一番シビアでめんどくさいファンは僕自身

山田　「散花奏奏」のライブ映像を観て、改めて志磨さんが作り出す世界に驚いたんです。でも志磨さんご自身がやりたいことがある一方、お客さんやスタッフに求められることも当然ありますよね。志磨さんはどうやってそこに折り合いをつけているんだろうと感じました。

志磨　ほうほう。

山田　ドレスコーズの描く世界観をあれだけ味わえる空間って、めっちゃワクワクすると思うんです。だけどもあのステージ上で志磨さんは、あくまで“ドレスコーズの作品”として存在しているような気がして。それは自分のやりたいことよりも、お客さんに求められることを優先しているようにも見えたんです。

志磨　なるほど、それもそうかも。

山田　僕自身も役者としての活動を続けていくにつれ、本来自分が表現したいものや世界観を提示しても、「山田裕貴はそうじゃないでしょ」と否定されてしまうような気がして。それこそ、居場所がなくなる感覚がそれに当てはまるんです。ドレスコーズは独自の世界観を広げているのに対し、志磨さんの中では何か思うところがあったりするのか……そんなことを考えながら鑑賞しました。

志磨　人に見せる自分と、本当の自分との間にズレがあるという話はお互いにによくするよね。僕のライブの場合だと、いつもツアーのたびにちょっとだけ自分のキャラクターを変えるんですよ。

山田　役者さんみたいですね。確かに客席にダイブするライブの印象が強かったけど、「散花奏奏」のときは全然違う雰囲気でした。

志磨　今回はその真逆で、手を伸ばしても触れられない、目の前にいるのにそこにいないような印象にしたくて。透明のスクリーンに映し出された僕が歌っているのをお客さんが見ているような、と言えばいいですかね。今回のアルバム「式日散花」のテーマに合わせた印象にしたくて。

山田　「式日散花」は“別れ”を題材にしていましたよね。

志磨　うん。だから、例えば昔大好きだった、でも今はもういなくなったロックスターがひと晩だけ夢に現れて、目の前で自分のためだけに歌ってくれている、というようなライブができたらいいなあと思って。

山田　それ、すごくわかります！ 忌野清志郎さんみたいだった。

志磨　ホント？ うれしい！ だからわざとお客さんと距離を置くような気持ちでパフォーマンスしました。

山田　そういった演出面のアイデアはどうやって考えているんですか？

志磨　まずはアルバムのテーマがあって、それをライブでどうやって表現するかはあとから考えます。だから1人で脚本と演出と主演をやってるような感じでしょうかね。アルバムのテーマをさらに噛み砕いて伝えるためにはどうすればいいか、と考えながら演出を練っていきます。

山田　そこまで細かく設定していくんですね。

志磨　僕のライブを誰よりも観ている人って、僕だから。僕のライブを一度も欠かさずに観たことがあるのは僕だけ。だからその僕を絶対に飽きさせないように工夫しているのかもしれない。志磨遼平に一番シビアで厳しいファンは僕自身だ、という意識は常にあります。

山田　一緒だ……。僕もそんなふうに意識しています。

志磨　だからアンチとファンの両方の感覚が自分の中にありますね。

山田　僕は演じる役の振り幅が広くて、いわゆるパブリックイメージが定まっていないので、「すごい墓穴を掘っているな」とか考えちゃうことがあるんです。自分自身が一番山田裕貴という人間のことを知っているし、内情を知っているのは僕以外いなくて。

志磨　だから、理解されすぎても嫌だ。「あなたが思うような人間じゃないよ」って気持ちが常にあるよね。

山田　理解した気になっている人もちょっと苦手ですね。だから「大丈夫？」と心配してくださるくらいの距離感がちょうどいいのかもしれないです。

志磨　うんうん。山田くんと話していると、いつも「そっくりだな」と思います。

0.1秒単位で表情や声色をコントロールする厳しさ

山田　今回の映像作品は昔のライブ映画みたいな質感になっていて、それもすごくよかったです。

志磨　どの時代の映像なのか、あえてわからないようにしてみました。

山田　技術的な話になりますけど、あれはフィルムではなくデジタルで撮っているんですよね？

志磨　デジタルですけど、古いレンズを付けて撮ってもらいました。さらに編集でエフェクトも加えて、フィルムのような質感に整えてもらいました。

山田　ドレスコーズが生み出すムードに、あの映像の色味とか雰囲気が合っていてめっちゃよかったです。ああいう映像の質感で映画を撮ってみたいですね。

志磨　撮影を担当してくれている二宮ユーキくんという方が素晴らしくて。いつも大まかなイメージだけを伝えて、あとの技術的な部分はすべてお任せするんですが、いつも完璧です。

山田　いいなあ……！ もし機会があれば、二宮さんにぜひ撮影をお願いしてみたい。

志磨　うん、ぜひ！ 山田くんは「自分で映画を撮ってみたい」という気持ちがおありなんですか？

山田　やってみたいけど、今は難しそうですね。ありがたいことに役者として、いろんな人の目に触れる機会が増えてきた分、自分に対する厳しさも増してきて。0.1秒単位で表情や声色をコントロールしていることもあるし、そこに対して「なんで今そんな顔をしたんだよ」と細かく気になっていて。今はそれだけでいっぱいいっぱいなので、撮るなら演者にはならず、撮影に集中してみたいです。

志磨　自分も出演するわけではなく。

山田　ええ。撮影になると、もしかしたらかなり細かく指摘するかもしれない。

志磨　わかるわかる。僕も制作中はかなり細かい部分まで気になります。

山田　今のところ、僕が主導して制作した映像作品ってないんですよね。グッズも写真集も、自分で監修できない場合は断るようにしているので、いざ作ることになったときは相当こだわると思います。僕の中にある設計図に合わせてどう動くか、シビアに見ている状況だから、制作側に回ったらほかの人にも同じくらい、厳しく要求するかもしれません。

僕らはとんでもない化け物を飼っている

志磨　以前「オールナイトニッポンX（クロス）」に出演させてもらったときも同じ話になったけど、僕も山田くんも「自分の中にものすごく恐ろしいものがいる」という感覚があって。

山田　そうそう。化け物がいるんですよ。

志磨　でも、その化け物がいなくなったら、僕はただのしょうもない人になってしまう。

山田　僕も自分自身、空っぽの人間だと思っています。

志磨　だけどさっき言ったように、制作に没頭していくうちにほかの人には理解してもらえないほど厳しい要求をしたりするんです。それこそ0コンマ何秒、数ミリの差みたいな次元になると、もはや化け物がジャッジしているとしか思えない。

山田　「自分で好きなだけ作ってみてください」と言われたら、それなりの時間をもらって作り込みたいですよね。

志磨　うん。やっぱり適当にはできない。

山田　そういう化け物がいると実感したのは中学生くらいの頃かな？ ハッキリと認識したわけではないけど、「なんか違うな」と思ったことがあって。

志磨　周りの人と何かがずれている感じ？

山田　うーん、なんて言ったらいいんですかね……例えば何かを見て笑っていたら、ふと「俺、なんで笑っているんだ？」と我に返る瞬間があって。いろいろ考えてみた結果、ほかの人が笑っているのにつられていたんだとわかったんです。それから23歳のときだったかな？ ある俳優さんから「山田くんは腹の奥底にとんでもない化け物を飼っている」と言われたことがあって。僕自身そういう面は一切出していないつもりだったんですけど、気付いた人がいたんですね。「え？ なんでわかったの？」と思ったのと同時に、そのとき初めて「やっぱり自分の中に化け物がいるんだ」と実感しました。

志磨　僕もはっきり自覚したタイミングがあったわけではないけど、昔からずっと化け物を飼ってる気がする。何かに熱中するとほかのものが見えなくなる。時間の感覚もなくなるし、誰の言うことも聞かなくなる。周りに対してひどいことでも平気で言えちゃう。大人になってずいぶんマシになったけど、今でも制作中はこの化け物が出てくる。

山田　でも、制御できなくなるわけではないんですよね。

志磨　「制御できなくなったらどんなものを作ってしまうんだろう」という怖さがあるからね。最低限の社会性を残すことで化け物を飼い慣らしている感じ。化け物より「僕なんてたいしたことない」という自意識のほうが勝つ場合もあるし。

山田　僕は「迷惑かけるだけだから出てくるな」って抑えているんです。でも、ありのままの状態でやってみたら「やっと本性を出せたな」と実感するかもしれないし。表ではどうにかうまいこと隠しているけど、「全部出していいよ」となったら、他人にも口出しするような人になりそうな気がするんですよね。そうなったらたくさんの人を巻き込んでしまいそうで。

志磨　本当に全部出したら、絶対に嫌われて周りから誰もいなくなってしまう。「本当の僕なんて知らないで」という気持ちがいつもあります。

山田　それにしても、こういう話ができるときが一番楽しいですね。「わかってくれる人がいる！」という気持ちになれるから安心します。

志磨　最近、あまりゆっくり話せてなかったよね。

山田　僕も「会えないのに連絡したら失礼かな」と思って遠慮しちゃって。志磨さんがうちに遊びにきてくれたときに開けたお酒のボトル、まだ残ってますよ。

志磨　早くまた会いたいね。そういえば一昨日、夢に山田くんが出てきたんだよ。舞台の地方公演か何かで、大勢の人と旅館みたいなところにいる夢でね。「じゃあ、これからみんなでごはんを食べに行こう」となるんだけど、山田くんだけ「俺、台本読まなきゃ」って1人旅館に残るんだ。その姿が寂しそうだった。

山田　そういうこと、現実でもめちゃくちゃあります。

志磨　それで余計に会いたくなった。今日いろいろ話せてよかったな。またゆっくり会おうね。

山田　ええ！ ぜひ遊びましょう。