「ドラガリアロスト」特集 DAOKO×浦本雅史(DAOKOサウンドプロデューサー)×小島英也(ORESAMA)鼎談|DAOKOの曲だけで表現する新しいゲーム音楽の在り方

DAOKO×浦本雅史(DAOKOサウンドプロデューサー)×小島英也(ORESAMA)鼎談

「打上花火」以降のボーカルの変化

──特集の後半ではDAOKOさんのサウンドプロデュースを手がけている浦本さんと、DAOKOさんに何曲も提供しているORESAMAの小島さんを交えて「ドラガリアロスト」の音楽についてのお話を伺えればと思います。小島さんは楽曲提供者でもありながら、ゲーム用に音楽を編曲する作業も手がけているんでしょうか?

小島英也(ORESAMA) はい。具体的にはCymusic(音楽制作やマネジメントを手がける、Cygamesの子会社)さんに原曲を投げて、ゲーム用にアレンジしてもらったものを、僕がさらに調整して、という作業で携わらせてもらっています。

浦本雅史 僕は小島くんが作ったものをもらったうえで、必要とあればDAOKOちゃんの歌を録って、それぞれサウンドのバランスを取るミックスと言われる作業をしています。

──「ドラガリアロスト」というゲーム音楽をDAOKOさんの曲だけで構成する、と聞いてどう思いましたか?

浦本 最初に聞いたときは驚きましたね。「本当にそんなことできるの?」って思ったんですけど、作業を進めていって小島くんが上げてきたものを聴いたらちゃんとBGMになっていたんですよね。しかもこう、ちょっと遅れて「あ、これはあの曲のアレンジか」って気付くんですよ。

DAOKO 一度自分の曲として生み出したものが、生まれ変わって新しい音楽として鳴ってる感じはありますね。それは別に嫌な感覚じゃなくて、自分の曲だけど新鮮に触れられるのがうれしくて。

小島 僕はけっこういろんなゲームをやるんですけど、特定のアーティストの曲だけで音楽を構成したゲームってこれまであまり聞いたことがなくて。それと、ゲームのBGMとして声が入った曲を使うのはどうなんだろうって、ちょっとした不安もあったんです。でも実際にゲームのBGMとしてアレンジした曲を聴かせてもらったら、DAOKOさんの声がちゃんとゲームの世界、デジタルの世界の中でちゃんとマッチしていたんです。いい意味で人間味がありすぎない感じがいいと言うか……。

──先ほどの対談でDAOKOさん自身も「自分の声を楽器的なものとして捉えている」と話していました。

DAOKO

DAOKO はい。「打上花火」(2017年8月にリリースされたDAOKO × 米津玄師名義のシングル曲)以降、けっこう私の中でも意識していた部分なんです。自分の声を客観的に捉えるようにしていました。

浦本 「打上花火」以降のボーカルの変化は確かに僕も感じていて。いい意味ですごく表情がないと言うか。スッと言葉が入ってきやすい声を出すようになったんですよね。その変化が今回の「ドラガリアロスト」の曲には生かされていると思います。

DAOKO 声に関してはこれまでいろんな歌い方を試してきて、曲ごとに合った声を選べるくらいには成長できたかなって思っているんです。ただ自分の声を楽器的に捉えられるようになったのはまだ最近の話なので、このタイミングで「ドラガリアロスト」のお話をいただいて運命的と言うか、すごくいい出会い方ができたなって感じています。

展開に頼らず飽きさせない工夫を

──浦本さんと小島さんはこれまでゲーム音楽に携わったことってありましたか?

小島 僕はないですね。

浦本 僕もないかな。

──今回「ドラガリアロスト」の音楽を手がけることになって、ゲーム音楽ならではの苦労とか、気を付けたところとかはありましたか?

小島 初めてゲーム音楽の作り手側に立たせていただいて驚いたのが、曲の構成ですね。僕は日々歌モノを作っているので、1コーラスの中に展開を作ってドラマチックにしなきゃいけないって感覚が染み付いていたんですけど、ゲーム音楽では曲によって展開が不要なこともあるんです。盛り上がりを付けたいなら、ほかの曲に変えるという発想ができる。実際に僕も展開に頼らず音色の微妙な変化で飽きさせない工夫をしています。いろいろ挑戦できて刺激的でした。

浦本 今小島くんが話してくれたように、求められている音楽が普段の歌モノの音源とは違うというのは常に感じていました。とは言え「ドラガリアロスト」で表現している音楽は固有のものでもあるから、これまでどういう音楽がゲームで主流だったか、みたいなことにはそこまで囚われないようにも考えていて。

小島 BGMとして派手すぎるとプレイしているときに意識が音楽に持ってかれちゃうかな、とかいろいろ心配だったんですけど、実際にゲーム画面と一緒に聴かせてもらったときは全然そんなことなくて。ここまで作り込んだ音楽がちゃんとBGMとして機能しているのはちょっと新鮮な感覚でした。

浦本雅史

浦本 やっぱりスマートフォンでプレイするものですから、プレイヤーの方々がしっかりゲームに入り込めるような形はミックスの段階でかなり意識しています。もちろんゲームの中で違和感なく音楽を鳴らすことが僕の目標するところなので、実際にプレイしていると気付きにくいのかもしれないんですけどね(笑)。よくよく聴いてみたら「あ、こんなに繊細に作っているんだ」って気付いてもらうくらいだと思います。

──「ドラガリアロスト」には小島さんの提供した新曲も含まれていると聞きました。

DAOKO はい。既発の曲が使われているのはもちろん、何曲か小島さんに新たに書いてもらった曲があります。

小島 新曲は最初からゲーム用に作曲したものではなく、僕がいつもDAOKOさんに提供しているようなポップ要素の強い曲をまず作りました。それをCymusicさんが何パターンかアレンジしてくれた音源がゲームに入っています。

DAOKO 確か洞窟のシーンとか、進んでいくごとに現れる特定の場所で聴ける曲。ゲーム用にレコーディングをしました。

浦本 CDでリリースする形の音楽と違って、音楽の時間自体が短くて、しかもループさせるんですよね。小島くんもけっこうその辺りを気にして編曲をしているのかなとは感じていました。

小島 初めてゲーム音楽を作るのでもちろん意識をしていたところはありますけど、あくまで僕はORESAMAとしてJ-POPを作っている感覚は忘れないように心がけていました。アニソンを作るときも一緒なんですけど、アニメのことを意識しすぎないように、作るときは一度アニソンを作ってる感覚を捨てるようにしてるんです。僕が今鳴らしたい音楽が自然と作品に寄り添える形がベストだと思っていますから。ただゲームの世界観を壊してまで自分の音楽観を押し出すのは絶対NGなので、例えばアレンジしていただいた音源に対して「この音だったら僕はこういう音色のシンセを使いたい」「こういうドラムの音にしたい」っていうのを提案させていただきました。