DUSTCELL|解消されることのない焦燥感を音楽に 感情を吐き出した2ndアルバム「自白」完成

シンクロするEMAの歌詞とMisumiのトラック

──2曲目の「火焔」は、DUSTCELLのポップな側面がうまく出ている曲なのかなと。

Misumi そうですね。アルバム制作の最後のほうに作ったんですが、シリアスな曲が多かったので、くだけた感じで遊んでるような歌詞にしたいなと。この頃よくThe Beatlesを聴いてたから「Helter Skelter」という楽曲タイトルを歌詞に入れてみたり、「火焔」というタイトルから連想して「バスタブを沸かして」というフレーズがあったり(笑)。かなり脈略がない歌詞になってます。

EMA トラックもすごくいいし、もともとラップ調が好きだから、特に2番は歌っていて楽しかったですね。

Misumi いいよね。もちろん意味も大事なんですけど、最近は聴いていて心地いい、歌ったときに気持ちいいメロディラインや歌詞を考えるのも楽しくて。両方をバランスよくやれたら一番いいのかなと思ってます。

──3曲目の「izqnqi」ですが、この読み方は?

EMA “いざない”です。今回のアルバムの中で、一番トラックが好きな曲ですね。

Misumi わかる。この曲を含めて、アルバムに入ってる3曲分くらいのトラックを同じ日に作ったんですけど、その日はすごく落ち込んでいて。そういうときって不思議といいトラックができるんですよね。

EMA 最初に聴いたときから、めちゃくちゃよくて「ヤバ!」と思ったし、間奏のメロディも印象的でした。和風ですよね。

Misumi うん。神社や寺院が好きで、以前、京都の鞍馬寺に行ったことがあるんですよ。スマホの電波もつながらない、秘境のようなところなんですけど、魔王殿でお祈りしたら、急に大雨が降ってきて。びしょ濡れで山から降りたんですけど、調べてみたら、それは神様が歓迎している合図だと言われているらしいんです。そういう日本的な神秘を表現したのが、「izqnqi」のトラックですね。僕自身もすごく気に入ってます。

──この曲の作詞はEMAさんですね。「ぽつりと雨が降ったら / 僕らこのまま逃げよう、ねえ」というフレーズがありますが、これはMisumiさんの体験をモチーフにしたんですか?

EMA いえ、京都のお寺の話は、今初めて聞きました。

──すごい。めちゃくちゃシンクロしてるんですね。

EMA 完全にシンクロしてますね。

Misumi よかった(笑)。こういう日本っぽい曲は好きなので、今後も作っていきたいです。

「不思議の国のアリス」をモチーフに描く不条理な世界

──続く「Mad Hatter」もかなりぶっ飛んだ曲ですね。シンセのリフが不穏な雰囲気を生み出していて、ダークファンタジー的な世界に引きずり込まれるというか。

Misumi そうですね。これはもうタイトル通り、「不思議の国のアリス」をモチーフにしている曲です。あの不条理で狂った世界が好きで、歌詞では作品に出てくるセリフを引用しています。

──確かに不条理な世界なんですけど、今は現実もかなりめちゃくちゃなので、妙なリアリティも感じました。

EMA 確かにそうかも(笑)。この曲はデモをもらったときから、楽しい曲になりそうだなと思ってました。僕もディズニー映画が好きで、特にアリスのお茶会のシーンは子供の頃からすごく印象に残っていて。曲も大好きで、「すごいテーマが来た!」と思って録音した記憶があります。

Misumi この曲にはカートゥーンアニメの効果音のような音も入れてるんですよ。

EMA いいよね、カートゥーンアニメ。

──EMAさんとMisumiさんは、音楽以外のところでもいろいろと共通点があるんですね。「堕落生活」はMisumiさん作詞・作曲ですが、かなり自堕落な生活が描かれています。これもリアルな体験ですか?

Misumi いえ、モチーフになった人がいて、その人をイメージしながら作った歌詞ですね。「火焔」と同じように、遊びながら書きました。この曲を書いた頃は日本語ラップをすごく聴いていて、その影響で「自分の信号機で歩く」「偽文書新調して隠す」という歌詞は母音をすべてそろえました。

EMA 歌うとすぐわかりますね。「あ、踏んでるな」って(笑)。母音がそろってるから、歌いやすいし楽しいです。あと、この歌詞を読むと今どきの若者を想像しちゃいますね。特に不安を抱えている人にとっては、寄り添ってくれるというか、すごく刺さるんじゃないかと思います。

スランプ状態をそのまま歌詞にしてみよう

──独創的なビートと鋭利なラップが絡み合う「INSIDE」の歌詞はEMAさん作です。この曲にも「醜い明日を生き抜くことから / 逃れられない僕ら」というシリアスなフレーズがありますね。

EMA 「堕落生活」と少しテーマが似ているかもしれないですね。もともとこの歌詞も、「今どきの若者って、どんなだろう」と想像しながら書いたので。

──それはつまり、EMAさん自身の世代ということですよね。未来に対して、あまりいいビジョンは描けないですか?

EMA 私はあまり先のことを考えてない気がします。予定や計画を立てるのが好きじゃないんですよ。例えば1週間後に美容院の予約を入れても、当日にキャンセルしたくなっちゃったり。お仕事はきちんとやりますけど、予定を遂行できることはあまりないかもしれない。当日に「今日空いてる?」と聞かれるのがいちばんラクです。

EMA

──なるほど。続く「perfectionist」もかなりディープなトラックです。ちょっと陰鬱だけど、気持ちよく踊れる感じもある不思議な曲だなと。

Misumi これは去年の2ndライブで披露した曲ですね。1年経ってようやく収録できることになってうれしいです。

EMA 歌詞は私なんですけど、今までで一番鬱々しい、暗い歌詞かなと。この頃かなりスランプだったというか、なかなか思うように歌詞を書けなくて。「この状態をそのまま歌詞にしてみよう」と思って作ったのが、「perfectionist」だったんです。

──完壁主義者の主人公が、苦しみながらも進もうとしている姿が描かれていて、特に「創らなきゃ生きている価値がない」というフレーズは切実だなと。

EMA ずっと焦燥感があるんですよね。それは今でもまったく消えることがなくて。僕らだけではなくて、そういう方は多いと思うんですけど。

Misumi うん。僕自身も焦燥感から解放されることがないです。ずっと付き合っていくんだと思います。