Drop's|バンドに新たな息吹をもたらした多保孝一とのコラボ

Drop'sが5枚目となるフルアルバム「Tiny Ground」を9月にリリースした。

この作品は2016年5月に発表された「DONUT」以来3年4カ月ぶりとなるフルアルバム。「DONUT」の発売から現在に至るまでバンドは活動拠点を地元・北海道から東京へ移し、ドラマーとキーボーディストの脱退を経験、新ドラマーとして石川ミナ子を迎えての4人編成となった。バンドの状況がめまぐるしく変化しながらも地道にライブ活動を続けていた彼女たちだったが、「リリースがしばらくできなくて、もどかしい気持ちがあった」と上京当時を振り返る。

そんな中、昨年12月に「organ」、今年3月に「trumpet」とミニアルバムを続けてリリース。それぞれの作品には元Superflyで作曲家の多保孝一をプロデューサーとして迎えた楽曲が収録され、今年の結成10周年イヤーに新たなバンド像を打ち出して見せた。その流れを汲んで熱量高く制作されたのが、今回リリースされたニューアルバム「Tiny Ground」となる。

今回音楽ナタリーでは、Drop'sの中野ミホ(Vo, G)と、ミニアルバムに続いてアルバムでも新たに2曲のプロデュースを手がけた多保孝一にインタビューを実施。バンドに新たな息吹を注ぎ込むこととなったコラボレーションの話題を中心に、進化を遂げたDrop'sの現在について話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 曽我美芽

多保さんは救いの光

──Drop'sと多保孝一さんとのコラボレーションはどんなきっかけで始まったんですか?

中野ミホ(Vo, G) そもそもは多保さんからお声がけいただいて。

多保孝一 そうなんです。いろいろな若手バンドを取り上げているサイトを見ていたときに、たまたまDrop'sのことを知って。紹介文のところにブルースやロックンロールをルーツに持つバンドだと書いてあったから、気になってリンク先の動画を観たら、もうね、バンドの雰囲気も、楽曲のテイストも、中野さんの歌声もすべてが素晴らしかったんですよ。そこで僕の中の興味のメーターが振り切れてしまったので(笑)、すぐにお声がけさせていただきました。「もしよければ、ぜひ一緒に音楽を作らせてもらえませんか?」って。

中野 ホントにうれしかったです。私たちは高校の軽音楽部で結成したバンドなんですけど、最初はずっとSuperflyさんのコピーをしていたんですよ。なので多保さんからお話をもらったときは、「え!? あの多保さんなの?」ってみんなでびっくりしたんです。で、一度お会いしたうえで、一緒にやらせていただくことになりました。

左から多保孝一、中野ミホ(Vo, G)。

──Drop'sはメンバーの脱退、加入を経て、2018年に新体制になりました。それによってバンドが新たな刺激を欲していたところがあったのかもしれないですよね。

中野 確かにそうですね。上京して今のドラムの(石川)ミナ子に出会い、ライブをしながらバンドとしての地固めをしているタイミングで多保さんからお話をいただいて。その時期はしばらくリリースもなく、ひたすら曲作りとライブをしていた期間だったから、もどかしい気持ちもあったんです。ちょっとでも前に進みたいし、新しいことにどんどん挑戦していきたい気持ちも強かった。なので多保さんからのお声がけはまさに救いの光といった感じでもありました(笑)。

流行りのリズムをやったらどうなっちゃうんだろう

──一緒に楽曲制作をするにあたって何か指針は立てたんですか?

多保 Drop'sのいいところはブルースやロックンロール、カントリーといったルーツミュージックに根差しつつもマニアックになるのではなく、絶妙なポップさを持っているところだと思うんですよ。で、そこに今の時代のエッセンスや空気感、若い世代なりのアプローチを加えれば、より強いオリジナリティを持つ楽曲が生まれるんじゃないかなと思ったんです。その思いは最初の段階でメンバーの皆さんにはお伝えしましたね。

中野ミホ(Vo, G)

中野 今までの自分たちはただただ好きな音楽をやっているだけだったので、戦略的に何かを考えるようなことがまったくなくて(笑)。その結果、ライブに来てくださるお客さんも耳の肥えた年齢層高めの方が多かったんです。もちろん、それはホントにありがたいことではあるんですけど、自分たちとしては同世代やもっと若い世代の人にもDrop'sの曲を聴いてほしいというぼんやりとした悩みがあったんですよ。だから、私たちの好きなルーツミュージックに今のシーンで鳴っているような音を融合させるという多保さんからの提案には素直に「なるほどな」と思えたんです。

──そこに躊躇や戸惑いはなかったですか。

中野 私自身に関していえば、普段からヒットチャートに入っている音楽はあまり聴かないタイプなんですよ。だから、多保さんに「最近はこういうリズムがけっこう流行ってて」と言われても「なんとなく聴いたことあるような……」くらいの感じだったし、ましてやそれを自分たちがやることはまったく想像ができなくて。「どうなっちゃうんだろう?」という不安は多少ありましたね。でも多保さんのおっしゃっていることにはすごく説得力があったので、とにかくやってみたいという気持ちになりました。

多保 で、1発目に一緒に作ったのが「Cinderella」でした。ミニアルバム「organ」のリード曲としても収録されていましたね。

──エレクトロの要素も加わった「Cinderella」は、Drop'sとしてはかなり振り切ったサウンドですよね。1発目としてはだいぶ刺激的だったと想像するのですが。

中野 あははは(笑)。確かにかなり新鮮でしたし、これを自分たちにできるのかなっていう気持ちはありましたね。

多保孝一

多保 実は最初の段階で次に作る「毎日がラブソング」の着想もあったんですよ。「Cinderella」では今っぽいサウンドに思い切り振り切ってみて、一方の「毎日がラブソング」ではDrop'sがもともと持っているルーツミュージックやソウルなどのフレーバーをベースにしつつ現代的なリズムのグルーヴを足してみようと。その2曲が対になることで、新しいDrop'sが立体的に浮かび上がってくるようなイメージだったんです。どっちを先にやるかは迷ったんですけど、ジワジワやるよりは最初に振り切ったものをガツンとやったほうが面白いかなと(笑)。みんなでワイワイと新しいことに挑戦することでバンドとしてのボルテージも上がるんじゃないかっていう狙いもあったので。結果、確かに刺激は強かったかもしれないけど、すごく面白い仕上がりになったと思いますね。

中野 多保さんに相談しながらメロディをしっかり詰めていくのがすごく楽しかったです。「Cinderella」のBメロなんかは「細かい音符で繰り返していくといいかもしれないね」っていうアドバイスをいただいて。そういう譜割りは今までの自分にはあまりなかったものだったんですけど、歌ってみるとすごく新鮮な響きが味わえました。言葉の乗せ方に関しても、母音と子音を意識することで耳に入ってきやすくなるとか、ポイントをたくさん教えていただけたので、そのテクニックをとにかく盗んで盗んで(笑)。そうやって制作していく中で、曲がどんどん自分たちのものになっていく実感があったし、最終的に大好きな曲になったのが本当にうれしかったです。

「こんな音になるんだ!」という驚きの連続

──「trumpet」にも収録されている「毎日がラブソング」は、「Cinderella」と比べるとバンドとしてのルーツが色濃く出ている印象です。が、ここにも新たな表情はたっぷり詰まっていますよね。

中野 そうですね。最初に聴いたとき、自分たちになじみのある感じですごくいいなって思いました。だけどリズムはちょっとヒップホップっぽい感じで、ベースとドラムをループさせて使っていたりもするんですよ。そういう新しいこともやれたので、ゆったりハッピーな曲なんだけどしっかりノれるという、Drop'sとして今までにない曲になりましたね。歌っててもすごく気持ちがいい曲です。

多保 ベースとドラムは4小節くらい録って、それをループさせたんです。同じコード進行をひたすらループ。だからリズム録りはあっという間に終わって。「速っ!」みたいな(笑)。メンバーの皆さんはそういう新しいアプローチに関してもすごく楽しんでやってくれていましたね。

──そういう楽しい雰囲気が「毎日がラブソング」にはにじみ出ていますよね。

多保 そうですね。この曲では、より普遍的で大きい意味でのポップスを作りたいと思ったんですよね。中野さんの歌詞と歌声のエネルギーがよりポジティブな方向に大きく広がっていけばいいなと。そのイメージを歌詞とメロディ、そしてバンドの演奏が見事に表現してくれたと思います。「Cinderella」もそうですけど、僕は基本的にコード進行とざっくりしたリズムパターンを作っただけなんです。そこに素敵な詞とメロディを合わせました。メンバーの皆さんも演奏やアレンジ面で素晴らしいアイデアをたくさん出してくれましたね。

中野 いやいやいや(笑)。「こんな音になるんだ!」っていう驚きばかりでしたから。ホントにたくさん勉強させていただきました。