ナタリー PowerPush - →Pia-no-jaC←×DE DE MOUSE×渋谷員子「FINAL FANTASY TRIBUTE ~THANKS~」座談会
「FINAL FANTASY」シリーズの記憶と音をたどる
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10年以上前の冒険を思い出す
──DE DE MOUSEさんの今回の収録曲ですが、「IX」の名曲「Melodies of life」に手嶌葵さんを起用されていてとてもびっくりしました。
DE DE MOUSE 実は「IX」の曲はほとんど覚えていなかったんですよね。「Melodies of life」も白鳥(英美子)さんが歌っていたことすら知らなかったくらいですから。改めて曲を聴いてみて、白鳥さんの歌声がすごく好きだったというのもありますけど、この曲をやりたいと思いました。
──そして手嶌さんとの出会いへ。
DE DE MOUSE この作品を手がけてるSQシリーズのチーフさんには昔からお世話になっていたんですけど、彼が僕と手嶌さんにコラボレーションをやらせたいと、すごく熱意を持って動いてくださいまして。もともと、僕が手嶌さんの歌声にすっかりやられてしまっていて、いつか手嶌さんとお仕事したいと言っていた話を覚えてくださっていたんです。そんな経緯もありまして「FINAL FANTASY」のトリビュートアルバムの企画が挙がった際に、各方面にプレゼンしてくださって、実現したというわけです。
──その方の熱意が実現させたコラボレーションなんですね。
DE DE MOUSE そこまでやっていただけたのだから、それ相応のものにしないといけないですよね。ただ、曲自体は原曲が既にとてもいいものなので、あまり変なことはせずにヒロインのガーネットの12、3年後くらいをイメージして作ってみました。
──おお、ガーネットの後日談的な。
DE DE MOUSE あの頃の冒険を思い出している冬の黄昏時なイメージですね。当時の楽しかった思い出って、ふと記憶の片隅から思い出されるときがあるじゃないですか。そういうキャラクターの心情を表現してみました。
──ガーネットは一国の皇女ですから、いろいろと苦労もあるでしょうね。
DE DE MOUSE それぞれのキャラクターが、あの頃とは違う仕事をしていたり、家族がいたりすると思うので、そういった目線で曲もアレンジしてみたら面白いものができるんじゃないかなと。ただ今回は、ゲーム世代以外の方にも「いい曲、いいメロディだな」って思っていただきたかったので、できるだけ原曲の持ち味をなくさないようにしています。アレンジとしてコード進行を全部変えていますが、原曲の雰囲気を崩さないようにするさじ加減は難しかったですね。
──とても優しいメロディで、聴いていて和みます。
DE DE MOUSE 地味といえば地味なのかもしれないですけどね。こういう曲の良さって、歳をとるとだんだんわかってくるものなのかな。若いうちは、やっぱりバトルとか派手な曲で盛り上がりますけど、僕らくらいの世代の方に対しては、真逆のオールディーズな良さというものを、DE DE MOUSEのフィルターを通して出していきたいという気持ちはありました。そういう意味で「10年以上前の冒険を思い出す」というシチュエーションは、うまく成立したんじゃないかなと思っています。
適当にやっちゃダメだって引き締めました
──手嶌さんの魅力はどこにあると思いますか?
DE DE MOUSE 手嶌さんって「ゲド戦記」の頃から大好きなんですけど、本当にあの歌の世界のまんまなんですよ。レコーディングのときも自分の世界に入り込んで、独特の空気感を作り出しますね。あと、本当にピッチがズレないんです。まったく歌の修正をしない人ってなかなかいないし、さすがプロだなっていうのを久しぶりに感じた方でした。とにかく歌というか声が素晴らしい。
──イメージどおりの魅力にあふれていらっしゃって。
DE DE MOUSE 僕自身は結構適当なところもあるんですけど、「あ、これは適当にやっちゃダメだ」って引き締めましたもん(笑)。
──手嶌さんの歌声は優しさの中にも力強さを感じます。
DE DE MOUSE 手嶌さんには母性を出してほしいとお願いしました。実はレコーディングのときに、もっとかわいらしい感じで歌ってもらったりもしていたんです。それはそれで素晴らしかったんですけど、もうちょっと影がほしかったので、母親の力強さみたいなものを意識して歌っていただきました。
クラウドのドット化に苦心
──今回、ジャケットにはファン投票で決まったドット絵のキャラクターが描かれています。すべて渋谷さんの描き下ろしということですが。
渋谷 お話をいただいたとき、すごく忙しかったんですけどね!
一同 あはははは!(笑)
渋谷 なので「できるかわからないですよ」とお返事しておいて。今の仕事のプロデューサーに「こういう案件があるんですけど」と相談したら「スケジュール的には困るんだけど、それ、俺も超見たい」って言われてしまい(笑)。
──でもこれはすごいですよ。
HIRO いや、本当に。
──「VII」以降のキャラクターはドット絵になっていませんからね。投票で選ばれるだけあって人気のキャラですし。
渋谷 キャラクターも名前だけだとよくわからないから資料を見て思い出したりしました。
HIRO でもイメージにぴったりハマっているのがすごいですよ。
渋谷 ドット絵のキャラクターって、顔がほぼ半分を占めるので、顔が似てないと絶対にダメなんですよ。そこが時間かかっていますね。最初に描いてみたのは「Ⅶ」のクラウドです。まずクラウドが描けるかどうかをやってみようと。ちなみに、当時もしゲーム上でこの頭をそのまま描こうと思ったらNGになっちゃうんですよ。
──それはなぜですか?
渋谷 キャラクターのサイズが決まっているので、こんなに髪の毛が上に飛び出ているキャラは描けないんですよ。なのでクラウドはヘアスタイルの時点でNG(笑)。だけど、今回は私の中でルールを決めて、縦幅はキャラによって少し変えてもいいようにしました。ただ、横幅だけは絶対にはみ出さないようにしています。クラウドは他のキャラと比べて3、4ドットくらい大きいです。まあ、私としては「ちゃんと描けた!」って感じですね(笑)。
──渋谷さん的に今回選抜されたキャラに対しての思い入れは?
渋谷 いや、自分が手掛けたキャラはともかく、もう「VII」以降のキャラはね、全然わからなかった(笑)。
一同 あはははは!(笑)
渋谷 ヘアスタイルの描きにくいシーモアとかね(笑)。手袋をしているキャラも多かったので、見せ方で苦戦したのは多かったですよ。私の中のドットのルールとしては、誰であるかがすぐわかる、動きと形がわかる。というのがありまして、今回もゲームを作っているときと同じように描きました。彼らはキャラクターなんですけど、記号に近い感覚なんです。
- →Pia-no-jaC← 最新アルバム「EAT A CLASSIC 4」2012年12月5日発売 Peaceful Records
- 初回限定盤 [CD+DVD] XQIJ-91005 2300円
- 初回限定盤 [CD+DVD] XQIJ-91005 2300円
- 通常盤 [CD] XQIJ-1008 1800円
→Pia-no-jaC←(ぴあのじゃっく)
HAYATO(Piano)、HIRO(Cajon)の2人で構成されるインストゥルメンタルユニット。名前の由来は左から読むとピアノ、右から読むとカホンとなる。鍵盤と打楽器という至ってシンプルな編成ながら、重厚かつ多彩な音を鳴らすのが特徴。その独自の音楽性が各方面から注目を受け、ディズニーやスクウェア・エニックス、ショパンなど多数のトリビュートアルバムに楽曲提供。2010年発売の嵐のアルバム「僕の見ている風景」では、二宮和也から熱いオファーを受けゲストミュージシャンとして参加した。さらに宝塚歌劇団への楽曲提供、ラジオのジングル制作など幅広い活動を展開。ライブではオリジナル楽曲やクラシックなどのカバーを武器に、迫力満点のパフォーマンスを披露し、国内外の幅広い層から絶大な支持を受けている。2012年3月にオリジナルアルバム「暁」、7月には葉加瀬太郎とのコラボレーションアルバム「BATTLE NOTES」を発表。同年12月にクラシックのカバーアルバム「EAT A CLASSIC 4」をリリースした。
DE DE MOUSE(ででまうす)
遠藤大介によるソロユニット。緻密に重ね合わせたオリエンタルなメロディとドリーミーなサウンドで、幅広い層からの人気を獲得している。自主制作で発売したCD-R「baby's star jam」が各方面で話題になり、2007年1月にExt Recordingから1stアルバム「tide of stars」を発表。異例の好セールスを記録し、同年7月には早くもリイシュー盤「tide of stars SPECIAL EDITION」がリリースされた。2008年3月にavex traxへのメジャー移籍を発表、5月にメジャー第1弾となるアルバム「sunset girls」を発売。その後自主レーベル「not records」を設立し、レーベル第1弾となる4thアルバム「sky was dark」を2012年10月に発売した。
渋谷員子(しぶやかずこ)
旧スクウェア時代から現在のスクウェア・エニックスに至るまで、ゲームのキャラクターデザインなどを手がけてきたグラフィックデザイナー。主に「FINAL FANTASY」シリーズの「I」から「VI」でドット絵のキャラクターデザインなどを担当する。近年では、モバイル事業部アートディレクターとしてモバイル用タイトルのデザイン監修やドット絵キャラを描き続けている。