スクウェア・エニックスのゲーム「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」のHD-2D版が11月14日に発売される。「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」は、「ドラゴンクエスト」シリーズの第3作として1988年に発売されたゲーム。勇敢な戦士だった父・オルテガの遺志を継いだ主人公が、闇の国より現れた魔王バラモスを倒すため冒険を繰り広げる。
発売当時、ゲーム屋や家電量販店に人が殺到し、国内で380万本という驚異的な売上を記録したことでも知られるファミリーコンピュータ版「ドラゴンクエストIII」。36年という時を経て生まれ変わったそのHD-2D版は、美しいグラフィックや臨場感あふれるサウンド、2020年代仕様にアップデートされたキャラクターたちとともに、世界中を熱狂させたRPGの物語に没頭できる内容となっている。
HD-2D版「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」の発売を記念して、この特集ではドラクエ直撃世代であるヒャダインのインタビューを掲載。実際にHD-2D版をプレイしてもらい“懐かしくも新しい”世界を味わってもらった。ヒャダインの人格形成にも影響をおよぼした「ドラゴンクエストIII」の魅力、そして彼が挙げる「#ドラクエはいいぞ」のポイントとは?
なお、ナタリーでは「ドラゴンクエスト」シリーズに特化した特設サイト「ドラクエナタリー」を展開中。「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」やシリーズにまつわる特集、ニュースを掲載しているので、あわせて楽しんでほしい。
取材・文 / 大山卓也写真 / 関口佳代
HD-2D体験プレイのファーストインプレッション
──本日はHD-2D版「ドラゴンクエストIII」の序盤をプレイしていただきました。アリアハンの城からルイーダの酒場までの道をいきなり最短ルートで歩いてましたね。
どの場所も実家の周り並みに覚えてますから(笑)。
──プレイしての第一印象はいかがですか?
これ関係者の方たちはめっちゃ安心したと思います。絶対に売れる(笑)。みんなの思い出の中にあった「ドラクエ」がピカピカになって帰ってきて、もう全員大喜びするやつだなと思いました。
──具体的にはどこが刺さりました?
まずは町やフィールドの光や立体感がすごいですよね。ドット絵と3Dのいいとこ取りで、思い出補正を裏切らない。序盤を少し触っただけでもあのシーンはどうなるんだろう、このシーンはどうなるんだろうと想像が止まらんです。
──イベントシーンではボイスが採用されていますが違和感はなかったですか?
いや、すごくよかったです。「III」ってストーリー自体はシンプルだったと思うんですけど、今回ボイスが付くことによってお母さんの想いなんかが立体的に見えてきて、物語がより豊潤になった気がします。誰の声が楽しみかな? ヒミコの声も聞きたいし、サマンオサの王様のエピソードもいいですね。
──音楽についてはいかがです?
やっぱりメロディラインの美しさはずば抜けてますよね。
──ヒャダインさんの音楽家としての原点がここにある?
もちろんそうです。フィールド曲の勇ましさ、ほこらの曲の寂しさ、塔の曲のいびつさ、神楽みたいなジパングの曲。1人の音楽家がこんなにいろんなものを作れるんだ、ジャンルなんて簡単に超えられるんだってことを「ドラクエ」の音楽に教えてもらった気がします。
──今回のHD-2D版では東京都交響楽団によるオーケストラ音源が採用されています。
すぎやまこういち先生の中では、作曲をしたときから音はオーケストラで鳴っていたんだと思うんです。それをファミリーコンピュータ版ではダウンコンバートして3音+1ノイズのチップチューンにしていた。だから今回は“オーケストラ音源になった”というより“本来の形に戻った”というほうが正しいんじゃないでしょうかね。
──今回は少しですが戦闘も体験していただきました。
攻撃呪文のエフェクトがきれいでしたね。メラとメラゾーマの違いとかをもっと見てみたいし、特技がどんどん出てくるらしいのでそれもどうなるのか。あとブーメランみたいな全体攻撃のエフェクトも気になりますね。今回「VIII」以降と同じく“かしこさ”に応じて呪文のダメージが変わると聞いてるので、それもまた楽しみですし。
──ヒャダインさん、発表されている新要素はすでにチェック済みなんですね。
もちろんです。情報が出るたびにNintendo Directとか観てますし、ドラクエ好きのYouTuberの動画なんかもチェックしてますから。今回は新しい職業があったりキャラクターの見た目を選べたりするんですよね? ちゃんと2024年の「ドラクエ」になっていて、ホスピタリティに満ち満ちてるのがわかります。
──じゃあ今回の取材と関係なく普通にプレイする予定でした?
当たり前じゃないですかそんなの(笑)。やるに決まってますよ!
何十回もプレイしたファミリーコンピュータ版「III」の思い出
──お話を伺っていると、「ドラクエIII」がヒャダインさんにとって特別な作品だということが伝わってきます。
何よりも思い入れの強いタイトルです。初めてやったRPGが「ドラゴンクエストIII」でしたし、特にファミリーコンピュータ版は何十回もプレイしてますから。鍛えまくったレベル99の冒険の書もあります(笑)。スーパーファミコン版以降もやってますけど、自分の中ではやっぱりファミリーコンピュータ版ですね。
──では「ドラゴンクエストIII」の印象深いエピソードがあれば聞かせてください。
そうですねえ、そんなの何時間でもしゃべれるんですけど(笑)。(レベルを上げないまま)ロマリアから東に進んだら“あばれザル”と遭遇して全滅するっていう、ベタですけどあれはショックでした。確かに「東には恐ろしい怪物がいるぞ」って言われてたんですよ。そこで全滅したおかげで、大人が危ないと言う場所は本当に行っちゃダメなんだってことを学びました。これもう情操教育ですよね(笑)。でもそこからは、ロマリアの北にあるカザーブとかノアニールとかに行って一旦実力を付けたあとに戻ってきて、「今なら戦えるじゃん」ってなったときはすごくうれしかったです。そのあと調子に乗って今度は南へ進んでイシスに行ったらカニ(じごくのハサミ)が出てきて、カッチカッチだしベギラマも効きにくいしで大変な思いをするんですけど。あとアッサラームの店の値引き交渉も面白かったですね。アッサラームでがんばって値引きしてもらっても普通の店のほうがそれより安い。大人になっていろんな国を旅するようになって、確かにああいう値引き前提の国ってあるよなと(笑)。「ドラゴンクエストIII」のおかげでそこらへんの知見も広がりました。
──そのほかにはありますか?
僕はレベル上げをするのが本当に好きなんで、ダーマの神殿の北にある塔でメタルスライム狩りをしてたのもよく覚えてます。そこで一気にレベルを上げて“やまたのおろち”をサクッと倒すみたいなプレイも大好きでした。そしてダーマの神殿といえばやっぱり転職システムが斬新でしたよね。転職するとレベル1になって「弱くてキツいかな?」と思うんだけど、けっこうすぐに仲間に追いつくじゃないですか。これって実社会も同じだなと思ってて、転職して新しく入ってきた人って最初はあんまり活躍できないけど、すぐに周りと足並みそろえて働けるようになる。実際大人になってから「ドラクエ」はこれを表現してたんだ!って感じることはめちゃめちゃ多いですね。
──わかります。
あと「ドラゴンクエストIII」のつらい思い出があるとしたら、冒険の書が消えたときの音。「ごめんなさい、消えちゃいました」って優しい音楽かけてくれればいいのに(笑)。でもそういう危険に備えて冒険の書はまめにコピーするようになったし、その経験が今の仕事でも役立ってます。別名で保存、shift+command+Sは大切ですよね。
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「ドラクエ」が人格形成に与えた影響