音楽ナタリー Power Push - イヤホンズ×エンドウ.(GEEKS)

対談で紐解く“イヤホンズロックオペラ”の作り方

24人分の声を演じ分けたコーラスワーク

──そういう表現方法に関して、一般的なシンガーとは違う、声優さんならではの指示の仕方ってあるんですか?

エンドウ. 彼女たちは声の役者さんだから、僕はいつも「○○風で」みたいな、キャラクター設定を伝えてますね。

──「予め失われた僕らのバラッド」でも、そういう形でオーダーを?

エンドウ. 今回は特にいっぱいしました。この曲のコーラスは、イヤホンズの3人にそれぞれ異なる声質で歌ってもらって、合計で24種の声を重ねてるんですよ。というのも、3人だけで数十人分のコーラスを演出しようと思ったとき、同じ声を重ねてもその声が太くなっていくだけで、大人数感が出ないんですよ。だから録るたびに喉の開き方や舌根の下げ方を変えて、演じ分けてもらう必要があって。どんなキャラをお願いしたっけ? 「少年」とか?

高橋李依

高橋 うんうん。

エンドウ. あと「28歳独身OL」とか? おのおのにどんな指示を出したか忘れちゃいましたけど、人格や年齢、性別を注文しましたね。それに3人共しっかり応えてくれて、さすが声優さんでした。

──イヤホンズの皆さんは、印象に残ったキャラはありました? あるいは「これ、嫌だったな」とか。

エンドウ. あったら教えて? 二度とそういうオーダーは出さないから(笑)。

長久 私のときは「未亡人」って言いませんでした?

一同 (笑)。

エンドウ. 言ったかもしれない……でも、声のイメージを音楽的、声楽的な言葉で伝えるよりも、なんらかのキャラクターを言ったほうが、勝手に自分の引き出しを開けてくれるんじゃないかなと。

高橋 私は、例えば「Cの音を出して」と言われるより、キャラクターの背景や設定をたくさん言っていただいたほうが、感覚的にはやりやすいなって思いながらレコーディングしてました。

高野 うん、エンドウ.さんが求めてる声質がどういうものなのかは想像しやすかったです。

──でも、3人で24人分ということは、1人8役ですよね? 大変さはなかったですか?

長久 楽しかった記憶しかないです。

高橋 逆に「あれ? もう終わり?」って感じで(笑)。

高野 ただ、それが合わさったときにどう聴こえるのかは全然想像できなくて。だから不安もあったんですけど、重なったら本当に厚みのあるコーラスになったので、さすがだなって思いました。

3人共声の武器を2つ以上持っている

──声質の話を続けると、3人共それぞれ違った声質をお持ちですが、イヤホンズというユニットの中で自分の声の役割って、意識されています?

高橋 下のほう。

長久 中くらい。

高野麻里佳

高野 じゃあ上のほうで。

──(笑)。ずいぶんざっくりですが、たしかに高橋さんが低音域、長久さんが中音域、高野さんが高音域で分けられますね。

長久 3人それぞれ出しやすい音域がちょっとずつ違うんですけど、そのおかげでおのおのが補い合えるというか。特にライブでは、りえりー(高橋)と私が出しにくい高音はまりんか(高野)ががんばってくれて、まりんかと私が出しにくい低音はりえりーががんばってくれたり。そういうのが自然と生まれましたね。

エンドウ. がっきゅはまさにアニメ「それが声優!」で演じた萌咲いちご的な、ピンク髪のツインテール系のかわいい声はもちろん、意外と大人っぽい声も出せるんですよ。だからレコーディングのときは、なんとなく彼女の役割を艶っぽい方向に誘導してますね。

長久 えへへ。艶っぽいだって。

エンドウ. ブースに入ってるときだけね(笑)。で、まりんかはやっぱりハイトーンがきれいに出るんだけど、実はちょっとダーティな歌い方もすごくうまい。彼女がデスボイスっぽい声を出してくれると、ぐいっと音が立つんですよ。一方りえりーは少年っぽい低い声が出せるから下のコーラスはもちろん上手だし、平歌でも主軸になれるというか。一番スタンダードな歌い方ができるので、いつもお手本として重宝してます。そんなふうに3人共2つ以上の武器を持ってるので、録る側としてはすごく助かってますね。

「それが声優!」の外側へ

──イヤホンズはもともとアニメ「それが声優!」から派生したユニットですが、今回のシングルはアニメからは独立した形で初めてCDでパッケージとしてリリースされる作品ですよね?

高野 そうなんです。今年の4月に、大槻ケンヂさんと共演させていただいた「現象のブレイド」というシングルも出ているんですけど、そちらは配信限定だったので。おっしゃる通りCDのパッケージとしては初めてですね。

──アニメの外に踏み出した状態の、今のイヤホンズの立ち位置を、どうお考えですか?

エンドウ. たぶんファンの人たちの中には、イヤホンズは「それが声優!」の原作者・浅野真澄さんが生み出したユニットで、浅野ボスが全部仕切ってるみたいなイメージを持ってる人もいると思うんですよね。でも、もうそうじゃないし、浅野さん含めアニメの制作サイドの人たちみんな、イヤホンズに「それが声優!」から巣立っていってほしいと思ってるように僕は勝手に感じてるんですよ。で、君たちはどう思ってるの?

高橋 確かに、浅野さんをプロデューサーだと思ってる方もけっこういらして、イヤホンズが何かしでかすと、ファンの方から「浅野さんに報告しなきゃですね」みたいな内容のお便りをいただくこともあって(笑)。だからこそ、そういう浅野さんへの密告がなくなって、イヤホンズ自体がきちんと窓口として知ってもらえるようになったときが、「それが声優!」から巣立ったと言えるときなのかな。まずは何かしでかさないようにします(笑)。

エンドウ. 最近の浅野先生は、ライブにふらっと遊びにくる程度でしょ? 生みの親として見守ってくださってる感じだよね。

「Animelo Summer Live 2016 刻-TOKI-」の様子。

長久 私は浅野さんと一緒の事務所なのもあって、事務所でお会いするたびに「最近、イヤホンズどう?」みたいに気にかけてくださって、今年のアニサマ(「Animelo Summer Live 2016 刻-TOKI-」)の前も「イヤホンズが出る日に行かせてもらうね」って。

高野 浅野さんと私たちの距離感自体は何も変わってないと思っていて、今でもLINEでちょいちょい連絡してくださいますし。「それが声優!」の放送前や放送中は「こういうのもいいかもしれないね」っていう、先輩としてのアドバイスをいただいていましたから。今こうしてイヤホンズがあるのはもちろん浅野さんのおかげだし、これからも浅野さんのような先輩の姿を参考にさせていただきたいです。

イヤホンズ ニューシングル「予め失われた僕らのバラッド」/ 2016年10月5日発売 / EVIL LINE RECORDS
初回限定盤 [CD+DVD] / 1836円 / KICM-91715
通常盤 [CD] / 1296円 / KICM-1716
初回限定盤CD収録曲
  1. 予め失われた僕らのバラッド
  2. Yummy Yummy Party
  3. 予め失われた僕らのバラッド Off vocal Ver.
  4. Yummy Yummy Party Off vocal Ver.
初回限定盤DVD収録内容
  • 「予め失われた僕らのバラッド」FULL MUSIC VIDEO
  • 「Yummy Yummy Party」CINEMAGRAPHS VIDEO
  • 「予め失われた僕らのバラッド」MAKING VIDEO
通常盤CD収録曲
  1. 予め失われた僕らのバラッド
  2. Yummy Yummy Party
  3. ヨロコビノウタ
  4. 予め失われた僕らのバラッド Off vocal Ver.
  5. Yummy Yummy Party Off vocal Ver.
  6. ヨロコビノウタ Off vocal Ver.
イヤホンズ

2015年夏放送のテレビアニメ「それが声優!」で主演を務める声優の高野麻里佳、高橋李依、長久友紀の3人からなるユニット。「それが声優!」作中で新人声優3人が結成するユニット「イヤホンズ」が現実でも活動を開始したというコンセプトのもと、同年6月にシングル「耳の中へ」でデビューを果たした。翌7月にアニメのオープニングテーマである「それが声優!」、9月には同じくアニメの挿入歌「光の先へ」をシングルとして立て続けにリリース。さらに同年11月には1stフルアルバム「MIRACLE MYSTERY TOUR」を発表した。2016年4月に大槻ケンヂとのユニット「大槻ケンヂとイヤホンズ」として配信シングル「現象のブレイド」を、同年10月にはニューシングル「予め失われた僕らのバラッド」をリリースした。

GEEKS(ギークス)
GEEKS

エンドウ.(G, Vo)、ミツ(B, Vo)、カオル(Key, Vo)、キョウヘイ(Dr, Vo)の4人からなるロックバンド。洋楽由来のメロディとぶ厚いコーラスワークを特徴とする。2008年の活動開始以降、精力的に音源を発表をする一方で2度にわたる東京・渋谷ハチ公前のゲリラライブ開催や、アメリカ・テキサス州のフェス「SXSW」に2年連続で出演するなど枠に捉われないバンド活動を続ける。2015年11月にはニューアルバム「WAVGLYPH」をリリース。2016年11月にはCD2枚組仕様のベストアルバム「GEEKEST」を発表する。