ナタリー PowerPush - 私立恵比寿中学

鈴木さんはまだまだ成長中

普通ってなんだ!?

──録り下ろし曲のレコーディングで、メンバーに対する新たな発見はありましたか?

全員、歌がうまくなってきています。

──ああ、それは今回のアルバムに限らずありますね。最近は生のパフォーマンスを観ていても、初期からの看板であった「キレのないダンスと不安定な歌唱力」が、もはやそうとも言えなくなってきたような。

それは前回のシングルでインタビューを受けてるときもよく言われました。もちろん本人たちがそれを売りだと思ってるわけではなく、みんながんばってますからね。こっちが着せた服がそろそろ小さくなってきた。だからもう僕たちスタッフも、それを言うのをやめたんです。だからと言ってここから急に「正統派です」とは言わないですよ。そうじゃないのはわかってるから(笑)。「学芸会」は残そうと思ってます。キレがないとか歌唱力が不安定とかは、そろそろ応援してくれているファンの方に失礼なんじゃないかなって。

──音楽面でも、カッコよく決めるところはもう「正統派」と呼んでもおかしくないぐらいビシッと決めるし、抜くところではどこよりも全力で抜くみたいな(笑)、独特のバランス感が出てきましたよね。それは以前からかわらないのかもしれないですけど、今回のアルバムでそれがより濃くハッキリと形になった感じがします。

その筋道をしっかりさせたのは校長の力だし、楽曲をより伝わるものにしているのは瀬戸さんですね。僕は「これで大丈夫かな」ってずっと不安でしたから。メンバーが着実に成長することで、わちゃわちゃした学芸会感がなくなってしまうんじゃないか、突拍子なさが失われてるんじゃないかっていうサブカル恐怖症みたいなものが(笑)。

──あはははは(笑)。

「頑張ってる途中」(2013年1月発売のシングル「梅」カップリング)ができたときに「これ普通にいい曲だけど大丈夫?」って(笑)。

──普通のいい曲をやることへの恐怖(笑)。

「普通ってなんだ!?」って袋小路にはまっちゃって。でも瀬戸さんはそこブレなかったですね。「手をつなごう」(2013年6月発売の最新シングル)も実は1年前に作ってあった曲なんですけど「これはいつかA面で出す曲」ってストックしてたし。「いい湯かな?」も去年の夏にはあったんですよ。

──去年の段階で、のちのちストレートな曲をやるってことは計画してたんですね。

このままだとわかる人にしかわからないものになってしまうから。そうやってわかってもらえる人に甘えないというか。だから最近のシングルでは、彼女たちが実力で表現できるようになった曲を前に出して、「それだけじゃないぞ」っていう極端に振り切った曲をカップリングに入れたり(笑)、そういうバランスになってきましたね。特にルールを決めてるわけではないんですけど。

──メンバーのほうの変化はどうですか? 楽曲について自分たちから意見を出すようなことはあるんでしょうか。

出てきましたね。最近は歌割りでどのパートを歌いたいって主張するようになってきて。「早く聴かせてくれ」「いつ上がるんだ」って言われるようになったのはここ最近ですね。曲を聴いた上で自分が歌いたい場所があるんですよ。ライブの台本もそうですけど、与えられたものプラス自分で言いたいことが出てきたんですよ。それは1年前にはなかったことだから、確実に成長してますよね。僕らとしても今の彼女たちが伝えやすいメッセージをすくって、楽曲や学芸会に反映させるべきだなって。

「こうじゃなきゃいけない」という考えはもう邪魔

──ここからはアルバムの録り下ろし曲について具体的な話を。「あたしきっと無限ルーパー」を手がけているさつき が てんこもりさんは、エビ中ファンの間でも人気の高い作家さんですよね。エビ中の振り切った楽曲を代表する作家さんの1人だと思いますが、今回はどんな発注を?

今回の曲が実は今までで一番苦戦しました。「彼女たちの学芸会感を少しステップアップさせてください」っていうムチャなお願いをしたんですよ。彼は意味のないことを面白く構築するのがうまい作家さんですけど、今回はそれを封印してほしいと。サウンド的には、今までより大きな会場で鳴る音を想定して作ってもらいました。歌詞の部分でこれまでとは違うものを出すのに相当苦労したみたいですけど、結果出てきたものが「方向音痴の歌」っていう(笑)。素晴らしい才能ですよね。「アルバムから先はどういう道に続いているの?」という彼なりのエビ中の命題が表現されているんです。

──次の「R-O-B-O-C-K」はエビ中初参加のU-re:xさんですね。

この曲、最初はインタールードの予定だったんですよ(笑)。作っているうちにどんどん広がっていって。完全に今までなかったものができましたね。

──サウンドは洋楽的だし歌詞も全編英語だし、メンバーは戸惑ったでしょうね(笑)。

完全に戸惑ってましたね。僕らも戸惑いましたから(笑)。すごくセンスのある方なので、今後もぜひお願いしたいです。

──「体操」は、数多いるアーティストの中からなぜYMOのこの曲をカバーしたんですか?

もともとカバーを入れるつもりもなかったんですよ。「中人」のタイトルが決定したときになんとなくいろんな曲を聴いていて、なんかピンときたんですよ。あと、学校ネタって今あえて作らなくなってたんですけど、これはちょうどいいかなって。

──しかもアレンジが□□□の三浦康嗣さんという。

実は三浦さんとはけっこう前から話を進めていて、別でオリジナル曲も作ってもらってるんですよ。「まだ早すぎる」って言われ続けてる曲があるんですけど(笑)。

──それ楽しみですね(笑)。そして「誘惑したいや」は、もはやおなじみのたむらぱんさん。この曲はラジオで流れたときのファンの反響が大きかったですね。

メンバーもみんな好きですよ。今回のアルバムでは唯一、女性の作家さんなんですよね。一番女の子らしい。最初は歌詞が年齢的に上すぎるかなって声もあって。多少不安はあったんですけど、「いずれこの内容がぴったりくるだろう」と先を見越してゴーサインを出しました。

──確かに、今までだったら歌わなかった内容かもしれないですね。

学芸会的な考え方だと避けて通ってた内容だと思うんですよ。でも「こうじゃなきゃいけない」という考えはもう邪魔になってきたから。たまに陥りがちなんですよ。凝り固まった考え方で、自分たちから幅を狭めてしまうようなことをやってしまう。あと余談ですけど、この曲はトラック数が多すぎて機材が1回シャットダウンしちゃって。初めてレコーディングが2日間におよびました(笑)。細かいコーラスとかたくさん入っているから、トラック数が多いんですよ。機械が処理できなくて(笑)。

──そして先ほどから何度か話題に上がっている「いい湯かな?」ですが。

レコーディング中に瀬戸さんが泣いた曲です(笑)。自分で作って自分で泣いてるディレクターを見たのは初めてですよ(笑)。この人ホントいい人なんだなあって。レコーディングはみんなでディスカッションをしながら進めていくんですけど、瀬戸さんの涙を見て「この曲は全部瀬戸さんにお任せします」って(笑)。僕にはないピュアネスを持った人ですね。

もうちょっと大人はがんばったほうがいい

──「中人DANCE MUSIC」は作曲が石井竜也さんで、作詞とアレンジがシライシ紗トリさん。完璧なソウル / ダンスミュージックですね。

今までと違う作家さんにお願いしようと考えたときに、米米CLUBの「FUNK FUJIYAMA」ってすごくエビ中っぽいなと思ったんですよ。

──確かにエビ中×石井竜也だったら「FUNK FUJIYAMA」路線のほうが想像付きやすいですけど、そっちではなかったですね。

石井さんとシライシさんに1つだけお願いしたのは「ガチンコでお願いします」ってことですね。「“アイドルっぽさ”は意識しなくて大丈夫です」と。最初にトラック走らせた時点で「完璧だ」って思いましたね。スタッフの皆さんも楽しんで作ってもらえたみたいで。

──ものすごくリッチなサウンドのソウルミュージックで、個人的にはベストトラックです。

これは基本的に生音ですね。今回の新曲は生音が多いです。ライブは基本カラオケだけどナメんなよ、って気持ちでかなりこだわって作ってるから、どの曲も音楽的にすごく聴き応えがあると思います。

──で、最後の最後に「あるあるフラダンス」(笑)。

これはなんなんでしょうね(笑)。さっき言ったように「アルバムをどう締めるか」をいろいろ考えたんですよ。最後もインタールードで「日本はいい国だなー」って言って終わるとか(笑)。でも最終的な判断は早かったです。「これ中人っぽいなあ」っていう。

──なんだかよくわからない「中人」という言葉に向かって集約していくという、奇跡的なアルバムですね(笑)。コンセプトとして根幹にあるものが謎、っていうのがいかにもエビ中的だし、エビ中にしかない個性なのかなと。

すごく考えて作ったんだけどなあ(笑)。すべてが結果オーライなわけじゃないんですよ。

──今まではそのへん意図的にはぐらかしてたような気がするんですけど、最新はスタッフ側がそういうマジな部分を隠さないフェーズなのかなと感じます。

だって大人は変わんなきゃダメじゃないですか(笑)。もうちょっと大人はがんばったほうがいいと思うんです(笑)。

かりそめ先生(スターダスト音楽出版 石崎裕士)
1st full Album「中人」/ 2013年7月24日発売 / DefSTAR Records
初回生産限定エー盤 [CD+DVD] / 3500円 / DFCL-2023~4
初回生産限定ビー盤 [CD2枚組] / 3500円 / DFCL-2025~6
サブカル盤(通常盤) [CD] / 3000円 / DFCL-2027
CD収録曲(全仕様共通)
  1. Chuning!!(Interlude)
  2. 仮契約のシンデレラ(long ver.)
  3. あたしきっと無限ルーパー
  4. R-O-B-O-C-K
  5. 高校廃止法案(Interlude)
  6. 放課後ゲタ箱ロッケンロールMX
  7. 大人はわかってくれない
  8. 体操
  9. 禁断のカルマ
  10. 誘惑したいや
  11. チューニング真っ最中(Interlude)
  12. いい湯かな?
  13. 手をつなごう
  14. 中人DANCE MUSIC
  15. 頑張ってる途中
  16. あるあるフラダンス
初回生産限定エー盤 DVD「居残りダンス練習V~振りカラ映像~」収録内容
  • 瑞季「パクチー」
  • 真山りか「揚げろ!エビフライ」
  • 杏野なつ「どしゃぶりリグレット」
  • 安本彩花「フレ!フレ!サイリウム」
  • 廣田あいか「歌え!踊れ!エビーダダ!」
  • 星名美怜「ほぼブラジル」
  • 鈴木裕乃「結果オーライ」
  • 松野莉奈「新・青春そのもの」
  • 柏木ひなた「エビ中一週間」
初回生産限定ビー盤 特典CD収録内容
  • 「恵比寿組曲」(再構築 by Fragment)
ライブDVD / Blu-ray「狂い咲きエビィーロード ~終わりなき進級~」 / 2013年7月24日発売 / DefSTAR Records
[DVD2枚組] / 5500円 / DFBL-7170~1
[Blu-ray Disc] / 6500円 / DFXL-28
私立恵比寿中学(しりつえびすちゅうがく)

私立恵比寿中学

スターダストプロモーション芸能3部に所属するアイドルグループ。2009年8月4日の結成以降、数人の転校(脱退)と転入(加入)を繰り返し、現在は瑞季、真山りか、杏野なつ、安本彩花、廣田あいか、星名美怜、鈴木裕乃、松野莉奈、柏木ひなたの9名が所属している。2010年2月14日に初のシングル「朝のチャイムがなりました!」を発表。2011年4月には事務所の先輩であるももいろクローバー(現・ももいろクローバーZ)の中野サンプラザ公演にゲスト出演し、前山田健一プロデュース曲「チャイム!」「ザ・ティッシュ~とまらない青春~」を披露した。2011年10月5日には6枚目のシングル「もっと走れっ!!」をリリース。同月8日には東京・Shibuya O-EASTにて初のワンマンライブを行い、大成功に収めた。「king of 学芸会」の異名を持つ個性あふれるパフォーマンスで人気を集め、2012年5月5日にはDefSTAR Recordsよりシングル「仮契約のシンデレラ」でメジャーデビューを果たした。11月21日にはインディーズ時代の楽曲をまとめたアルバム「エビ中の絶盤ベスト~おわらない青春~」と、ライブDVD / Blu-ray「私立恵比寿中学 ファーストコンサート『じゃあ・ベストテン』」を同時リリース。2013年7月には初のオリジナルフルアルバム「中人(ちゅうにん)」を発表した。