音楽ナタリー Power Push - ドレスコーズ
ピエール中野と語る 理想形見出した「オーディション」
ドレスコーズが4thアルバム「オーディション」を完成させた。今作ではピエール中野(Dr / 凛として時雨)や中村圭作(Key)、長谷川智樹(Key)、會田茂一(G)、近藤研二(G)をはじめ、ドレスコーズのライブでサポートを務めた沙田瑞紀(G / ねごと)、マーヤ(G / KING BROTHERS)、オカモトコウキ(G / OKAMOTO'S)、牛尾健太(G / おとぎ話)、有島コレスケ(B / told、arko lemmingほか)という個性豊かなアーティストたちが参加している。
志磨遼平の単独体制で活動を続けるドレスコーズならではと言える本作の完成を記念し、今回音楽ナタリーでは志磨とピエール中野の対談を企画。志磨がピエール中野にオファーした経緯や、お互いの共通点と相違点、多くのアーティストを迎え制作したことによって見出した今後の展望などを聞いた。
取材・文 / 宇野維正 撮影 / 西槇太一
ピ様がOKしてくれた時点で、アルバムの全体像が見えてきた
──「オーディション」は、志磨さんが1人で作り上げた前作「1」とは打って変わって、曲ごとに多くのミュージシャン仲間が参加していますね。中でもピエール中野さんは、ほぼ全曲でドラムを叩いていて。
志磨遼平 はい。「1」を作り終えた時点で、「次も1人で作るってことはないだろう」と思っていたんですよ。それで曲を作りながら、「それぞれの曲が求めるプレイヤーにお願いして、ドレスコーズに一時加入してもらうような感じでレコーディングをしていければな」って。でも制作の初期にできた曲は前作の延長というか、自分の手癖でできたような曲ばかりで。だから1度全部ボツにしたんですよ。自分はすごく客観的に、自分の音楽に“ある要素”“ない要素”っていうのがわかるんですけど、せっかくなら“ない要素”を入れてくれる人にお願いしようと。そこで、ドラマーとして最初に頭に浮かんだのがピ様(ピエール中野)で。ダメ元でお願いしてみたんですよ。
ピエール中野 直接メールが来て、すぐに「面白そう。やるやる」って返して(笑)。
志磨 すぐに返事が来たから、自分で頼んでおきながら「えっ?」って(笑)。
中野 スケジュールさえ合えば絶対やりたいと思いました。「なんで自分にオファーしたんだろう」ってのが気になったけど(笑)。「今までのドレスコーズの音楽性からすると、もっとほかのプレイヤーもいそうなのに」って。そういう意味でも、自分に話が来た時点で「これは面白そうだな」と思いましたね。
志磨 ちょっとアーティスト気取りで申し訳ないですけど、単純な直感もありました。もしピ様がやってくれたら、絶対面白いことになるだろうなって。そして第1候補だったピ様がOKしてくれた時点で、このアルバムの全体像が見えてきたんですよね。
──お2人は、実は歳もほぼ一緒なんですよね。
中野 そうなんですよ。
──これまで交流は?
中野 凛として時雨で武道館でのイベントに出たときに初めてドレスコーズと一緒になって。そのときは挨拶する程度だったんですけど、そのあとに僕が1人でツアーを回っていたときに、高崎で対バンをして。ちゃんと話したのはそのときが最初ですね。
志磨 ですね。
中野 それまであんまり話したことなかったから、イメージ的にちょっと怖い人なのかなって思っていて。なんか変なこと言って怒られたらやだなって(笑)。
志磨 はははは(笑)。
中野 でも話してみるとすごく物腰の柔らかい方で。ステージ上のMCでも僕のことをいろいろ言ってくれて。「なんだ、すげえ優しい!」って。
志磨 それが2年前くらい。
やっぱりツーバス入れていこうか
──具体的に、志磨さんはピエールさんにどういう意向を伝えたんですか?
志磨 僕、これまで自分のメロディを8ビートでしか刻んだことがないんですね。16で刻んだことはほぼない。だから、実際にどう言ったのかは忘れたけど、「8の向こう側へ行ってみたい」ということを伝えて(笑)。
中野 まさかほぼ全曲で叩くことになるとは思わなかったけど(笑)。
──志磨さん自身が叩いている1曲以外は、ドラムの入ってる曲は全部ピエールさんが叩いていますもんね。
中野 曲ごとにドラマーを変えてみたくならないのかなって。「随分と思いきった決断をしてくれたな、全然やるけど」って感じでしたね。でもドラマーとしては求められているものがわかれば、それをやるだけだから。
志磨 できればドラムに関しては作品全体を貫くものを1本通したくて。それで、無理を承知で全部お願いしてみたんです。
──なるほど。
志磨 「1」を作っていて初めてわかったのは、これまで自分が音楽を作ってきた中で、そのかなりの部分を占めていたのはそのときどきのバンドのメンバーの身体的な能力であったり、そのときどきに“バンドが生きていたストーリー”であったり、そういうものに引っぱられてきたんだなってことで。そういう意味では、僕はこれまでバンドに曲を捧げてきたんですよ。でも1人になると、バンドが得意なことを考える必要もないし、そこに歴史もないし、曲を捧げる相手もいない。そうなると、「曲を書く」ということ自体に向き合うことにもなるんです。そうやって生まれたのが「1」で、今回の作品も出発点はそこと同じなんですけど、そんなふうに自由に曲を書けるようになったときに、それを全部受け止めてくれるドラマーっていうのはすごく限られていて。
中野 最初は自分がこれまでやってきたことのイメージやスタイルとは真逆のことを求められるんだろうなって思ってたんですよ。僕は普段、全然スネアをミュートしないんですけど、ミュートしたりとか、細かいフレーズよりも大きいビートだとか、そういうものを求められると思っていたんです。
志磨 全然違ったよね。
中野 そう。一応なんでもできる準備をしてレコーディングに行って、最初はツーバス(バスドラムを2台用いるセッティング)はやめとこうって思ってたんですけど……。
志磨 レコーディングの序盤で、「やっぱりツーバス入れていこうか」って(笑)。
中野 「え? ライブでやるとき大丈夫?」って聞いても、「大丈夫大丈夫、アレンジ変えるんで」って。
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- ドレスコーズ ニューアルバム「オーディション」 / 2015年10月21日発売 / EVIL LINE RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3780円 / KICS-93310
- 通常盤 [CD] 3240円 / KICS-3310
- 2015年12月23日発売(HMV、ツアー会場限定)アナログ盤[アナログ2枚組] 4000円 / NAS-2025~6
CD収録曲
- 嵐の季節(はじめに)
- jiji
- スローガン
- 愛さなくなるまでは愛してる(発売は水曜日)
- メロウゴールド
- We Hate The Sun
- もあ
- しんせい
- オーディション
- みなさん、さようなら
- 贅沢とユーモア
- おわりに
初回限定盤DVD収録内容
- 「スローガン」AUDITION VIDEO
- 「贅沢とユーモア」STUDIO LIVE VIDEO
- 「志磨遼平のオーディション THE MOVIE」
Tour 2015 "Don't Trust Ryohei Shima" JAPAN TOUR
- 2015年11月29日(日)
福岡県 BEAT STATION - 2015年12月1日(火)
大阪府 BIGCAT - 2015年12月4日(金)
宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX - 2015年12月6日(日)
北海道 cube garden - 2015年12月10日(木)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO - 2015年12月19日(土)
東京都 Zepp DiverCity TOKYO
ドレスコーズ
2012年1月1日に志磨遼平(Vo)、丸山康太(G)、菅大智(Dr)の3名で初ライブを実施し、同年2月に山中治雄(B)が加入する。6月には大阪、名古屋、横須賀で「Before The Beginning」と題したツアーを突如開催。7月に1stシングル「Trash」をリリースし、タイトル曲は映画「苦役列車」主題歌に採用され話題を集めた。12月に1stフルアルバム「the dresscodes」、2013年11月にフジテレビ系アニメ「トリコ」のエンディングテーマ「トートロジー」を含む2ndフルアルバム「バンド・デシネ」を発売。2014年9月にキングレコード内レーベル・EVIL LINE RECORDSへの移籍第1弾作品として5曲入りCD「Hippies E.P.」をリリースし、同時に丸山、菅、山中の脱退を発表した。ドレスコーズは志磨の単独体制となり、同年12月にフルアルバム「1」をリリース。2015年10月、ピエール中野(凛として時雨)、會田茂一、沙田瑞紀(ねごと)ら多数のゲストプレイヤーを迎えて制作した4thアルバム「オーディション」を発売する。
ピエール中野(ピエールナカノ)
凛として時雨のドラマー。2014年8月にはORIGAや20名のドラマーが参加したドラムオーケストラ「Animus」、Perfume「チョコレイト・ディスコ」のカバーなどを収録した「Chaotic Vibes Orchestra」を発表。完全即興ユニットのカオティック・スピードキングや、自身がMCクールJ名義で参加している下ネタ満載ヒップホップユニット・玉筋クールJ太郎でも活動している。近年では大森靖子、GLAY、ドレスコーズ、星野源、ももいろクローバーZといったアーティストの楽曲にドラマーとして参加したほか、全国の音楽フェスティバルやライブイベントでDJとしても活躍している。