど、聴くと「ああ、この時代の音楽だ」と思わされます。お話を聞いていて、思いつきやインプットしたことをアウトプットする能力に長けていらっしゃるんだなと思いました。

芳賀 もちろん完全に1人でやっているわけではなくて、武内たちと「どうするよ」と話し合うこともあります。「邪馬台国」のときはその話し合いの中で「素朴」というようなキーワードが出てきたり。基本的にはユーザーの皆さんと同じような視点を持って意見を出し合ってるのかなって。音楽家同士の感覚で話し合うとまったく違った結果になりますし。

──1人の音楽家、シナリオライター、イラストレーターが軸になって話し合っているからからこそ、ユーザーがしっくりくる曲に仕上がるということですね。

芳賀 そうですね。「邪馬台国」のマップなんかは、単純に和風というくくりで言えば、時代背景を考えなければ使える楽器はもっとあったんです。でも鈴の音が印象的に鳴っているものにしようという話になったので、あえて和楽器ではなく弦楽器中心の形にしました。そういう時代の雰囲気にハマる曲を最初に使ってしまえば、あとは自由にやっていいと思っていて。バトル曲も激しめですしね。改めて通常戦闘曲の「稀人来たれり」を聴くと、通常戦闘のスケールじゃないなと思いますし。だから「明鏡肆水 ~光と闇の狭間に~」も大丈夫(笑)。

──お話を伺っていて、改めて時代に則したイメージを音楽に落とし込むのって大変なんだなと思いました。

芳賀 つかみが大事というか、いかに最初にそれっぽく聞こえさせるかが大事だと思いますね。一度しっかり時代観を印象付けると、のちにそこまで時代観に沿ってない曲が出てきたとしても、最初に付いた印象でそれっぽく聞こえてくるという。

──確かにどのシナリオやイベントでも、冒頭や最初のマップで印象的な音が鳴っていることが多かった気がします。

芳賀 マップテーマは、ほぼ各章各イベントごとのメインテーマなんですよね。マップテーマのフレーズからほかの曲にどんどん派生しているので、最初に作ることが多いですし、一番大事。とはいえ最初の曲を作るときは、まだ具体的なイメージが見えない状態で作っていることが多くて。それこそ高床式住居の話じゃないですけど、すごくふわっとしたイメージしかない場合が多いですが、とりあえずやるしかないから(笑)。お互いに雰囲気というか、ジャッジする側も「なんとなくこんな感じかな」でOKを出して、実際に実装されたときに「ぴったりじゃん! 俺たちすごいね」というパターンのほうが多いです。結局のところ、このなんとなくそう思えるという感覚がとても重要なんだと思います。

──もしベリル・ガットに楽曲を作るとしたらどういった楽曲になりますか? 前回のインタビュー(参照:「Fate/Grand Order Original Soundtrack IV」芳賀敬太&毛蟹インタビュー(聞き手:赤羽根健治))で赤羽さんも聞いていたので僕も聞きたくて。

芳賀 うーん、今パっと思い浮かんだことを口にすると、ノイジーなギターサウンドになるのかな。でも弦楽器で掘り下げてみたい気持ちもありますね。伝統的な血統であったり、イングランド出身であったりという部分で。そう思うとギターだとあまり多くの表現はできないのかな。本当にいろんなものが入り混じってる感じになりそうです。

──シナリオ的にも、第2部 第5章と第6章でだいぶベリルの印象も変わりますしね。いろいろな顔を持っているというか。

芳賀 そうですね。彼なりのマシュ(・キリエライト)への愛の形があるので、ベリルに寄り添ったテーマが怖い曲になるのかと言ったら違うと思うんですよね。どういう感情が一番表に出ているときのベリルなのか、どういうタイミングの曲なのかによって違ってくるのかもしれないですね。でもベリルはきっと何曲もできそうです。

TYPE-MOON作品と石谷春貴。

TYPE-MOON作品と石谷春貴。

プロフィール

芳賀敬太(ハガケイタ)

サウンドクリエイター。TYPE-MOON創設者の1人で「Fate/stay night」をはじめとした「Fate」シリーズの音楽や、「月姫」「魔法使いの夜」といった同社の音楽制作にも携わっている。スマートフォン向けRPG「Fate/Grand Order」では、メインコンポーザーとして数多くの楽曲を手がけている。

毛蟹(ケガニ)

LIVE LAB.所属の作詞、作曲、編曲家。ギター、ベース、ドラム、鍵盤や民族楽器も扱うマルチプレイヤーでもある。ReoNaをはじめ、さまざまなアーティストへ楽曲を提供しているほか、スマートフォン向けRPG「Fate/Grand Order」のCMソング、BGMなどの制作に参加している。

石谷春貴(イシヤハルキ)

プロ・フィット所属の男性声優。主な出演作は、テレビアニメ「AKIBA'S TRIP -THE ANIMATION-」、音楽原作キャラクターラッププロジェクト「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」など。