私立恵比寿中学「中吉」インタビュー|9人体制の確立、柏木ひなたの“転校”……変化を重ねながら継承する「エビ中らしさ」

2012年5月5日、ソニー内レーベル・DefSTAR Records(現・SME Records)から“仮契約”という異例の形でメジャーデビューを果たした私立恵比寿中学、通称エビ中(参照:「ケン・ヒライの妹分に」エビ中デビュー“仮”契約調印式)。“永遠に中学生”を謳うメンバーも20代に突入し、キャリアに裏打ちされた豊かな表現力を身に付けた彼女たちは2021年春、リアル中高生の桜木心菜、小久保柚乃、風見和香という3人の新メンバーを迎え入れ、グループに新たな息吹をもたらした。同年夏には悪性リンパ腫という大病を乗り越え復帰した安本彩花も合流し、9人で新たな道を歩み始めたエビ中だったが、2010年11月よりエビ中として活動してきた柏木ひなたが2022年末で“転校”(卒業)することを発表。さらに、新たなメンバーを迎え入れるべくこの夏には新メンバーオーディション「未確認中学生X」が実施された。

メジャーデビュー10周年のタイミングで再び大きな変化の時を迎えたエビ中。9月21日発売のデビュー10周年記念アルバム「中吉」には、この10年間の楽曲からエビ中ファミリー(私立恵比寿中学ファンの呼称)の投票により選出された16曲と、9人体制で新たにレコーディングされた9曲、そして2022年に配信リリースされた新曲4曲が収められている。この10年の歩みと9人で導き出した「新しいエビ中」が凝縮された作品だ。音楽ナタリーでは安本、柏木、桜木、小久保、風見の5人にインタビューを行い、エビ中の現状と未来について語ってもらった。

取材・文 / 臼杵成晃撮影 / 堀内彩香

ボロが出たことで覚醒した桜木心菜

──今年3月にアルバム「私立恵比寿中学」を発表したあと、9人で回る初めての全国ツアー(参照:私立恵比寿中学、9人体制初ツアーファイナルで26曲完全燃焼「どんな色にも染まっていける」)、8月の野外ライブ「ファミえん」(参照:エビ中「ファミえん」2日目、雨のち晴れの大空に届けた“9人”の絆)がありました。ライブを通して今の「9人のエビ中」がすっかりさまになったなと感じましたが、皆さん自身はどうですか?

安本彩花 活動歴も年齢差もある3人が入ってきて、最初は正直不安なところが大きかったんです。3人もたくさんもがいただろうし、私たちもどうしていくべきかめっちゃ悩んでここまで来たので、「少しずつ9人の形ができてきたね」という声をいただくと安心します。

柏木ひなた 春ツアーは大きかったですね。6人時代にやってきたこととは違うエビ中への意識が芽生えてきたし、ココユノノカの3人も自分たちが入ってきたことによって今新たなエビ中を作っているんだという意識を持って挑んでいて……お互いの意識が近付いて、今のエビ中ができあがってきたんだなと思います。

左から安本彩花、桜木心菜、小久保柚乃、風見和香、柏木ひなた。

左から安本彩花、桜木心菜、小久保柚乃、風見和香、柏木ひなた。

──新メンバーの3人は成長も慣れもあるでしょうけど、以前よりも余裕があるように見えるし、「こんなに歌えるんだ!」と驚く場面がツアーや「ファミえん」では多々ありました。入った当初からはキャラクターや立ち位置も変わってきているように見えるし、この短期間でいろんな変化があるんじゃないでしょうか。

桜木心菜 最初は私、もっとクールっぽい、静かなイメージがあったと思うんですけど、メンバーと話していると本当の自分が出てくるというか……情熱が、熱が強いとか……なんだっけ。情に厚い? あとは負けず嫌いなところとか、そういう部分もエビ中ファミリー(私立恵比寿中学ファンの呼称)の方に見せられるようになって。去年の「大学芸会」(2021年12月27、28日に東京・東京ガーデンシアターで開催されたワンマンライブ「私立恵比寿中学 大学芸会2021 ~Reboot~」。参照:私立恵比寿中学、大学芸会で9人体制“Reboot”「運命と戦い続けます」)まではすごい試練というか、怒られることがホントにたくさんあったんですよ(笑)。ホントにもう日々怒られてたんですけど、春ツアーからは怒られるというよりも、アドバイスとして教わることが多くなってきて。もっとできるんじゃないかと自信も付いてきたし、成長できたのかなと思います。メンバーとの仲もツアーを通してより深まったんじゃないかなって。

──ちなみに「怒られる」ってどう怒られるんですか(笑)。

桜木 何を歌っても怒られてました(笑)。「もっと元気にできるでしょ!」みたいな。自分に自信もないし、歌も全然歌えてなかったから当たり前なんですけど、去年まではとにかく「怒られてた」という印象ですね。

──せっかくなので3人の変化を具体的に掘り下げていきたいのですが、桜木さんは特に先輩メンバーとの垣根がなくなってきたように見えるし、むしろ先輩たちをナメてるのかなという場面も時折見られてすごく面白いんですよね(笑)。

桜木 ナメてないですよ!(笑)

──「茨城のヤンキー」キャラが確立するとともにどんどん覚醒しているような。「何々じゃないスかあ」みたいなヤンキーの後輩的なフランクな敬語で先輩ににじり寄っていく感じが最高で。

柏木 「ですか」じゃなくて「スかあ」って(笑)。

安本 いい意味でナメてる(笑)。

──地元の先輩に接するフランクさですよね。

桜木 ああ、本当ッスか。……ああ!

柏木 普通に出た(笑)。

桜木 それは先輩メンバーがすごく親しみやすいというか、そういう雰囲気を作ってくれるからですよ。

安本 心菜はオーディションの頃から「何にも染まらないぞ」「ぜってえ負けねえ」みたいな強い印象をすごく感じていて、私はそこがいいなと思ったんです。それまでのエビ中にはいなかった、鋭い目をしてるなって。だけど去年めちゃくちゃしごかれまくって、言われまくったら、ちょっと丸くなっちゃったんですよ(笑)。一時期はシュンとして「心菜らしくないな」と思っていたら、新しい武器を身に付けて復活したというか。ちょっと小生意気に先輩にもツッコんでいく、ちゃんと笑いをわかってる返しをしているのを見て、最初の頃にあったトガリが新しい形で出てきたなと思います。

風見和香 心菜はオーディションで会ったときから「完璧!」みたいな、なんでもできる子という印象で。でもライブで変な言い間違えをしたりとか、だんだんおバカなところが見えてきました(笑)。

柏木 いい意味でボロが出てる(笑)。いい意味でだよ? それが出てきたことで覚醒して、より“エビ中感”が増したというのはありますね。

小久保柚乃 私のお母さんは合宿から帰ってきたときから「心菜ちゃんはクールぶってるけど本当は絶対ブッ飛んでるよね」って言ってました(笑)。

──桜木さんと小久保さんはライブ中ずっとじゃれ合ってる印象がありますけど、仲はいいんですか?

小久保 はい。前に1回バチバチのケンカをしましたけど。

風見 2人とも自分の意見を絶対譲らないから、私が「ちょっと待って!」と間に入ることがけっこうありました(笑)。でも最近めっちゃ仲いいよね。

柏木 最年少が間を取り持ってる(笑)。

真山りか

真山りか

安本彩花

安本彩花

星名美怜

星名美怜

意外とコミュ力の高い小久保柚乃

──小久保さんの変化はどうですか?

安本 柚乃はいい意味で変わらない。どんな環境でも「自分は自分」とブレない子なんだなと。

──若い新メンバーの中でも“ガキンチョ”ポジションながら、ときどき「あれ、けっこうしたたかでクレバーなのかな」と感じられる場面もあるんですよね。

安本 それ、すっごいわかります。「単純に年相応のガキンチョなのかな? 本当は計算なのかな?」と思うくらい大人なひと言をズバッと言うときがあって。まだまだ私たちも知らない部分がたくさんあるんだろうなと思います。

柏木 その場の雰囲気で「自分はこう出たほうがいいだろうな」というのがすぐわかる子で。春ツアーでは私だけが着替えている時間があって、その間のMCを聞いているといろんな出方をしていて面白かった。パフォーマンス面に関しては……1回ブチ切れたことがあったから(笑)。

小久保 あはははははは(笑)。

──どんなキレ方だったんですか(笑)。

柏木 もう何言ったか覚えてないくらいキレたよね(笑)。

小久保 最初の頃は何回もブチ切れさせてしまいました(笑)。

柏木 うまい下手とは無関係に惹き付けられるものがあるのはすごいなと思うし、不思議な魅力があるんですよね。ファミリーの方からは、私の子供の頃に似てるってよく言われるんですけど、たぶん柚乃のほうがちゃんとしてる。ガキンチョだなと思うけど、あの頃の自分と比べると柚乃はちゃんと大人だなって思うもん(笑)。

安本 そうそうそう! 今のひなたを知ってるから柚乃が子供に見えるけど、あの頃を思い出すと……。

──子供の奇行が目立つタイプでしたよね(笑)。すっかり忘れてましたけど。

柏木 いや本当に(笑)。

──最年少の風見さんから見るとどうですか?

風見 私から見ても「大丈夫?」と思うところがたまにあるんですけど(笑)、人が多いところを歩いているときに「危ないよ」と手を引いてくれたり、ちょっとカッコいいところもあるんですよ。

柏木 えー。

桜木 オーディションのときも誰よりもコミュ力高くて「学校楽しい?」ってお姉さんみたいに接してくれて。お風呂が一緒になったときも、それまで一度も話したことなかったのに「何々ってなんとかじゃない?」って普通に話しかけてくるからめっちゃびっくりしました(笑)。柚乃のペースとか雰囲気って、作られたものではないというか。どこにいても同じなんですよ。私はちょっと盛っちゃう部分があるから……。

小久保 (笑)。

桜木 わかるかな、ステージでちょっとかわいくしゃべっちゃうとかさ。そういうところがあるから、常にマイペースでいられるのはすごいと思う。

柏木ひなた

柏木ひなた

小林歌穂

小林歌穂

中山莉子

中山莉子

──コミュ力が高いというのはちょっと意外ですね。どちらかというと「我関せず」でいるのかなという印象だったので。

安本 私も最初の頃はレッスンのときによく怒ってたけど、レッスンが終わると切り替えて普通に話してくれてたから、人と接する能力が高いんだろうなと思いますね。

小久保 もともと自分は陽キャだと思ってたし、人と話すのも得意なほうだと思ってたけど、(星名)美怜ちゃんとかと比べると全然違ったんだなって。

柏木 あれはちょっと飛び抜けてるから(笑)。

安本 上には上がいる(笑)。

けがれなき素直さでなんでも吸収する風見和香

──風見さんといえば「真面目でおとなしい優等生」という印象でしたが、3人の中でも特に印象が変わったと感じます。これは褒め言葉ですけど「実は一番のバカは風見さんでは」と思っていて。バカというと聞こえが悪いですけど(笑)、物怖じせず突進していく感じがあって、それは先日の初のソロワンマンでも強く感じました(参照:エビ中・風見和香、15歳の誕生日に初ソロライブ「自分らしくいってみよう!」アンコールで念願の力士に)。歌の面でも特に成長著しいですよね。

安本 和香は本当にけがれのない素直な子で、まっすぐなんですよ。素直だからなんでも吸収するし、修正するのも早い。誰かに言われたことを100%「そうなんだ」と1回飲み込むから余計に吸収が早いんでしょうね。悪いこともすぐ吸収しちゃうだろうから、ちゃんと守ってあげないと(笑)。そのまっすぐさが和香の強みなんだなと思います。それってすごくエビ中っぽいなとも思うんですね。

柏木 和香は……かわいい(笑)。真山(りか)とか(小林)歌穂ちゃんは「おじいちゃんとして和香を孫にしたい」と言ってるけど……。

安本 おじいちゃんなんだ(笑)。おばあちゃんじゃなくて。

柏木 そう(笑)。おじいちゃんとして育てたいらしいんですけど、私は和香を産みたいんですよ。

桜木 アハハハ! 出したいんだ(笑)。

柏木 ここまで純粋な子ってなかなかいないし、みんなのことも純粋だと思ってたけど、遥か上を行く純粋だから。「変な人に絡まれないかな」ってすごく心配。

桜木 (立ち上がって)心配してくださいよー!

柏木 いや、こっち(桜木と小久保を指して)も心配してんだけど……なんとか大丈夫なんじゃないかなって(笑)。

桜木 ひなちゃんにはそう思われがちなんですよねー。悲しいです私。

柏木 私たちもみんな努力はするけど、ここまでやる子はなかなかいない。初めて会ったくらい。私たちも見習わなきゃって思うよね。勉強させてもらってます。

風見 あっ、ありがとうございます。

小久保 前に一緒に夜帰っているときに、途中で外国の方に声をかけられたんですよ。2人とも全然何を言ってるかわからなかったんですけど、そしたら和香が「センキュー」って言ったんです。そのときはびっくりしました。

柏木 ……えっ?

風見 違うんですよ! ソーリーって言ったの。

柏木 説明お願いします(笑)。

風見 わからないけど無視したら悪いかなと思って、ごめんなさいって言ったの。ソーリーなら伝わるだろうなと思って。

柏木 全然ニュアンスが違う(笑)。

桜木 和香はなんでもできるし真面目だけど、けっこう私に相談してくれるんですよ。「心菜、これってどう思う?」「私はこうだと思うよ」「そっかー! ありがとう!」みたいな。そうやって頼ってくれるのはうれしいし、意外と甘えてくるとことがかわいいです。

小久保 相談……されたことないかも。最近「合宿に靴下持って行ったほうがいいかな」と質問が来たけど「大丈夫だった!」って自己解決してました。

風見 それ心菜に聞いて解決したの(笑)。

桜木心菜

桜木心菜

小久保柚乃

小久保柚乃

風見和香

風見和香

──風見さん自身は変化したなと感じますか?

風見 前までは「ちゃんとしなきゃ」という気持ちが強かったけど、最近は自分を出せるようになったし……私、お姉さんメンバーにツッコめるようになったんですよ!

──3人が入ってきたことによって、6人も少しずつ変わってますよね。

安本 そうなんですよ。3人と向き合ううえで、私たちも「今の自分たちの状況をしっかり伝えなくちゃいけない」と思うようになったのが一番大きくて。ライブの盛り上げ方を3人に教えようと思ったら、私たちも勉強してちゃんと理にかなったことを教えなくちゃいけない。今までは心のままに動いてたけど、ちゃんと1本のライブの全体を見て道筋が立てられるようになって。今までナチュラルにやってたことをロジカルに考えられるようになって、ちゃんと大人になれたというか。なんだかんだで私たちはずっと中学生のままで止まっていたけど、3人のおかげで年相応の大人になれた気がします。