堂本剛が憧れのジョージ・クリントンと初コラボ、みのミュージックが.ENDRECHERI.「雑味 feat. George Clinton」に迫る

堂本剛のクリエイティブプロジェクト.ENDRECHERI.が、敬愛してやまないPファンクの始祖であるジョージ・クリントンとのコラボ曲、その名も「雑味 feat. George Clinton」をリリースする。

2024年春に人生の新しいフィールドへと歩みを進め、音楽に限らず、映画、ファッションなどさまざまなクリエイションを展開している堂本剛。.ENDRECHERI.としては約1年ぶりとなる新曲は「手を加えないありのまま、自分のまま=That's meで良いんだよ」というメッセージを込めた、人生讃歌のようなファンクチューンだ。

かねてから「ジョージ・クリントン、そしてファンクミュージックに出会ったことで生きる意味を見つけた」と話している堂本は、憧れの人物とのセッションを通して何を感じ、何を手にしたのか。自身の敬愛する音楽カルチャーの紹介を軸にしたYouTubeチャンネル「みのミュージック」での動画配信と並行して、ロックバンド・ミノタウロスでも活動するクリエイター・みのミュージックが迫る。

取材 / みの(みのミュージック)文 / 中野明子撮影 / 川村将貴
ヘアメイク / 木内真奈美スタイリスト / 渡邊奈央

「お前はParliament Funkadelicのメンバーだからな」

──.ENDRECHERI.の活動を追っている人からするとビッグニュースですが……堂本さんと、Pファンクの始祖であるジョージ・クリントンとのコラボレーションがついに実現しました。ファンクを志しているミュージシャンにとってこれ以上のコラボはないと思います。いろんなところでお話しされていると思いますが、改めてこの共演が実現に至った経緯をお伺いできますか?

去年のちょうど5月くらいだったかな? 「ジョージ・クリントンが日本のジャズフェスティバル(「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023」)に出るので、セッションしませんか?」というお話をいただいて。セッションのときにジョージ・クリントンから「歌ってもいいし、ギターでもなんでもいいよ」と言われたので、僕は英語がしゃべれないからギターを抱えて単身でParliament Funkadelic(ジョージ・クリントンのバンド)に入ったんです。もう本当に夢でも見ているような、不思議な感じでした。で、ジョージ・クリントンに「どういうふうにステージでパフォーマンスすればいい?」と聞いたら、「ファンクしてろ。俺が合図したら弾きたいだけ弾け」とだけ返ってきて。弾きたいだけ弾いていいのはうれしいけど、フェスだからおしりの時間があるしなあ……とか真面目に悩むこととなりました(笑)。

左から堂本剛、みの。

左から堂本剛、みの。

──ジョージ・クリントンのプロジェクトだと、エディ・ヘイゼルとか奔放な長尺のギターを弾かれる方が堂本さんの脳裏によぎったと思いますが、セッションのときはどんなことを意識しましたか?

僕、エディ・ヘイゼルと誕生日が一緒なんです。

──え、そうなんですか?

エディ・ヘイゼルのギターも好きだし、彼が影響を受けているギタリストも好きだから、その音を現代の令和的なエフェクトとブレンドするようにして。Parliament Funkadelicのビートの中に入ったら面白そうな音を意識しながら、エフェクターを電子系でまとめて、シミュレーターにその音を入れつつ、ステージではアンプとワウペダルだけつないでパフォーマンスしました。ギターキッズとしてのワクワクがあったセッションでしたね。で、パフォーマンスが終わったあと、バックヤードで挨拶したときにジョージから「お前はParliament Funkadelicのメンバーだからな」「一緒にデュエットやらへん?」って言われて。

──それはすごいですね。

Parliament Funkadelicと契約はしてませんけどね(笑)。デュエットって日本だと歌謡ムード的なイメージがあるけど、海外の人にとってはセッション的なものなんですよ。その場で「本気にしていいの?」と確認したら「いい」と言われて、そこから制作がスタートしました。とりあえずラフなデモ音源を作って、間に入ってもらってる方に託したんですが、本当にジョージ・クリントンに届くのかなと心配はしてました。

堂本剛
堂本剛

ジョージ・クリントンが教えてくれた生きる意味

──ファンクのレジェンドから「ファンクしてろ」「デュエットしようぜ」とカジュアルに言われてどうでしたか?

うれしかったですね。いつの日か、フェスかどこかで.ENDRECHERI.としてParliament Funkadelicと共演できたらいいな、そういうチャンスもあるかな、くらいにしか考えてなかったのに。「LOVE SUPREME」の現場でも自分をプレゼンするつもりはなくて、本当にジョージ・クリントンが大好きだから、とにかく共演を楽しみたいなと。セッションでギターを弾いていたときは、ひさしぶりに「生きててよかった」と心から思ったんです。僕、生きるのがつらくて、葛藤しながら過ごしていた時期があって。そのときに救ってくれたのがジョージ・クリントン、Parliament Funkadelicの音楽だったんです。英語の歌詞だから歌っている意味はわからないけど、それこそ「That's me」。ありのままで生きていいと伝えてくれるものだった。その音楽を聴いている中で、自分が悩んでいることなんてどうでもいいかもという気持ちになって、だったら僕は生きたほうがいいと思えるようになったんです。生きたいと思わせてくれた命の恩人でもあるんです、ジョージ・クリントンは。そのことをセッション後に本人に直接伝えられたのは僕にとってすごく大きな出来事でした。

──なるほど。

自分の思いを伝えて一旦楽屋をあとにしたんですが、忘れ物をしていたのを思い出して。忘れ物を取ってから廊下に出たら、たまたまジョージ・クリントンもいたんです。そのときに改めて「ありがとう」と伝えたら、ジョージ・クリントンが立ち止まって振り返りながら「お前のギターめちゃめちゃよかったぞ」と言ってロケバスに乗り込んでいって。映画みたいなワンシーンでしたけど、それが心に沁みましたね。そのときに、自分の幸せを大切にする必要性を感じたというか。幸せに向かって生きることを僕はしたほうがいいと思ったんです。ジョージ・クリントンから言われた「お前が弾きたいギターを弾け」という言葉が、「お前の人生はお前が生きたいように生きろよ」というメッセージにも聞こえて。自分の体のこと(突発性難聴)もあったし、いろいろ向き合った結果、フィールドを変えて自分らしく人生を生きていこうという思いになったんです。

堂本剛

──そうでしたか。

「雑味 feat. George Clinton」は、自分のフィールドを変えてから一発目の作品なので、僕の“今”と聴いてくださる方の“今”が重なるような、自分と向き合う中で生まれる孤独や葛藤、そういうものに寄り添える楽曲を目指しました。宝石は鉱山から人間が原石を採取してきて、手を加えて磨いて生まれるものですよね。でも、鉱山にあるままの石ももちろんきれいじゃないですか。そういうイメージを踏まえて、「雑味こそ大切である」「コンプレックスも含めてあなただし、自分だから。それを愛して、力強く優しく生きていこう」「雑味こそ“That's me(自分だ)”」というメッセージが伝わればいいなと考えていました。もしかしたら1人でも「雑味」という曲は生まれたかもしれない。でも、ジョージ・クリントンとのセッションがあったからこそ、よりピースフルでエネルギッシュでハートフルな作品になったと思ってます。

──堂本さんがジョージ・クリントンを通してファンクに出会い、.ENDRECHERI.名義で活動を始めたことが「雑味 feat. George Clinton」によって円環した感じがありますね。

はい。「雑味 feat. George Clinton」を通して初めてジョージ・クリントンという80過ぎのおじいちゃんファンクミュージシャンを知る人もいると思うんです。そういう人へ、人と比べたりとか比べられたりとかではなく、自分の幸せに向かって生きればいいんだ、自分にとって幸せな人生を歩めばいいという気持ちを与えられる曲になったらいいですね。