それぞれの成長、それぞれの変化
──それぞれこの5年で一番伸びたところはどこだと思いますか? 1人ずつ、ほかの2人が評価してもらえますか?
高橋 はい! 私はまりんかのここが好きだなーと思うところがあって。私たち2人に甘えてくれるんですよー! えへへ。「これ私たちにだけじゃない?」と思わない?
長久 うん、うん。そうであってほしいし(笑)。
高橋 まりんかのこの表情が見られるのは私たちだけ、って思う瞬間があるもん。
長久 でも私のほうがもっと甘えられてると思うよ。だって、たまに塩対応の目をされるから(笑)。あんなに人に気を遣える人が、私に対しては塩対応の目ができるなんて、甘えてるからだと思う(笑)。
高橋 もともと人に頼るのが苦手な子だったと思うんですよ。そんな子が「肩の力が抜けているってこんな表情なのかな」という顔をしているのを見ると、私のほうも力が抜けてきて……居心地がいい。えへへへ(笑)。
長久 それを言ったら私もまりんかにありますよ。あの、ありがとう。
高橋 何それ!
長久 まりんかは3人のセンターで、私とりえりーの位置関係をいつも見てくれているんです。昔は自分の振り付けで精一杯で、3人の距離感とか、振り付けの手の高さや角度なんかも先生に指摘されないとわからなかったんだけど、今はまりんかが言ってくれるのがすごくありがたくて。成長というと、そこはすごく大きいなと感じました。
高野 ありがとう。なんか……嫌ですね、こういうの(笑)。じゃあ私からりえりーに。私は最初、自分がうまくならないと2人の足を引っ張っちゃうと思って、自分のことで精一杯だったから2人のことが見えていなかったんです。でも今になって思うと、りえりーはやっぱりユニットのリーダーであり、歌にも芯のあるリードボーカルだなと感じるんです。りえりーの声が入ることによって曲に芯が通るというか。それって私やがっきゅが要らないとか何かが足りないというわけではなくて、りえりーの存在が私たちを引き立てて、私たちの存在がりえりーを引き立てている、持ちつ持たれつの関係になったからこそ、りえりーの芯の通った声が主人公みたいだなって。
長久 すごい……表現がすごいね!
高野 もちろん曲によって主人公は代わっていいと思うんですけど、りえりーの声はすごく主人公らしさがあって、私はうらやましいなって思うんです。パフォーマンスの中でも、曲の中でも、イヤホンズのリーダーとして引っ張っていってほしい存在です。
高橋 うわー、がんばろ……。
長久 りえりーは突っ走ってるところがあって、「私はこう思う。以上!」みたいな感じで、私たちの意見を聞くというよりは、自分の意見を持って進むリーダーだったんです。でも今は、自分の考えをしっかり伝えたうえで、私とまりんかの意見を引き出してくれる。その引き出し方も、私たちがすごく話しやすいように考えてくれるんです。それはこういうインタビューの場はもちろん、ラジオのトークなんかでも感じるし、イヤホンズの今後を考える会議なんかでもそう。甘えるときは甘えてくれるし、なんというか、リーダーとしてちょうどいい塩梅です。それは自分には絶対できないことだからこそ、いてもらわなきゃ困る存在というか。
高橋 そうなっているのならうれしいです。じゃあ最後にがっきゅ。
長久 褒めて。15分ぐらい。
高橋 15分は長い(笑)。2分で終わらす。がっきゅさー、歌うまくなったよね! レコーディングのとき「これ、録ったまんまなのにめっちゃうまくない!?」みたいな。
長久 エンドウ.(イヤホンズの楽曲を多数手がける月蝕會議のメンバー。ロックバンドGEEKSのギターボーカルも務める)さんと同じこと言うね(笑)。
高橋 あ、ホント? 歌声の幅が広がったし、曲によって表情も違うし。終わり。
長久 短っ! もうちょっとで気持ちよくなれたのに!
高橋 あとはまりんかに。
高野 私もそう思ってて。さっき、りえりーの声を主人公みたいと言いましたけど、がっきゅはヒロインだなって思うんです。芯の通った声はりえりーで、そこに色を付けていくのはがっきゅ。曲をカッコよくしてくれるのがりえりーだったら、ポップにだったり妖艶にだったり、女性的な色を付けてくれるのががっきゅ、みたいな。脚色の仕方がその物語を左右するような……がっきゅが曲をいいようにも悪いようにも調理しますよ、という存在になっていて。がっきゅが私と違うところにいてくれるから、私も安心し自分でいられる部分もあるんです。最初の頃、自分とがっきゅの声が区別つかないことがよくあって。2人共、得意とするところが高音域だったから、自分でわからなくなっていたんです。「私って個性がないのかなあ」とか「もっと工夫したほうがいいのかなあ」と悩む部分でもあったので、がっきゅが今すごく自分というものを磨き上げてくれたおかげで、今私はラクをしていられる(笑)。
長久 えーっ、そんな感じ?(笑)
ライブで見せるイヤホンズの個性
──イヤホンズ独自の個性を考えたとき、ライブのスタイルというのも1つ大きなところだと思うんです。先ほど高橋さんがおっしゃったように、Aice5とのライブではまだ自分たちならではの表現ができあがっていなかったと思いますけど、その後は3人の“声優であること”に特化したスタイルを強めていますよね。
高橋 最初の頃はいろんなアーティストさんとの対バンライブを経験して、皆さんの「自分たちの個性はこうです!」というパワーを目の当たりにしたとき……ただ単に歌って踊って笑顔を振りまくだけでは意味がないな、と痛感したんです。圧倒的に場数が違うし、アウェーがどんどん怖くなってしまって(笑)。その恐怖が少しだけなくなったのが、去年のEVIL LINE RECORDSの5周年イベントで(参照:特撮、ももクロ、ヒプマイ、ドレスコーズらの“闇鍋”実現!5周年のEVIL LINEを盛大に祝福)。所属レーベルというホームの場ではあるんだけど、さまざまな個性がひしめく中で、私たちは唯一の声優アーティストとして「新次元航路」と「あたしのなかのものがたり」という2曲を持っていったんです。それで「これがイヤホンズだ」と自信が持てました。
──まさにあのライブで披露されたのがその2曲だったことに驚いたんですよ。イヤホンズを知らない人にも聴いてもらえるショーケース的な場所だと考えると、もっとコンパクトでわかりやすいキャッチーな曲を選んでもいいところを、芝居仕立ての「新次元航路」とSFタッチの「あたしのなかのものがたり」で勝負したことにイヤホンズとしてのアイデンティティを感じたんです。
長久 私たちは「えっ、『サンキトウセン!』やらなくていいんですか?」って言いました(笑)。「いや、イヤホンズはこれで行く」というのがプロデューサーの強い意志で。
──あの2曲には特に、これまでイヤホンズが培ってきた声優アーティストとしての新しい形が表現されていると思うんです。声を生かした表現で聴覚を刺激する、イヤホンズという名にぴったりなスタイルを確立した2曲なのかなと。
高野 でも最初は不安だったよね。ホントにこの2曲で盛り上がるのかなあって。コマクちゃんたちがワーッと盛り上がるのを見て、ほかのアーティストのファンの方も「イヤホンズは楽しいグループだな」と受け入れてくれるだろうなと思っていたので、盛り上がらなかったらどうしよう……という不安はありました。でも、このライブを体験して変わったよね。
高橋 うん。「盛り上げた人が優勝」というわけではない、声援をもらうことだけがライブじゃないんだなって思いました。
進化とは?
──ここからは新作「Theory of evolution」について聞かせてください。進化論の意味を持つタイトルで、「イヤホンズ流音楽の進化論」というコンセプトが立てられていますが、皆さんはこれをどう解釈しましたか?
高橋 「何を言ってるんだろう?」と思いました(笑)。最初はね。どんな曲が入るかもわからないし、いきなり「音楽の進化論」って漢字をいっぱい並べられても、と思ってしまって。でもいざ作り始めてみると、既存曲も新録だったり、そのアレンジも単なるリアレンジ、リミックスじゃないからすごく楽しかったです。あと、進化って己からするものではなく「いつのまにかしてたもの」だと思うんですね。同じ楽曲、例えば「耳の中へ」や「背中のWING」のようなデビュー当時の曲を歌うとき、「こんなふうに成長しましたよ」と歌い上げるんじゃなく、「自然と歌ってみたら……進化してる?」みたいな。進化論ってそういうこと?みたいなことはレコーディングをしながら理解していきました。
長久 自分では「進化しました!」って言えないもん。先輩たちがまだまだ遠い存在なのに「私たち、5年でこんなに進化しましたよー」なんて大手を振って言えないなって。四足歩行から立ち上がったものの、まだ人類までは行けてない気分なんですよね。まだ背骨曲がってる(笑)。でも進化“論”であって、私たちは今進化の途中なんだから「今の私たちでいいんだ」って。音楽の進化!じゃないから。
高野 なるほどー。
長久 今ある自分の声で自分の表現で、曲ごとのテーマを自分の中で解釈して歌っていけばいいのかなって。
──進化を表明するというよりも、進化を記録するための実験体のような。
長久 それそれ! いい表現です(笑)。
高橋 確かに、デモテープで仮歌が届くとき「実験体だな」って気がしない? 今の取材だって、これどうなっちゃうんだろう……みたいな。
高野 「進化したなあ」と思うのは客観的なものだから、自分たちで成長した部分やよくなった部分を口に出すことはあっても、「進化しました」なんて言うことはなかなかないですよね。いいアルバムを作らねばならぬ、とはいつも思うことだけど、自分たちが進化しているんですという名目で作るにはちょっと荷が重いなって。でも「今の自分たちを見せることが進化論なんだ」って、今がっきゅに気付かされました。
長久 たまにはいいこと言うんだよ?
高野 なるほど。
長久 塩対応だな……。
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□□□三浦康嗣と2度目のタッグで作り上げた「記憶」