Doulが思う「暴れる」という言葉の意味
──では、Doulさんにとって、お客さんはどういう存在ですか?
いろんな感情を抱いてくれる存在ですね。Doulの音楽を聴いたことによって、いろんな考えを逆に私に教えてくれる人たちでもあって。歌詞を読んで「俺はそう思わない」と否定な意見をくれる人もいれば、「自分もこういう感情だった」と教えてくれる人もいる。自分から生まれるメッセージや経験を伝えているからこそ、そうやってリアクションが返ってくるんだと思うんですけど、自分の想像力を高めてくれる存在であってほしいなと思います。あと曲を聴いたことによって、その人自身の新しい考えを見つけてほしいな。でもまあ、シンプルに自分の音楽で暴れているみんなを見るのが好きですね。
──先ほども「暴れる」という表現を使っていましたが、Doulさんにとって、音楽を聴いた人間の状態として、「暴れる」というのが一番理想的なものなんですかね。あえて言語化すると、ですけど。
「暴れる」って、単純に表現として好きだし、自分がすっごく暴れたいから使っている言葉だと思う(笑)。でも、「暴れる」って文字通りの意味だけじゃないと思うんですよ。音楽を聴くと自然に体が揺れるじゃないですか。例えば、みんなが目隠しして踊っているところを想像すると、きっとそれぞれ違う踊り方をすると思うんです。同じ曲であろうと、みんな違う動きをしてる。それが、その人の個性なのかなって。だから好きな音楽を聴いてめっちゃ踊っていてもいいし、なんなら踊らなくていい。その音楽に洗脳されるようにずっと上向いて目を瞑っていても、それでも心は暴れているわけであって。自分の好きなように体を動かして、自分の好きなように頭の中で想像している……そういう状態を、自分は「暴れる」と表現している気がします。
──ステージに立つ存在というのは、そう簡単に暴れられなくなる、自由でいられなくなっていくという側面もあるのかもしれないですよね。例えば、メッセンジャーや代弁者としての役割を背負わされてしまう場合もある。そういった部分に、Doulさんはどう向き合っていくと思いますか?
そういうことは、あんまり気にせずやっていくと思います。背負うのだとしたら、いつの間にか背負っているものなのかなと。みんなに「そうあってほしい」と思われても、別に自分がそうなりたくなかったら、ならない。自分がステージに立つ意味を理解しているのは、自分だけなので。
──そうですね。
例えばセクシャリティに関して、私は性別のない人間として生きているし、みんなからすると「そういう立場の代表として、もっと語ってほしい」と言われることもあるけど、それすら語る意味もないなと最近は思っていて。否定をしても肯定しても、差別になってしまうことがあるというか。
自分の内側から出るものを音楽に
──話を音楽に戻すと、曲作りはギターで行うんですよね?
基本そうですね。アコギでだいたいのフルコーラスを作って、それからベース、ドラムを打ち込んだりしてアレンジする感じです。
──最初に手にした楽器がギターだったと過去のインタビュー記事で見ましたが、ギターという楽器にはどういった魅力を感じていますか?
一番好きな楽器がアコースティックギターなんです。自分の寝る場所の近くに置いておかないと安心できないくらい。そもそも、Nirvanaがアコースティックライブをしている映像を観て、「いいな」と思ったんですよ。
──「MTV Unplugged In New York」ですかね。
そうそう。あれでアコギを買ったんですよ。あれを観て、「あんな派手だった曲が、アコギだけでこんないい感じになるんや。別の個性が出せるんや」と思って。自分の曲でめちゃくちゃ派手にアレンジしてある曲でも、アコースティックギターで演奏したときに本当の自分らしさが出るし、そうなるのが、本当にいい曲なんじゃないかなと思うんですよね。
──例えば新作の中の「Bone」の歌詞を読んで思ったんですけど、Doulさんは、すごく原始的な高揚感を求めているような感じがして。だからこそ、アコギのように体と一体化するような楽器を好まれたのかなと思いました。
確かにそうかもしれない。体全体で感じるというか。「Bone」は本当にもう、骨の内側くらいまで掘り下げて書いた曲で。ダークな曲ではあるんですけど、自分が精神的に落ちたときに、「どうやってそこから上がるか?」を考えて書いた曲でもあるんです。やっぱり、どんな感情になっても、自分の体から伝わるものが大きいなと思います。自分自身からいろんなものを出してくというか。今でも、自分の頭の中はアイデアだらけなんで。作りたい音楽がいまだにあふれ返っていると思う。そうやって、本当に自分の内側から出るものを音楽にしていきたいです。すごくシンプルなことですね。
──じゃあ、ちょっと乱暴な質問ですけど、今日、今この瞬間の気分として、どんな音楽を作りたいですか?
今?(笑)……今は最初から最後まですごいシンプルなコードで、誰にでもわかりやすいロックを歌いたい。70年代後半から80年代くらいの感じの。今日、ここに来るときもそういう音楽を聴いていたんですよ。The Runawaysとか、ジョーン・ジェットとか。めっちゃシンプルなコードで歌うじゃないですか。ああいうのを1曲くらいやってもいいかなって思う。曲もわかりやすくて、メッセージもすごくわかりやすくて、でもカッコいい。マジの今現在で言うと、それかも。
死ぬまで大切にするべきメッセージが詰まった「16yrs」
──「W.O.L.F」というアルバムタイトルはどういった経緯で付けられたんですか?
これは感覚的に付けました。不思議に思われると思うんですけど、昔から狼が守護神のように自分の背後にいるような感覚がずっとあったんです。自分が危機にあったときに、狼が何かを感じさせてくれるように背後にいるというか……。「W.O.L.F」は「自分はこういう人間だよ」という自己紹介的なアルバムもあるので、それがいいメッセージになるような気がしたんです。
──3曲のインタールードを含めた全17曲と大容量のアルバムになりましたが、全体の流れはどのようにして考えましたか?
曲順に関してはすっごい悩んだんですけど、自分の伝えたいメッセージ的にも、この順番で聴いてほしいなと思いました。全体を見ると、感情が波になっていると思うんです。序盤は不安な思いを歌っている曲もあるけど、最後の「We Will Drive Next」や「16yrs」に関しては、ポジティブに、すごく勇気付けられる曲だと思う。でも、その前には恋愛ソングを入れて、ちょっと落ち着いたトーンにしてみたり、全体のストーリー性はすごく考えました。あと、最後に「16yrs」を入れたのは「この曲はもう、ここで終了」という意味合いもありますね。「新しいところに進もう」って。
──「16yrs」はデビュー曲でもありますが、今のDoulさんが向き合ったとき、どんな感情を抱かせる曲ですか?
この曲は、すごくシンプルなことを言ってるんですけど、ここにあるのは、今後生きてく中で死ぬまで大切にしていくべきメッセージなんじゃないかなと自分では思っていて。自分がDoulとしてじゃなく、リスナーとしても、このメッセージを受け止めるために何度も聴き返すことになるんじゃないかというか。シンプルでわかりやすいけど、一生大切にして過ごすべき内容を歌っている気がするんです。一生忘れない曲だと思う。今聴いてもすごく新鮮だし。
──「16歳」という限定的なタイトルだけど、年齢に左右されない、すごく普遍的な曲である。
そうですね。タイトルに惑わされず、誰でも自分の年齢当てはめて聴けるんじゃないかな。
夢がある人間は落ちない
──今回のアルバムの中では、「Infinity」もかなり初期からある曲なんですよね。
そうですね、14、5歳の頃に作った曲だと思うんですけど、デビューする前、ストリートでずっと歌っていた大切な曲です。
──どういった思いから作った曲だったんですか?
「なんでもできるじゃん」と思ったんですよ。ずっと1人でやってきたからこそ、そう思ったのかもしれない。ヘアメイクやスタリングだって、曲作りだって、移動だって、全部自分でやろうと思えばできる。イベントを開こうと思えば自分で開けるし、ブランドを作ろうと思えば作れるし。そういうことに気付いたときに作った曲だったと思います。……この曲も、歌詞はすごくシンプルだし、めちゃくちゃわかりやすいと思うんです。でも、こういう簡単なメッセージほど、口で言うと伝わらないんですよね。こうやって会話の中で「人間の可能性って、限りないじゃん」と言っても、なんか軽いなって思っちゃう。でも、アコースティックギターに自分の声を強く乗せることですごく伝わるんじゃないかって。今回、「Infinity」は一発録りで、ギターと声を同時RECしたんです。
──Doulさんの曲は、内省の深さや、社会とのしがらみを前提にしている曲も多いけど、でも、最終的にはすごく力強く、ポジティブな場所に着地していきますよね。今の「Infinity」の話を聞いてそれを改めて思いました。
人間、落ちても、絶対上がっていけると思うんですよ。私は小学生の頃から周りにめちゃくちゃ言われることがあって、これまでキツいこともたくさんあったんです。人と違うからこそ言われてきた妬み、されてきた暴力…‥いろんなことがあったけど、でも、ここで落ちてくのは違うし、ここで自分がクズになる姿は見たくないし、ってずっと思い続けてきて。だから「やっぱり上を見なきゃ」って思うんですよね。夢がある人間は落ちないと思うんですよ。「自分が夢決めたんやけ、それ叶えるまでは死ねん」っていう感情で、私は生きてるんで。だから自然とこういう歌詞になる気がします。
ライブ情報
Doul First Tour 2022「A LONE WOLF -IF YOU CAN DREAM IT THEN YOU CAN BE IT.-」
- 2022年3月20日(日)福岡県 Kieth Flack
- 2022年3月21日(月・祝)福岡県 Kieth Flack
- 2022年3月25日(金)東京都 UNIT
- 2022年3月27日(日)大阪府 Shangri-La
- 2022年4月2日(土)愛知県 ell.FITS ALL
プロフィール
Doul(ダウル)
2003年生まれ、福岡出身のミュージシャン。2020年9月に配信シングル「16yrs」でデビューし、全編英語の歌詞とハイブリッドなサウンドで国内外のフォロワーを獲得する。作詞作曲からファッションコーディネート、ミュージックビデオ制作までクリエイティブ全般のセルフプロデュースを手がけている。2021年3月に1stアルバム「W.O.L.F」をリリース。3月から4月にかけて初のワンマンツアー「A LONE WOLF -IF YOU CAN DREAM IT THEN YOU CAN BE IT.-」を行う。