DUSTCELL 3rdアルバムインタビュー|長い長いトンネルを抜けよう──暗闇の中から見える「光」目指して (2/3)

Misumiにとっての海

──アルバムはキャッチーな「GAUZE」で始まり、最後にタイトルトラック「光」が収められています。歌詞を読みながら聴いていると、まるで最初から最後に至るまでに大きな流れが見えるような感覚がありました。アルバム1枚を通して聴くことで、視界が開けていくような。

EMA 私は「トンネルっぽいな」と思いました。長いトンネルを歩いているような感覚。

──本当に、そんな感覚になるアルバムです。「GAUZE」はどのようなイメージから生まれた曲なのでしょうか?

Misumi ライブを想定して作りました。ギターのノイズがライブ会場で鳴り始めたら「あの曲だ!」とわかる、そんな光景をイメージして。歌詞はちょっと初期のDUSTCELLっぽさがあるかもしれないです。

EMA うん。

「DUSTCELL LIVE 2023『DAWN』」豊洲PIT公演の様子。

「DUSTCELL LIVE 2023『DAWN』」豊洲PIT公演の様子。

Misumi あと、今回のアルバムの歌詞にはよく「海」が登場するんですけど、この曲もラストに「白の波止場で 不器用に繋いできた声が 海鳴りに混ざり響く」と、海が出てきます。

──歌詞の景色の中に海がよく現れるのは、僕も聴いていて感じました。海はMisumiさんにとって特別な原風景なのでしょうか?

Misumi そうですね。僕は2歳のときに父が亡くなっているんですけど、父はヨットがすごく好きで、海を愛している人だったんです。それもあってか僕も海が好きで、夜の海や、波の音、波のきらめき──そういうものをすごく美しいと思う。だから歌詞によく登場するのかな。「GAUZE」はラストのサビまで内に閉じこもっているような歌詞で、最後には開けていく。海や空って開けたイメージがあるので、曲のラストにメロディが変わって一気に開放される。その構成に海の景色がマッチしていたんだと思います。

たなかさんしか思い浮かばなかった

──2曲目「Nighthawk feat. たなか」は、Diosのたなかさんがフィーチャリングゲストとして参加されています。DUSTCELLにとってゲストを招いた作品は珍しいですよね。たなかさんを招いたのはどのような経緯で?

Misumi 今まで僕らは一度もフィーチャリング曲を作ったことがなくて、やるとしたら、たなかさんしか思い浮かばなかったです。たなかさんが前職のぼくりり(ぼくのりりっくのぼうよみ)時代に出された「没落」というアルバムはニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」をオマージュして作られたみたいで。僕もこの本に人生単位で影響を受けているので、勝手にシンパシーを感じるし、彼は今ボルダリングをやったり、フィジカルを鍛えるほうに行っているじゃないですか。僕も最近、筋トレとかをしていて、そこもシンクロするんです(笑)。あと、EMAとたなかさんの声はめちゃくちゃ相性がいい。まったく別の声だけど、それぞれ神々しさがあるというか。

──Misumiさんは、ニーチェのどういった部分に影響を受けているのでしょうか?

Misumi 人間として、真っ当に生きなくてもいいんだって……“中二”的とも言えますが(笑)、そういう思考がニーチェを通してインプットされました。「ツァラトゥストラかく語りき」に書かれているのは、言ってしまえば「人間などやめてしまえ」みたいな思想なんですけど、たなかさんは「人間辞職」という曲があって、僕もボカロで作った「オルターエゴ」で「人間なんて辞めちまえ」と歌っている。社会で生きづらさを抱えてきた中で、ニーチェに出会って救われたんです。

──EMAさんにとって、たなかさんはどんな人ですか?

EMA 18、19歳の頃、専門学校への通学中によくぼくりりを聴いていました。昔聴いていた曲を大人になってから聴くと、タイムトラベルするように当時の感覚を思い出すことがありますよね。たなかさんの曲は聴くとあの頃に連れ戻されるくらい日常に溶け込んでいた音楽です。それに、私はDUSTCELLのEMAにたどり着くまでにけっこう寄り道をしまして。前にたなかさんが「活動するうえで複数の名義があることは何も悪いことじゃない」と肯定的なことをおっしゃっていて、そういう部分でも勝手にシンパシーを感じますね。

EMA

EMA

Misumi 「Nighthawk」のテーマはEMAが提案してくれたんだよね。

EMA うん。たなかさんもぼくりり時代に「輪廻転生」という曲を出しているので、「人間として変化していくことの肯定」をテーマにしたいなと思って。自分でも歌っていて楽しかったし、救われました。

Misumi 僕としては「変化の肯定」というテーマから宮沢賢治の「よだかの星」を思い浮かべました。「よだかの星」は醜いよだかが星になる物語ですけど、あの作品が歌詞のベースになっているんです。1番では星になるまでを描いていて、2番ではまた地上に降りてくる。「変化の肯定」というテーマは、歌詞に落とし込めたかなと思います。

一貫して「変化」について書いている

──3曲目の「FRAGILE」は歌詞のモチーフがとても気になりました。この曲は月が舞台になっていますよね。

Misumi はい。僕もEMAも「宝石の国」というマンガがすごく好きで、その物語の舞台として月が出てくるんです。「FRAGILE」はもし「宝石の国」の主題歌を書くなら、というつもりで制作しました。「Nighthawk」と同じく、「FRAGILE」も変化を歌った曲なんですよね。「宝石の国」は主人公のフォスフォフィライトが物語が進むに従ってだんだんと変化していき、人間性が薄れていって、自分の目的を忘れてしまう……という話なので。今思いましたけど、変化していくことが、僕は好きなのかもしれないです。

──なるほど、変化。

Misumi 全体を通して僕は変化について書いている気がします。それは今回のアルバムもそうだし、ボカロ時代から一貫している部分でもある。

──「変化」はMisumiさんが何かを表現するうえでの人生的なテーマなのかもしれないですね。

Misumi そう思います。

Misumi

Misumi

──そして今作には、2020年に配信リリースされたシングル曲「PAIN」がミックスを新たに収録されています。この楽曲がアルバムに収録されるのは初めてですが、なぜこのタイミングだったのでしょうか。

Misumi このアルバムの前に出した2作のミニアルバム(「Hypnotize」「ROUND TRIP」)では空気感に馴染まなかったんですけど、「光」の中ではサウンド的にも違和感がなくて、しっくりハマったんですよね。

EMA 確か「PAIN」は夏に書いた曲で、夏っぽさを出そうとしたのを覚えています。あと自分にしかわからないつらさや悩みって人間誰しもあると思いますが、「PAIN」を書いた当時は、そういうものがあった時期だったなと。普段なら家族と関わると嫌なことを忘れてリフレッシュできるはずなのに、ふとした瞬間に「私の悩みは、家族にわからないんだ」と勝手に疎外感を覚えてしまったり。そういう気持ちが「PAIN」に落とし込まれています。

──そうした感覚は、今のEMAさんには残っているものですか?

EMA 時たまあります。でも、当時ほどは大きくはないですね。