音楽ナタリー Power Push - イヤホンズ×Aice5

「それが声優!」から生まれた姉妹ユニット対談

新人声優のストーリーと現実

──「それが声優!」は、アフレコでの独特なマイク前の立ち回りとか、アニメやナレーションなど現場ごとのルールの違いとか、よく話に聞く“声優あるある”が細かくリアルに描かれていて。職業モノの物語としてもすごく面白いんですけど、そこに新人声優の青春ドラマが交差しているのが素敵だなと思います。イヤホンズの3人は新人声優が新人声優を演じているという面白さもあって。

高橋 私はこの作品で初めてメインの役をもらったので、すごくうれしかったです。と同時に、今までお仕事がない時期が続いたのは双葉と一緒だったけれど、私は双葉と違って実家暮らしなのでお仕事がないときでもごはんが食べられる幸せな環境にいたので、それでも新人声優を代表して演じなければいけないというプレッシャーはありました。浅野さんや皆さんの経験がお話に詰め込まれているので、私にはまだまだ足りないものがいっぱいあるなと。

──そうですよね。新人声優のリアルを代表して演じなければいけない。

左から長久友紀、高野麻里佳、高橋李依。

左から長久友紀、高野麻里佳、高橋李依。

高橋 きっとこの作品は同じ業界の皆さんも観るだろうなと思っていたし、これから声優を目指したいと思っている人たちにもお届けするものだから「私で大丈夫なんだろうか……」って。

──しかも一ノ瀬双葉というキャラクターは、3人の中でも特に一般人に近い目線を持っている役なので、視聴者との橋渡し役として重要なポジションかもしれませんね。

高橋 そうですね。一番共感しやすいキャラクターなのかなと思います。

──そういう意味では3人の中でも飛び抜けたキャラを演じている長久さんはいかがでしょうか?

長久  いちごちゃんの役をいただいたとき、最初は「私とどこが重なっているんだろう」とすごく不安になっちゃって。まずは自分といちごちゃんの共通点を探すところから始めました。私もいちごちゃんと同じように上京して活動しているので、実家の家族からの応援がすごく励みになるんですね。あと私、もともとはすごくネガティブに考えがちなんですけど、いちごちゃんに出会ってからポジティブに変わってきました。人に悩みを相談できず家にこもっちゃうタイプなんですけど、いちごちゃんのおかげで役者としても人としても成長できたような気がして。背中を押してもらえる大切なパートナーというか……つがい?

高野 つがい?(笑)

長久  パートナーのほうがきれいかな(笑)。私はこの作品に出ることが決まってから自分のWikipediaが作ってもらえたし、ラジオとかユニット活動とか初めての経験をこの作品でいっぱいさせてもらえているので、新人でまだ未熟ですけど、1人でも多くの方々にこの作品の魅力を伝えられたらいいなと思っています。

──本当に三者三様の新人声優のパターンが描かれていて、高野さんが演じている小花鈴は最年少の中学生ながら子役出身で声優としてのキャリアも一番長いという役で。

高野 小花鈴ちゃんは芸歴10年ということで、まだ声優1年半の私が10年目の貫禄を演じなくてはいけないので、すごくプレッシャーを感じていました。でも2人(高橋と長久)が鈴ちゃんとの共通点を教えてくれたり、原作マンガを描いてくださっている畑健二郎先生から「声がすごく合ってる」と言ってもらえたりして、少しずつ自信が持てるようになりました。「私を選んでもらったんだから、精一杯演じなくてどうするんだ!」ってどんどんプラスに考えられるようになって、今ではもうつがい……じゃなく(笑)、パートナー?

長久  パートナー(笑)。

高野 声優人生で最初に得た大事なパートナーの1人になりました。私の家族は声優のことを全然知らなくて、私が演じることをきっかけに「それが声優!」を観てくれているんですけど、放送が終わるたびに「こんな怖いことがあるの!?」って心配していて。

浅野 ふふふ、怖いこと(笑)。

高野 「こんなことをやってるんだ」って私のお仕事のことを新鮮に楽しんでもらえていることがうれしくて。声優の舞台裏をリアルに、それでもポップに描かれているので、いろんな人に観てほしいなと思います。

声優は一朝一夕にはスターになれない

──声優の先輩であるAice5の皆さんとしては、イヤホンズの3人が演じていることはやはり懐かしく、かつ身につまされるものだったりするんですか? デビューしても次につながる保証はないとか、新人のうちは生活もままならないとか、やけに生々しいなと感じるんですけど。

浅野 アフレコに来てくれた私たちの先輩方も「ああ、こんなことあったなあ」っておっしゃってますね。

左から高橋李依、浅野真澄、堀江由衣。

左から高橋李依、浅野真澄、堀江由衣。

──声優の方こそ楽しめる部分も多い作品かもしれませんね。

浅野 1話では野沢雅子さんがゲストで来てくれたんですけど(第1話「アフレコ」)、まだ声優という職業がない頃にご自身が体験されたことを、スタジオのみんなを巻き込んでお話してくださって。

──野沢さんをはじめ、神谷浩史さん、田村ゆかりさん、銀河万丈さん、堀江さん、釘宮理恵さん、小山力也さん、真地勇志さん、日高のり子さんといった声優の方々が実名で登場するのもこの作品の特徴で、皆さんの先輩としての説得力がすごいんですよね。現実とフィクションが交差する中で、どの程度までリアルに描こうと思ったんですか?

浅野 シナリオライターさんとお話をする段階で「声優は一朝一夕にはスターになれないんです」というのは強く説明しました。役が決まってもそれで一生メシが食えますということはなくて、そのあと挫折することもあるし、うまくいったと思って油断したら失敗しちゃうこともある。成長するとしても一歩ずつなんだということは強調して書いてもらっています。例えばイベント出演が決まったときも(第5話「イベント」)、いちごちゃんは自分のことでいっぱいいっぱいなんです。イベント全体のことが考えられるようになるなんてもっと何年も経ってからで、自分のことしか考えられない。そこをわかってもらった上でお話にするのは大変ですね。すぐにスターになれる印象があるみたいだけど、大変だよね?

堀江 うん。スター……にはなれないです(笑)。ちょっとずつだよね。じりじり。

神田 じりじり、ぐりぐり。ぐりぐりしてます。毎日毎日。

堀江 そこをこの作品はちゃんと描いてくれているので、ちょっとうれしいなと思うところはありますね。一見ヘラヘラして見えたとしても、実はこういうことがけっこうあるんだよみたいな。声優の立場からしたらすごくうれしい作品です。

長く続ければ続けるほどやっていくのは大変

──そもそもアフレコ作業は普段見られないし、我々が目にするのはステージでのイベントや歌を歌ったりする場面だけだから、華やかな一面だけが印象に残ってしまうところはあるでしょうね。でも実はかなり職人的なお仕事なんだなというのがよくわかる。イヤホンズの3人は今まさにその荒波を経験しながら演じているという。

左から神田朱未、木村まどか、たかはし智秋。

左から神田朱未、木村まどか、たかはし智秋。

神田 でもそれは私たちにとっても永遠に続いてますから。今もね。

浅野 10年やったら10年やっただけのキャリアを求められるし、長く続ければ続けるほどやっていくのは大変で。山で言えば、私たちのほうが急勾配にいるよね(笑)。

神田 いつ落っこちるかわからない(笑)。

堀江 ベテランの皆さんなんて、垂直なところにまっすぐ立ってるみたいな(笑)。鍛え方が違う感じ。

──口数が少なくて一見怖い先輩、家守さんのようなキャラクターが出てくるのもこの作品のリアルなところですよね。ぶっきらぼうに冷たくあしらわれるけど、その奥にある優しさにあとで気付かされたり。

堀江 今もそうですけど、新人のときは特にミスをすると「うわあ、みんな怒ってるんじゃないかな」と思うものだし、「こんなこともできないの?」(明るい口調で)のニュアンスを、言われてるほうは「こんなこともできないの?」(重い口調で)ととらえちゃうものですよね。ミスしたときは「わあできない、どうしよう」とか「ダメだ、みんなを待たせちゃってる」とか今でも不安になるのは変わらないです。

神田 あと今は自分が後輩に忠告できるかというと、やっぱり勇気を振り絞らないと言えないですよ。「そこ、ちょっと間違ってない?」とか「ちゃんとやってる?」とか。思っても口にできなかったりするから、言ってくださっていた先輩たちはすごいなって。今思うと。

Aice5 ニューシングル「Be with you」 / 2015年9月30日発売 / 1296円 / EVIL LINE RECORDS / KICM-1629
「Be with you」
収録曲
  1. Be with you
    [作詞・作曲・編曲:清竜人]
  2. あなたのお口にAice5クリーム!
    [作詞:エンドウ.(GEEKS)、Aice5 / 作・編曲:エンドウ.(GEEKS)]
  3. Partyしようよ!
    [作詞:あさのますみ / 作・編曲:大川茂伸]
  4. Be with you(off vocal ver.)
  5. あなたのお口にAice5クリーム!(off vocal ver.)
  6. Partyしようよ!(off vocal ver.)
イヤホンズ ニューシングル「光の先へ」 / 2015年9月30日発売 / 1296円 / EVIL LINE RECORDS / KICM-1628
「光の先へ」
収録曲
  1. 光の先へ
    [作詞:下地悠 / 作・編曲:大久保薫]
  2. ヒーローじゃなくていい
    [作詞:あさのますみ / 作・編曲:大隅知宇]
  3. Love Power
    [作詞:有森聡美 / 作・編曲:橋本由香利]
  4. 光の先へ(off vocal ver.)
  5. ヒーローじゃなくていい(off vocal ver.)
  6. Love Power(off vocal ver.)
イヤホンズ 単独1stライブ

2015年10月11日(日)東京都 原宿アストロホール
※チケット完売

イヤホンズ vs Aice5

2015年11月22日(日)東京都 NHKホール

<出演者>
イヤホンズ / Aice5
料金:7560円
一般発売:2015年11月7日(土)

Aice5(アイス)
Aice⁵

堀江由衣、神田朱未、浅野真澄、木村まどか、たかはし智秋からなる声優ユニット。堀江の発案から、以前から親交の深い間柄であった5人により結成された。2005年10月の活動開始以来、6枚のシングルと1枚のオリジナルアルバムを発表するも、2007年9月の神奈川・横浜アリーナ公演「Aice5 Final Party LAST Aice5」をもって解散。以降はそれぞれの活動を続けていたが、2015年7月、浅野が原作を手がけるテレビアニメ「それが声優!」への出演決定を機に再結成を果たした。同年9月にはおよそ8年ぶりのニューシングル「Be with you」をリリース。11月には東京・NHKホールにて、「それが声優!」から誕生した新人声優ユニット・イヤホンズとの合同ライブ「イヤホンズ vs Aice5」を行う。

イヤホンズ
イヤホンズ

2015年夏放送のテレビアニメ「それが声優!」で主演を務める声優の高野麻里佳、高橋李依、長久友紀の3人からなるユニット。「それが声優!」作中で新人声優3人が結成するユニット「イヤホンズ」が現実でも活動を開始したというコンセプトのもと、同年6月にシングル「耳の中へ」でデビュー。翌7月にはアニメのオープニングテーマである「それが声優!」を2ndシングルとして発表した。9月には3rdシングル「光の先へ」をリリース。10月には東京・原宿アストロホールで初のワンマンライブ、11月には約8年ぶりに復活を果たした声優ユニット・Aice5との合同ライブ「イヤホンズ vs Aice5」を東京・NHKホールにて開催する。