eill「HAPPY BIRTHDAY 2 ME」インタビュー|自分で自分を愛するために歌う“1人パーティ”

eillが自身の誕生日である6月17日に新曲「HAPPY BIRTHDAY 2 ME」を配信リリースした。

今年2月に発表されたアルバム「PALETTE」以来、約4カ月ぶりのリリースとなる本作は、「自分の誕生日くらいはハッピーな気持ちで、自分のことを愛してほしい」というメッセージが込められたポジティブな1曲。サンバを盛り込んだサウンドや多彩な声色を織り交ぜたボーカリゼーションにより、ハッピーな“1人パーティ感”が楽しく表現されている。eill自身のプロデュースで撮影されたジャケット写真や、出演はもとより、監督から編集作業まで手がけたミュージックビデオも必見の仕上がりとなっている。

今回のインタビューでは本作が生まれるに至った経緯から制作エピソード、そして24歳を迎えるにあたっての決意を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / 梁瀬玉実

誕生日くらいは自分のことを愛してほしい

──新曲「HAPPY BIRTHDAY 2 ME」は、どんな着想から生まれたのでしょうか。

今年2月にアルバム「PALETTE」を出して改めて思ったんですけど、eillにはいろんなカラーの曲があるんです。だから、ここからはシングルをどんどん出していくことで、いろんなeillを見せていくのがいいんじゃないかという話になって。それを6月からスタートさせようということで、「6月と言えば何があったかな?」と考えたところ、まず自分の誕生日があったんですよ(笑)。

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──リリース日である6月17日はeillさんの誕生日ですからね。

はい。さらにいろいろ考えていくと、アルバム「PALETTE」の中で特に人気の高い「palette」という曲がそうであったように、聴き手の方々が自分自身のことを認められて、自分の頭をなでてあげられるような曲を歌っていくのが私の使命なのかなと思ったんですよね。そこで、そういったメッセージ的な切り口と誕生日という出来事を重ね合わせた結果、自分の誕生日に「HAPPY BIRTHDAY 2 ME」と言える曲がいいんじゃないかなと思ったんです。

──本作のリリース情報がアナウンスされた際、eillさんは「人生山あり谷あり、ハッピーとアンハッピーの連続で自分を好きになれないことだってある。でも、今夜くらい、自分のことを抱きしめようよ」とコメントされていました。そこが今回の楽曲の軸となるメッセージですよね。

そうですね。去年の今頃はちょうどレコーディング期間で。なかなか歌詞が書けなくて、気付いたら誕生日を迎えていたんです。家で作業をしていたんだけど、私を産んでくれた母親と顔を合わせることもなく、ずっと部屋に閉じこもって歌詞を書く誕生日で。そのときに「ああ、人生にはつらい誕生日もあるんだな」と強く思ったというか(笑)。ただ、そんなときであったとしても私は笑っている自分が好きなので、自分で自分を抱き締めてあげたいと思ったんですよね。だから、私の音楽を聴いてくれるみんなにも、せめて自分の誕生日くらいはハッピーな気持ちで、自分のことを愛してほしいなと思って歌詞を書きました。そういった思いを歌詞にしたことで、去年のつらい誕生日の思い出が救われた感覚にもなりましたね。

──伝えたいメッセージはすごく真摯なものではありますけど、歌詞の書き方は非常にライトというか。楽しさを重視している気がしました。

自分を鼓舞し、自分の人生に光を当てるような、それこそ「palette」と同じ立ち位置の曲ではありますけど、歌詞の書き方は確かに違いますね。そういった歌詞を書く際、これまでは比較的真面目にテーマと向き合いながら言葉を紡いでいましたけど、今回はとにかく楽しくコミカルに書くことにこだわったというか。「ハッピー野郎と思われてもいいや」くらいのテンションで書けたのは、新しいポイントだと思います。

──今まではそういったアプローチを躊躇していたところもあったんですか?

そうかもしれないですね。「PALETTE」に入っていた「ただのギャル」ではけっこう振り切った表現をしましたけど、シングル曲でここまで振り切るのはけっこう勇気がいりますから。でも今回は曲のイメージが明確だったから、そこに怯えることなく思い切り書けた。ちょっと楽しんで書きすぎたかなと思うところもありますけど(笑)、いつもと同じくらいじっくり時間をかけて、しっかり考えながら書いた歌詞なので、自分としてはすごく気に入っています。

──自分のダメなところも包み隠さず描いていくことで、すごく人間味を感じさせる歌詞になっていますよね。全体的にストレートで明快な言葉選びになっているのもいいなと。

例えば「大嫌いな私のこと」という歌詞がありますけど、いつもだったらもうちょっと濁した書き方をした気がするんです。でも今回はそういう部分も思い切って言っちゃおうと。きれいに整えた歌詞ももちろんいいんですけど、もっといびつで変な歌詞でもいいんじゃないかと最近は思うようになったから。実際、私自身がいびつな部分しかない人間ですからね(笑)。本当の自分を歌っていくのであれば、そういうダメな自分の姿をありのままに書いていくことも必要なんだろうなって。なので、今回の歌詞で描かれている“ぐーたら生活”は全部私のリアルです(笑)。

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パーティ感を意識した歌とアレンジ

──曲はお馴染みの宮田“レフティ”リョウさんとの共作になっていますね。

「自分の誕生日におめでとうを言う曲にします。カッコいいサウンドにしたいです」というオーダーをまずお伝えしました。ここ最近はバラードやポップスっぽい曲をたくさん出していたので、今回はちょっと面白いダンスミュージック的な曲にしたかったんですよね。で、最初にレフティさんからあがってきたのが、UKポップスっぽさがあって、全体的に低温調理な雰囲気のものだったんですけど、それだとちょっとお誕生日感がないよねという話になったので、私がピアノでAメロBメロに手を加えさせてもらって。その間に、「この曲はサンバにしよう!」「これからの季節にマッチするサマーチューンにしよう!」というアイデアが出てきたので、そういう要素も加えながらどんどん組み替えていきました。結果的に、いろんな音が詰め詰めに盛り込まれた曲になりましたね。曲頭に日付が変わる時報の音が入ってるんですけど、そんな始まり方をする曲って今まであったか?という感じですよね(笑)。

──全編通して誕生日ならではのパーティ感がしっかり表現されているのが最高です。

やっぱり誕生日は楽しいものにしたいじゃないですか。“パーカッションソロ”を入れてみたのも、そんな理由からでしたね。いつもはメロディに寄り添う形でアレンジしていくことが多いですけど、今回はアレンジでどんどん景色を広げていくような感覚で。伝えたいメッセージを最高の形で伝えられるように、アレンジはいつにも増して緻密に作り上げていきました。

──サウンドの雰囲気に合わせて、いろんな表情のボーカルが出てくるのも楽しいですね。

ここまで歌で遊んだのは初めてだと思います。歌心を意識してカッコよく歌うのも好きなんですけど、こういうアプローチもすごく楽しいですね。本当にいろんな声が出てくるので、表情を付けるのはけっこう大変でしたけど(笑)。

──冒頭には自分の中に存在している天使と悪魔の会話が出てきますけど、しっかり声色が使い分けられていますからね。

あそこはめっちゃ面白かったですよ。天使と悪魔の声を別々に録ると、私1人で歌っている感じがなくなっちゃって。いろんな声が出てきたとしても、自分1人で誕生日を祝っている雰囲気は絶対に残したかったので、通して歌うことにこだわったんです。天使としてかわいく歌った直後に、悪魔っぽい声を出すのはかなり難しかったので、めちゃくちゃ練習しました。プロデューサーには「よくそんなにすぐ声をチェンジできるよね」とびっくりされましたけど(笑)。レコーディングは“声のニュアンスの遊び大会”みたいで本当に楽しかったです。

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──実際のeillさんも「ぐーたらしちゃいなよ」という悪魔のささやきに惑わされることがありますか?

ありますよ! しょっちゅう悪魔が出てくるし、なんなら昨日も出てきました。ミュージックビデオの編集をしなきゃいけないのに、「ちょっとだけ寝たら?」とささやかれて(笑)。一方では「締め切り過ぎちゃうよ!」と言ってくれる天使もいるし。昨日はちゃんとやりましたけど、けっこうな確率で悪魔のささやきに負けます。すみません(笑)。

──2コーラス目のBメロでもいろんな声が楽しめますよね。

あそこも楽しかったなあ。めちゃくちゃ高い声で「アニメ」と歌ったり、逆にめっちゃ低い声で「ピザ」と言ってみたり。コーラの栓を開ける音や、ピザが届いた“ピンポーン”という音を入れてみたり、SEでもかなり遊びました。ちなみにこのパートで描かれているのは、私のリアルな生活だったりします。ベッドの上でポテチとコーラを抱き締めながら大好きなアニメを観て、夜にはピザを頼んで食べる。休日はまさにそんな感じなので(笑)。