「DOUBLE FANTASY - John & Yoko」|茂木欣一(東京スカパラダイスオーケストラ)が受け継いだジョン&ヨーコからのメッセージ

2019年にイギリス・リバプールで開催され好評を博したジョン・レノンとオノ・ヨーコの展覧会「DOUBLE FANTASY - John & Yoko」が、現在東京・ソニーミュージック六本木ミュージアムにて開催されている。

ジョンの生誕80年、没後40年のタイミングで東京に上陸した「DOUBLE FANTASY - John & Yoko」は、ジョンとヨーコの言葉、作品だけで構成された世界初の展覧会。2人の出生から出会い、共に発したメッセージ、1980年12月8日に突如訪れた悲しい別離、そしてヨーコがジョンの死後に発表した作品が時系列で展示されている。

今回音楽ナタリーでは、思春期にThe Beatlesと出会い、現在もジョンとヨーコから影響を受け続けているという茂木欣一(東京スカパラダイスオーケストラ)に、同展を体感してもらう特集を企画。彼が展覧会を通して受け取った、愛に満ちたメッセージを熱く語ってもらった。

取材・文 / 大谷隆之 撮影 / 吉場正和

お互いのことが必要で必要で、好きで好きで仕方なかった

──内覧、お疲れさまでした。長時間じっくり付き合っていただいて。

いやあ、本当に飽きないですね。僕、今回の「DOUBLE FANTASY - John & Yoko」展はすでに一度、オープニング時にがっつり観てるんです。でも、何しろ貴重な展示物がいっぱいでしょう。細かい解説テキストを読んだり、壁に書かれた2人の発言を年代順に追いかけたりしてると、ついつい時間を忘れてしまって(笑)。

──ではまず、ご覧になった率直な感想からお願いできますか?

「DOUBLE FANTASY - John & Yoko」のエントランスエリアにて。

ビートルズもジョン・レノンも死ぬほど好きな自分にとっては、もう素晴らしいのひと言! ジョンとヨーコの尋常じゃない結び付きが、いろんな角度からリアルに体感できる構成になっていて。期待をはるかに上回る内容でした。変な表現だけど、この2人の関係って、例えばヨーコさんがボールを1つ投げるとジョンが10個くらい投げ返して。それをまたヨーコさんが瞬時にぜんぶ打ち返す、みたいな。

──はははは(笑)。なんとなくわかります。

創作活動も、日常生活もね。たぶんそんな感じだったと思うんですよ。お互いのことが必要で必要で、好きで好きで仕方なかったんだろうなって。時代ごとにまとめられたフロアを見ていくと、そういうイマジネーションが自然と広がっていく。平和運動を展開していた頃なんて、いま見てもすさまじいエネルギーですもんね。お互いに触発しあい、それがどんどん表現や行動につながっていくプロセスが、手に取るようにわかる。

──2人が結婚した1969年から70年代初頭にかけては、ベトナム戦争が泥沼化し、世界的にも反戦の気運が高まっていた時代ですね。そういえば茂木さん、先ほどの撮影中もそこですごく盛り上がっておられました。

ええ。あの展示エリアに足を踏み入れた瞬間、思わず「うわー、熱気にあふれてる!」と声が出ちゃった。もちろん時代の雰囲気もあるし。何より、目の前の現実に対して全力で立ち向かっていく2人の姿に感動するんです。

茂木欣一が熱気を浴びた「DOUBLE FANTASY - John & Yoko」の一角。

──本当にそうですね。当時の写真や言葉、どれも生々しい。

「WAR IS OVER!」のコーナーでピースサインを掲げる茂木欣一。

本気で戦争を止めたいという願いがあって、アーティストである自分たちに何ができるかという自問自答がある。それが「GIVE PEACE A CHANCE(平和を我らに)」とか、「WAR IS OVER!(戦争は終わる)」とか、「POWER TO THE PEOPLE(人々に力を)」みたいなメッセージやパフォーマンスに結実したんだなと。会場内で流れている当時のインタビュー映像がまた、刺激的なんだよな。半世紀も前のものなのに、言葉の1つひとつが突き刺さるじゃないですか。2020年を生きる僕たちにも。

──2人がテレビのトークショーにゲストで出演した際の映像ですね。

そうそう。世間の矢面に立つのって、ものすごくパワーが要ると思うんです。僕だったら怖じ気づいちゃうかもしれない。だけど映像を観ると、ジョンとヨーコさんはほとんど物怖じしてないでしょう。

──確かに、終始マイペースに見えます。

「僕たちだって普通の人間だから、そんな嫌がらせばかりされたら傷付くよ」と正直に話しながら、それでもユーモアで切り返していく。たぶん根底に、2人ならなんでも乗り越えられるって信念があるんだよね。そういう魂の絆みたいなものには、やっぱり強烈に心が揺さぶられました。ただ、「DOUBLE FANTASY」展が素晴らしいのはそこだけじゃない。むしろ、表に出ていない部分がすごく大きい気もしてまして。

「DOUBLE FANTASY - John & Yoko」を鑑賞中の茂木欣一。 「DOUBLE FANTASY - John & Yoko」を鑑賞中の茂木欣一。

──どういうことでしょう?

ジョンとヨーコさんがお互いを認め、高め合う同志だったのは間違いない。でも当たり前ですけど、2人は芸術家である前に恋人であり夫婦であり、やがて1人の息子の両親になっていくわけですよね。もちろん男と女だから、煮詰まってギクシャクしちゃう時期もあるし、穏やかな時間が流れる季節もある。そしてジョンとヨーコさんの場合、そういう人生折々の出来事がすべて表現に結び付いていたんだなって。今回のエキシビションはそれをまるごと見せてくれる気がするんです。

──ああ、なるほど。

最後のコーナーで、ジョンについて回想するヨーコさんの映像が流れるでしょう。たぶん亡くなって10年後くらいだと思うんですけど、そこでジョンについて「夫であり、親友であり、生涯のパートナーでした」という趣旨のことをおっしゃってるんですよね。その発言を聞いて、なんだか泣きそうになりました。僕はもうすぐ53歳で、ミュージシャンであると同時に、妻と一緒に1人の娘を育てる父親でもあるので。どうしてもそういう家族の目線が入ってしまう。芸術だけじゃない、それこそ表現から生活まですべてを引っくるめた結び付きにすごく共感するし、一番深く心に刺さりました。


2020年12月16日更新