テレビアニメのテーマソング、CMソングといった数多くのタイアップを獲得するなど、去年から今年にかけてお茶の間で流れる機会が圧倒的に増えたEve。ライブの規模感も順調に拡大しており、1月には5000人規模の会場となる東京・国際フォーラム ホールA公演をソールドアウトさせるなど、リスナーの期待感は年々高まっている。そんなEveがニューアルバム「Smile」を2月10日にリリースした。本特集では、Eveの音楽に込められた“二面性”をキーワードに、「Smile」に表れるEveの音楽的な変化を伝えていく。
文・構成 / 倉嶌孝彦
求められ続けた1年
Eveにとって2019年は常に“楽曲を求められる”1年だった。テレビアニメ「どろろ」にエンディングテーマ「闇夜」を提供した彼は、その後、学校法人・専門学校HALのCMソング「レーゾンデートル」、「JR SKISKI 2019-2020キャンペーン」のテーマソング「白銀」、ロッテ「ピンクバレンタイン」プロジェクトのテーマソング「心予報」など数々のタイアップソングを完成させていく。それに止まらず、Souのアルバム「深層から」に「グレイの海」を、りぶのアルバム「Ribing fossil」に「リア」をそれぞれ提供。ソングライターとしてのEveの才能が、これまで以上に注目された1年だったと言えるだろう。
Eveの代表曲といえば、まずは「ナンセンス文学」「ドラマツルギー」の2曲が挙げられる。これらが収録されたアルバム「文化」(2017年12月発売)のインタビューで、Eveは「自分の中にもう1人の魔物のような存在が潜んでいるかもしれない」と語っており、そんな自分の内面と向き合って作り上げた曲としてこの2曲を挙げた(参照:Eve「文化」インタビュー)。この2曲は、社会や世界に対する批判を織り込んだシニカルな視点の歌詞とMahが手がけるミュージックビデオの雰囲気により、ダークな作風と形容されることが多く、それぞれがEveの代名詞とも言える楽曲に成長した。
しかし、Eveがタイアップで書き下ろした楽曲のいくつかは、ダークな世界観を紡いだものではない。例えば「白銀」は真っ白なゲレンデを想起させるような煌びやかなギターサウンドに乗せて青春のはかなさを謳ったナンバーであり、「心予報」はポップなサウンドでリスナーの背中を押す応援歌に仕上げられている。ダークな世界観の楽曲でインターネットシーンにおいて絶大な支持を得てきたEveだが、今はポップな楽曲を武器に、その名を世間に広めつつあると言える。
音楽に込められた二面性
ここからは、いよいよニューアルバム「Smile」について触れていこう。収録曲のうち、最初に制作された曲が「闇夜」であることはライブのMCで明かされている。テレビアニメ「どろろ」のエンディングテーマとして書き下ろされたこの曲は、前作「おとぎ」までのバンドサウンドを基調とした音作りから一転し、打ち込みのドラムやシンセベースを軸に主旋律をストリングに委ねた、新境地を感じさせる1曲となった。「闇夜」の制作時点でアルバム全体の方向性が見えていたわけではないだろうが、こういった曲作りは「Smile」に多大な影響を与えたことが、収録曲の「LEO」「mellow」を聴くと感じ取れる。この2曲では、電子楽器を主としたサウンドアプローチに挑戦。バンドサウンドだけではなく、流行のダンスミュージック的な手法をEveなりの解釈で取り入れることで、彼の音楽の独自性を強く示すことになった。もちろん、これまで得意としてきたバンドサウンドも健在だ。タイアップ曲として生み出された「バウムクーヘンエンド」「心予報」がエレキギターのリフで派手に始まるように、Eveの音楽の根っこにバンドがあり続けることはアルバムの随所から伝わってくる。
ダークな面とポップな面、バンドサウンドとダンスミュージック由来のサウンドなど、随所に感じ取れる“二面性”は本作の重要な要素であるように思える。例えば「Smile」のジャケットアートワークは2種類あり、Smile盤には重なるように描かれた2つの笑顔、通常盤には笑みを浮かべながらも涙を流しているように見える顔のイラストが使用されている。また「水面に映る 知らない顔1つ」(「LEO」)といった歌詞や、「レーゾンデートル」のMVで描かれている現実の自分と異世界での自分の対比など、Eveの音楽では随所に“自分ともう1人の自分”が描かれる。そういった傾向を踏まえると、「夢に目覚めた君は何を見るの」(レーゾンデートル)という歌詞は、自身の二面性を作品に昇華することで名を馳せたEveが、リスナーの内なる自分を呼び覚ますように投げかけたメッセージにも聴こえてくる。
リアルの世界に広がる「Smile」
全国ツアー「胡乱な食卓」の最終公演では、国際フォーラム ホールAという約5000人規模の会場で、プロジェクションマッピングや紗幕への投影など映像をふんだんに使ったライブを展開したEve。ただこのツアーでは「Smile」のための書き下ろし曲のうち「LEO」と「胡乱な食卓」しか披露していない。今作を携えたライブは5月23日に神奈川・ぴあアリーナMMで行われる。「胡乱な食卓」のツアーファイナルの約2倍のキャパとなる会場で、Eveはアルバムの世界観をどう描くのか。楽しみにしておこう。