ジョージ・クリントンの音源はデカ盛り幕の内弁当
──以前、ジョージ・クリントンとRed Hot Chili Peppersのレコーディング風景を映像で観たときに、マイクがすごく高いところに配置されていると気が付いて。アンソニー(・キーディス)がすごい姿勢で歌ってたんですよ。レコーディングで不思議なアプローチをされる方なのかなと思ってたんですが、実際のレコーディングやサウンドメイクはどのように進行していきましたか?
最初はコラボが実現するかもわからなかったので、めちゃくちゃシンプルで雑味だらけのデモ音源をお渡しして、「ご意見とかいただけるかな~」という感じでしたね。そうしたら次のタームで歌まで入った音源が戻ってきた。
──歌までということは、そのほかの音も入っていた?
メインボーカル、キーボード、コーラスなどですね。音がめちゃくちゃ大量に入ってて、デカ盛りの幕の内弁当みたいな音源だった(笑)。せーのでレコーディングをしたみたいで、「こんにちは!」「私たちはファンクが欲しい」とかみんなが言いたいことを言って、歌いたいことを歌ってる。それが雑味だらけでめちゃくちゃピュアなファンクなんですよ。ただ、このまま出すわけにはいかないしなあ……となり。
──手を加えるのも恐れ多いですよね。
で、スタッフと話し合った結果、勇気をもって「じゃあミュートしましょう!」という判断をした(笑)。僕が歌ってるところはボリュームを抑えたり、ちょっとリバーブをかけて調整したり、LRに振ったりして。そんなことをバンド仲間とスタジオに入ってやって、最後の段階でベースだけ加えようかという話になったんです。
──新しく入れようと思ったのは生のベースですか?
はい。先方がシンベ(シンセベース)を入れてくれていたんですが、ヒューマンエラーというか人間ならではのタイム感も入れたいと思ったんです。そういう音があることでより雑味感が増すかなと。あとは王道のファンクナンバーであればギターでやるようなカッティングを、琴の音色のキーボードで表現したリフを作って、それを打ち込んでループさせてみたり。ちょっと日本感を出しながら作っていきましたね。
──オーセンティックなファンクを目指しつつ、随所に隠し味というか雑味を入れたと。
そうですね。
──そのほかに意識したことはありますか?
最近環境が変わったこともあって、いろんなご家庭の方と接触することが多くなって、お子様と会話する時間が増えたんです。そうするとお父さんやお母さんがネットで僕のことを検索するみたいで。特に僕から.ENDRECHERI.のファンクミュージックをプレゼンはしてないんですけど、.ENDRECHERI.の映像をスマホで再生するとお子さんが食い付いて狂ったように踊ってくれるらしいんです。最初僕は「そんなわけないでしょ」と思ってたんですが、撮った映像を見せてもらったら本当に踊りまくってて。興奮冷めやらぬ感じというか、心配になるくらい。そういう映像を観たときに、ファンクって“繰り返しの音楽”だからお子さんは好きだよなって改めて気付いたんです。
──それは面白いですね。
ジョージ・クリントンというファンクのレジェンドとセッションをするんだから、思い切りドープな曲をやりたいなと一瞬思ってたんですが、将来的にまたコラボする機会はあるかもしれない。今のタイミングでは、いろんな方面にご挨拶できるようなものにアプローチを変えたほうがいいかもしれないと考えて、このサウンドになりました。
「生きててよかったー」
──「雑味 feat. George Clinton」は、「George Clinton」の名前があることで海外の人も反応する1曲だと思います。堂本さんは以前から海外も視野に活動されていくことをお話しされていますが、この曲はその点も考慮した作品なんでしょうか?
いや、「雑味」に関してはそこまで意識してないです。ディープでドープなファンクサウンドや、海外で聴かれることを意識しすぎると、応援してくださっている方々を置いていってしまう可能性があったので。まずは自分が日本にファンクを普及することを大切にしました。あと、自分が海外的にと考えてなくても、急にどこかの国でめっちゃ聴かれる可能性が今はありますよね。「George Clinton」という名前で反応されたり、誰かもわからないような、雑味だらけのアー写のアイコンが面白がられたり。
──(笑)。
そんな現象が起きたら面白いなと思ってます。ジョージ・クリントンと自然な形でデュエットした「雑味」という曲が、どんなふうに聴いてもらえるかわからないけど、これからいろんなドラマやいい流れを生むと信じている。今はそんな感じです。
──タイミング的に、今回のコラボレーションは.ENDRECHERI.にとって、堂本さんにとってエポックなものだと思うんです。ここから新作を作っていく中で、どんなアプローチを考えていらっしゃるのかお伺いしたいのですが。
これから発表する作品では海外的なアプローチなどを取り入れたいなと考えているところですが、正直なところ悩んでる部分ではあります。ディープかつドープな方向を突き詰めたら、今までの.ENDRECHERI.リスナーを置いてけぼりにする可能性も出てくる。だからブレンドの仕方次第なのかなと。ディープなスイッチを入れてアウトプットしたアルバムになったとしても、バランス次第で支障はないだろうし、びっくりするくらい音楽性が変わることはないようにしたいと考えてます。ただ、同時に自分としては変わっていきたいという気持ちもある。
──その変わっていきたい方向は熟考中という感じですか?
そうですね。今は慎重なほうがいいかなと。リスナーさんに「.ENDRECHERI.の音楽は難しくなっちゃった」「前のほうがよかったよね」と言われるのはもったいないので。僕としてはリスナーを置いていくことなく、昔から聴いてくれている人たちも引き連れて未知の世界へと向かいたい。
──それが一番素敵ですよね。
これからアルバムを作る予定なので、どんな作品にするかいろんな人の意見聞きつつ楽しみながら制作できたらと思ってます。
──ちょっと大きい質問なのですが、常にリスペクトを表明してきたジョージ・クリントンとのコラボレーションは、堂本さん、そして.ENDRECHERI.の音楽人生の中でどういう意味のあるイベントでしたか?
シンプルに言うと、感謝も夢も持ち続けることの大切さを感じるものでしたね。僕のことを救ってくれたジョージ・クリントンにはずっと感謝していましたし、「いつかありがとうって伝えられたらいいな」と思っていたので。夢を持ち続けると叶うということも実感しました。僕の中では非常にドラマチックというか、こんなことホンマにあんねんなという出来事ですね。
──ジョージ・クリントンに頼み込んで実現したコラボではなく、自然な流れでたどり着いたのがポイントですよね。
はい。めちゃくちゃイージーな言葉で言うと「生きててよかったー!」って感じ。で、これからも自分の人生を楽しんで生きていこうという気持ちになれたイベントでした。
プロフィール
.ENDRECHERI.(エンドリケリー)
1979年4月10日生まれ、奈良県出身のシンガーソングライター堂本剛のクリエイティブプロジェクト。ジョージ・クリントンに感銘を受けたことをきっかけに、ファンクミュージックを軸にしたジャンルレスな音楽を発信している。2022年にはファンク専門の米音楽メディア「Funkatopia」が選ぶ「2021年のファンクアルバムベスト20」にアルバム「GOTO FUNK」が選出され話題となる。2024年5月から6月にかけて.ENDRECHERI.として全国7都市を回る全国ツアー「.ENDRECHERI. LIVE TOUR 2024『RE』」を実施。同年10月にジョージ・クリントンとのコラボ曲「雑味 feat. George Clinton」を配信リリースした。
堂本剛.ENDRECHERI._staff (@hotcake_staff) | X
Tsuyoshi Domoto (@tsuyoshi.d.endrecheri.24h.funk) | Instagram
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衣装協力
Maison MIHARA YASUHIRO / Maison MIHARA YASUHIRO TOKYO / SEVESKIG / amok