ナタリー PowerPush - 私立恵比寿中学
“ツッコミ不在”の新体制がもたらすバタフライ効果
──今回どのようなきっかけで鈴木慶一さんとともに「幸せの貼り紙はいつも背中に」の編曲を担当することになったんですか?
きっかけは単純に、慶一さんと僕でどうですかって依頼があったんです。それに曲を聴いてみたらすげえいい曲だったので。
──あ、先に平野航(夏待ちレスター / 作詞・作曲担当)さんの楽曲が上がってたんですね。
そうそう。すげえいい曲!って。慶一さんとは曲を聴いてすぐに「60年代のサイケなポップスみたいなアレンジにしよう」って話して。
──確かにサイケなソフトロックみたいな印象ですけど……なぜモノラルに?
だいたいその時代のシングルはモノラルなんで(笑)。あとは映画の主題歌になるということも聞いてたから、映画館ではモノでドーンと聞こえてきたらいいかなって。
──アイデアとして面白いけど、よくアイドルの楽曲としてそれがOKになったなという(笑)。
なんでもありだった。「こういうのはちょっと……」というのはまったくなくて。「できるだけアイドルと思わずに遊び倒してください」って話だったので、はいわかりましたと。楽しかったですよ、だから。なんの気兼ねもなく(笑)。ここを直してほしいみたいなことも一切なかったですね。
──アレンジをするにあたって、過去のエビ中作品をチェックしてみたりはしましたか?
特にはしなかったです。あまり意識せずにやりたいなと思ったので。
──ひそかに盛り込んだアイデアや細かい仕掛けみたいなものはありますか?
めちゃくちゃありますよ(笑)。60年代にスタジオで行われていたであろう実験をけっこうやりましたね。ドラムをテンポを速くして録って、テープの回転をゆっくりにして再生すると、45回転のレコードを33回転でかけてるような感じになるんですけど……そもそも基本的にテープで録ってますから。
──アナログレコーディング!
今のアイドルでアナログレコーディングってほかにあるんですかね(笑)。テープで録りながらいろいろ実験しました。楽しかったですよ。慶一さんもあれ足そうこれ足そうって、ギターやキーボードを弾いてみたり。慶一さんはしっかりしたプロの耳を持った方で、いわゆる職業プロデューサーとしてもしっかりしている方なので。僕はどちらかと言うとアイデア勝負だから、慶一さんが見てくれててよかったですね。
──曽我部さんは以前ワンリルキスへの楽曲提供もありましたが(参照:声優4人組ワンリルキスがTパレ参加、シングルは曽我部作曲)、アイドルの楽曲を手がけるのはまだ2度目ですよね。曽我部さんはアイドルというジャンル、文化をどういうふうに見ていますか?
今たくさんいるアイドルは、結局僕らが聴いてた“インディーもの”に近いというか、ギターポップみたいですよね。7インチ2枚だけ出していなくなるようなバンドもいたし、そういう細かいところまで追っかけて掘り下げる感じは、僕らがインディーギターポップを聴いてた感覚とすごく似てる。
──確かに、今アイドルに夢中になっている人の中には、インディーズシーンの熱量と同じものを感じて追っかけてる人もけっこういるんじゃないかと思います。ある場所で局地的に爆発が起こる感じとか、本当によく似てますよね。
AKB48のような規模だと少し違うのかもしれないけど、インディーズのアイドルグループは、パンク / ニューウェイブ以降の音楽みたいな、僕らが学生の頃に聴き漁っていたような音楽のシーンと近いかなあ。逆に直接影響を受けた音楽をやっている人たちのほうが、スタイルとしてはまとまっちゃってるというか、方法論としてはもう十何年も同じことをやってるから。アイドルのやってることのほうが新しいですよね。Tシャツの作り方1つ取っても。
──“J-POP”というくくりでは曽我部さんもアイドルたちと同じところで戦っているわけですけど、同じ土俵の上で戦う人たちとしてはどう見えるのでしょうか。
僕はたぶんやってることが彼女たちと近いので(笑)。CD持ってギター抱えて、いろんな土地を回って握手して帰ってくるっていう。自分で曲を作って歌ってるのが違うだけで、やってることは一緒なんです。これが今のスタンダードだと思うんですよ。売り方とか接客の方法論は一緒。
──エビ中のほかで気になるアイドルグループはいますか?
リンダ3世は音がカッコいいですね。あとBiSは好きです。アイドルに対するルサンチマンというか、下から這い上がっていくような……The Clashのようなものを勝手に感じていて(笑)。それでもアイドルとして機能しているのが面白いと思うし、勇気をくれるというか。エビ中のライブも観てみたいなあ。
──「幸せの~」のアレンジを聴いたほかのグループの運営陣から曲を書いてほしい、アレンジしてほしいというオファーがあったら受けますか?
もちろんもちろん。僕はなんでも受けますんで。今はEDMに近いものが多いと思うんですけど、そうじゃないもの……もっとソフトロック、ギターロックみたいなことをやるアイドルが増えても面白いと思うし、いろいろ試してみたいアイデアはあります。昔のアイドルがそうだったように、やっぱり歌がいいものが結果残っていくと思うので、今後アイドルシーンからどういう名曲が出てくるのか楽しみですよね。
- ニューシングル「バタフライエフェクト」 / 2014年6月4日発売 / DefSTAR RECORDS
- 初回生産限定アニメ盤 [CD+DVD] / 1800円 / DFCL-2064~5
- 初回生産限定ヨーデル盤 [CD] / 1200円 / DFCL-2066
- 通常盤 [CD] / 1200円 / DFCL-2067
初回生産限定アニメ盤 CD収録曲
- バタフライエフェクト
- アンコールの恋
- バタフライエフェクト(アニメサイズver.)
- バタフライエフェクト(Less Vocal)
- アンコールの恋(Less Vocal)
- バタフライエフェクト(アニメサイズver.)(Less Vocal)
初回生産限定アニメ盤 DVD収録内容
- バタフライエフェクト MUSIC VIDEO
- アニメノンクレジット OPENING 映像
初回生産限定ヨーデル盤 CD収録曲
- バタフライエフェクト
- 幸せの貼り紙はいつも背中に
- バタフライエフェクト(Less Vocal)
- アンコールの恋(Less Vocal)
- 幸せの貼り紙はいつも背中に(Less Vocal)
通常盤 CD収録曲
- バタフライエフェクト
- アンコールの恋
- ラブリースマイリーベイビー
- バタフライエフェクト(Less Vocal)
- アンコールの恋(Less Vocal)
- ラブリースマイリーベイビー(Less Vocal)
私立恵比寿中学(シリツエビスチュウガク)
スターダストプロモーション芸能3部に所属するアイドルグループ。2009年夏に結成し、2010年2月14日には初のシングル「朝のチャイムがなりました!」を発表した。2011年4月には事務所の先輩であるももいろクローバー(現・ももいろクローバーZ)の中野サンプラザ公演にゲスト出演し、前山田健一プロデュース曲「ザ・ティッシュ~とまらない青春~」などを披露。同年10月には東京・Shibuya O-EAST(現TSUTAYA O-EAST)で初のワンマンライブを行い大成功に収めた。2012年5月にはDefSTAR RECORDSよりシングル「仮契約のシンデレラ」でメジャーデビューを果たし、2013年7月には初のオリジナルフルアルバム「中人(ちゅうにん)」をリリース。2014年4月に行われた東京・日本武道館公演「私立恵比寿中学合同出発式~今、君がここにいる~」を最後に瑞季、杏野なつ、鈴木裕乃の3名が“転校”(脱退)した。同年6月にメジャー通算6枚目のシングル「バタフライエフェクト」をリリース。現在は真山りか、安本彩花、廣田あいか、星名美怜、松野莉奈、柏木ひなた、小林歌穂、中山莉子の8人で活動している。
曽我部恵一(ソカベケイイチ)
1971年生まれ、香川県出身のシンガーソングライター。1990年代からサニーデイ・サービスの中心人物として活躍し、バンド解散後の2001年からソロアーティストとしての活動を開始する。精力的なライブ活動と作品リリースを続け、客演やプロデュースワークなども多数。現在は曽我部恵一BAND、および再結成したサニーデイ・サービスのメンバーとしても活動しており、フォーキーでポップなサウンドとパワフルなロックナンバーが多くの音楽ファンから愛され続けている。2004年からは自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立し、自身の作品を含むさまざまなアイテムをリリースしている。3児の父。