かわいさとカッコよさが同居する声

──レコーディング自体はスムーズだったんですか？

ryo　歌はスムーズでしたね。途中でメロディを変えるとか歌詞を変えるとか、曲ができてないとかいうだけで（笑）。作り方的には、まずガイドみたいなのを作って、それで歌ってもらって、持って帰ってアレンジして、レコーディングして、それで改めて歌ってもらうっていう形です。

──chellyさんとしては、いのりのキャラクター性を意識して歌うんでしょうか？

chelly　そうですね。アニメの中では、いのりちゃんはあんまり感情が出ないんですよね。歌でしか気持ちを表現できないので。だから歌では、彼女の感情をよく考えて出すようにしていきました。

──しかしキャラクターの掘り下げをやりながら歌うのは、多分普通の曲の歌い方とは違いますよね？

chelly　自分が出過ぎちゃダメなので、少し雰囲気を声優さんに似せてる部分がありますね。まあでもchellyとしての部分も大事にしなきゃいけないので、間に立たされてる感じでした（笑）。

──自分が歌ったものを客観的に聴いてみてどんなふうに思いますか？

chelly　うーん、本当にそれぞれの曲でいっぱいいっぱいに感情を入れたので……がんばったなあって（笑）。

──この曲が特に難しい、とかはあるんでしょうか？

chelly　どれも難しかったですけど（笑）、難しいから挑んでいくっていう気持ちがありましたね。前から結構いろんなジャンルの音楽を聴いていたので、得意不得意はあんまりないですね。ちょっと挑戦したことのないような曲もここで経験できるのかって、ちょっとうれしくなったり。

ryo　chellyちゃんの歌は、カッコよさを前面にバーッと出せるんですよ。でもかわいさも前面に出せる。そしてその配置の仕方を、微妙に8対2とか、2対8とか、さじ加減を変えてくるんですよね。危うい感じがあったりして、すごく魅力的なんです。本人が意識してるのかしてないのかわからないんですけど。

驚異的なバランス感覚を持ったchellyの歌唱能力

──本人としては意識しているんですか？

chelly　結構曲の雰囲気を大事にするんで、意識したりしなかったりですね。「これは感覚的に歌いたいな」って思ったらあんまり考えないでやるし、その逆もあるし、みたいな。

ryo　元々かわいさがちょっとだけ前に出てて、後ろにカッコよさがついてくるというニュアンスが一貫してあったんです。でも4曲目の「雨、キミを連れて」っていうバンド曲があるんですけど、そこで逆転したんですよ。ギターの音に合わせると全然違う歌い方ができたんです。「あれ？ こんな歌い方できるんすか？」みたいな（笑）。ボーカルの表現をそこまで変えられる人は少ないという考えを思いっきり覆されましたね。普通の人にできる量を超えてきたなっていう感じでした。chellyちゃんは耳がすごくいいので、多分楽器の特性みたいなのをつかんでるんでしょうね。元々バイオリンやってたせいかもしれないですけど、音程だけでなく、雰囲気とか作詞とかまで含めて全体的に捉える感受性もすごく強い。楽曲を聴きながら、その楽器に対応した歌い方をしてると思うんですよ。だから歌を乗せた後でオケを聴いたときの印象が、グワーッて変わるんですね。

──なるほど、曲調に対してボーカルをスッと調和させられるタイプなんですかね。

ryo　それが、調和するだけじゃないんです。期待されたラインを普通にキープしつつ、期待された以上のもの、予想外のものが出せるんですよね。それを見事に毎曲、どんな曲でもやるっていう感じなんです。人が「いい」と思える門戸って結構狭いんですよね。音楽を作っていると「すごくいいよね」って思うものを成立させるには、けっこう神がかった経緯がないとできない。でもchellyちゃんはその経緯を結構たやすく飛び越えて来る（笑）。こればっかりは持って生まれたものですよね。完成したアルバムと、自分が最初に作った仮歌を聴き比べると「すげー！」って思いますよ（笑）。

──仮歌が想定したものを明らかに越えてくるんですか？

ryo　明らかに、どころじゃないです。もう別物になります（笑）。

──そんなに劇的に変わるんですか！（笑） chellyさんとしては仮歌からイメージをぐっと引き出す感じなんですか？

chelly　そうですね。雰囲気とか曲調からイメージするのは得意なので。

ryo　特殊な才能というか。普通はあれこれ考え込んじゃって、考えたなりのこじんまり感が出てしまう。逆にダイナミックな人はその繊細さがないから、「いいんだけどそれって音楽的にはずれてるよね」みたいになるかもしれない。それが両立しうるっていうのは、両方のバランスが良くないといけない。多分音楽だけじゃなくて、バランス取るもの全般がうまいんじゃないかな。