イヤホンズ|インタビューでも実験!? 普通じゃない5年間の普通じゃない“進化論”

□□□三浦康嗣と2度目のタッグで作り上げた「記憶」

──まずは録り下ろしの新曲についてお聞きします。「記憶」は「あたしのなかのものがたり」に続く三浦康嗣(□□□)さんとのタッグですが、これはまさにその進化系というか、「あたしのなかのものがたり」で行われた音楽的実験をさらに押し進めたような内容ですね。これ、デモの段階ではどうなっているのか想像もつかないですけど……。

長久 これ、3人で歌って3人でしゃべって3人で合うわけ……ないよなって不安になりました。 

高野 セリフだもんね、ほぼほぼ。

長久 韻を踏んでいたり踏んでなかったり、クリックを聴いていてもよくわからなくて……レコーディングは楽しかったけど大変だった。初めて40テイクぐらい録りましたもん。

高橋 えーっ!

長久 ホントはもっと録ろうとしてたんだけど、ミキサーさんが「次があるから」って。

高橋 がっきゅじゃなくてミキサーさんの後ろがあって!?(笑)

長久 ミキサーさんの後ろがあって40テイクぐらいで終わったんだけど、すごくこだわりたいところがあったんです。「そう こんな風に そうこんな風に」のところ。まず、最初ははかなげな感じで表現したんだけど、息は多めじゃなく、声は細いんだけど震えないで……とか細かい調整があって。一度OKになったけど、聴き直したらまた「もうちょっとここを」となって、そこから40テイクぐらい(笑)。私、2人の好きなところ言っていいですか?

高橋 どうぞどうぞ。

長久 まりんかが高1の夏を演じてるんですけど、「下駄の音? 祭囃子? 風鈴……」でまりんかの世界が一気に広がるんですよ。聴いていて景色がはっきり変わる。まりんかのターンが終わったら、次はりえりーが5歳を演じるんですよ! この5歳のあどけなさがすっごいかわいくて! その5歳が「来年再来年 ろうそくがどんどん増えていったら?」って詩人のようなことを言ってるんですけど、それが大人の感じじゃなく、ちゃんと5歳が未来に対する不安を抱えているような感じがあって。ここの2人の表現が本当にすごくて、先に2人が録ってくれていたからこそ、私が大人の女性を演じるにあたってすごくやりやすかった。2人が先で本当によかったなと思ってましゅ。

高橋高野 ましゅ。

──1人の人間の人生を3人が年齢を分けて演じるというだけでも難解なのに、その中で「哲学的な思考を巡らせている5歳児」を声で表現するって、相当ハイレベルな要求ですよね。

高橋 感覚でやりました。この曲はあまり考えすぎるといけないなと思って。「頭のこの音を立てたほうがいいな」とか「ここは息を吸わないほうが聴いてて気持ちいいだろうな」みたいなところが多かったので、感情のポジションだけ決めてやったらこの音になった、という感じが近いです。

高野 へえー、すごい。

高橋 とはいえ、幼い記憶だから舌の使い方は幼くしたいなと考えたところもあるし。でも、ふと子供が我に返る瞬間はきっと悲観的ではなかったりする……その感覚になって考えたらああなった、って感じです。死を受け入れていく感覚? 慈愛に満ちた感覚に近いのかなと思うと、死ぬけど悲しんじゃいけないんだな、走馬灯って悪いものじゃないんだな、みたいなことを思いました。まりんかはどう?

長久 まりんかは甘酸っぱいよ。甘酸っぱい。

インタビューの様子。

高野 そうですねー、私は「セリフを読むぞー」って現場に行ったんですけど、リズムを当てはめなくちゃいけない場所とか強調したほうがいい場所がたくさんあって、「ああ、セリフが思うように言えない」というもどかしさが強かったです。言いたい気持ちや強調したい部分も、抑えたほうがメロディラインに合うとかリズムが心地よく聞こえるとか……私はそういう部分を多く感じたので、どの塩梅がこの曲にとっていいんだろうか、3人の声が合わさったときにバランスがいいのか。「あたしのなかのものがたり」を歌ったときにも思ったんですけど、2人のことを思い浮かべながら、2人と同一人物でありながらも年齢の違う、全然気持ちの違う“私”を持っていなくちゃいけないのがすごく難しいんです。1つにまとまっていたほうがいいのか、まとまっていないほうがいいのか、正解が見えづらくて。

──そこをどう表現するかは皆さんに委ねられているんですね。三浦さんからは具体的な指示はなく?

長久 リズムに関してはめちゃくちゃありました(笑)。裏拍取るのが苦手で。だからバックの音を切ってカウントだけで録ったりしました。

──結果すさまじい曲が仕上がりましたが、これをライブで表現するとなると、さらに苦労がありそうですね。

長久 これ……どうするんですか? やるの?

高橋 おおお……。進化してこ!(笑)

過去のイヤホンズを引用した「渇望のジレンマ」

──「渇望のジレンマ」は「神獄塔 メアリスケルターFinale」というゲームのオープニング主題歌として制作された曲ながら、このアルバムの“進化論”というテーマもうまく落とし込まれていますよね。

高橋 この曲にはイヤホンズの過去曲がいっぱいちりばめられているんです。デモを聴いたときは感動しました。Dメロが同じ「神獄塔 メアリスケルター」シリーズの主題歌だった「予め失われた僕らのバラッド」と同じメロディになっていたり。なのでレコーディングのときは、あのときのちっちゃい天使をイメージして、ちょっとかわいめに、ちょっと無機質に歌ってみたりしました。

長久 この曲好き。フラットがいっぱい入ってる……これはフラットなの? シャープなの? よくわかんないけどその曲調の感じが好き(笑)。マイナーな、このダークな感じ? ツノ付けたい。

高橋 わかる! ダーン!みたいな。音楽的な語彙がないんですよ、私たち(笑)。

高野 私は「メアリスケルター」のゲームユーザーなので、「Finale」がめちゃくちゃ気になりました。早くゲームやりたい(笑)。オープニング主題歌だから映像が付くだろうし、みんなこの曲を聴いてからゲームに入るわけだから、曲のどこかにこのゲームの道筋というか展開が含まれてるんじゃないかと思うと楽しみで。

高橋 まりんか、ずっと「続編出ないかな」って言ってたんですよ。

──ゲームそのものにそこまで愛情があると、プレッシャーも感じますよね。好きなゲームの世界観を背負わなくちゃいけないという。

高野 あー、確かにそうですね。でも主題歌に選ばれたことはうれしかったですし、曲と一緒に高まってもらえたらうれしいなというタイアップならではの気持ちがありますね。

「忘却」+「再生」=「循環謳歌」

──同じく「神獄塔 メアリスケルターFinale」のエンディング主題歌に採用された「循環謳歌」はまた実験的な試みで、「進化の過程盤」に収められている「忘却」「再生」の2曲を同時再生したのが「循環謳歌」という形になっています。

長久 これは私たちよりも、作った月蝕會議さんが大変だったと思います(笑)。

高橋 無機質なものと感情的なものというか、2つのメロディでそれぞれ歌っている内容が異なっていて。それが1つになって流れることでまったく真逆の歌詞になっていたりして、物語のある素敵な曲だなって思いました。

長久 レコーディングは私が最初だったんですけど、「忘却」を歌ったあとにその説明を聞かされて(笑)。これは「忘却」と「再生」それぞれの歌詞の対比に注目してほしいですね。それが合わさったときにまた感動が生まれる、二重においしい曲です。

高野 めっちゃ卒業式ソングって感じするよね。

高橋 わかるー!

高野 「メアリスケルター」の最後を想像してウルウルしちゃって、「メアリスケルター」のキャラクターたちの卒業をイメージして歌いました。

長久 これ、ライブで歌うときはコマクちゃんに「忘却」を歌ってもらって、私たちが「再生」を歌うとか……。

高橋 えっ、全部任せちゃうんだ(笑)。上手と下手で分かれようよ。できるかな? じゃあ、まりんかは両方(笑)。