DUSTCELL「ROUND TRIP」インタビュー|原点回帰するなら今、勢いそのままに未来へ突き進む

DUSTCELLの2ndミニアルバム「ROUND TRIP」がリリースされた。

昨年、ドラマ「明日、私は誰かのカノジョ」の主題歌「足りない」がヒットを記録し、リスナー層を広げたDUSTCELL。「足りない」が収録された1stミニアルバム「Hypnotize」から約半年を経て2人が放つ新作「ROUND TRIP」のテーマは「原点回帰」で、MisumiのボカロP時代の代表曲「オルターエゴ」のカバーを含む全7曲が収録されている。

勢いを増している今、なぜ過去に立ち戻るかのようなテーマを掲げたのか? EMAとMisumiに「ROUND TRIP」へ込めた思いを聞くと、2人の間に築かれている強い信頼関係が見えてきた。

取材・文 / 満島エリオ

過去から帰ってきた勢いのまま先へ進んでいきたい

──昨年1stミニアルバム「Hypnotize」をリリースされた際のインタビューで「もっといろんな人に聴いてもらいたい」「引きこもっていた状態から、扉を開けて、外に飛び出していきたかった」とおっしゃっていましたが(参照:DUSTCELL1stミニアルバム「Hypnotize」インタビュー)、外に飛び出せた実感はありますか?

Misumi ドラマ「明日、私は誰かのカノジョ」の主題歌「足りない」で曲が届く範囲が一段階広がったと思います。Twitterで曲名を検索して、ツイートしている人のプロフィールを見ると、今まで僕らの曲をメインで聴いていなかったような人、例えば歌舞伎町で働いている女性などにも届いていて、新鮮でした。

──逆に、それまでは限定的な人が聴いているような感覚もあったのでしょうか?

Misumi そうですね。けっこう閉鎖的で、コアな人たちがものすごく応援してくれているという感じでした。なので、そこから外に広げていきたいなという気持ちがあって、それが前作のミニアルバムに反映されたのかなと。

──そこから時を経て、今作の2ndミニアルバム「ROUND TRIP」では「原点回帰」がテーマになっています。どうしてこのテーマになったのでしょうか?

Misumi 詳しくはまだ言えないんですが、次のフルアルバムで大きなことをやろうとしているんです。でも、時間的にも気持ち的にもまだフルアルバムは作れない感覚もあって。ラフに実験的なことに取り組めるミニアルバムで、原点回帰的な作品を作ってみることにしました。

EMA 最初からガチガチにコンセプトを決めたのではなく、初期のDUSTCELLのよさと、進化した新しいよさをミックスしたようなセルフオマージュ的な作品を出したいねという話になって。

Misumi 「ROUND TRIP」は「往復旅行」という意味なんですけど、過去に一度行って帰ってきて、そこで止まらずにその勢いのまま先へ進んでいきたいという思いを込めています。過去を一度振り返って帰ってくるというコンセプトの作品を作るなら、タイミングとして「ここしかないな」っていう。

Misumi

Misumi

EMAが遊び的要素を加えた「オルターエゴ」

──原点回帰というと、「ROUND TRIP」にはMisumiさんが2021年に発表したボカロPとしての代表曲「オルターエゴ」のカバーが収録されていますね。

Misumi この曲はDUSTCELLを結成する直前に公開したボカロ曲で、いつかDUSTCELLの作品に収録したいとはずっと話してたんですけど、タイミングが見つからずにいて。ミニアルバムのコンセプトが決まったときに、「オルターエゴ」を今DUSTCELLとしてレコーディングするのがしっくりきたので、収録することにしました。そもそも当時、僕はこの曲を最後のボカロ曲のつもりで作っていて、3年半後にこのユニットでカバーするとは思っていなかったので、今回録音したときは感慨深かったですね。ライブでは何回か披露していたんですが、収録することを発表したら「ようやく音源でも聴けるんだ」という声をファンの皆さんからもらいました。

──レコーディングはいかがでしたか?

EMA ライブで歌う「オルターエゴ」と、録音した「オルターエゴ」は全然違うんですよ。曲調も速い激しめの曲なので、ライブではすごく盛り上がるし、ファンの皆さんが目の前にいるうれしさでアドレナリンが出て荒ぶってるんですけど、音源だとクールにカッコよく録れました。音源と差別化できているので、ライブに来る方は二度楽しめると思います。

Misumi 歌い方に関しては、EMAが遊び的な要素もひさびさに入れてきたなと。例えば「息を吸って 息を吐いて」というパートのあとに呼吸音が入ってたりとか。あと笑い声も入れてたよね?

EMA そうですね。私が好き勝手アレンジさせていただくことが多くて(笑)。

──普段、歌い方について事前の擦り合わせはされるんですか?

EMA 私が遊び心で「こうやって重ねたら面白いんじゃかな」と全部自分で考えてやっています。ハモリのパートも勝手に追加したりとか、自由にやらせてもらって。Misumiさんから「ここやめて」って言われたら外しますけど(笑)、今まで言われたことがない。

Misumi 毎回本当に楽曲に合った歌声で、「ここあかんな」と感じたことはまったくないです。それは最初からそうで、「微妙だな」と思うものが上がってきたことは1回もない。

EMA そうなんだ! よかった(笑)。

Misumi 歌に関してはEMAに100%の信頼を置いているんです。EMAが自由に好きなようにやったほうが一番いい歌声が録れるのがわかってるし、僕があれこれ言うと逆にこんがらがっちゃう気がしていて。

EMA ありがとうございます(笑)。

EMA

EMA

──アレンジなどについてはいかがでしょう?

Misumi 昔の曲を収録し直す場合、楽器を録り直したり、今だからこそできるカッコいいアレンジを施すことも多いと思うんですが、自分はそれがあんまりしっくりきたことがなくて。過去に聴いてきた作品が新しくなると、それがどんなに新しいサウンドでも受け入れられないというか、「昔のほうがよかった」と思ってしまう。今回もギターを新しく入れようかという話もあったんですが、音源は実はそのままで、パラデータをそのまま使って作っているんです。チープさとか、昔の拙い部分をあえて隠さずに出しました。

DUSTCELL初の楽曲「CULT」のセルフオマージュ

──そのほかの楽曲についてもお聞かせください。リード曲の「TULPA」はダークでスピリチュアルなDUSTCELLらしさの強い楽曲ですね。

EMA 原点回帰というコンセプトが決まったあと、「DUSTCELLと言えばこの曲だよね」という粒ぞろいの曲をいくつか選んで、その曲のセルフオマージュだったり、地続きになる曲を作ることにしました。そこで最初に挙がったのがDUSTCELLとして初めて発表した「CULT」で、その世界観と対になる曲を作ろうとしてできたのが「TULPA」です。

Misumi サビのリズムが同じだったり、サビの裏で同じメロディが鳴っていたり、歌詞の世界観がリンクしていたり、「TULPA」には楽曲全体を通して「CULT」を想起させる要素をけっこう入れています。

──「TULPA」というタイトル自体もスピリチュアルな印象の単語ですね。

Misumi 「TULPA」は「自分が生み出したもう1人の存在」という意味の言葉で、その存在に触れて自分の内面が変わっていくという楽曲。「CULT」も自分の中のもう1人の自分と関わる中で変わっていく部分が共通していて、そういう意味で「TULPA」という言葉がハマったというか。実は、タイトルはEMAが考えたんです。

EMA タイトルだけ。

──あとからタイトルが付いたんですね。Misumiさんが曲を作って、EMAさんがあとからタイトルを付けることは今までもあったんですか?

EMA 「TULPA」が初めてですね。

Misumi 僕はタイトルを付けるのはいつも最後なんです。歌詞ができてから。EMAはどっちなの?

EMA 「この曲を作りたい」って先にタイトルがバーンと浮かぶタイプと、あとから付けるものと両方ですね。

「足りない」で気付いたMisumiの得意分野

──2曲目の「ANTIHERO」は「少年ジャンプ+」の読み切りマンガ、揚茄子央さんの「ハッピーハッピーエンドルフィン」とのコラボ曲です。このマンガはダークな世界観で、DUSTCELLとの親和性が非常に高いなと感じました。どのように制作が進んだのでしょうか?

Misumi オケと同時進行の形で、マンガのネームを見て歌詞を作っていきました。ネームのストーリーをそのままなぞっても面白くないなと思ったので、猫をかぶって生きている主人公の内面の感情をさらけだしてやろうと思って歌詞を書きましたね。メロディのほうは、キャッチーで主人公感のある、ジャンプマンガっぽい感じにしたいと考えて作りました。タイアップとか、何かテーマありきで曲を作るのが得意だなというのが最近わかってきて。なので「ANTIHERO」も作りやすかったですね。

EMA デモが上がってくるのがスムーズでした。

──作品に合わせて曲を作るのが得意と気付いたのはいつ頃ですか?

Misumi 「足りない」を制作したときかもしれません。自分でも「これしかないな」という楽曲に仕上がったと思うし、YouTubeのコメントを見ていて「ドラマとすごく合ってる」と書かれていたり。それで今回「ANTIHERO」を制作して、改めて得意なのかもと感じました。

EMA 私はMisumiさんと逆で、作品からイメージを汲み取るのが苦手なタイプなんです。私は自分視点の曲が多いので、「足りない」は自分の課題と向き合うような意識で制作に取り組みました。でも、私はもともとドラマの原作マンガのファンだったので、作詞が楽しかったです。登場人物の女の子たちの気持ちに共感できるところがあったので、素直に歌詞が書けました。