音楽ナタリー Power Push - ドレスコーズ
ピエール中野と語る 理想形見出した「オーディション」
ピ様はステージでもこのまま
──そもそも志磨さんがドラマーとしてのピエールさんを意識するようになったのは、何がきっかけだったんですか?
志磨 たぶん最初に意識して聴いたのは、時雨の「JPOP Xfile」(2009年5月リリースのアルバム「just A moment」に収録)で。
中野 ああ(笑)。
志磨 もう「JPOP Xfile」ってタイトルの時点でヤバいというか、ヤバさしかない(笑)。で、聴いてみたら、「全然J-POPちゃうやん!」って(笑)。
中野 でも、サビで「JPOP」って歌ってるよ。
志磨 まあ、言うてはいますけど(笑)。それで「すげえ!」ってなって。やっぱり当時の時雨って革新的で。最近は、時雨の影響からか単純に声の高いバンドとかも増えましたからね(笑)。それだけ影響力があるうえに、アバンギャルドな存在で。その一方で、ピ様のソロ活動やDJを見るにつけ、「この人、面白いな」って。なんというか、あんまりバンドマンって感じがしないんですよね。
中野 それは言われます。地元で同級生とかと会っても、「どこにいても全然変わらないね」って。
志磨 わかるわかる。学生の頃から、ずっとこのままでしょ?
中野 うん。レコード会社とかテレビ局とかの受付では大体止められる(笑)。「ちょっと待ってください、確認しますから」って。
志磨 ミュージシャンにありがちな、「俺が! 俺が!」っていう自己顕示欲が全然ないんですよね。
中野 自己顕示欲とかを出してもあんまり得することがないんですよ、自分にとって。出さないほうが合ってる。
──そこも志磨さんとは真逆ですよね。
志磨 僕の場合はロックスター像のコピーですから。私生活とステージでは全然違う。でも、ピ様はステージでもこのままですからね。
えっ!? これ、ドレスコーズの曲!?
──面白いのは、お2人ともものすごく音楽が好きで、同世代で、過去の音楽も現在の音楽も膨大な数を聴いているにもかかわらず、その対象がほとんど被ってないんじゃないかって気がしていて。
中野 確かに(笑)。
志磨 ただ、2人とも音楽に対するスタンスは似ていると思うんですよね。批評的なスタンスっていうか。
中野 ああ。そうかもしれない。
志磨 僕が今回のアルバムにピ様のグルーヴを流し込みたかった理由も、もちろんプレイヤーとして素晴らしいっていうのもありますけど、そういう批評的な部分に対する信頼もあったのかもしれないです。もしスケジュールが合わなくて別の人にお願いしていたとしたら、今回のアルバムはガラッと違う作品になったと思うんですよ。で、僕が音楽でやりたいのは、そういうことで。
──他者からの影響がそこにないと、手応えを感じられない?
志磨 うーん、「1」みたいな作品は1枚でいいかなって思っていて。できたときにすごくうれしい気持ちになったけど、ああいう作品を作り続けていても未来の展望は開けないというか。「えっ!?」っていう、自分が思ってもみなかったことが起こる瞬間が、未来には待っていてほしいじゃないですか。実際、今回のアルバムのドラムをピ様に頼もうと思った瞬間に、自分で「えっ!?」って思いましたからね(笑)。
中野 (笑)。
志磨 自分が「えっ!?」って思うということは、リスナーのみんなも「えっ!?」って思うことですからね。そこに正しさがあるんじゃないかと思っていて。レコーディング中も「えっ!?」って思うことの連続で、ピ様に何テイクか叩いてもらっていく中で「えっ!? これ、ドレスコーズの曲!?」っていうのがあったら、「もう絶対これでお願いします」って(笑)。
中野 ありましたね(笑)。一緒にやってみて、そのジャッジの加減がすごく面白いんですよね。要らないものと、要るものの見極め方がすごく的確というか、自分と同じ感覚だったんです。それは、自分にとってすごくワクワクできることで、作業中は楽しいことばっかりで、ホント、あっという間でした。
クラスの面白そうなグループを遠巻きに見ているのが自分
──「1」ができたことはすごくうれしかったけど、あれを繰り返しても仕方がないという、そこの真意をもう少し詳しく聞かせてもらますか?
志磨 昔から自分のストーリーには一切興味がないんですよね。他人にしか興味がない。
中野 面白い人が好きなんでしょ?
志磨 そう。で、そういう面白い人の仲間に自分が入れてもらえるとも思ってない。それを「面白そうだな」って眺めているのが自分なんです。例えば、学校のクラスですごく面白そうなグループがいたとして、自分はそれを遠巻きに見てる感じ。
──切ない(笑)。
志磨 でもバンドを始めるようになって、自分がいい曲を書けばそこの仲間に入れるかもしれないって思えるようになったんですよ。
中野 ああ。
志磨 そういう気持ちが現在までずっと続いている感じです。だって曲を書けるから、こうしてピ様とも一緒に音楽ができるわけで。
──「ピエールさん=クラスの面白いグループにいる子」っていうのはすごくよくわかります(笑)。
中野 実際にそうだったかもしれない(笑)。
志磨 だからさっき言ったように、「俺が! 俺が!」っていう自己顕示欲がピ様からは感じられないんだと思うんですよ。子供の頃から、そんな必要を感じるまでもなく、世界からちゃんと受け入れられていた。
中野 ああ、そうかもね。僕は曲を書かないから、志磨くんのソングライターとしての才能を「すげえ」って思うんだけど、そういうこととも関係しているのかもしれない。
志磨 そうなんですよ。曲を書く、ゼロから何かを生み出すみたいなことをする人って、どうしようもなく「俺が! 俺が!」っていう業の深さを持った人だから。
──人として何かが欠けているから、ソングライティングなんていう難儀なことをやろうとする?
志磨 そうだと思います。
中野 確かに、自分は「何かが欠けてる」とかはあまり思ったことがないですね。でも、そういう思いを持ってる人が羨ましかったりもするんですよ。こういうことを言うと「何言ってるの?」とか怒られそうだけど。“ちっちゃい頃から全然目立たなくて”とか“学校で仲間外れにされた”とか“冴えないグループに入ってた”とか、そういう記憶や経験が自分にはまったくないから。でも幼少期のコンプレックスみたいなものって、大人になってから力になったりするじゃないですか。
志磨 そういう意味ではトントンなんじゃないですかね、人生なんて。
中野 そうですね。結局はないものねだりなんですけどね。
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- ドレスコーズ ニューアルバム「オーディション」 / 2015年10月21日発売 / EVIL LINE RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3780円 / KICS-93310
- 通常盤 [CD] 3240円 / KICS-3310
- 2015年12月23日発売(HMV、ツアー会場限定)アナログ盤[アナログ2枚組] 4000円 / NAS-2025~6
CD収録曲
- 嵐の季節(はじめに)
- jiji
- スローガン
- 愛さなくなるまでは愛してる(発売は水曜日)
- メロウゴールド
- We Hate The Sun
- もあ
- しんせい
- オーディション
- みなさん、さようなら
- 贅沢とユーモア
- おわりに
初回限定盤DVD収録内容
- 「スローガン」AUDITION VIDEO
- 「贅沢とユーモア」STUDIO LIVE VIDEO
- 「志磨遼平のオーディション THE MOVIE」
Tour 2015 "Don't Trust Ryohei Shima" JAPAN TOUR
- 2015年11月29日(日)
福岡県 BEAT STATION - 2015年12月1日(火)
大阪府 BIGCAT - 2015年12月4日(金)
宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX - 2015年12月6日(日)
北海道 cube garden - 2015年12月10日(木)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO - 2015年12月19日(土)
東京都 Zepp DiverCity TOKYO
ドレスコーズ
2012年1月1日に志磨遼平(Vo)、丸山康太(G)、菅大智(Dr)の3名で初ライブを実施し、同年2月に山中治雄(B)が加入する。6月には大阪、名古屋、横須賀で「Before The Beginning」と題したツアーを突如開催。7月に1stシングル「Trash」をリリースし、タイトル曲は映画「苦役列車」主題歌に採用され話題を集めた。12月に1stフルアルバム「the dresscodes」、2013年11月にフジテレビ系アニメ「トリコ」のエンディングテーマ「トートロジー」を含む2ndフルアルバム「バンド・デシネ」を発売。2014年9月にキングレコード内レーベル・EVIL LINE RECORDSへの移籍第1弾作品として5曲入りCD「Hippies E.P.」をリリースし、同時に丸山、菅、山中の脱退を発表した。ドレスコーズは志磨の単独体制となり、同年12月にフルアルバム「1」をリリース。2015年10月、ピエール中野(凛として時雨)、會田茂一、沙田瑞紀(ねごと)ら多数のゲストプレイヤーを迎えて制作した4thアルバム「オーディション」を発売する。
ピエール中野(ピエールナカノ)
凛として時雨のドラマー。2014年8月にはORIGAや20名のドラマーが参加したドラムオーケストラ「Animus」、Perfume「チョコレイト・ディスコ」のカバーなどを収録した「Chaotic Vibes Orchestra」を発表。完全即興ユニットのカオティック・スピードキングや、自身がMCクールJ名義で参加している下ネタ満載ヒップホップユニット・玉筋クールJ太郎でも活動している。近年では大森靖子、GLAY、ドレスコーズ、星野源、ももいろクローバーZといったアーティストの楽曲にドラマーとして参加したほか、全国の音楽フェスティバルやライブイベントでDJとしても活躍している。