ENHYPEN|最新作は“初動ダブルミリオン”達成、「ロッキン」初のK-POPアーティストとして出演する7人組の音楽的魅力

国内最大級の野外音楽フェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024」、通称“ロッキン”が8月3日より千葉・千葉市蘇我スポーツ公園で開催されている。今年の「ロッキン」には、BTSなどを擁する韓国の総合エンタテインメント企業・HYBEの傘下レーベルに所属する7人組グローバルグループ・ENHYPENが出演。2000年にスタートし、およそ20年以上の歴史を誇る「ロッキン」だが、K-POPアーティストが出演するのはこれが初めてだという。

2020年に行われた超大型プロジェクト「I-LAND」にてプロデューサー評価とグローバル投票によって選出された7人からなるENHYPEN。昨年9月にはK-POPボーイグループの中でデビューから史上最速で単独東京ドーム公演を実現し、年末には、同年リリースの楽曲「Bite Me [Japanese Ver.]」でTBS「第65回 日本レコード大賞」の「特別国際音楽賞」を受賞するなどの躍進を遂げた。今年7月リリースの最新アルバム「ROMANCE : UNTOLD」のセールスは発売から5日間で200万枚を突破し、デビュー4年目の現在もキャリアハイを更新し続けている。ENHYPENの「ロッキン」初出演を記念して、音楽ナタリーではENHYPENというグループの特徴とともに音楽的な魅力を紹介していく。

文 / 宮崎敬太

K-POPアーティストの「ロッキン」出演は史上初

ENHYPENが、K-POPアーティストとして初めて「ROCK IN JAPAN FESTIVAL(以下、ロッキン)」のステージに立つ。彼らはK-POPシーンでは確固たる実力と多様な音楽性で圧倒的な存在感を放っており、昨年は国内外の話題アーティストを広く招聘する「SUMMER SONIC」への出演も果たしたが、「ロッキン」は邦楽のロックアーティストを中心にしたラインナップなので、初めてENHYPENに触れる人も多いだろう。音楽ナタリーでは、そんな人たちのためにENHYPENというグループの特徴とともに音楽的な魅力を紹介していく。

ENHYPENは、2020年に配信された韓国の超大型プロジェクト「I-LAND」から誕生したグローバルボーイグループだ。参加者内での投票やプロデューサーの評価、そして世界各国の視聴者によるグローバル投票の結果、メンバーとして選出されたHEESEUNG、JAY、JAKE、SUNGHOON、SUNOO、JUNGWON、NI-KIの7人は全員が並外れた実力者で、かつ容姿端麗。さらに、それぞれがグループに深みをもたらすキャラクターの持ち主であった。

ENHYPEN (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

ENHYPEN (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

ENHYPENを構成する7人のメンバー

ここで簡単にメンバー紹介をしたい。まずは2004年生まれのJUNGWON。グループ内では“年下組”のメンバーでありながら、ENHYPENのリーダーを務めている。非常に勤勉な性格で、メンバーからの信頼も厚い。グループの中で最も長い練習生期間を経てデビューを掴んだのは、2001年生まれの最年長・HEESEUNG。絶対音感を持ち、歌もダンスもハイレベルにこなすオールラウンダーだ。

JUNGWON(ジョンウォン) (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

JUNGWON(ジョンウォン) (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

HEESEUNG(ヒスン) (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

HEESEUNG(ヒスン) (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

2002年生まれのJAYは、韓国語はもちろん英語や日本語も堪能なマルチリンガル。今年5月にリリースされたGLAYの62ndシングル収録曲「whodunit-GLAY × JAY(ENHYPEN)-」でGLAYのTERU(Vo)とのツインボーカルを披露したほか、自身のパートの日本語での作詞にも参加。昨年3月には優里ともコラボレーションして注目を浴びた。2002年生まれのJAKEは幼少期を英語圏で過ごしていたが、BTSに憧れ渡韓。海外公演では、流暢な英語を武器に世界中のファンを盛り上げる。JAKEと同じく2002年生まれのSUNGHOONは、なんと元フィギュアスケート選手。国際大会で銀メダルを獲得するほどの実力者だったが、彼もBTSに憧れ練習生に。2018年からの2年間はフィギュアスケートをしながら練習生生活を送っていたのだという。2022年から2023年にかけては、IVEのウォニョンとともに音楽の番組のMCを務めた。

JAY (ジェイ)(P)&(C) BELIFT LAB Inc.

JAY (ジェイ)(P)&(C) BELIFT LAB Inc.

JAKE(ジェイク) (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

JAKE(ジェイク) (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

SUNGHOON(ソンフン) (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

SUNGHOON(ソンフン) (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

塩顔好きにたまらないSUNOOは2003年生まれ。上品な雰囲気を漂わせる彼だが、グループでは朗らかな“愛嬌担当”として愛されている。そしてグループ最年少の日本人メンバーNI-KIは2005年生まれで岡山県出身。「I-LAND」に出演したときはなんと14歳だった。練習生になる前からキッズダンサーとして活躍していたとはいえ、猛者が集う韓国の大型オーディション番組にフレッシュな日本人が参加し、デビューをつかみ取ったことは当時のK-POPファンの間でかなり話題になった。ちなみにNI-KIは現在もまだ10代だが、すでにオーラあふれるアーティストに成長している。

SUNOO(ソヌ) (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

SUNOO(ソヌ) (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

NI-KI(ニキ) (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

NI-KI(ニキ) (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

洗練された音楽性に潜む耽美な陰

ENHYPENがさまざまなジャンルを取り入れながらハイクオリティな“ENHYPEN色”に染め上げた音楽を世に送り出すことができるのは、個々が強烈なキャラクターの持ち主であると同時に、ENHYPENならではのコンセプトと表現力、パフォーマンス、そして音楽の技術と感性を常にアップデートし続けているからだろう。

彼らは今年7月12日に「ROMANCE : UNTOLD」というフルアルバムをリリースした。ENHYPENの音楽的な特徴はボーカルに耽美な陰を持っていること。加えて全体的にベースの音が大きく、楽曲の推進力になっていることが多い。本作では今K-POPでブームになっているレトロサウンドが取り入れられているが、やはりボーカルの表現力と強いベースによって、ENHYPENらしい洗練されたグルーヴのある作品に仕上げられている。

またENHYPENは複数の感情を同時に表現することに長けたアーティストでもある。それは前述したメンバーそれぞれの個性と実力によるものだが、同時に制作チームも、多様で複雑な感情を楽曲に落とし込むことを意識しているように感じる。最新作のリード曲「XO (Only If You Say Yes)」はミッドテンポのダンストラックだが、タイトルには“承諾”と“反対”という正反対の意味が込められている。この曲のプロデューサーは、アメリカの新世代シンガーソングライター・JVKE。ビンテージシンセのドリーミーな音色、ファンキーなギターカッティングとベースラインでリズムを牽引し、フックではボーカルにエフェクトをかけて刻んでしまうという、K-POPではあまり使われない手法を大胆に取り入れている。

“ENHYPENのベース音”として象徴的なのは、やはり昨年発表された「Bite Me」ではないだろうか。この曲はトラックに意識を集中させると、実はベースとパーカッションを中心に据えた音数が少ないファンクであることがわかるが、ENHYPENの繊細かつ大胆なボーカル表現によって、楽曲に耽美で退廃的な印象がもたらされている。なおENHYPENはこの楽曲の日本語バージョンで、昨年末のTBS「第65回 日本レコード大賞」にて特定の地域や国家の人気を越えて優れたグローバルな活躍を見せたアーティストに与えられる賞「特別国際音楽賞」を受賞した。

BTSの「Butter」「Dynamite」以降、K-POPではマイケル・ジャクソンやブルーノ・マーズを彷彿とさせるファンク、ソウルを全面に出す流れができた。ENHYPENもそうしたムーブメントをしっかり取り入れている。まさに「ROMANCE : UNTOLD」の収録曲である「Brought The Heat Back」がそうだ。ファンキーなディスコポップで、休む間もなく変化するトラックと華麗なメロディーの展開が強烈な印象を与えている。しかし、彼らは常にどの曲にもデビュー曲「Given-Taken」にあったダークな雰囲気の片鱗を忍び込ませているように感じる。

“K-POPらしさ”を感じる理由

ENHYPENの楽曲がもたらすイメージはメンバーのビジュアルから想起されるものも大きい。例えばグループとして初のミリオンセラーを記録した1stフルアルバム「DIMENSION : DILEMMA」(2021年)に収録されている「Tamed-Dashed」は、“The 夏!”なロックチューンだ(ちなみにこの曲もベース音が非常に大きい)。なのに、なぜか儚さを感じてしまう。ENHYPENが紹介される際、「多様な」という言葉がよく使われる。それは単に音楽性のみを指しているのはでなく、おそらくメンバーのキャラクターや個性がそれぞれの楽曲表現の中に織り込まれているからだと思う。1人の人間の中にはさまざまな感情が渦巻く。一見すると相反するような感情も共存している。ENHYPENの軸となるコンセプトは“儚さと繊細さ”だと推測するが、彼らはあえてそこに縛られない多面性を持って活動しているように思える。

個人的にはデビュー作である1stミニアルバム「BORDER : DAY ONE」(2020年)が好きだ。K-POPでは、アルバム作品のリリース日を迎えるまでの数週間を事前プロモーション期間と位置付け、期間中にコンセプトフォトやティザー映像といったコンテンツを通じて作品のムードを“チラ見せ”するケースが多い。同作も例外ではなく、アルバムの中核をなすリード曲「Given-Taken」が持つ、どこか不穏さが滲む世界が表現された。しかし蓋を開けると、「Given-Taken」を除くその他すべての収録曲にレゲエやダンスホールの要素が盛り込まれている。デビュー1作目から、グループコンセプトを象徴するようなダークなリード曲と正反対の要素をミックスさせて、1つの作品として成立させてしまうところにK-POPらしさ、ニューウェイブ的な実験精神を感じた。ENHYPENが送り出す音楽にはさまざまなタイプのサウンドがあるが、どれもスタイリッシュで、いい意味でK-POP的な予想外の驚きを感じさせてくれる。

1stフルアルバムのリパッケージ作品「DIMENSION : ANSWER」(2020年)はハウス、EDMのサウンドが中心で、「Bite Me」が収録された4thミニアルバム「DARK BLOOD」(2023年)はタイトル通りダークサイドに振り切っている。一方その次の5thミニアルバム「ORANGE BLOOD」(2023年)では、情緒的でセンチメンタルなサウンドで人間の温かみや生々しさを感じさせた。最新作「ROMANCE : UNTOLD」はこれまでのグループやメンバーのキャリアを踏まえながら“2024年の感性”で表現されたような作品に見える。同作収録の「Highway 1009」は初のファンソング(ファンに向けた楽曲)で、HEESEUNGがプロデュースを担当。作詞にはメンバー全員が参加している。

ENHYPENといえば一糸乱れぬパフォーマンス力が際立つが、彼らがリリースしてきたすべての作品に通底する魅力は、7人のカラフルな個性とボーカルであるように思う。あくまで私の予想だが、おそらく8月10日の「ロッキン」ではロックテイストの日本語曲を中心にセットリストが組まれるのではないだろうか。だが夏ということもあるので、個人的には「XO (Only If You Say Yes)」や「Royalty」のようなメロウなファンク、「ParadoXXX Invasion」や「Future Perfect (Pass the MIC)」のようなヒップホップ楽曲も聴いてみたい。当日参加される方は、ぜひ現場で生のENHYPENの迫力に圧倒されてもらいたい。

プロフィール

ENHYPEN(エンハイプン)

2020年6月から約3カ月間放映されたMnetの超大型プロジェクト「I-LAND」から誕生した、JUNGWON、HEESEUNG、JAY、JAKE、SUNGHOON、SUNOO、NI-KIの7人で構成されたグローバルグループ。2020年11月に「BORDER : DAY ONE」でデビューし、翌2021年7月にシングル「BORDER : 儚い」で日本デビューを果たした。2023年1月、ワールドツアー「MANIFESTO」の追加公演として大阪・京セラドーム大阪公演を実施し、“第4世代”のK-POPアーティストとしては最速となる、デビューからおよそ2年で単独ドーム公演を成功させた。その後、2023年9月にはワールドツアー「FATE」で初の日本ドームツアーを開催。K-POPボーイグループの中でデビューから史上最速で単独東京ドーム公演を実現した。2023年11月リリースの5th ミニアルバム「ORANGE BLOOD」ではグループ初のダブルミリオンセラーを達成、最新アルバム「ROMANCE : UNTOLD」では初動でダブルミリオンセラーを達成するなど、キャリアハイを更新。8月には、大型野外フェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024」にK-POPアーティストとして初めて出演する。