全部がチャンスだった
──ちなみに、Hanaさんが歌い始めたそもそものきっかけはどういうものだったんですか?
幼い頃からずっと歌うことが好きで、本格的に歌うようになったのは11歳か12歳くらいのときです。FJ'sというライブハウスで歌い始めて、いろんなアーティストとジョイントのステージを経験するようになりました。そういう小さなコミュニティの中でみんなに支えてもらってきて、それがあったからここまで歌を続けてこられたのかなと思っています。
──そういうコミュニティに11歳とかの子が入ってきたら、たぶんめちゃくちゃかわいがられますよね?
(笑)。でも私はけっこう、ずっと“Right place right time”って感じだったから……。ええと……ちょうどいいときにちょうどいい場所にいた?
──なるほど。
全部がチャンスだった。いい運の繰り返しで今ここにたどり着いている、という感覚でいます。
──その歌い始めた頃から、プロの歌い手になる決意はしていたんですか?
いえ、全然。歌うことが好きという気持ちだけでステージに立ち続けていて、有名になりたいとかプロの歌手になりたいとかは本気では思ってなかった。ずっと歌い続けていた中で、いつの間にかそういう思いに変わっていた感じです。
──Hanaさんは2019年にYMOのトリビュートコンサート「Yellow Magic Children」に13歳で参加されていて、高野寛さんをはじめとしたそうそうたる面々と共演しています(参照:高野寛、野宮真貴、カジヒデキ、坂本美雨ら出演のYMOトリビュート公演CD化)。その後もROTH BART BARONやTOWA TEIさんなど、超プロフェッショナルの方々と関わる機会がとにかく多いですよね。
はい。
──例えばそういう人たちの姿を見ているうちに「自分もこうなりたい」と思うようになった、とかはあります?
それは大いにありますね。みんな、気持ちをわかり合えるファンに囲まれていて。「私もそういう環境を作りたい」とすごく憧れました。
悲しい曲が好き
──こういう聞き方は変ですけど、Hanaさんはなぜその若さでこんなに深みのある歌が歌えるんですか?
……わからないです。
──ですよね。まあ、これは鳥に対して「なぜ空が飛べるんだ?」と聞くようなものなので。
(笑)。
──ただ、歌の技術に関しては練習すればある程度は身に付くものだと思うんですけど、「声に物語を宿らせる」みたいなことって、人生経験がなければできない芸当だと僕は思っているんですね。
なるほど。
──例えば、Hanaさんは幼い頃からすごくいろんなところで歌ってきている人ですよね。その経験によって培われた表現なんでしょうか。
でも、まだまだ未経験なことがいっぱいあるので。私が思うに、必ずしもハードな経験をしなくても……「flowers」で歌われていることって、誰もがどこかのレベルで必ず実感したことのある感情や経験だと思うんです。
──レベル、つまり程度の差はあれど、同じ種類のものを感じたことがあるはずだと。
そうです。だから私的には、そんなに人生経験が豊富でなくてもこういう曲を歌うことはできるのかなと。
──ということは、いろんな場面で数多く歌ってきた中で「こう歌えばこういう表現ができる」というものを獲得してきた感覚はそんなにはないわけですか?
たぶん、無意識には取り入れてきたと思うんですけど、意識的にはあまり考えていないと思います。
──それこそ鳥が空を飛ぶように、自然に出てくるものだと。
そうです、はい。
──あと、僕がHanaさんの歌を聴いていてすごく思うのは「この人、たぶんゆっくりした曲が好きなんだろうな」ということでして。
ああー。
──1音1音にしっかり思いを乗せたいタイプなんだろうなと。たぶんですけど、速い曲だとその1音に十分な思いを乗せきる前に次の音が来ちゃうから……。
そうですね、はい。私はけっこうバラードというか、感情を入れて歌える曲がすごく好きで。「flowers」にしても、1つひとつの音にすごく感情を入れられる曲ですし。
──それは、好きで聴いてきた音楽の影響がありますか?
たぶんありますね。私は幼い頃から悲しい曲が好きで。エモーショナルな、聴いていて自分でも何かを感じられる曲を好んで聴いてきたと思います。ビリー・アイリッシュも好きですし、あとは、「American Pie」(フォークシンガーのドン・マクリーンの代表曲。マドンナによるカバーでも知られる)が小さい頃からずっと好きでしたね。各セクションの最後で「The day the music died」と歌われてまた次につながるんですけど、そういう少しの切なさを感じるポイントがすごく素敵だなと思っていて。
──切なさや悲しみこそを歌いたい気持ちが強いですか?
そうかもしれません。でも、もちろんハッピーな曲を歌うのも好きだし、どっちもかな。
──もし仮に、次の新曲としてすごく早口な曲が来たらどうします?
少しパニックになるかもしれません(笑)。あと、日本語の場合は発音を気にしているので、速い曲になるとそれが少しスリップしちゃうかも。
──なるほど、じゃあ速い曲を歌う場合は英語詞のほうが現実的かもしれない?
そうですね。それで言うと、「flowers」は英語バージョンも作れたことがすごくうれしくて。同じ曲でも、言語が変わると少し視点が変わる気がして面白いです。アーティストとしても、日本語と英語を話せる自分ならではの表現方法ができたこともうれしかったし、楽しかったですね。
思いが通じ合う場所を作っていきたい
──今後、どんなアーティスト活動をしていきたいと考えていますか?
やはり、みんながコネクトできる環境を作ることが私にとってはすごく大切なので、ファンの方と思いが通じ合うような場所を作っていきたいと思っています。私の曲を聴いた人みんなが、どこか1つでも共感できるところを見つけてもらえたらいいなと。
──理想のアーティスト像は何かありますか? 憧れている、あるいは目標にしている人とか。
憧れている人はいっぱいいるんですけど、みんなに共通しているのはすごく優しくて、思いやりがあって……それでいて、ありのままの自分を見せられているところ。それがすごく素敵だなと思うので、私も自分を包み隠すことなく、全部を表せたらいいなと思っています。
──飾ったり取り繕ったりすることなく、表現したい音楽をそのまま表現し続けるアーティストでありたいと。
そうです。私自身が好きだなと思える音楽じゃないと、絶対に続かないので。それが一番のプライオリティだと思います。
──ただ、それと同時にファンの方に喜んでもらうことも大事ですよね。
はい、もちろん。
──例えばですけど、「これをやれば絶対にファンがみんな喜びます」と用意された楽曲がHanaさんの嫌いな音楽だった場合はどうしますか?
それは難しいですね……でも、たぶん私はその中間を取ると思います。
──なるほど。みんなで何が正解かを一緒に考えていきたいという。
はい、そうです。難しいかもしれませんが、寄り添いつつ、自分の思いも乗せていけたらいいなと思います。
プロフィール
Hana Hope(ハナホープ)
2006年生まれ、東京都出身。2019年にYellow Magic Orchestraの結成40周年を記念して行われたトリビュートコンサート「Yellow Magic Children」に13歳で参加したことをきっかけにシンガーとして本格的な活動を開始。2021年には細田守監督の映画「竜とそばかすの姫」に声優として出演した。2022年より自身の作品をリリースし始め、高橋幸宏、TOWA TEI、ROTH BART BARONなど多くのミュージシャンとの共演を経て、2023年3月に1stアルバム「HUES」をリリース。同年7月にデジタルシングル「flowers」でソニーミュージックからメジャーデビューを果たした。
Hana Hope (@hanahope_2022) | X