1月に神奈川・横浜アリーナで行われたライブイベント「山田裕貴のオールナイトニッポンX 横浜アリーナ王におれはなる!」で2024年の活動をスタートさせたドレスコーズ。このイベントはニッポン放送にて放送中の「山田裕貴のオールナイトニッポンX(クロス)」から派生した企画で、番組のメインパーソナリティを務める山田裕貴とゆかりのある人物が多数出演した。ドレスコーズが横浜アリーナでライブを行うのはこれが初。収容人数1万2000人という大規模な会場を舞台に、パワフルなステージングで観客たちを楽しませた。
ドレスコーズの志磨遼平と山田が初めて出会ったのは、2021年12月から2022年1月にかけて上演された音楽劇「海王星」でのこと。リハーサルでは一緒にアニメーション映画「ヘラクレス」の劇中歌「Go the Distance」を演奏するほどに親交を深め、公演終了後もプライベートで交流を重ねていた。そこで音楽ナタリーでは志磨と山田の対談をセッティングし、「横浜アリーナ王におれはなる!」の感想に加え、3月20日にリリースされたライブ映像作品「the dresscodes TOUR2023『散花奏奏』」を通して、ドレスコーズのパフォーマンスの魅力について語り合ってもらった。
取材・文 / 高橋拓也撮影 / 梁瀬玉実
スタイリング / Koji Taura(志磨遼平)、森田晃嘉(山田裕貴)
自信がない? 普段と雰囲気が違う? どんどん出てくる2人の共通点
山田裕貴 先日の横浜アリーナ公演(「山田裕貴のオールナイトニッポンX 横浜アリーナ王におれはなる!」)にご出演くださり、ありがとうございました!
志磨遼平 いえいえ。こちらこそ山田くんのおかげで横浜アリーナのステージに初めて立てました。どうもありがとう。それにしても、あれだけのお客さんが集まるって、改めてすごい。
山田 いやあ、ホントですよ。まさか横アリでイベントをやる人生になるとは思っていなくて……実は僕、予期せぬ出来事がすごく苦手なんです。
志磨 そうなんだ!
山田 どんなことに対しても「このときにはこういうことがあるだろう」「この作品のこの役をやったら、こういうマインドになるだろう」とか、だいたいどんな体験をするのか計算するんですよ。でも横アリでのイベントは、自分の頭の中ではどんなふうになるか予測できなくて。いきなり自分自身をコントロールできない場所に連れて行かれる感覚でした。
志磨 でも、ちゃんと“アリーナ王”になれてましたよ。
山田 ありがとうございます……アリーナ王と言われても、よくよく考えたらなんで王になろうとしていたのか、ワケわかんないですよね(笑)。
志磨 今思うとね(笑)。さっき「どんな体験をするのか予測する」とおっしゃったけど、そうやって自分をコントロールするのは、今までずっとそうなの?
山田 はい。山田裕貴という人間として何か活動するのに抵抗があるから、演じるキャラクターが何かを表現するようにしていて。だけどライブイベントは山田裕貴そのものが出演することになりますよね。だから開催日が近付いてくると、もう吐き気がするくらい緊張しちゃって。
志磨 楽屋にいるときも、ずっと震えながら「吐きそう……」って言ってたもんね。
山田 もちろん、たくさんのお客さんが集まってくれたことは本当にうれしかったし、いろんなアーティストさんが出演してくださってありがたかったんですけど、「僕がこういうイベントをやるのは向いていないんじゃないか?」という疑問はずっとありました。
志磨 僕も自分そのものには自信がないから、山田くんの気持ちはよくわかります。でも志磨遼平という名前じゃなく、ドレスコーズという名前になれば自信が持てる。
山田 舞台「海王星」で共演させていただいたときも、「普段生活しているときとステージに立つときで全然雰囲気が違う」という話をしましたよね。志磨さんはライブだとあんなに激しいパフォーマンスをするのに、お話するとこんなに穏やかで。
志磨 そうなんです、よく言われます。そこも僕と山田くんの共通点だよね。
山田 ええ。「山田裕貴に何ができるんだ?」と自問自答しているというか……仮面を付けていないと怖くて仕方なくて。そこで志磨さんにすごく共感して、「やっぱそうですよね」って話をしたのを覚えてます。
僕たちのことをこんなに信用してくれるから、絶対に裏切っちゃいけない
志磨 でも、山田くんのファンは出演作品だけじゃなく、山田裕貴という人そのものを愛していると思いますよ。横アリのときにも改めて実感したけど、お客さんもそうだし、出演したゲストの皆さんもそう。本当にみんなから愛されている。
山田 僕も感じました。それで「どうしてこんなに応援してくれるんだろう?」と考えてみて、僕がよく「怖い!」って口にしていることも一因なのかな……と思って。ほかの役者さんはイメージもあるので、まず緊張とか不安は表に出さないんですよね。でも僕はあるタイミングで「出しちゃっていいや」と考えるようになって。それがもしかしたら、多くの人が応援してくれることにつながっているのかもしれないです。
志磨 山田くんは2年近く「オールナイトニッポンX(クロス)」を担当されているけど、ラジオのときは素でお話ししてる?
山田 全部素ですね。ただ、ラジオも怖いというか……出演している以上、「リスナーを楽しませたい」という思いから「これで大丈夫か?」と常に気を張っていて。そういう気持ちがずっと続いています。
志磨 なるほど。「海王星」のときも思ったけど、山田くんには確かに“王”の素質があるんです。でも「俺についてこい」と引っ張っていくタイプじゃなくて、一緒にいる人を一切疑わずに、その身を丸ごと投げ出してくれるタイプで。だから周りは「そんなに信じてくれるなら、この人のためになんでもしなきゃ」という気持ちになる。だからあれだけの人が集まったんじゃない?
山田 「大丈夫?」って言いに来てくれる、みたいな感じですかね?
志磨 心配してるわけじゃないのよ?(笑) 山田くんが僕たちのことをこんなにまっすぐ信じてくれるから、絶対に裏切っちゃいけないし、ほっといてはいけない気がしてくるんだよ。
山田 確かに、周りの人には全部委ねて、「自分のやるべきところはちゃんとやるので、あとはお願いします」みたいなところはあるかも。
志磨 普通の人なら損得勘定で判断したり、見返りを求めたりするところも、山田くんの場合はそういう感情抜きで任せてくれて。だからみんな山田くんを担ぐし、「僕らもがんばらなきゃ」と思える。
山田 もしかしたらそういう部分も、お客さんが共感してくれる理由になるのかもしれませんね。
役者の人生って、“本当の居場所”を探し続けることかもしれない
志磨 今回の横アリでは「海王星」のリハーサルで一緒にやっていた「Go the Distance」を初めてお客さんに披露しましたけど、やってみてどうでした?
山田 横アリで歌っている姿が全然想像できなくて、いまだにあのときの状況が飲み込めていないんですよね。ただ一生懸命披露した感じ。「Go the Distance」の歌詞はまさに自分自身を表しているような曲だから、絶対泣いちゃうんですよ。
志磨 リハーサルのときもよく泣いてたもんね。
山田 「本当の居場所を探している」「挫けずに強くなりたい」という内容が僕の魂の琴線に触れるので。でも、この曲は「自分を弱い」と認めている人の歌だから、「人前で聴かせてもいいのか?」という不安もあって。それこそドレスコーズという、いつも遊んでくれるお兄さんたちとプライベートな場で演奏していた曲、というノリでしたから。
志磨 いつも、本番前のお客さんがいない時間に遊びでやってたんだよね。
山田 リハで演奏してくださっただけでもありがたかったのに、こんな形でお客さんにも披露させていただいて恐縮です。志磨さんはどうでしたか?
志磨 普段のドレスコーズのライブだと僕がステージの真ん中に立ちますけど、「Go the Distance」のときは山田くんが真ん中にいるわけで、僕はその姿を斜め後ろから眺めていたんです。山田くんの背中越しに、大勢のお客さんの顔が見える……という構図ですね。
山田 なるほど。
志磨 さっき山田くんが琴線に触れると言った「本当の居場所を探している」という歌詞って、きっと役者さんの人生そのものじゃないかと思うんです。いろんな役のいろんな人生を生きるけど、作品が終わったらその居場所はなくなる。そして次の居場所をまた探す、という人生なんじゃないかと。でも、横アリに集まった大勢の人たちに見守られながら歌う姿を見て「山田くんの本当の居場所、すでにあるじゃん……!」と思って、演奏しながら泣きそうでした。
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一番シビアでめんどくさいファンは僕自身