DUSTCELL「ROUND TRIP」インタビュー|原点回帰するなら今、勢いそのままに未来へ突き進む (2/2)

EMAが抱える作詞活動への違和感

──「ROUND TRIP」の中では、EMAさんは「SAVEPOINT」と「過去の蜃気楼」をMisumiさんと共作で作詞されていますね。「SAVEPOINT」はどのように作詞されたのでしょう?

Misumi 「SAVEPOINT」はEMAが作詞した「LAZY」(2020年発表の1stアルバム「SUMMIT」収録)という曲が元になっています。

EMA 実は、私がスランプで歌詞がまったく書けなかった時期があったんです。DUSTCELLは私の人生を変えてくれた大切な場所ですが、DUSTCELLとして作詞をし続けることについて、メンタル的な成長とともに違和感も覚えてきて。それをMisumiさんに話したら、「EMAのやりたいようにソロ活動で作詞しても全然いいし、書きたくなったらDUSTCELLで書けばいい」と優しい言葉をかけてくれた。それに、「LAZY」は私にとって特別な曲だったので、「その対になる楽曲の歌詞はがんばって書きます」ということになり、できたのが「SAVEPOINT」です。

──EMAさんがDUSTCELLとしての作詞活動に違和感を覚えているという話を聞いて、Misumiさんはどう思われたのでしょうか?

Misumi そうですね……EMAは自分の歌詞とかメッセージを純粋に吐き出せる場所が欲しいんだと思いましたね。ユニットだとどうしても個性が混ざり合っちゃうので、純粋っていうのがキーワードなのかなと。例えば、RADWIMPSの野田洋次郎さんがソロでillionとして活動されていますが、それにも近いのかなと感じています。なので今後ソロをやっていくことがあったら応援したいですし、僕自身もソロでボカロ曲を発表したりもしているので、それが結果的にDUSTCELLにいい影響をもたらすと思いますね。

──そう聞くと、「過去の蜃気楼」の中の「自分の言葉を自分の声で歌う喜びを知った 次第にそれも怖くなって下らない欲だけが残った」という歌詞が象徴的に感じられます。

EMA 「過去の蜃気楼」はDUSTCELLでの僕らにリンクしている歌詞で、何かを創作する人を象徴とした曲なんです。もともと私はDUSTCELLを組む前、別の名義で歌い手として誰かが作った曲をカバーする活動をしていまして。今もカバーは大好きなんですけど、音楽活動をするという点において、他人が作った曲に乗っかっているのは本当に音楽活動をしてると言っていいのかな?と、DUSTCELLを始めるとともに思い始めたんです。その違和感を覚えてから自分でもDUSTCELLという場を借りて作詞して歌うことが増えました。でも、勉強不足や視野の狭さを感じることもあり、あまり自分が書いた歌詞が好きじゃなくて。自分の言葉を自分の声で歌うのも億劫になり、やりたいことを理想の形にする難しさを知って、創作意欲だけずっと溜まり続けていた。それが「下らない欲だけが残った」という歌詞につながったと思います。

──そんな中で2曲作詞して、達成感はありましたか?

EMA 自分の作詞を好きになれないと言ったばかりですけど、「SAVEPOINT」を書くときに「LAZY」をたくさん聴き返したら、「意外といいこと言ってるな」という気付きがあったんです。作詞した直後は「LAZY」が全然好きじゃなくて、聴けないくらいだったんですけど、数年経って哀愁を感じたというか、このときはこのときでいいものを生み出せていたんだなって思えるようになって。それを何年か越しに知ることができましたね。

Misumi 「過去の蜃気楼」は一番のサビとラストのサビの歌詞だけ僕が書いてるんですが、僕が無理やり前を向かせたみたいなところがあると思います。全体的に自分のダメさをさらけ出すような歌詞で、絶望のまま終わっていきたくなかった。だから「過去の日々にさよならを 強く強く強く 明日へ明日へ 誘って放物線」という歌詞で救いのあるラストにしたかったんです。

EMA ミニアルバムの最後に入れた曲なんですけど、「一度過去に帰って、過去で気付いたものを忘れず、新しいところにそのまま進む」というコンセプトの作品のラストにめちゃくちゃふさわしい曲だと思います。曲順もみんなですごくこだわったし、そういう意味も含めて、「ROUND TRIP」に欠かせない曲です。

Misumi そうだよね。これがラストと考えると「明日へ誘って放物線」という歌詞も、ミニアルバムのラストのフレーズとしてもふさわしいものになってるなと今改めて思いました。

──「過去の蜃気楼」はDUSTCELLとして初のバンドサウンドの楽曲でもありますね。

Misumi はい。生ギター、生ベース、生ドラムのレコーディングを初めてした、“ザ・バンドサウンド”って感じの曲になりました。

──バンドサウンドの楽曲を作りたいという目的もあったのでしょうか?

Misumi 最初からそうだった気がします。バンドサウンドがやりたいねっていう。

EMA あと、ライブで披露したかったっていうのもあったよね。

Misumi そうだ。それまでは2人でステージに立ってたんですけど、昨年11月開催のワンマンライブ「PREPARATION」からギター、ベース、ドラム、キーボードのサポートメンバーの皆さんが入ってくれてバンド編成になったので、その影響もあったのかな(参照:DUSTCELL過去最大キャパで初バンド編成ライブ、観客のエネルギー受け取り「音楽やっててよかった」)。

「DUSTCELL LIVE 2022『PREPARATION』」の様子。(Photo by Takashi Konuma)

「DUSTCELL LIVE 2022『PREPARATION』」の様子。(Photo by Takashi Konuma)

──そして「SAVEPOINT」には歌謡メロっぽさがありますね。

EMA イントロはさわやかなんですけど、キーボードとかアコギとか入れていて、進化した「LAZY」というか。

Misumi 「SAVEPOINT」のトラックに関しては化学反応が起きたと思います。まず僕が「LAZY」を意識しながら四つ打ちのトラックを作って、キーボードとギターのフレーズはサポートミュージシャンの方に考えていただいたんですけど、上がってきたものがすごくよくて、曲が化けた。最近、自分たちだけで完結するんじゃなくて、人と関わることで生まれてくる化学変化がすごく面白いなと思っていますね。

前向きな「透明度」、救いがない「Kick It Down」

──3曲目の「透明度」はクリアなサウンドの切ない曲ですね。

Misumi これは最後にできた曲なんです。アルバム全体の流れを考えたときにこういうミディアムナンバーがなかったので、この曲ができてピースが埋まって、アルバムが完成した気がしました。

EMA サビのメロが強すぎるよね。

Misumi そうだね。めちゃくちゃいいものができたと思っています。

──歌詞にも透明感のあるフレーズが並んでいますね。

Misumi 曲名の「透明度」は、iPhoneの画像加工の「透明度」から来ていて、生きている実感みたいなものを濃淡で表現しました。傷付くことを避けて生きてきた結果、平凡で単調で生きている実感のない人生を送っている主人公が、傷付くことも恐れないで再び色濃い日々を歩き出すという、前向きな曲になっていますね。あと、僕はちょっと前まで海辺に住んでいて、よく散歩していたので、その経験も各所に反映されている気がします。

──そして4曲目「Kick It Down」は構成が面白いですね。次にこう展開するのか!という意外性があって。

Misumi 僕はK-POPが好きで、K-POPは予想できない楽曲構成になっていることが多いので、その影響がトラックに表れていますね。

──この曲は何をきっかけに生まれた楽曲なのでしょうか?

Misumi EMAが作詞した「DERO」という曲(2020年発表)の続編として作った曲で、もともとはEMAが作詞をする予定だったんです。でもさっきEMAが言っていたスランプの時期と重なり、EMAから「作れなくなっちゃった」と言われて。ただEMAがメモ帳に記していた簡易的なストーリーを送ってくれたので、それをもとにして作りました。この曲に関しては救いがないというか。評価だったり数字だったりに創作者がとらわれてしまって、純粋な創作活動ができなくなってしまうという内容になっています。

EMA 有名な芸術家の中には、陽の目を浴びずに亡くなって、亡くなったあとに評価された方もいますけど、それがまさにこの楽曲の主人公。こうやって曲になることで評価されるという、主人公に対しての皮肉も込められているなと思いました。

DUSTCELL初の声出しOKライブはヤバそう

──最後に4月から開催されるツアー「ROUND TRIP」への意気込みをお聞かせください。DUSTCELLとしては声出しOKのライブはこれが初めてですね。

Misumi はい。僕らはコロナ禍とライブ始動のタイミングが重なって、1stライブから無観客配信ライブだったので、本当に待ち望んでいた声出しライブです。

「DUSTCELL LIVE 2022『PREPARATION』」より、Misumi。(Photo by Takashi Konuma)

「DUSTCELL LIVE 2022『PREPARATION』」より、Misumi。(Photo by Takashi Konuma)

EMA アドレナリンがヤバそう。むちゃくちゃ楽しみです。

Misumi 声出しがあると熱量が全然変わってくると思うので、今までのライブとはまったく違う感じになると思いますね。

──それこそ、みんなで一緒に歌ったりする場面もあるかもしれないですね。

EMA あってほしい。

「DUSTCELL LIVE 2022『PREPARATION』」より、EMA。(Photo by Takashi Konuma)

「DUSTCELL LIVE 2022『PREPARATION』」より、EMA。(Photo by Takashi Konuma)

Misumi 今からどんな感じのライブになるんだろうっていう、想像があんまりついてないです。

EMA バンドメンバーも前回のワンマンライブ「PREPARATION」のときと変わらず、みんなで回るので、それも含めて楽しみです。

──考えている仕掛けなどはありますか?

Misumi ミニアルバムと同じ「ROUND TRIP」というツアータイトルが付いているので、初期の曲をたくさんやろうかなっていう話をしています。これまでやっていなかった楽曲を披露するかもしれないので、楽しみにしていてほしいです。

ライブ情報

DUSTCELL TOUR 2023「ROUND TRIP」

  • 2023年4月28日(金)北海道 Zepp Sapporo
  • 2023年4月30日(日)宮城県 仙台PIT
  • 2023年5月3日(水・祝)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2023年5月7日(日)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2023年5月17日(水)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2023年5月25日(木)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)

プロフィール

DUSTCELL(ダストセル)

2019年10月に始動した、ボーカルのEMAとコンポーザーのMisumiによる2人組音楽ユニット。それぞれ歌い手とボカロPというキャリアを積んできた2人によって結成され、YouTubeに投稿された初の音源「CULT」が大きな注目を浴びる。2020年5月に1stアルバム「SUMMIT」をリリースし、同年7月に初のワンマンライブを東京・WWWにて開催。その後もコンスタントに楽曲をリリースし続け、2021年10月に2ndアルバム「自白」を発表した。2022年8月に初のミニアルバム「Hypnotize」をリリースし、11月には過去最大キャパとなる東京・TOKYO DOME CITY HALLにてワンマンライブを開催。2023年3月に2ndミニアルバム「ROUND TRIP」とライブBlu-ray「DUSTCELL LIVE 2022『PREPARATION』」を同時リリースした。4月から5月にかけてミニアルバムのタイトルを冠したライブツアーが行われる。