ベーシストにとってつらい状況

──ドリカムもゲスの極み乙女。もアリーナ会場でのライブを経験していますが、お二人はライブについてのこだわりなどありますか？

課長　それで言うと、会場がデカくなればなるほど……。

中村　ベースなんて誰も聴いてない（笑）。

課長　届きづらい（笑）。

中村　あんな悲しい仕事ないよね。

課長　がんばってるのに（笑）。

中村　課長はライブではアンプの音も混ぜてるの？

課長　いや、混ぜてないです。

中村　偉い。アンプの音なんか混ぜたってしょうがないもんね。俺たちみたいなスタイルのベーシストは（笑）。

──アンプの音を混ぜないというのはどういう意味ですか？

中村　アンプの音を大切にするミュージシャンは、アンプで鳴ってる音をマイクで拾って、アンプの音とラインの音を両方パラでPAミキサーに送るんですけど、俺たちはラインの音しか使ってないんです。

課長　ライブのときはそうですね。ちょうど気に入ったDI（＝ダイレクトボックス。ギターやベースの音をアンプを通さず直接ミキサーに送る機材）もあったんで。

──なぜそのスタイルなんでしょうか？

中村　それは趣味だよね。

課長　趣味ですね（笑）。

中村　そっちのほうが音の粒が立つんです。

課長　マイクを通すとどうしても音像がぼやけてしまうので。それを混ぜる段階でまたぼやけるし。

中村　あとアンプを使うと湿気によって音が変わっちゃうんですよね。ラインでかまわないんだったらラインのほうがいい。データももったいないし。

課長　そうですよね。回線が1つ増えちゃうから。

中村　そうそう。それで音が痩せちゃうからね。特に今はミキサーまでデジタル送信になっちゃって、もうベーシストにとっては本当につらい状況ですよ。ワイヤレスの周波数帯も最悪だし。

課長　僕はワイヤレスは使ったことなくて。

中村　いいね。俺は商売柄どうしてもワイヤレス必要だから。

課長　ああ、空を飛んだりしなきゃいけないですもんね（笑）。

中村　そうなんだよ（笑）。だから誰か音楽業界の人が政治家になって電波の割り当てを考えてほしい。いい電波帯がみんな電話会社に持っていかれちゃって、今コンサート業界は危機状態なんです。

課長　中村さんが政治家になるのはどうですか？

中村　いやいや、こういう人間が一番ダメなの（笑）。

「MIWA DISC」はドリカムのダークサイド

──ところで今回のドリカムは“裏ベストアルバム”ということですが、どういう意図で作られたんでしょうか？

中村　陰と陽というかジェダイとダークサイドというか、裏っていうのは永遠の命題だと思うんですよね。だから表を作ったら裏も作っとかないとバランスが取れない。特に吉田美和という人がすごく“裏”な人間だからね。

課長　そうなんですか？

中村　すごくダークだよ。“ドリカムの吉田美和”にポジティブで明るくて「イエーイ！」みたいなイメージがあるとしたら、それを演じてるとかではないんだけど、でも根っからそういう人なわけでもない。最初からずっといい意味でダークだし、きらびやかでドリーミーなものを嫌う人だからね。

課長　でも普段はそうだとしても、ライブはすごくドリーミーじゃないですか。

中村　それも嫌なんだよ、あの人は。だから「ドリカムワンダーランド」のときも毎回ひねくれたコーナーを作ったりして（笑）。今回の裏ベストも「MIWA DISC」っていうのがあるんだけど、これもものすごくドロドロした内容になってますから（笑）。

課長　その話を聞いて、アルバムを聴くのがますます楽しみになりました。

中村　いやいや、吉田に選曲させたの後悔してるもん（笑）。だって裏とはいえベストアルバムなんだからみんなが知ってる曲でそろえたいでしょ？ それなのにアレだからね。ドリカムのダークサイドはよく出てると思うけど。

課長　（笑）。そういうの僕はすごくいいことだなと思います。音楽に限ったことではないですが、今はあまりにもわかりやすいものばかりが支持されて、テンプレート通りのものであふれてると個人的に思う。深みを味わったり、もっと自由でいたいですよね。

中村　その点ゲスはフットワークが軽快でいいですよ。やりたいようにやったらみんなが聴いてくれたっていう。70歳になっても80歳になってもその調子でやってほしいですね。

課長　中村さんも全然フットワーク軽いと思いますけど（笑）。たぶん実際はいろんなしがらみとか戦ってる部分はあるんだろうけど、それをまったく感じさせないですよね。僕もそういう人間になりたいと思ってます。