エナツの祟り|茶番に人生懸けてます! このシュプレヒコールで令和のバブルを呼び起こせ

孫に砂遊びをさせたくて……。

──お客さんにメンバーのキャラクターや楽曲の魅力が浸透して、どんどんステージの規模も大きくなった矢先、2019年4月にジュリアナの祟りは無期限の活動休止を発表しましたね。

左から蕪木蓮(Vo)、江夏亜祐(Dr)。
左から蕪木蓮(Vo)、江夏亜祐(Dr)。

江夏 メジャーデビューが決まった直後に、バンド名についてまさかの商標問題が発生したんですよ(※バンド名「ジュリアナの祟り」はエナツの祟りの所属事務所が商標を登録している)。その出来事をどうやってエンタメにするか考えたら、令和になるタイミングで名前を変えることを思いつきました。普通に改名しても面白くないので、4月30日にジュリアナの祟りを無期限の活動休止にして、5月1日になった瞬間にワンマンをやったら、令和で最初にワンマンをしたことになるんじゃないかと。だから活動休止ライブを4月30日の23時59分59秒までやって、5月1日の0時0分0秒に結成ライブをやったんですよ。

──リスナーを驚かせるということで言えば、2017年から千葉・鴨川市の前原海岸などで開催している「江夏フェス」もそうですよね。出演者に研ナオコさんのお名前があってビックリしました。

江夏 僕の実家が不動産屋で、リアルにバブリーな家系なんですよ。生まれて間もない僕におばあちゃんが「砂遊びをさせてやりたい」と思ったらしくて、普通は公園とかで砂遊びをしますけど、僕のおばあちゃんは発想がぶっ飛んでいるので浜辺の前にマンションを買ったんです。

──砂遊びをさせるために!?

江夏 それだけの理由で鴨川にリゾートマンションを買ったんですよ。僕にとっては第二の故郷みたいな感じですね。鴨川では毎年夏に花火大会があるんですけど、あるとき「ゲスト募集」という看板を見つけたんです。どうやら観光協会がステージを作っているらしいんですね。それでメンバーが電話で問い合せたところ、花火大会には間に合わなかったんですけど「ステージは夏の間はずっと立っているから、ライブをしたかったら使ってください」と言われて。その浜辺でワンマンを開催したのが「江夏フェス」の始まりです。そこから今の事務所に所属したのをきっかけに、もっと「江夏フェス」を拡大していこうと思いました。で、それまで仲良くさせていただいた方の中に、研ナオコさんの娘さんがいらっしゃったご縁で出演していただきました。「江夏フェス」はほかにもつのだ☆ひろさん、前川清さん、Psycho le Cémuさん、はるな愛さんなどが出演し、バラエティに富んだラインナップになりました(参照:「江夏フェス2020冬」特設ページ)。

──何もかもが規格外のバンドですね。

江夏 あははは(笑)。ありがとうございます!

──現在は新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますが、皆さんの活動には何か変化はありましたか?

「飛沫防止パネル」を使って無観客ライブを行うエナツの祟り。

江夏 僕らはライブでお客さんを増やしていったバンドなので、はっきり言ってYouTubeやSNSのうまい使い方はいまだにわからなくて。ましてや配信ライブなんてやったこともなかった。とは言えコロナ禍がこんなに長期間になると、どうしても新たな施策を考えなければいけなかったんです。そんな中うちの事務所の大元であるシミズオクトはステージ施工の会社なので、イベントのパーテーションを作ったり設営もしているんですけど、ある日新木場のスタジオがオープニングセレモニーを開くというので、演奏させていただいたんです。そこでシミズオクトが作った、オクタノルムを使用したパネルで施工したブースを見て「透明なアクリル板を入れて、下にキャスターを付けたら飛沫を防いでライブができるんじゃないかな」と思い付いて。

──え、実際に作ったんですか?

江夏 はい、試しに作ってもらえないかお願いをしました。それも半分ギャグというか、そんなバカなことをやっている人はいないだろうとやったら、地上波のテレビ番組やWebニュースでたくさん取り上げてもらえたんですよ。うれしかったですね。

パラパラ、トランス、アイドル文化のいいとこ全部盛り

──ここからは新作「無敵シュプレヒコール~このSを、聴け!~」の話に移りたいと思います。どういった経緯で楽曲が生まれたのでしょう?

江夏 これはコロナの流行でこれまで通りの活動ができなくなってしまったことが発端になりました。タイトルに使われている「シュプレヒコール」って、集団デモとかでスローガンを一斉に叫ぶことを指す言葉で。ライブをしたい僕らの気持ちと、ライブを観たいお客さんの気持ちを合わせて、この曲名を名付けました。さらに僕らのライブはガヤが多いんですよ。そこで今回は、リモートでお客さんに声を録音をしてもらって、ガヤ多めな掛け合いの曲にしようと。あとTOKYO MX「さらば⻘春の光のモルック勝ったら10万円!」のオープニング曲にしてもらえるということで、ヲタク用語で気持ちが高揚したときに使う「優勝」と、スポーツの「優勝」をかけてみたり、YouTuberの方が発表している楽曲っぽいアレンジも取り入れて作りました。

蕪木 「バブリー革命~ばんばんバブル~」以外に掛け合いの曲ってなかったんですよ。私はアップテンポな曲が好きなので「好みの曲が来た!」と思いました。

──次は音楽性についても触れたいと思います。1990年代のパラパラ、2000年代のトランス、ガチ恋口上などのアイドル要素を融合させたのが「無敵シュプレヒコール~このSを、聴け!~」だと思いました。

江夏 まさにその通りです。僕はその世代のユーロビートやトランスを聴いて育ってきたんですよ。今の人は使わないと思うんですけど、僕はアレンジのときにユーロビートでよく使われるオーケストラヒットを必ず使います。それこそ小室哲哉さんがよく使っていたような音色ですよね。大黒摩季さんの楽曲でも使っていた音色でもある。だからトランスというのは、J-POPにもハマる音楽だと思うんです。

──確かに2000年代初頭は浜崎あゆみさんの「Cyber TRANCE presents ayu trance」やglobeの「global trance」などのリミックスアルバムがオリコン上位に入って、トランスが日本でも流行っていたんですよね。

江夏 あと、僕らはアイドルのライブにもたくさん出演したとお話ししましたけど、あのシーンのお客さんって面白いんですよ。一緒にジャンプしたりコールをしたり。そこの文化も楽曲に落とし込んでいます。面白いことを全部取り入れた結果、生まれた曲ですね。

左から江夏亜祐(Dr)、蕪木蓮(Vo)。

尻に穴が空いても、鴨川の海に行きたかった

──MVではマンガ家の北崎拓先生とコラボをしているんですよね。

左から北崎拓、江夏亜祐。

江夏 もともと僕が北崎先生のファンだったんです。特に10年前に出版された「このSを、見よ!」という作品が大好きで。実は20代の頃ライブ中に大ケガをしたことがあって、「寝子life」という曲中にダイブをしたら、銀ラックがお尻に刺さってしまったんです。それで楽屋に戻ったあと左のお尻を見たら、めちゃめちゃでかい穴が空いていたんですよ。「これはヤバいな!」と思って救急車に乗って病院へ行きました。ひとまず傷口を洗浄して、お会計をしようとしたら女医さんが僕の所に走ってきて「診察室へ戻ってください!」と。それでレントゲンを見たら、背骨まで貫通していたんですよ。

──そんなのレントゲンを撮らなくてもわかるでしょ!

江夏 僕は能天気なので「明日から鴨川の海に行く予定なんですけど」と言ったら「そんな場合じゃないでしょ! 今すぐ全身麻酔で手術します」と怒られて。その頃なんですよ!「このSを、見よ!」と出会ったのは。あの作品は左のお尻にアザがある少年が主人公のお話なんです。それで親近感が湧いて読むようになり、自分の書いている歌詞の恋愛感と似ていると思ったんです。それで一気に北崎先生の作品にハマっていきました。その後、ひょんなきっかけで北崎先生とSNSで知り合いになれて、ある雑誌で対談をさせていただくことになったんです。そこで「僕の歌詞は先生の恋愛感と重なるものがあると思うんです」と伝えたら喜んでくださり、その場で「MVでコラボさせてください」とお願いしました。今制作中なので、完成が楽しみです(※取材は9月中旬に実施)。

──次に、先ほど話題に挙がった「さらば⻘春の光のモルック勝ったら10万円!」の出演についてですけど、初回放送の収録を終えられていかがでしたか?

江夏 ここからは蕪木さんに話してもらいますか? このままだとたぶん、僕ばっかりの発言になってしまう気がするので(笑)。

──あはははは(笑)。そうしましょう。

蕪木蓮(Vo)
江夏亜祐(Dr)

蕪木 もともと私はモルックという競技を知らなくて。木の棒を投げて、番号の書かれたピンを倒すゲームなんですけど、「ちょっと投げて当たったらいいんでしょ?」くらい甘く見ていたんですよ。いざやってみたら奥が深くて、モルックってすごく面白いなと思いました。

──モルックに取り組む一方で、バラエティ番組としても成立させなければいけないと思うんですけど、その点はいかがですか?

蕪木 えー! うーん……。 

江夏 僕が話しましょうか(笑)。僕らは盛り上げ役として番組に呼ばれているわけなんですよね。そういう立ち位置は初めてだったんですけど、蕪木さんはそのままのキャラクターで十分面白いから成立するんです。逆に僕なんかはしゃべりたいタイプなので「なんであのピンを狙ったんですか!?」とか聞きたくなっちゃうんですよ。そしたら「今はただ応援していてください」と言われて。どのくらい前に出るかの塩梅は難しいなと思いました。とにかくモルックは緊張感がすごいんですよ。わかりやすく野球で表現すると、2アウト満塁2ストライク3ボールのゲームをずっと見ているような感じ。だから僕らが応援するチームが活躍したら、演技ではなく本気で「ウォー!」と盛り上がるんです。見始めたら絶対にハマる番組ですね。

──活動の幅はどんどん広がっていきそうですけど、今後はどのような活動を考えているのでしょう?

江夏 今の状況がいつまで続くのかわからないですけど、配信ライブをやるにしても、ほかの人がやらないような形を目指したいと思っています。コロナをネガティブに考えるんじゃなくて、今だからこそ楽しめるエンタテインメントを模索していきたいです。すごいバカなことと言うか、「何やってんの?」と言われるような振り切ったことも込みで、全力の茶番を自分の人生を懸けてやっていきたいです。

──最後に蕪木さん、今日のインタビューを振り返っていかがですか?

蕪木 んー……(江夏の)説明が長い!

公演情報

キミと過ごした青春のJuly and 夏を取り戻せ!!2020 を取り戻せ!!2021
  • 2021年6月20日(日)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
左から江夏亜祐(Dr)、蕪木蓮(Vo)。