MVのスクショタイムでズルをした

──「一件落着ゴ用心」のミュージックビデオには“スクリーンショットタイム”が設けられていますね。スマホでの視聴を前提としたMVではlyrical schoolの「RUN and RUN」が話題になりましたけど、動画の再生中に視聴者にスクショを撮らせるっていうのも面白いです（参照：イヤホンズ、新曲MVで串田アキラが吠える）。

高野　ファンの皆さんも「これは楽しい」って喜んでくださっていて。今までもTwitterで「MV観たよ」っていうリプライはいただいていて、もちろんそれだけでもすごくうれしいんですけど、今回はそのご報告がスクショと共に送られてくるので、私たちとしても新鮮でした。

──物的証拠が添付されるわけですもんね。僕もけっこう撮ったんですけど、なかなか高野さんに当たらなくて。逆に高橋さんは同じポーズのスクショが撮れてしまったり。

高野　私も、自分でご報告しようと思って何回も撮ったんですけど、何回撮ってもりえりーになりました。

高橋　私、レア度低いな（笑）。サビでのじゃんけんとあっち向いてホイは、ゲーム感覚でも楽しんでほしいです。

──高橋さん、グーとチョキを一緒に出してるのありましたよね？

長久　ズルじゃん！

高橋　「勝てないでしょう？」みたいなドヤを顔していました。映るのは一瞬だからズルしてもバレないかなって。まあ、たった今バレましたけど（笑）。

イヤホンズがおしゃれな曲をどうやって歌うのか？

──カップリングの「理想郷物語」は、昭和歌謡感のあるジャジーな曲に仕上がっていますが、これも今までのイヤホンズにはない新しいカラーですね。

高橋　レコーディングのときに山田（高弘。「理想郷物語」の作詞・作曲・編曲を担当）さんがいらしてたので、「今回の曲は食べ物に例えたらどんなイメージですかね？」ってお聞きしたら、「ナポリタンだね」っておっしゃったんですよ。昭和のこじゃれたメニューみたいな雰囲気が曲のイメージにぴったりだなって。

──日本発の洋食みたいなイメージも、曲調に合っている気がします。

高野　最初にデモを聴いたとき、正直、イヤホンズにはちょっとハードルが高い曲だなって思ったんです。今までいろいろなタイプの曲を歌ってきましたけど、こんなおしゃれで妖艶なジャズ曲を、イヤホンズがどうやって歌うんだろうって。

高橋　ね。だって、「イヤホンズ」だもんね。

長久　ちょいダサなイメージがあるからね。

高野　でも、イヤホンズらしい、声優として何にでも染まれるようなキャラクター性が、曲間に挿入されるセリフとかにも表れてるので。特に、最初のりえりーのセリフがね。

高橋　「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい」みたいな。

──見世物や大道芸の呼び込みの口上のような。

高野　曲の冒頭でりえりーがリスナーさんをこの世界に引き込んでくれているというか、「これはイヤホンズの曲だよ」って宣言しているかのようで。あれがあるから、イヤホンズらしからぬ曲も、イヤホンズの曲としてするっと聴けるんじゃないかと思います。

新しい芝居の引き出しを作ってくれた曲

──前回のインタビューで、イヤホンズは“イヤホンズらしさ”みたいなものを積み上げたうえで、それを裏切りたいというお話をされていましたが、「理想郷物語」はその好例ですよね。最初は意表を突かれるものの、ちゃんと「あ、でもイヤホンズだ」と納得できる、説得力のある曲だなと。

長久　うれしい。

高橋　私は最後に収録したので、先に録っていた2人の歌からこだわりが伝わってきて。例えばBメロの「きっと あゝあゝ夢見て」っていう歌詞の「あゝあゝ」の部分とか、妖艶に歌っていたりしたけど、それが背伸びしすぎていない。そんなイヤホンズとして美しく聴こえるラインを高音域と中音域で歌ってくれていたから、あとは私はそれを低音域でしっかり締めたいなと。

──おっしゃる通り「妖艶」でありながら、一方で「一件落着ゴ用心」とは別の種類の強さも感じられました。

高野　曲としては、サビの「シャンシャンそれは ザンザンこっち 身が火照る」とか耳に楽しいリズムがあって、最初はきれいな女の人が舞ってるようなイメージだったんです。でも、私のセリフはそれとは対照的に、「私の魂は、閉じ込めようとすることなどできやしませぬわ」とぴしゃりと言い放つ、強いもので。きれいなだけじゃない、女性の格好よさ、威勢のよさを意識しましたし、この曲はセリフも含めて1つの曲なんだなって思いました。

高橋　私のソロパートには「興味、嫉妬が突き破る」とか、人の感情にまつわるワードがけっこうあるんです。なので、そういった感情を全部引き受けたうえで表現するというか、いろいろな感情を知っている女性を演じられたらいいなと思って。ネチっこくと言ったら変ですけど、いつもよりニュアンスを強めに付けて歌わせてもらいました。

──確かに、女性の情念めいたものも色濃く出ていますね。

長久　それです。レコーディングのときの私のメモにも「情念」って書いてあります。私たちは曲を歌うにあたって、事前に役作りをするというか、プロデューサーさんがキャラ設定を設けてくださるんですね。

──「一件落着ゴ用心」でいえば街を守るくノ一だったり「チャーリーズ・エンジェル」だったり。

長久　はい。「理想郷物語」の場合は、職業は舞台女優で、「極道の妻」的な気の強さがある、芯のある女性だと言われまして。その女性像が自分の中にだんだん降りてきて、それをセリフや歌に落とし込むんですけど、今まで私はそういう女性を役として演じたことがなかったので、自分の中に新しい芝居の引き出しを作ってくれた曲でもあります。