JAY(ENHYPEN)×優里|世界に向けた異色コラボがもたらしたもの

3月17日、ENHYPENのJAYと優里がお互いの楽曲をカバーするコラボを行うことを発表。概要が明かされた翌日から、優里の「ドライフラワー」、ENHYPENの「Always」を2人で歌唱する動画が2日連続でYouTubeにて公開された。

K-POPグループのメンバーであるJAYと日本のシンガーソングライターである優里。生まれ育った環境からキャリアまで、それぞれが異なるバックグラウンドを持つ2人はなぜコラボをするに至ったのか。そして両者のコラボは一体何をもたらしたのか。これらを明らかにするべく、音楽ナタリーではJAYと優里が持つそれぞれの魅力やカバーされた2曲の聴きどころ、そして異なる音楽シーン同士をつなぐ両者のコラボレーションの意義をレビューで紐解いていく。

文 / 岸野恵加

1年越しに実現した異色のコラボ

K-POPグループのENHYPENと、日本のシンガーソングライター優里によるコラボレーション。それぞれ異なるフィールドで熱狂的な人気を博している二者の交わりは、言うまでもなく豪華だが、異色であることは確かだ。

コラボのきっかけは、ENHYPENのJAYが優里の大ファンであったこと。JAYは自ら所属レーベルに「優里とコラボしたい」という思いを伝え、1年越しで企画が実現したのだそうだ。

左からJAY(ENHYPEN)、優里。℗&©︎ BELIFT LAB Inc.

左からJAY(ENHYPEN)、優里。℗&©︎ BELIFT LAB Inc.

3月17日に、JAYと優里が2人でそれぞれの楽曲を歌唱するというコラボレーションカバー企画の概要が発表され、18日にENHYPENのYouTube公式チャンネルでは優里の代表曲「ドライフラワー」のカバー、19日に優里のYouTube公式チャンネルではENHYPENの日本オリジナル曲「Always」のカバーを公開。ENGENE(ENHYPENファンの呼称)とゆーりんち(優里ファンの呼称)たちは連日にぎわいを見せていた。

日本語堪能、ひたむきで愛されキャラのJAY

ENHYPENはMnetの超大型プロジェクト「I-LAND」から誕生し、2020年11月に韓国デビュー。2021年7月発売の日本デビューシングル「BORDER : 儚い」はオリコン週間シングルランキング1位(2021/7/19付)を記録し、昨年10月に発売された日本1stアルバム「定め」は、週間アルバムランキングで2週連続1位(2022/11/7、11/14付)を獲得した。今年1月には初めてのワールドツアーの追加公演として、初の京セラドーム公演を2日間開催し8万人を動員。“グローバルK-POPライジングスター”とも称され、K-POP“第4世代”のアーティストを代表する存在としてその名を轟かせている。

JAYは2002年生まれで、7人組のENHYPENの中ではHEESEUNGに次ぐ2番目の年長メンバーだ。キリッとした眼差しが光るクールなビジュアルが印象的だが、グループの中ではユーモアにあふれたムードメーカー的な存在。周囲のことを常に気遣う優しさと、ひたむきに夢を目指す情熱を持ち合わせた性格で、メンバーからの信頼も厚い。幼少期から日本のアニメなどに親しみ、独学で勉強したという日本語はかなりの実力で、「I-LAND」の頃から流暢な会話力で視聴者を驚かせていた。

JAY(ENHYPEN)℗&©︎ BELIFT LAB Inc.

JAY(ENHYPEN)℗&©︎ BELIFT LAB Inc.

優里の存在は、ENHYPENの末っ子メンバー・NI-KIが「THE FIRST TAKE」に出演した優里の動画を観ていたことから知ったそうだ。JAYは優里の音楽をきっかけに「J-POPはすごい」と感じたそうで、その後優里の曲を聴き込んで、ファンであることをWeverse公式アカウントなどで公言。3月14日にENHYPENのYouTube公式アカウントにアップされた各メンバーによるプレイリストにも、JAYは優里の「ベテルギウス」を選曲していた。SpotifyでJAYが2022年に最も多く再生したアーティストはほかならぬ優里、よく聴いた曲の1~5位も優里の楽曲で埋め尽くされていることをうれしそうにENGENEに報告していたこともあった。

ちなみに優里の楽曲はさまざまなK-POPアーティストからカバーされている。IVEのイソとレイ、Stray Kidsのスンミン、元IZ*ONEのYENA、TREASUREのジョンウ、fromis_9のHA YOUNG、N.Flyingのフェスンら、少し書き連ねただけでもそうそうたる顔ぶれだ。多くのアーティストが海を越えて、優里の卓越した歌唱力、巧みなソングライティングに魅了されている。

驚異のヒットを連発するも、飾らない優里

そんな熱視線をK-POPアーティストたちから送られる優里は、千葉県出身。元はロックバンドのボーカルとして活動していたが、バンド解散を機にシンガーソングライターとしての活動を開始する。路上ライブとSNSへの歌唱動画投稿を精力的に行い、2019年12月に配信リリースした「かくれんぼ」がTikTokで人気を集めたことで一躍注目の存在となった。2020年8月にソニー・ミュージックレーベルズよりメジャーデビューし、同年10月にリリースした「ドライフラワー」が大ヒット。Billboardチャート3冠、オリコン年間チャート3冠を達成するなど、2021年を代表する1曲として広く愛された。

「ドライフラワー」は国内のみならずApple Musicトップ100グローバルチャートの7位にランクインするなどグローバルに愛されており、優里はこの楽曲の英語バージョン、中国語バージョンも発表している。アーティストたちが一発撮りのパフォーマンスを披露するYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」での「ドライフラワー」は1億1000万再生を突破。その後リリースされた「シャッター」「ベテルギウス」、1stアルバム「壱」の収録曲「レオ」なども数々の記録を打ち立て、彼の全楽曲のストリーミング累計再生回数は29億回を超える。

と、数字を並べ立てるとどこか大仰に響くものだが、優里本人はいたって気さくな青年である。2020年に開設したYouTubeチャンネル「優里ちゃんねる」では楽曲の歌唱法を解説してみたり、アーティスト仲間とカラオケバトルをしてみたり、NGなしの質問コーナーを展開したり、スノーボードをするVlogを公開したりと、等身大の姿をYouTuberさながらに全世界に向けて頻繁にアップしている。SNSからヒット曲が生まれる現代の音楽シーンを代表するアーティストである一方で、飾らず親しみやすいキャラクターを存分に発揮する、新時代の表現者としての存在感を示しているのだ。

優里℗&©︎ BELIFT LAB Inc.

優里℗&©︎ BELIFT LAB Inc.

新たに表現された「ドライフラワー」「Always」に感じるリスペクト

まったく異なる道を歩んできた2人のアーティストが息を合わせた今回のコラボレーション。JAYと優里による「ドライフラワー」「Always」のカバーは、いずれもこの動画のためにアレンジされたアコースティックバージョンで披露された。それでは順に、それぞれの楽曲を紹介するとともに、パフォーマンス映像を詳しく見ていこう。

「かくれんぼ」と「ドライフラワー」は対になった作品で、「かくれんぼ」が男性目線、「ドライフラワー」は女性目線で同じ男女の別れが歌われている。優里が女性目線で歌詞を書いたのは「ドライフラワー」が初めてだったそうだが、そうとは思えないほど、繊細でリアルな情景描写によって切ない心情が描かれている。

JAYと優里が歌う舞台となるのは、ランプや電飾がひっそりと灯る落ち着いた雰囲気の空間。そこにアコースティックギターやカホン、キーボードの楽器隊が構え、JAYと優里がスタンドマイクを前に佇んでいる。1番は原曲歌手の優里が担当。何度も歌い重ねてきて全身に馴染んでいるであろうこの曲を、ささやくようなAメロからエモーショナルなサビまで余裕たっぷりに歌い上げる。

2番からはバトンタッチして、それまで優里の歌声に浸るかのように目を閉じていたJAYのターンだ。息を混ぜささやくような歌唱や、スタッカートによるアクセント、かすれたようなエッジボイスを織り交ぜたボーカルには、優里への強いリスペクトを感じずにはいられない。そしてJAYの流暢な日本語ももちろん健在。韓国語話者には難しいと言われている日本語の「つ」や「ず」などの発音も自然にこなし、終始感情を込めて歌い上げていく。最後のサビでは2人が声を重ね、ラストはオクターブでJAYが高音を美しく響かせる。それまで自分の表現に集中していた2人が初めて視線を合わせ、笑顔を浮かべるクライマックスは、演奏の盛り上がりと相まって感動的な光景に映った。

優里は「ドライフラワー」リリース時のインタビューで、「うまく歌うよりも『伝える』ということが大事だなって。僕自身もうまい歌よりも、沁みる歌が好きですからね」と語っていた(参照:優里「ドライフラワー」インタビュー)。あふれんばかりの感情が込められていたJAYの歌唱は、まさにここに当てはまるような印象を受ける。動画は公開されるやいなや24時間を経ずに100万再生を突破。コメント欄には世界中から歓喜の声が躍った。

ENHYPENといえば、ダークな雰囲気の楽曲の印象が強い人も多いかもしれない。だが2022年2月に配信リリースされた、グループにとって2曲目の日本オリジナル曲「Always」は、「君は君のままでいいんだ」と優しく背中を押してくれるような応援ソング。高畑充希主演ドラマ「ムチャブリ! わたしが社長になるなんて」の主題歌としても話題を集めた。普段キレのいいダンスを披露しているENHYPENがこの曲ではボーカルに専念しており、彼らの温かい歌声を堪能できる1曲でもある。

「ドライフラワー」のどこかムーディな雰囲気からは一変、「Always」は随所に花やライトが飾られた明るいセットの中で歌われた。掛け合いが楽しいAメロでは、普段はNI-KIが担当している合いの手をJAYが明るく担う。そしてサビでは、優里がそのソウルフルな歌声で原曲のHEESEUNG、JUNGWONとはまた違う、新たな楽曲の魅力を引き出していた。普段はギターを手にするかスタンドマイクで歌うことが多い優里が、ハンドマイクでステップを踏みながら、アップテンポな楽曲を披露する姿はなかなか貴重と言えるだろう。ゆーりんちたちの感想にも、コラボのおかげでいつもと違う優里の姿が見られたと、JAYへ感謝の言葉を伝えるものが多く見られた。

「ドライフラワー」とどちらを先に撮影したかはわからないが、「ドライフラワー」ではどこか緊張しているように思える瞬間もあったJAYが、「Always」ではリラックスした様子で音に体を委ねていた。ENHYPENとして7人で歌ってきたパートを2人で分担するということで、普段はほかのメンバーが歌っているパートも練習したというJAY。このコラボカバーの撮影は1月の京セラドーム公演の直後に行われたそうで、ENHYPENでの通常の担当パートと、優里とのコラボ動画で担うパートが頭の中で混ざりそうで大変だったと、JAYはWeverse Liveで裏話を明かしている。

前述した「I-LAND」では、ミッション曲のパート決めでJAYが積極的に手を挙げるも、高音がしっかりと出せずに希望のパートを獲得できず、めげずに何度も何度も彼が挙手をする場面がある。そのシーンを振り返って彼が心から悔しそうに語っていたことはENGENEの間ではよく知られているエピソードであるが、ここからわかる通り、当時の彼はボーカルの実力が高いほうではなかった。そんなJAYが、今回の2曲では高音パートを堂々と響かせている。その歌唱から彼のこれまでの努力を想像すると、何倍も歌声が胸に刺さってくるようだ。ENGENEもこの動画を受けて「JAY、ここまで歌がうまかったなんて」と感嘆するとともに、彼の歌声をたっぷりと堪能できる貴重な機会として喜びの声が多く上がっていた。

JAY(ENHYPEN)℗&©︎ BELIFT LAB Inc.

JAY(ENHYPEN)℗&©︎ BELIFT LAB Inc.

“これから”につながる架け橋に

深いリスペクトが根底に流れた個性の重なりだと感じられた今回のコラボレーションカバー企画。YouTubeではそれぞれ相手の楽曲を自身のチャンネルにアップしていたため、優里のファンがENHYPENへ、ENHYPENのファンが優里へ新たに出会う機会としても働き、異なる音楽シーン同士をつなぐ1つの大きな架け橋となったに違いない。

動画の公開後、優里とJAYはそれぞれにファンに報告。2人の言葉からは、このコラボが本人たちにとって特別な経験だったことがうかがえる。

JAYはグループのTwitter公式アカウントにて「こうしていい機会を作ってくださった関係者のみなさん、そしてバンドメンバーのみなさん、本当にありがとうございました!とてもいい勉強になりました!」「安住せずに今回の機会で学んだことを生かし、さらに人々に幸せと希望を伝える歌手になるように努力します」とコメント。憧れの相手との共演を叶えた喜びで終わらず、成長の機会であるととらえるところが勤勉な彼らしい。

一方で優里も今回のコラボレーションから多くの刺激を受けたことだろう。彼はJAYの第一印象を「王子様が来たかと思った」と振り返り、「ずっと会いたかったので、やっと会えてうれしかったし、最高の曲が歌えたと思います」とコメント。インスタライブでは「聴いてくれてありがとうってお礼を伝えたい」と意気込み、韓国語を反復練習して、韓国語の名前のユーザーとコミュニケーションしていた。

BTSはback number、TOMORROW X TOGETHERはGReeeeN、大森元貴(Mrs.GREEN APPLE)、川崎鷹也と、ENHYPENの所属レーベルを擁するHYBEには日本のアーティストから楽曲提供を受けているグループも多い。またSEVENTEENは香取慎吾とのコラボ楽曲を発表し、ØMIこと登坂広臣(三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE)は、BTSのSUGAにプロデュースを受けた楽曲をリリースしている。いつかENHYPENと優里の縁も、そのように結ばれる日が来るかもしれない。

プロフィール

ENHYPEN(エンハイプン)

2020年6月から約3カ月間放映されたMnetの大型プロジェクト「I-LAND」から誕生した、JUNGWON、HEESEUNG、JAY、JAKE、SUNGHOON、SUNOO、NI-KIの7人で構成されたグローバルグループ。2020年11月に「BORDER : DAY ONE」でデビューし、翌2021年7月にシングル「BORDER : 儚い」で日本デビューを果たした。2022年9月より日本公演も含むワールドツアー「ENHYPEN WORLD TOUR 'MANIFESTO'」を開催し、2023年1月にはツアーの一環として大阪・京セラドーム大阪公演を実施。第4世代のK-POPアーティストとしては最速となる、デビュー約1年半で単独ドーム公演を成功させた。5月14日に「KCON JAPAN 2023」、8月19、20日には「SUMMER SONIC 2023」への出演を控えている。

優里(ユウリ)

千葉県出身のシンガーソングライター。2019年にInstagram、Twitter、TikTokへの歌唱動画投稿を始める。2019年12月に配信リリースした「かくれんぼ」がTikTokで動画投稿に続々使用され、大きな注目を浴びる。2020年8月にソニー・ミュージックレーベルズより配信シングル「ピーターパン」でメジャーデビュー。同年10月にリリースされた、「かくれんぼ」のアフターストーリーを描いた新曲「ドライフラワー」はソロアーティスト初のストリーミング累計8億回再生を突破した。このほかにもその後2021年リリースの「ベテルギウス」が累計4億回、「シャッター」が累計3億回再生を記録し、楽曲全体のストリーミング累計再生は29億回を超えている(2023年3月現在)。2022年1月に1stアルバム「壱」、今年3月に2ndアルバム「弐」をリリースした。