瑛人 2ndアルバム「1 OR 8」インタビュー|異例の大ブレイク、人間不信、コロナ感染、全国ツアー、結婚……さまざまな経験を経て挑む大勝負 (2/3)

24年間生きてきて、愛がどうとかよくわかってなかった

──3曲目の「最愛」はまさに結婚ソングという感じですね。

結婚ソングになっちゃいましたねえ。でも書いたのは付き合い始めの頃だったんですよ。嫁さんは俺が小1から知っている幼馴染で、いいことも悪いことも普通の人より知ってるんです。元カレの顔も半分以上わかる。それが付き合いたてだと、ちょっとセンシティブになるじゃないですか。その純粋な悩みが「あなたは何人目の恋人だろう」って歌い出しになってるんですけど……まあそんなことはどうでもよくて。俺は24年間生きてきて、愛がどうとかよくわかってなかったんです。他人との間に家族以上の愛が育まれるなんて思えなかったし、音楽でも愛がどうこうっていうのは苦手だった。でも、今の嫁さんのことはただ付き合ってるだけの人じゃないなと思えた。それで合宿中に御徒町さん、真吾さんと「最愛」ってなんだろうって話したんです。

──愛について、人生経験豊富な大人たちと禅問答みたいなことをやった結果がこの曲だと。

2人は家庭を持ってるし、「最愛」を知ってるんでしょうね。でも俺はまだわかってない。それがうまくミックスされて生まれた曲なんですよ。

──てっきり結婚を考えたタイミングで作った曲なのかなと思っていました。

ここで考えたことから結婚につながったんだろうなと思いますね。

瑛人のコロナ体験

──「ぶらり途中下車の旅」テーマソングである「風旅」は曲調もそうですけど、歌詞のラフな考え方や態度から瑛人さんらしさを感じました。普通だったら「どっか行こう」と言ったときに、その「どっか」に向けてもっと先導するものだと思うんですけど、瑛人さんは「どっかってどこだろうな まぁいいか」と着地する。そこが瑛人さんの魅力だなと感じます。

これはコロナにかかった最中(参照:瑛人が新型コロナウイルス感染)に家にいたときに浮かんだ歌詞だと思います。

──コロナに感染してどんなことを考えました?

2週間ぐらい1人で家にいたんですけど、あんまり苦痛じゃなかったですね。音楽をかけて踊ってみたり、AVを初めて買ってみたり(笑)、普段しないことをしてみたら、あっという間でした。でも夜は眠れないし、暇だったのでギターを触ってみたり。あとは味覚がなくなって。

──5曲目の「あ、でも」の「味覚がなくなったって 好きなものを食べるだろうな」はコロナ体験ですよね。

はい。味覚がなくなったのは、ちょうど引っ越したばかりの頃でもあって。引っ越し先はベランダが広くて、そこでタバコを吸うつもりだったんですけど、1カ月間ベランダが修繕工事になっちゃったんです。「あ、でも」では、それを「ベランダで吸えないタバコ 君とのことを考えているよ」とそのまま歌っています。テーマとしては、君がいるから今の俺がいるということを言いたくて。俺って人と付き合うと、いつも「ごめんね」って言ってるんですよ。今度付き合う人は優しい人だから、もう謝るようなことはないだろうと思っても、半年くらい経つと「ごめんね」って謝ってる。でも、なんか違う。「ごめんね」じゃないんだよな。「ありがとう」なのかなって。

──なるほど。瑛人さんの歌詞は自分の周りの風景をそのまんま描いているんだろうけど、説明を受けないと、抽象的だし、哲学的に見えて面白いんですよね。

おー、哲学的って、前のインタビュー(参照:瑛人「すっからかん」インタビュー)でも言ってくれましたよね。

──「あ、でも」に関してはアレンジもいいですね。ホーンも入ったふくよかなサウンドで、シンプルな曲なんだけどコード展開はすごくテクニカルで。

そこは真吾さんのおかげですね。俺はアレンジについてはまだまだ全然わからないので勉強中です。

瑛人
瑛人

歌詞が降ってきたら変えられない

──「One rainy morning」は不思議な浮遊感があって音色的に面白いですが、「ソンドゥ ディッシ サビドゥ」という歌い出しがすごい(笑)。これは寝言をそのまま歌詞にした?

意味わかんないですよね(笑)。これは合宿中の深夜、やけにみんなが冴えちゃってることがあって、そのときにできた曲です。「ソンドゥ ディッシ サビドゥ」の部分は、真吾さんが作ってくれたトラックを聞いてるときにスパーン!と出てきました。「香水」の「ドルチェ&ガッバーナ」と同じような感じですね。意味はわからないですけど、歌ってるうちに中毒になっちゃって。俺が「ソンドゥ ディッシ サビドゥ」って歌おうとすると、みんなが笑うからレコーディングが全然進まなくて、3、40回録り直しました。「目の下に黒いクマが二つ 中国のパンダのよう」という歌詞も当たり前すぎて笑われたけど、歌詞が降ってきたら変え難いんですよ。だから降りてきたら、もうただ歌う。

──「掃除」も最初にライブで聴いたときに「ヘイヘイホー」の部分に驚きました(笑)。「令和のヘイヘイホーだ!」と。

これも何も考えないでギター弾いてるときに浮かんだ歌詞なんですよ。掃除しているときのイメージを思い浮かべたら自然と出てきた。それで御徒町さんに「お前(北島三郎の『与作』を)知ってんの?」って聞かれて、俺は知らなかったんですけど「知らないままでいいよ」って。

──(笑)。「すっからかん」リリースのあと最初に発表された新曲だったので、アルバムの中でもキーになるのかなと思ったんですけど、ご自身的にはどうですか?

個人的には一番思い入れが強いですね。当時、他人の闇に触れるようなことが何回もあって「人間って怖いのかな」って生まれて初めて思ったんです。それで家に帰ると、部屋がめっちゃ汚い。一人暮らしを始めてから掃除をしたことがなかったので、家ってこんなにすぐ汚れるんだっていう気付きもあって。心の闇と家の汚れを曲にしました。

──ブレイク直後はやっぱりいろんなことがあったんですね。

ありましたね。友達の父ちゃんがキャバクラで「瑛人と電話できるぞ」って自慢したみたいで、夜中にキャバ嬢から「瑛人ー? 本物ー?」って電話かかってくるようなこともありました。今はかかってきませんが。

──ははは。瑛人さんがゲストとして参加したDJ CHARI & DJ TATSUKIのシングル「Sugar feat. 瑛人 & Yo-Sea」では「無駄に数多集まる 香水に群がるミツバチ」と歌っていましたね(参照:ヒップホップは歌えないはずの瑛人、DJ CHARI & DJ TATSUKIのシングルで「香水」にちなんだラップ披露)。

あの曲は俺がCHARIさんのInstagramをフォローしてたら、CHARIさんのほうから「一緒にやろうよ」と声をかけてくれて。一緒にスペアリブを食べたあと、フリースタイルでレコーディングしました。モテない俺がいろいろ求められるようになったり、近付いてくる人が増えたり、なんかナチュラルじゃないことが増えて、ちょっと面倒くさくなってたんですよね。ヒップホップなら、それを言ってもいいんじゃないかなと思って。俺はヒップホップが好きなので、CHARIさんにはいろいろ話を聞かせてもらいました。

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明日花キララの誘惑