“歌と伴奏”では終わらせたくなかった
──ラストのサビに行く前のちょっと歪んだ質感とか、ああいうサウンドメイクは、ここ数年の海外のダンスミュージックや、メインストリームのポップスにも通ずるものがありますよね。バックトラックだけ聴いてもすごく面白いことをやっているなと感じました。
芳賀 そこは今回の大きなテーマでもあって。絶対に“歌と伴奏”では終わらせたくなかったし、歌がなくても成立する、もっと言えばどこかのパートだけでも成立する、そういうものを目指したいと毛蟹さんとも話していました。その中で、2Aのアレンジでこれができたのは僕らにとっても大きくて、新しいものができたなと。すごく満足しています。
毛蟹 僕的には2Aに裏テーマがあって。「奏章Ⅲ」はドバイが舞台ですけど、「Wonderer(feat. ReoNa)」って全然中東要素がないなと感じて、それっぽくならないかなと思ってアコギを入れました。それによって結果ドバイっぽくなったかは置いておいて。
芳賀 アコギ、まったくドバイに関係ないし(笑)。
毛蟹 でも、フレーズというか少し中東っぽくななってません? ……なってませんでした(笑)。
──ReoNaさんは先ほどこの曲について「新たな挑戦状」とおっしゃっていましたけど、ご自身の中にどう落とし込んで解釈して、レコーディングに臨みましたか?
ReoNa シナリオを深く、何度も読み込んでというよりは、全体的なイメージとして、「月姫 -A piece of blue glass moon-」という作品で歌わせていただいた流れを踏まえて過去、今、そして未来に思いを馳せたというか。歌詞の中に「月にだって行ける」っていうフレーズがあるように、駆け上がってそのまま飛び立って浮遊していくようなイメージをどれだけ伝えられるかを意識しました。あとは、曲の中にある場面の切り替えにどれだけ声や歌でついて行けるかはすごく考えました。
毛蟹 歌詞に関しては、ReoNaというアーティストがこれまで歌ってきたものからそんなに乖離はなかったと思う。
ReoNa なかったですね。
毛蟹 今回、歌詞で描きたかったのはまっすぐな人間讃歌。僕は今回のシナリオを読んだあとに、「奏章Ⅲ」、そして「FGO」世界における「人間ってなんぞや?」という話を僕なりにしたくてこの歌詞を書いたので、普段のReoNaが歌っているテーマや理念からそこまで変わりはなくいけたんじゃないかなと思っています。
ReoNa 普段使っている言葉のはずなのに、毛蟹さんが組み立てるとまた違った意味に響いたりすることが今回の曲の中にはふんだんにあったので、気持ちの乗せ方で迷うことはなかったかなと思います。でも、技術的にはいろいろトライしましたよね。
毛蟹 確かに。普段のプリプロやレコーディングだと感情や音の文脈みたいな、気持ちの乗せ方の部分で言及することが多いけど、今回は純粋にどこの部分を伸ばす、切る、音をしゃくるのかしゃくらないのか、とかそういうテクニックの話が多かったかな。
この楽曲とこれから先も長く歩んでいきたい
──ReoNa作品を作るわけではなく、スパイラル・ラダーの作品にReoNaがどう入り込んでバランスを取るか、そこも意識したのでしょうか。
ReoNa 歌ううえではスパイラル・ラダーさんの曲だから遠慮しようという気持ちはまったくなくて。あくまでReoNaとしてお誘いいただいているんだから、ReoNaとして何ができるだろうっていうことを意識して挑むような気持ちでした。
毛蟹 歌に関して、例えばメインのボーカルを録ったあと、普段だったら字ハモを録るんですけど、今回は字ハモをまったく録ってなくて。オクターブの素材を少しもらったぐらい。
芳賀 でも、謎の素材をもらったよね。
毛蟹 吐息だけ、みたいな謎の素材をいっぱいもらっておいて、それをあとから僕らが自由に組み合わせて曲を演出したり。あと、これは“アーティストReoNa”だとほぼやってないと思うんだけど、ボコーダーをかなり使っているので、ちょっといつもとは違う感じの声の質感になっているかも。
芳賀 それでもちゃんとReoNaさんのファンに納得してもらえるだろうなと思えるのは、まだワンコーラスしかない早い段階から本人仮歌になっていたおかげかなと。僕らはそれを聴きながら作業ができたし、頭の中でReoNaさんの声をイメージできている状態でいろいろ試せたから、スパイラル・ラダーの曲であるのと同時にReoNaさんの色も出せたのかなと思います。
──今回の共演は皆さんにとって大きな刺激になったようですね。
ReoNa この楽曲とこれから先も長く歩んでいきたいですし、今まさにテレビCMを観たりとかゲームをプレイしたりして楽しんでいる方にもまだまだ届いてほしいです。本当にすごく大きなきっかけをもらったなと思います。いつかきっと、ライブで歌う日も来るかもしれませんしね。
毛蟹 そうなるといいなあ……。
芳賀 よろしくお願いします。
──でも、この曲を生で歌うとなると、なかなかハードルが高そうですね。
ReoNa 確かに。ちゃんとライブでも満足していただけるように落とし込まなきゃいけない。そういう意味でもすごい挑戦状もらっちゃいましたね(笑)。
毛蟹 すみません(笑)。
芳賀 今回は今までと違って、歌はこういう感じになるだろうというイメージがある状態でかなりの部分を作業できたので、いつもより集中できた部分も多くて。それはこれまでできていなかったやり方ではあるので、ひとつ新しい形でやれたなと思いますし、確実に次以降にも生きてくるんじゃないかなと思います。「Wonderer(feat. ReoNa)」に限らず、個人的には1曲作るたびに新しい手応えを感じているので、今後もいかにそれを増やしていけるか、もっと新しいイメージにつなげていけるか、そういう意味でも次の楽曲を作るのがすごく楽しみです。
毛蟹 僕も1曲1曲作るたびに鎖を引きちぎって解き放たれているというか、自由度が上がっている印象があって。特に今回はその感覚がより大きいので、こうなってくると芳賀さんの心労がさらに増えてしまうんじゃないかという心配もありますが(笑)。はい、がんばります!
プロフィール
ReoNa(レオナ)
10月20日生まれ、“絶望系アニソンシンガー”を掲げる女性アーティスト。テレビアニメ「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」にて劇中歌アーティスト・神崎エルザの歌唱を担当し、“神崎エルザ starring ReoNa”として2018年7月にミニアルバム「ELZA」をリリース。2018年8月にReoNa名義でテレビアニメ「ハッピーシュガーライフ」のエンディングテーマを表題曲とした1stシングル「SWEET HURT」をリリースしてソロデビューした。2023年3月に初の日本武道館公演「ReoNa ONE-MAN Concert 2023 “ピルグリム” at日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~」を開催した。2024年5月から8月にかけて、5周年アニバーサリーツアー「ReoNa 5th Anniversary Concert Tour “ハロー、アンハッピー”」を全国9都市に加え、台北、香港、上海で実施し、初のジャパン・アジアツアーを完走した。8月に、フィーチャリングボーカルとして参加したスパイラル・ラダーの楽曲「Wonderer(feat. ReoNa)」が配信リリースされた。
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スパイラル・ラダー
TYPE-MOONのサウンドプロデューサー芳賀敬太と、LIVE LAB.に所属するサウンドクリエイターの毛蟹が2022年に結成したユニット。TYPE-MOONブランドをシンボライズする楽曲を、曲毎にフィーチャリングボーカルを迎えて発表している。これまでにYuriko Kaida、六花、310をフィーチャリングボーカルに迎えて楽曲をリリース。2024年8月にはReoNaを迎えた楽曲「Wonderer(feat. ReoNa)」を配信リリースした。