EGO-WRAPPIN'「サイコアナルシス / The Hunter」発売記念対談 森雅樹(EGO-WRAPPIN')×オダギリジョー 唯一無比の表現に宿る“外しの美学”

「サイコアナルシス」に対する強い思い

──一方、オープニングテーマには、2001年発表の2ndアルバム「満ち汐のロマンス」に収録されたEGO-WRAPPIN'の楽曲「サイコアナルシス」が使用されています。

オダギリ 鈴木清順監督の「ピストルオペラ」という映画のオープニングに「サイコアナルシス」が使われていて、僕の中ではそれがすごく強く印象に残っていたんです。あの爆発的なスタートからのスピード感と、カッコいい世界観に圧倒されて。それもあって、今回の主題歌のオファー時も、イメージに近い曲として「サイコアナルシス」を挙げさせていただいたんです。

──ひときわ思い入れが強い曲だったんですね。

オダギリ そうですね。ほかの作品でオープニングテーマとして使われていた曲を、新しいドラマのオープニングで使ったりすることって、本当だったらよしとされないことだと思うんです。ただ、やっぱり素晴らしい作品は何年たっても素晴らしいし、清順監督の遺作となった作品(「オペレッタ狸御殿」)に関わった人間として、監督にも許してもらえる気がしたので(笑)。強い思いもあって、今回「サイコアナルシス」をオープニングテーマとして使わせてもらうことになりました。

左からオダギリジョー、森雅樹(EGO-WRAPPIN')。

 ドラマのオープニング曲ということで「The Hunter」を書いたんですけど、後日、オダギリさんから「オープニングでは『サイコアナルシス』を使わせてください」という連絡が入って。最初はびっくりしましたけど(笑)。

オダギリ 実は編集の時点で、仮で「サイコアナルシス」を当てていたんですけど、あまりにもハマりすぎて、そこから離れられなくなってしまったんです(苦笑)。それで試しに「The Hunter」をエンディング映像に当ててみたら、そちらもぴったりハマって。翌週の展開を期待させる感じがあったんですよね。

──結果的にどちらもハマってしまった、と。

オダギリ そうなんです。どちらの曲も、あまりにぴったりハマったから動かしがたくなってしまって。

 1回書き直すことも考えたんですよ。でも、「The Hunter」を当てたエンディング映像を観せてもらって、ストーリーの流れでオープニングテーマが始まると、とても爽快でした。

オダギリ 実はドラマのオープニングって1分もないんですよ、でもエンディングだとフル尺で曲を使えたりするんです。せっかくの新曲だからオープニングで使うのももったいないですし。そういう意味でも本当にいいところに収まったんですよね。

 だから新しく曲を書き直さず、そのまま行くに至りました。

セッション感覚で作り上げた劇伴

──今回、ドラマの劇伴も森さんが担当されているんですよね。

オダギリ 劇伴については台本を森さんに渡して好きなように作ってもらったんですよ。こちらから、こういうシーンに使いたいとか、細かい注文は特にせず。森さんが感じたまま、インスピレーションを大切に作ってもらいたかったので余計な説明はやめました。

 劇伴を担当させてもらったのは「リバースエッジ 大川端探偵社」以来ですけど、そのときの経験も生かすことができて。劇伴って没頭できるんですよ。特に今回は縛りがなかったからかもしれないですけど、素でいろいろできたというか。いろんな想像をして心の赴くままに演奏していました。

オダギリ 改めて考えると、それが自分のスタイルなのかも知れません。前に自分で映画(「ある船頭の話」)を撮ったときも、最初は自由に作っていただき、上がってきたいくつかの曲を自分なりに編集で組み替えながら、徐々に具体的な注文をしていたんですよ。それこそ、この曲は何分何秒のときに盛り上がりを作ってほしいとか、このタイミングで終わらせてほしいとか。最終的にはかなり細かく注文して作ってもらったんです。ある意味で共作したいんでしょうね。今回もそれに近い進め方でした。

 できあがった音を乗せた映像を2人で観ながら、「このへんでもうちょっと盛り上がる感じになったほうがいいな」とか手直ししたり。あの作業も楽しかったですよね。

オダギリ そうそう。今回、森さんは楽曲を作ったら終わり、ということではなく、その後も一緒に作業をさせてもらったんです。それこそミックスの最終日まで参加してくれて、本当にありがたかったですね。とことん2人で意見を交わしながら音楽を付けていくことができました。

──ある意味、セッション的な作り方というか。

オダギリジョー オダギリジョー

オダギリ そうですね。その結果、いくつかの曲は、森さんが音源を作り直してくれたり。

 こちらが作り込みすぎた部分をオダギリさんのほうで抑えてくれることもあったんですよ。やっぱり耳がいい人だから、「ここは音数を絞ったほうがいいかもしれませんね」とか言ってくれて。で、作り直した音を重ねた映像を観てみたら本当にその通りで。

オダギリ すごくレベルの高いコラボレーションをさせてもらった感じがしますね。1つの作品のために一緒に向かい合えたなっていう気がしました。

 「大川端~」のときは、完パケた音源を渡して、放送を観たときに「こういうシーンで使われるんだ」って初めて知る感じだったんですけど、今回は最初の段階から携わることができて。音効さんの仕事とかも間近で見ることができ、たくさんいい経験をさせていただきました。そんなん今まで観たことなかったから。

オダギリ 普通は流れ作業で進んでいきますからね(苦笑)。でもせっかくだから、今回は森さんにしっかり付き合ってもらおうと思って(笑)。

 ホンマ面白いんですよ。そういう作業を見たくて現場に行ってたっていうのもあります。それに、オダギリさんのディレクションに強いこだわりを感じました。ほら、音効さんに風の音の指示とか、すごく細かく出してましたよね?

オダギリ ああ、そうですね(笑)。もともと細かい性格でもあるし、やっぱり自分の作品にはとことん行きたい気持ちが出ちゃうんですよね。今回はテレビドラマではあっても、自分が作る以上、そのへんの映画よりも質が高い作品にしたくて。

 自分の中に確固たるイメージがあるっていうことですよね。作りたいものや見せたいことが明確に見えてる。今回ご一緒させていただいて、改めてプロだなと思いましたね。優柔不断な僕には勉強になります。