Doul「W.O.L.F」インタビュー|18歳の気鋭アーティストが音楽を鳴らす理由

Doulが3月9日に1stアルバム「W.O.L.F」をリリースした。

Doulは2020年9月にシングル「16yrs」でデビューした、福岡出身の18歳のアーティスト。全編英語の歌詞とハイブリッドなサウンドで耳の早いリスナーを中心に国内外で話題を集め、2021年にはSpotifyが次世代アーティストを紹介するサポートプログラム「RADAR:Early Noise 2021」に選出された。1stアルバム「W.O.L.F」には、彼女が18年間の中で感じたさまざまな感情を、ロックをベースとしたジャンルレスなサウンドに乗せた全17トラックが収められている。

音楽ナタリーPower Push初登場となる今回は、Doulが音楽活動を始めたきっかけや、創作におけるアティテュード、「W.O.L.F」の制作秘話について話を聞いた。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 斎藤大嗣

18年間のさまざまな感情を詰め込んだ1枚

──1stアルバム「W.O.L.F」を聴いて、Doulさんの音楽性や精神性といった多面的な魅力が詰まった作品だと感じました。

このアルバムができあがったときにまず思ったのは、「そのときそのときの感情で、いろんなものを作ってきたな」ということで。18年間生きてきて、いろんなジャンルの音楽を好きになったし、性格的にも常に同じことをやりたい性格ではないんです。今回のアルバムは、その18年間の自分を1つにまとめたものの第1弾という感じですね。

──「同じことをやりたくない」というのは、子供の頃からそうでしたか?

そうですね。さまざまなジャンルの音楽を聴いてきたし、昔から格闘技やスケートカルチャーに興味があって、いろんなことをやってきたんですよ。でも、それぞれを中途半端にやるのも好きじゃないんで、全部本気でやってきました。そういう精神性の部分は、作っている音楽にも出てるんじゃないかなと思います。

Doul

──Doulさんの書く歌詞を読むと、ご自身の生き方についてつづられている曲が多いように感じるんです。Doulさんにとって音楽が自分の生き方や人生を表明していくものになったのは、何かきっかけがあったんですか?

自分のオリジナル曲を作り出したのが13歳か14歳のときなんですけど、初めて書いた曲の時点で、歌詞には自分のことを書いてました。音楽を始めたときから自分のメッセージ性や経験を作品にするスタイルだったんです。もともと歌詞というより、普段から詩を書くタイプで。今でもそうなんですけど、歌詞としてじゃなくて、自分の感情や記憶を書くものとして、ノートに詩を書いていて。そのノートから言葉を引っ張ってくるのが自分の作詞の最初のスタイルだった。だから歌詞は本当に自分の思い出みたいなものなんですよね。今でも、つらいことであろうと、いいことであろうと、そのときあったことを1つひとつ作品にしている感じです。

──なぜ、Doulさんはそうした音楽の在り方を求めたのでしょうね?

世の中に疑問があったからかな。「生きづらい」とずっと思っていたので。年齢とか、いろんな壁がある中で、どうやって自分のことを発信して、どうやってみんなに伝えていくかを考えたときに、「音に乗せる」というところに行き着いたんだと思う。語っても伝わらないなら、音楽に入れ込むしかないなって。

──自分を生きづらくさせるものって、なんだと思いますか?

今一番思うのは、固定されたもの、ステレオタイプがすごく嫌。これがきっとみんなを生きづらくしているものだと思うんですよ。「もう、そういう時代じゃないよ」という思いがあって。セクシャリティに関しても、年齢に関しても、音楽のスタイルに関しても、ファッションに関しても、全部に関わってくることだなと。

シンパシーを感じたカート・コバーン

──Doulさんの音楽的なルーツについても伺いたいです。

軸はロックですね。1980~2000年代の音楽がすごく好きで、Linkin Parkやエミネムを日常的に聴いていました。ルーツとして強いのはロックだけど、ハイブリッドなサウンドや、ラップをずっと聴いてきて。あとはK-POP、ファンク、クラシックを聴いていたり、The Kinksとか60年代くらいの音楽も大好きですね。今の時代、どれだけ昔の音楽でも掘れるので、本当にジャンルは関係なくいろんなものを聴いてきたのかなと。でも、自分と一番リンクすると思ったのはNirvanaでした。

──どういったきっかけでNirvanaを好きになったんですか?

最初はファッションからというか、きっかけはカート(・コバーン)の写真だったんですよ。最初はアーティストであることも知らなくて。でも、あの有名な写真……サングラスをかけてヒョウ柄のカーディガンを羽織ってる、あの写真にすごい衝撃を受けたんです。「きれいにしているわけでもないし、カッコつけてるわけでもないのに、なんでこんなカッコいいんやろ?」と思って。そこから掘っていって、「Nirvanaというバンドをやっていたんだ」と知ったんです。今でも「誰が好き?」と聞かれると「カート」と答えるし、常にカートのことを考えてる。でも、尊敬とか影響という感じではないんですよね。尊敬というよりはこう……近いものを感じるというか。尊敬している人というと、リンキンのチェスター(・ベニントン)が浮かびます。チェスターはもう自分の中で神的な存在というか、本当に自分の音や声だけで勝負してるところがロッカーだなと感じる。そういう尊敬とは違う見方をしているのが、カートですね。

──シンパシーみたいなものですかね?

うん、そういう感じかな。何か自分と近く感じるものがある、みたいな。カートを見ていると、「きれいなものだけがカッコいいわけじゃない」と感じる。そこが「自分も一緒だ」と思うんですよね。カッコつけなくて、素なのが一番カッコいいんですよ。カートの昔の映像を観ていると、ライブ中に客が飛んできたり、客が暴れていても、ずーっと動じずに歌ってる……あの姿を見ると、「この人、自分と似てるな」と思う。

Doul
Doul

なぜ音楽だったのか?

──お話を聞く限り、日本の音楽はそんなに好みではなかった?

好まなかったというか、自分の近くになくて。一切聴いてこなかったです。日本の流行りの音楽を歌っていたこともあるんですけど、「これは自分のスタイルではないな」と思いました。それ以降は、自分がやりたい音楽は英語で歌う感じになりましたね。自分にとって、一番気持ちのいい音は英語だなって。

──音楽をやりながら生きていくことを決めたタイミングはいつだったんですか?

14歳から16歳の2年間くらい、ストリートでライブをやったり、小さいハコやイベントにたくさん出ていたんですけど、ライブしているときの自分が一番好きだし、一番輝いているんじゃないかと思って。その頃は格闘技も本気でやってたんで、リング上に立っている自分もめちゃくちゃ好きだったんですけど、それを上回ったのが音楽だった。それに気付いた瞬間に、「自分は音楽だな」と思いました。

Doul

──「ステージに立っている自分が好き」という感覚が強くあるんですね。

そうですね。ライブをしないと生きていけないかも。それを今の時期だからこそ実感しています。客がいなかったり、声が出せなかったり、ライブが中止になることも多かったので。それで、本当に生きる意味がわからなくなったりもして。ライブをやると自分の生きる幅が広がるし、そこで貯めたもので曲を作って、次のライブに備えるというサイクルが自分には合ってる。ライブをして、曲を作って、というスタイルをずっと続けていきたいです。

──ストリートライブを始めるのって勇気がいりそうなものですけど、原動力はなんだったんですか?

え、なんだったんだろう……めっちゃ気分で(笑)。

──(笑)。

福岡にいたときは、ふいにどこかに行きたくなって、海とか、自分の好きな公園のベンチとかでギターを弾くことがあって。その日、ギターを持って外で練習していたときに、「ちょっとここで歌って帰ろ」ってその場で歌うことにしたんです。ただ、アンプもマイクも持ってなかったので、近くの楽器屋に買いに行って、そのまま夜まで歌って。やってみたら外で歌うことの楽しさ、気持ちよさみたいなのにどハマりして、2年間ストリートをやってました。

憧れを原動力にしない

──福岡のストリートから出発して、今、Doulさんの音楽はメジャーからリリースされ、海外のプレイリストにも入る大きな規模のものになってきていますよね。ステージを大きくしていくこと、いわば「売れる」ということに関してはどのように見ているんですか?

「売れたい」という気持ちはもちろんあるんですけど、売れるために音楽をやってるわけでもない。もちろん「人が米粒くらいに見えるようなステージでライブをして暴れたい」という思いも常にあるんですけど、それは自分がどれだけがんばるかが大事なんですよね。あまり「売れよう」とは考えずに音楽を作ったほうが、いいものができると思う。

──「売れる」ということを意識して曲作りをしたことはあるんですか?

ありました。「16yrs」という曲があるんですけど、いまだにその曲をほかの曲が上回らなくて。「自分の中で一番いい曲だな」と思う曲なんですけど、だからこそ「16yrs」を上回る曲を作りたかった。それで「16yrs」っぽい曲を作ろうとしていたこともありました。でも、マジでその時期、音楽が作れなくて。何かに憧れたり、「それ」を目指して作っちゃうとできないんだなと気付かされました。

Doul

──「憧れ」というのは、Doulさんにとってそこまで重要な原動力にはならないのかもしれないですね。

そうですね。原動力にならないというか、憧れすぎてしまったら自分がなくなってしまうと思うんです。音楽を始めたての頃は「こういう声を出したい」「こうなりたい」みたいなのがあったんですけど、それを追い求めすぎてしまうと、どんどん自分が崩れていくような感じがして。結局、憧れの声にはなれないし、憧れの人にはなれない。憧れを持つのはいいことだと思うけど、憧れて“それ”をやろうとしてしまうと、自分をどんどん苦しめていく気がします。憧れの人間には絶対なれない。それなら、「その人を超える」ことを目標にしたほうがいいなって、今はそう考えるようになりましたね。

──確かに、Doulさんの音楽には「自分は自分でしかいられない」という思いが強く出ているような気がします。

そう思います。