小峠こだわり、パンクから学んだ気持ちいいテンポ感
志磨 僕もバイきんぐのコント、「隣人」とか「交通量調査」とか、好きなネタたくさんありますよ。あと西村さん(西村瑞樹)が鈴を売りに来るやつ……。
小峠 「セールスマン」ですね。そんな古いネタも知ってるんですか(笑)。
志磨 いえいえ、でもまだライブに伺ったことがないので。ファンとしてはまだまだです。以前どこかで、BLANKEY JET CITYの影響で「誰も使わない言葉を使ってネタを書く」というようなことをおっしゃられてたと思うんですけど、ほかにも音楽からの影響がお仕事に生かされることってありますか?
小峠 セリフを言うときのリズムは影響を受けているかもしれないです。ツッコミやボケのテンポはいつも気にしているので。ずっと音楽を聴いているから、人が気持ちいいと感じるリズムとか間はなんとなく身に付いているのかも。
志磨 一瞬でも間がズレると、ウケるものもウケないことってあるんでしょうね。音楽もまったく同じです。
小峠 相方には「そのリズムじゃウケないから、もっとパンパンテンポよく言ってくれ」とか説明しますね。あと、同じワードでも言い方のトーンを変えたり。
志磨 ちょうど面白いピッチとか、トーンってありそう。
小峠 志磨さんは歌詞も全部ご自身で書かれていますけど、文学的な作風ですよね。たくさん本を読まれるんですか?
志磨 東京に出てきてすぐの頃はそれこそ高円寺に住んでいたんですけど、お金がなくて、古本屋で50円くらいの文庫本を買うのが唯一の娯楽でしたね。
小峠 そうなんだ。
志磨 でも、歌詞はなるべく小難しくならないように気を付けてます。小峠さんはネタ作りのとき、気を付けていることってありますか?
小峠 ネタの特徴としては、日常を切り取ったやつがほとんどですね。例えば宇宙とか非現実的なシチュエーションは避けていて、コンビニとか身近な場所をよく題材にしてます。いろんな人が手を付けているネタでも、切り口を変えていくのも自分たちなりのルールかも。
志磨 お笑いをやろうとしたきっかけはなんだったんですか?
小峠 小学校低学年の頃からテレビのバラエティ番組を観るのが好きで、ビートたけしさんやザ・ドリフターズの影響で当時から周りに「お笑い芸人になる」と言ってました。「人を笑わせるのが好きだから芸人になるもんだ」って。ほかの道は考えたこともなかったですね。
志磨 もう小さな頃からずっとなんですね。芸人さんになられてから「このままで大丈夫かな」とか、不安になった時期ってありましたか?
小峠 地上波の番組に出演できるようになるまで時間がかかったので、それまではキツかった。でも「このままダメになるんじゃないか」みたいな不安はなかったです。「いつか売れるぞ」って気持ちはどっかにあった気がしますね。
「お客さん0人とかザラでした」毛皮のマリーズ、メジャーデビュー前の苦難
小峠 毛皮のマリーズのメジャーデビューはかなり早かったですよね。
志磨 いや、メジャーデビューしたのは28歳のときなので、ほかのバンドと比べると遅いほうなんです。
小峠 メジャーデビュー前はライブハウスでよく活動していたんですか?
志磨 そうですね。ひたすらライブをやって、インディーズレーベルに拾ってもらってようやくなんとかなりましたけど、それまではお客さん0人とかザラでした。
小峠 0人って! ライブどうなるんですか?
志磨 曲が終わるたびに音響さんが拍手してくれるんです(笑)。
小峠 うわっ! すげえ(笑)。
志磨 楽屋がないライブハウスで、近くに住んでいる子の部屋を楽屋代わりに使わせてもらって、そのままついてきたその子しか客席にいないライブとか(笑)。
小峠 そんな時期もあったんだ……。
志磨 その頃はとにかくいろんなことがやりたかったんですよ。ブルースをやったりソウルをやったり、それもすぐ飽きてまた別のことをやったり。そのうちライブハウスの人から「やることをころころ変えるからお客さんが増えないんだよ」って言われて。「じゃあしばらくはやることを1つに絞ってみるか」と考えるようになって、それでNew York DollsやThe Stoogesみたいなことだけをやってみることにして。「これなら誰もやってないし、ガレージパンクのイベントなんかにも呼ばれやすいだろう」と思って。そしたら途端にいろんなところから声がかかるようになって。
小峠 へえー! そこでシフトチェンジして、如実に変わっていったと。
志磨 結果的にですけどね。シフトチェンジして1年で最初のアルバムのリリースが決まって、そこから一気にお客さんが増えました。
小峠 お客さんはライブをやるたびに増えていく感じなんですか?
志磨 ええ、そうですね。「ステージで何をやればウケるか」とか「どのイベントに出ればお客さんが増えるか」っていうのはすごく考えてやっていた気がします。
小峠 売れるにはどうあるべきか、どう活動していくべきかはなんとなくわかるけど、あとはやるかやらないかってことですよね。でも売れ線に寄せすぎると、自分の中の大事なものが壊れちゃうし。
志磨 そうなんですよ。いっぱいやりたいことがあるけど、そのときはあえて1つに絞ってみて。「なんでもやりたい」ところは今と変わってないんですけどね。
小峠 なるほどね。
恋愛って、いい意味でみじめになれるもの
志磨 今回は対談だけでなく、アルバムの発売記念企画(「#ラブソング志磨しか勝たんパンチライン」「#ラブソング志磨しか勝たんプレイリスト」)にも参加してくださりありがとうございます(参照:ドレスコーズ「戀愛大全」特設ページ | EVIL A MAG)。
小峠 「戀愛大全」、すごくいいアルバムでした。全体的に短い作品ですよね。
志磨 合計で40分いかないぐらいですね。今回は意識的に短くしてみました。
小峠 あっという間だけど、何周もリピートしたくなるほど聴きやすかった。全体的に優しくて耳馴染みがいいというか、ずっと心地いいメロディが鳴っていましたね。「夏の調べ」は懐かしい雰囲気だし、「聖者」はすごくカッコいい。その中でも1曲選ぶとしたら「ぼくのコリーダ」かな。もうイントロから「きっといい曲だろうな」という予感があったし、後半にいくにつれて徐々にテンションが上がっていくのが素晴らしい。志磨さんの書く曲って、イントロの時点でつかまれるのが多いですね。
志磨 いやあ……ありがとうございます。今回はシンセサイザーをたくさん弾いてみたんですよ。今まであんまり使ったことがなかったんですけど。
小峠 確かに、ドレスコーズにとって新しい音という感じがしました。志磨さんの楽曲でシンセって珍しいですよね。新しい試み、挑戦されているんだなって。
志磨 小峠さんにも参加していただいた企画は、僕のラブソングの中から好きなものを選んでいただくという企画でしたが、もうちょっと詳しくお聞きしてもいいですか? 例えばどの曲のどの歌詞が気に入っていただけたのか……。
小峠 それこそ「スーパー、スーパーサッド」の「きみの言うことで わからないことは なにひとつなかったよ」という歌詞、「こんな完璧な言葉はないんじゃないか」と思わせてくれるフレーズですごいですね。あと、その前に出てくる……。
志磨 「さよなら ぼくの ぼくよりずっと大切な人」?
小峠 もうちょっと前、「それは ぼくも知らない歌と ただただきみとの日々を 思い出すためだけの歌」のところですね。すごい視点だもんな……あんな歌詞なかなか書けない。切ないですよ。あとは「ビューティフル」の「まるで人生のような音楽、まるで音楽のような人生」も、僕もこういう人生を送ろうって思いましたもん。志磨さんの書く歌詞って、パッと聴けると思いきや急にガッと来るんですよ。えぐられるというんですかね。なんとなく聴いていたら、急に心をつかまれる。詞の威力や魔力はとても強いと思います。今回のアルバムは“恋愛”というテーマを掲げていましたけど、作ってみていかがでした?
志磨 そうですね……ある程度お仕事もうまくいっていて、年齢も重ねてくると「こういうところ、ホントに直してほしい」というふうに他人から怒られることって少なくなるじゃないですか。そういうことを言ってくれる人がいないと、どんどんダメな人間になっていく気がして。だから僕が思う恋愛ってすごく楽しくて幸せなものというより、いい意味で「自分がみじめになれるもの」なのかもしれない。自分がみじめになれるものが減っていくのは、実は不幸なことかもしれないので。だから僕が作ってきたラブソングには、「あの人が好きで私はとても幸せ」みたいな曲がほとんどないのかもしれないです。今回のアルバムを作って、そんなことを思いましたね。
ドレスコーズ ツアー情報
ドレスコーズ ワンマンツアー「the dresscodes TOUR2022『戀愛遊行』」
- 2022年11月11日(金)北海道 cube garden
- 2022年11月13日(日)宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
- 2022年11月23日(水・祝)岡山県 YEBISU YA PRO
- 2022年11月24日(木)福岡県 BEAT STATION
- 2022年11月26日(土)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2022年11月27日(日)大阪府 ユニバース
- 2022年11月30日(水)神奈川県 CLUB CITTA'
プロフィール
ドレスコーズ
2012年に志磨遼平が中心となって結成された音楽グループ。同年1月1日に志磨、丸山康太(G)、菅大智(Dr)の3名で初ライブを実施し、2月に山中治雄(B)が加入。12月には1stフルアルバム「the dresscodes」を発表した。2014年9月の5曲入りCD「Hippies E.P.」リリースを機に丸山、菅、山中がバンドを脱退。以降は志磨の単独体制となり、ゲストプレイヤーを迎えてライブ活動や作品制作を行っている。2020年は志磨のメジャーデビュー10周年を記念し、4月にベストアルバム「ID10+」をリリース。2022年10月には“恋愛”をテーマに掲げたフルアルバム「戀愛大全」を発表し、11月にはワンマンツアー「the dresscodes TOUR2022『戀愛遊行』」を開催している。
ドレスコーズ[the dresscodes]オフィシャルサイト
志磨遼平(ドレスコーズ)(@thedresscodes) | Twitter
ドレスコーズ公式 (@thedressSTAFF) | Twitter
小峠英二(コトウゲエイジ)
1976年6月6日生まれ、福岡県出身。自動車教習所で出会った西村瑞樹と1996年にバイきんぐを結成し、2012年には「キングオブコント2012」で優勝。これをきっかけに数多くのテレビやラジオ番組に出演している。2021年には「キングオブコント2021」の審査員に就任。音楽好きとしても知られ、2016年には自身が敬愛するロックバンド・OLEDICKFOGGYの楽曲「シラフのうちに」のミュージックビデオに出演した。