スパイラル・ラダーの楽曲「Wonderer(feat. ReoNa)」が8月29日に配信リリースされた。
スパイラル・ラダーはTYPE-MOONのサウンドプロデューサー芳賀敬太と、LIVE LAB.に所属するサウンドクリエイターの毛蟹によるユニット。TYPE-MOONブランドをシンボライズする楽曲を、曲毎にフィーチャリングボーカルを迎えて発表している。「Wonderer(feat. ReoNa)」はReoNaをフィーチャーした楽曲で、TYPE-MOON原作のスマートフォン向けゲーム「Fate/Grand Order」の最新シナリオ「奏章Ⅲ 新霊長後継戦 アーキタイプ・インセプション」のテレビCMソングとして「FGO」の世界観に彩りを添えている。
この曲のリリースを記念して、音楽ナタリーではスパイラル・ラダーとReoNaにインタビュー。スパイラル・ラダー結成の経緯やReoNaをフィーチャリングボーカルに迎えた理由、「Wonderer(feat. ReoNa)」の制作エピソードを聞いた。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 笹原清明
“いにしえのTYPE-MOONオタク”と“神様のような人”がユニットに
──芳賀さんと毛蟹さんはこれまでも「Fate/Grand Order」に関連したインタビューで何度かご登場いただきましたが、スパイダル・ラダーというユニットとしてはこれが初めてということで、まずは結成の経緯を聞かせてもらえますか?
芳賀敬太 ちょっと諸説いろいろあるんですけど……。
ReoNa 諸説ですか?(笑)
芳賀 これまで自分が作詞や作曲をして毛蟹さんが編曲するという座組はあったんですけど、それだったらいっそ2人で一緒に作らないかという話を毛蟹さんからされて。本当に作詞・作曲・編曲のすべてをイーブンでやるというアイデアで、「それはぜひやってみるべきだな」と思ってスタートした形です。
毛蟹 ほかの説を話すと(笑)、芳賀さんが作詞・作曲で僕がアレンジを担当するという形での楽曲の制作が始まってから、実は僕の自宅で一緒に作業していたんです。芳賀さんに見てもらいながら、アレンジの作業を進めていく中で、どうもちょっと自分の中でうまくいかないところがあって。芳賀さんの楽曲に芳賀さんらしいサウンドが乗ってないことが、10代終盤はほぼ芳賀さんの音で生活してきたと言っても過言ではない“いにしえのTYPE-MOONオタク”としては許容し難いという(笑)。クリエイターとしての思いとファン心のせめぎ合いが起こってしまったんです。そんなときに芳賀さんが冗談で「ユニット化して一緒にやるとかね」ってポロッとおっしゃったんです。
芳賀 えっ? そんなこと言ったっけ?
毛蟹 おっしゃってたと思います(笑)。僕にとっては神様のような人なので、自分から提案するにはあまりにも恐れ多い……けれど、冗談でもせっかくなので真に受けたい! という、もう1つの説がありまして(笑)。
ReoNa そうだったんですね(笑)。
──神のような存在と対等に制作することで、新たな発見や気付きはありましたか?
毛蟹 新しく発見することももちろん多いんです。まず、ずっと聴いてきた芳賀さんのサウンドに対して「僕が今、何をできるか?」と考えることができるようになりました。今僕にできることを探して、1つでも多く芳賀さんに聴いてもらって、それを芳賀さんのフィルターを通したときにアリかナシかみたいな確認ができることが大きくて。ある種、リトマス試験紙のような感覚で「このサウンドや歌詞はTYPE-MOON的にどうなのか、芳賀さんのフィルターを通して世に出たときにどうなるか」とジャッジしてもらえるのがうれしくて仕方ないです。
──一方、芳賀さんは毛蟹さんと一緒に作業することで得られたこと、見つけられたことって何かありますか?
芳賀 基本的に毛蟹さんは僕の言うことを聞いてくれなくて(笑)。
毛蟹・ReoNa (笑)。
芳賀 毛蟹さんとしばらく一緒にやってきて思うんですけど、本当に個として完結しているんですよね。集中力もすごくて、一緒にプリプロをしていても「1回ちょっとやってみます」って言ったら何時間も振り向くことすらないし、自分の納得するラインまで一旦作らないと何も始まらないという。そういう中で僕もアイデアはいろいろ出しているんですけど、最初はともかく今となっては素直にそのアイデアを使われることはないです(笑)。
毛蟹 そんなことないですって(笑)。
芳賀 年々頑固だなと思ってますけど(笑)。
ReoNa バレてきてますね(笑)。
芳賀 具体的なアイデアをお互い出し合っていくのはもちろんなんですけど、やっぱりそのエネルギーを曲に対していい方向に向けてあげられたらいいなという、そういう気持ちがけっこう大きいですね。
1人じゃできないものを生み出したい
──曲の作り方もその時々で変わってくるんでしょうか。
芳賀 そうですね。スパイラル・ラダーとしてどういうものを作ろうかというイメージの時点で、僕としては1人ではできないこと、自分のスタイルとは違うけどやってみたいこと、そういうものを必ず混ぜていこうと思って向き合っています。
毛蟹 僕も基本的にスタンスは一緒で、1人じゃできないものを生み出したいという気持ちが大きくて。もちろんスパイラル・ラダーでも1人でやる作業もあって、例えばこれまで発表した4曲はどれもどちらかが原型を作っています。「陸劫輪廻(feat. Yuriko Kaida)」と「七星神威(feat. 310)」が芳賀さんスタートで、「残夜幻想(feat. 六花)」と今回の「Wonderer(feat. ReoNa)」は僕スタート。その辺りにも色の違いは出ていると思いますが、最終的なサウンドの統一感みたいなところは2人で詰めているので、そういう意味で「1人じゃできないもの」にたどり着けている手応えがあります。
──毛蟹さんは「FGO」をはじめとするTYPE-MOONに関わる作品を作る、ということに対してどこまで意識的ですか?
毛蟹 そもそも僕には10代から「TYPE-MOONの世界観」というものが刷り込まれていて、根っこの考え方ですでに影響を受けているんです。僕から自然と出てきたものがそれほど作品のイメージから外れないのは幸せなことだな、と思いつつ、より多くの人に聴いてもらうのはどうしたらいいのかは常に意識しています。「FGO」をやっている人だけに聴いてもらうのもうれしいことですが、もう少し多くの人に届いて欲しい欲もある。
──ボーカリスト選びというのも、楽曲を作っていくうえで重要なポイントかと思います。これまでにReoNaさんに加えて、Yuriko Kaidaさん、六花さん、310さんをフィーチャリングボーカルに迎えていますが、誰に歌ってもらうとかどういう声が必要みたいなことはどの段階で決めるんですか?
毛蟹 基本的にはある程度曲ができあがってからですよね。
芳賀 そうですね。曲のベーシックな部分を作って、僕らの中にどういう歌のイメージが生まれるか。そのイメージを元に、お願いする方を決める流れです。
毛蟹 イメージの擦り合わせはもちろんするんですけど、最初のYuriko Kaidaさんについては確か芳賀さんと話していたときに、芳賀さんが「これはKaidaさんがいいな」と言った記憶があって。
芳賀 えっ、そうだった?
毛蟹 それで、アニプレックスさんに聞いてみてという流れだったと思います。諸説あるかも(笑)。
芳賀 六花さんも僕らが以前からお世話になっていたんで、そういう意味では「七星神威」を歌ってもらった310さんは新たな出会いでした。「七星神威」に関しては、僕らから具体的に誰がいいというところまで思い当たらなかったので、アニプレックスさんにお願いして何人かご紹介いただいた中から選ばせていただいたんですけど、一聴して「この子しかいない!」というインパクトがあって。
毛蟹 何人か候補の方がいた中で、2人とも一致して即決でしたね。
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