明日花キララの誘惑
──7曲目の「込めた想い」はフックになるような歌詞がちりばめられていて、「香水」をアップデートしたような曲だなと感じました。「サステナブルななんちゃら」とか「明日花キララの誘惑」とか「えっ?」っていうワードがどんどん飛び込んでくる。
でも、この曲は御徒町さんが昔書いた詩がベースなんですよ。もともと(森山)直太朗さんに歌ってもらおうと考えてた詩らしいんですけど、合宿中に御徒町さんが慎吾さんに「曲付けてみてよ」って頼んで。それが好きな感じだったから、俺もちょっと付け足して今の形になりました。俺が加えたのは「歯磨き粉ついているよ」「明日花キララ」「サイコパチックな絵文字」くらいですね。
──「香水」メソッドを感じたんですが、全然違ったんですね。
「明日花キララ」に食い付いてくれてうれしいです(笑)。この曲は俺にとっては挑戦でした。いつもは自分の中から生まれてきたものをふくらませてもらっていたんですけど、この曲では御徒町さんが書いた詩の世界に俺が入らなきゃいけない。ちゃんと紛れ込めるように準備や練習もしたし、何回も詩を読み直しました。御徒町さんや直太朗さんはずっと曲を作ってるじゃないですか。よくインタビューなんかで「この曲に込めた思いはなんですか?」って聞かれるけど、それが嫌らしいんです。そういうことを聞かれたくないからこその「込めた想い」というタイトルで。
──「どんな思いを込めてますか?」という質問は確かに野暮ですよね。そんなに簡潔に言えたらわざわざ音楽にしないよ、とアーティストたちは思うんじゃなかろうかといつも思います。
でも、やっぱり話さないと聴いてもらえないし、そんな質問するなとは俺は言えないです。20年後とかに言えたらカッコいいけど。
瑛人の日々の心がけ
──瑛人さんは日常の何気ないぼんやり感を表現するのが本当にうまいなって思うんですよね。「はひふへほ」は初期のRCサクセションみたいだなと思ったりして。
おお、マジすか! この曲は大泉洋さんとフリースタイルセッションをする企画があって、そこで友達でギタリストの(小野寺)淳之介が弾いた曲が元になってます。それがよかったから淳ちゃんの地元の千葉の海に行って、そんなにきれいでもない海の前でタバコを吸いながら2人で完成させた曲です。「はひふへほ」というタイトルは、堅い大人の人たちが「瑛人の『はひふへほ』」って言うところを想像したら笑えてきて付けました。まあ、なんでもいいんですけど(笑)。息抜きですね。
──そんな中、「大正解」はちょっと毛色が違って、ストレートにポジティブなメッセージソングとして受け止められる曲かなと。
この曲は「香水」より前にあった曲なんですよ。ハタチの頃ですね。2つ上の幼馴染が結婚するから「式で歌ってよ」って頼まれて作った曲で、結婚式にいる人だけがわかるような個人的な歌詞だったんです。それを12月末にリリースすることになったのはディレクターの提案で、「今年はいろいろあったけど『大正解』と言って締められたらいいんじゃないか」と。それで、もともとあった歌詞に肉付けして今の「大正解」になりました。
──大きく「大正解」と言って締めくくる、程よい無責任さみたいなものがすごくいいですよね。それがうまくやれるのって、高田純次さんとかそういう人くらいだから。
まあ「正解」と言い切っちゃった方がいいというか、つらいときも笑うみたいなマインドですね。
──そして最後が「もう3時」ですが、穏やかに終わっていく感じもあるんですけど、一方でちょっと不思議な余韻もあって。
俺が人生で初めて幽体離脱した日があって。その次の日に歌い出しの「分かった日から 分からなくなってた 分かった日から 嬉しくもなった 分かった日には 涙が溢れた むしゃくしゃしてたら 時は止まってた」ってフレーズが出てきたところから作り始めました。作ってる最中ずっとフワフワしてて、俺自身もよくわかんない領域まで行って、MVもよくわからないことになってます(笑)。
──「大正解」でアルバムを締めくくってもいいのに、この曲を最後に持ってくるのが面白いですよね。
そうですね。ただ、この曲にはしれっと自分が生活の中で心がけていることも盛り込んでいて、そこも気付いてもらえたらうれしいです。「さらけだそう いつもよりも優しく ありがとうと言って 朝を迎えよう」の部分とか。
──「ただ母ちゃんだけを 信じるのさ」の部分もすごくいいです。妙に限定的で、唐突な感じもするんだけど、どこか切実な思いも伝わってきて。
やった! 書いたときはもう誰も信じられないような気持ちだったんでしょうね。
やらないとできないけど、やればいい
──アルバム全体として、瑛人さんの天然的な魅力は変わらないけど、やっぱり前作とは大きく変化している感じがありました。瑛人さん自身も手応えはありますか?
あります、あります! 今思うと「すっからかん」のときはみんながいろいろ教えてくれたことをがんばるだけで、よくわかってない状態だったんです。それが今回は環境が変わって、御徒町さんと真吾さんと一緒に1つひとつ丁寧に作ることができたし、自分の人格も変わったと思う。前よりもほんのちょっとだけ物事を広く見られるようになったかなって。昔の俺は短気で、それが「俺は俺で生きてるよ」(「すっからかん」収録曲)とかに表れてるんですけど、去年いろんなものに触れて、単純にちょっと大人になった。
──なるほど。
「瑛人の日本列島風旅~クリーン計画~」で全国を回って、自分が音楽家としてまだまだだってことに気付いたこともあります。俺はギターが得意じゃないんですけど、この企画で3、40人ぐらいのキャパのカレー屋さんとか飲食店でギターを弾きながら歌ってみて、すごく悔しい思いをしたんです。お客さんとの距離が近いから緊張するし、ダメなところがいっぱいバレるんですよね。
──コロナ禍でいろんなライブが中止になったこともあり、コロナ前にデビューしたアーティストと比べると、ライブの経験値は積みづらいこともありますよね。4月からはワンマンツアー2022「ALL IN」が始まりますが、意気込みはいかがですか?
ライブが楽しくなるように、いっぱい練習しようと思ってます。ステージ上で全部出して、気持ちよく帰れるようにしたい。とにかく今は伸びしろしかないし、やればいいんだって思いますね。やらないとできないけど、やればいい。怠け者なのでスイッチが入るのが遅かったですけど、今は調子いい感じでやれてます。
ライブ情報
瑛人 ワンマンツアー2022「ALL IN」
- 2022年4月24日(日)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2022年5月3日(火)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2022年5月7日(土)愛知県 THE BOTTOM LINE
- 2022年5月13日(金)福岡県 DRUM LOGOS
- 2022年6月5日(日)宮城県 Rensa
- 2022年6月26日(日)東京都 WWW X
プロフィール
瑛人(エイト)
1997年生まれのシンガーソングライター。男3人兄弟の末っ子として神奈川・横浜に生まれ、野球が好きな少年時代を過ごす。高校卒業後、同世代の友人から刺激を受けて音楽学校に入学。19歳から曲を書き始め、2019年4月に配信した初の音源「香水」が2020年春、SNS経由で大ヒットし、同年末に「NHK紅白歌合戦」に出場する。2021年1月1日に1stアルバム「すっからかん」を発表後、映画「トムとジェリー」日本語吹替版主題歌「ピース オブ ケーク」や日本テレビ「ぶらり途中下車の旅」のテーマソング「風旅」などのシングルを立て続けに配信。シングル曲に新曲を加えた2ndアルバム「1 OR 8」を2022年3月にリリースした。
瑛人 (@eito_official_) | Twitter