HD-2D版「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」×ヒャダイン|ドラクエ直撃世代クリエイターが学んだ人生論 (2/2)

「ドラクエ」が人格形成に与えた影響

──ここからは「III」以外の「ドラクエ」の思い出も聞かせてください。

「ドラゴンクエストII」は当時姉がやっていたのを後ろで見てました。そのあと8歳のときに「III」が出たんでそれでハマって、そこからさかのぼって「II」をやったんですけど……。

──ファミリーコンピュータ版の「II」は8歳には難しかったのでは?

はい、子供のときは「ムズ!」っとなって、ちゃんとクリアしたのは大学生とかになってからですね。「IV」「V」「VI」はリアルタイムでやってて、もうそのあたりは僕の人格形成に大きく関わってる作品なのでホント感謝しかないです。今いろんなアイドルさんに曲を書いてますけど、僕の中でグループアイドルって「ドラゴンクエストIV」の“導かれし者たち”のイメージなんです。いろんな個性が集まって1つのことを成し遂げる。アイドルさんたちの歌のパートを割り振ったり歌詞を当て書きするときに「IV」の影響を受けてるなと思いますね。

──「IV」のパーティメンバーは全員キャラが立っていますからね。

そうなんです。1人ひとりにストーリーがあるのが素晴らしい。五章での“出会いが逆順”になっているのもおしゃれですし。それにしても「IV」の主人公はかわいそうすぎる。あんなひどい目に遭ってるのによくまっすぐ育ってくれたと思います(笑)。

ヒャダイン

──悲惨さでいえば「V」の主人公も相当です。

ホントですよね! 目の前でお父さんを失って、青春時代はほぼほぼ奴隷で、子供ができたと思ったら子供の一番かわいい時期を石として過ごす。石だから子育てにも参加できず。だから主人公は魔王を倒すことで自らの不幸な運命に抗おうとしてるんでしょうね。

──「V」では結婚相手を選べますね。ヒャダインさんはどちらを……?

もちろんビアンカです。

──即答ですね。どうしてビアンカなんですか?

逆にどうしてビアンカじゃないのかって話ですよね。

──逆に(笑)。

初めてプレイしたときからビアンカで、その頃はネットもなくて1人でプレイしてるんで、世界中の人が全員ビアンカを選んでると思ってたんですよ。フローラを選ぶ人なんかいるわけないって。でも世の中にはなかなかどうしてフローラ派も多いみたいで、中川翔子さん、仲良しなんですけど、彼女は絶対にフローラを選ぶんですって。僕はみんなビアンカ派だと思ってましたけど実際はそうじゃない。世界は広いんだという堀井雄二さんからの戒めですね。「ドラクエ」はいつもいろんな戒めをくれます(笑)。

──「ドラゴンクエスト」シリーズがヒャダインさんに与えた影響はかなり大きいみたいですね。

そうですね、特に「III」「IV」「V」は別格です。細かいところまで全部覚えてます。本編以外だと「ドラゴンクエストヒーローズI」と「II」もだいぶやり込みました。スピンオフとは思えない緻密な作りで、それぞれのキャラクターを丁寧に扱ってるのが大好きで。あと最近だと「ドラゴンクエストXI」も本当に素晴らしかったです。多様性に満ちてるのにそこをひけらかさず、当然のようにやってるのがいいですよね。何よりストーリーが壮大で最近の潮流であるパラレルワールドも意識しつつ、それぞれのキャラクターが重く悲しいバックグラウンドを持っていて、心の弱さがあって、それぞれの運命を仲間とともに乗り越えていく。あのストーリーに堀井さんの優しさが詰まってる気がします。

ヒャダイン
ヒャダイン

今から「ドラクエ」ができるって素晴らしい

──言われてみれば「ドラゴンクエスト」シリーズでは不幸な運命や悲しいエピソードが描かれる場面も多いですね。

「III」の性格診断で「世の中には楽しいことよりも悲しいことのほうが多いと思いますか?」みたいな質問がありますけど、確かに人生って嫌なことや悲しいこともいっぱいある。人生いいことばっかりじゃないよってことをファンタジーの中でもちゃんと表現してるのは「ドラクエ」のすごいところだと思います。仲間が死んで棺桶を引っ張るとかもけっこうシビアじゃないですか。生き返らせるのにもお金が必要だったりして、でも実際そうですからね。大金を払ったらいい戒名がもらえたりする。「ドラクエ」ではそういうきれいごとじゃない部分もさらっと描かれている感じがします。

HD-2D版「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」より。

HD-2D版「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」より。

──「ドラクエ」はある意味人生の縮図なのかもしれませんね。

あと堀井さんのすごいところは人を見捨てないところだと思うんです。それぞれのキャラクターに物語があるし活躍できる場もあって、弱い者にも光を当ててくれる。遊び人が賢者になるのも「ダメなやつにもちゃんと席があるんだ」っていうメッセージなんじゃないですかね。

──ところで今回プロモーション用に「#ドラクエはいいぞ」というハッシュタグが用意されてるんですが、ヒャダインさんなら何を書きますか?

「#ドラクエはいいぞ」ですか? 「そりゃいいでしょうよ!」としか言えないけど(笑)、なんでしょうね、100個くらい書けそうです。でもやっぱり「がんばれば成長できる」「努力が報われる世界だ」っていうのは言っておきたいかもしれない。今の時代は特に努力しなくてもTikTokでいきなりバズったりとかありますけど、やっぱりそういう人はすぐに消えてしまう。でも努力を積み重ねてきた人は足腰が強いから残っていくわけで、努力は絶対に裏切らない。転職でレベル1に戻っても前職の呪文や特技は忘れないですからね(笑)。努力するのは楽しいんだってことを「ドラクエ」が教えてくれる気がします。

ヒャダイン

──ヒャダインさんはまさにドラクエ直撃世代ですが、今10代や20代のユーザーは「ドラクエ」を知っていてもプレイしたことがない人もいるかもしれません。

はあ、うらやましい! 何も知らない状態で今から「ドラクエ」ができるって素晴らしいですよ! 今初めてピンク・レディーを聴くようなもんですからね(笑)。「この場面、おっちゃんが言ってたあれか」とか「この曲バラエティ番組で聴いたことある」みたいなこともあるでしょうし。

──時代を超えて伝わる魅力があるんですよね。

そう、言ってしまえば「ドラゴンクエストIII」ってストーリーを知っている人が多いにもかかわらず今こうして期待して、早くやりたくてうずうずしてる。時代が変わっても内容を知っててもいいものはいい。変わらずずっと面白いってことですからね。これは本当にすごいことだと思います。

ヒャダイン

プロフィール

ヒャダイン

1980年、大阪生まれの音楽クリエイター。本名は前山田健一。3歳でピアノを始め、作詞・作曲・編曲を独学で身に付ける。京都大学を卒業後、2007年より作曲家としての活動を開始。動画投稿サイトへヒャダイン名義でアップした楽曲が話題になる。一方、本名での作家活動で提供曲が2作連続でオリコンチャート1位を獲得するなどの実績を残し、2010年にヒャダイン=前山田健一であることを公表。アイドルソングやJ-POP、アニメソング、ゲーム音楽など多方面への楽曲提供を精力的に行い、自身もアーティスト、タレントとして活動する。2021年9月には、サウナへの熱い思いをつづった「ヒャダインによるサウナの記録2018-2021—良い施設に白髪は宿る—」を、2022年10月には自身が手がけた楽曲をピアノアレンジした楽譜集「ヒャダイン(前山田健一) / ピアノ・コレクション」を発表した。