ヒダカさんの知名度と話題性を意識した部分はある

——Furukawaさんから見て、今回のアルバムがこれまでの作品と大きく違う点はどこだと思いますか？

一番違うのは、このアルバムは研磨した曲としてない曲の差が激しいってことです。すごく研磨したコマーシャルな曲もあるし、まったく磨かずに出している曲もあって。具体的に言ってもいいですよ。かまわないです。「Lost ＆ Found」は研磨してるし、「gaze at me」は磨かないそのままの状態で出してます。だから結果的にすごくいびつなアルバムになってると思います。

——「Lost ＆ Found」はBEAT CRUSADERSのヒダカさんが参加した楽曲ですよね。

はい。あの曲のコマーシャルな部分に関しては、ヒダカさんにも話して了承を得ました。「それでもヒダカさんに参加してもらいたい」って言いました。例えばこの曲に最高に似合うボーカルがいたとしても、それがインディーズの全然誰も知らないような人だったら頼んでないっていうことです。誤解を恐れずに言うなら、ヒダカさんの知名度と話題性を意識した部分はありますよ。ただその中で、僕の選択肢はもうヒダカさんしかなかったってことももちろん伝えました。 で、ヒダカさんは「全然わかるし、どんどん使ってくれ」って言ってくれて。あの、そういうところも含めて、僕はヒダカさんをすごくリスペクトしてるんです。

——おそらくこの曲はFuruawaさんが自分で歌っても成立すると思うんです。そこで、あえてヒダカさんにゲストボーカルを頼んだのは、それをきっかけにしてより多くの人にこのアルバムを手にとっ てもらうため、という理解でいいんでしょうか？

そうですね。今まではそこのところが中途半端だったんです。中途半端に全体を磨いてました。でもパッケージなんてこのまま行ったらどうせなくなるんです。そう思ったら逆に、1人でも多くの人が聴いてくれる方法を選ん だほうがいいじゃないですか。「Lost ＆ Found」を聴いてもらうことによってアルバムが売れて、純度の高い「gaze at me」みたいな曲を一緒に聴いてもらえる機会が増えるんだったらそっちを選びたいし。絶対その発想のほうが正しいと思ってます。

「ドーパンらしい曲」という意味がわからなかった

——Furukawaさんが音楽マーケットの動向を強く意識することになったのは、「beautiful survivor」でCMソングを手がけた影響もあったんですか？

いや、逆なんですよ。あれに関してはコマーシャルなものが求められていたわけじゃなく、監督から直に発注を受けて、DOPING PANDAらしい曲が欲しいって言われたんです。でも俺はその意味がまったくわからなくて。だってドーパンらしい曲って言われても、ドーパンにはいろんな曲があるじゃないですか。だからこそ、そこで本質について考えなきゃダメなんだなと思ったんです。

——じゃあ「beautiful survivor」が今回のアルバム制作のきっかけになった部分はあるんですね。

そう。そのときにどっちに向いて進めばいいかはなんとなくわかった気がしましたね。

——ところで、Furukawaさんが現在の音楽産業に対して抱いている諦観は、セールスに対する諦観にもつながっていますか？ 「beautiful survivor」は、あれだけ大量にオンエアされたにもかかわら ず、いわゆる大ブレイクと呼べるほどのセールスは達成できなかったわけですが。

あー、それはないです。そこに関してあきらめてる気持ちは全然ないです。それは本当に誤解しないでほしいんですけど。いや、もちろんこれは嘘になっちゃうとイヤだから正直に言いますね。正直に言うと「beautiful survivor」に関しては（ヒットすることを）期待してました。で、タイアップが決まって周りのスタッフや大人達が急に盛り上がっている姿を見るのはイヤじゃなかったです。で、それが急に引いていく姿を見るのは、やっぱりイヤでした。それは事実としてあります。あるけど、だからといってセールスに対して諦観したりとかは絶対にないです。そんなモチベーションでは今までやってこなかったし、やってこなかったからこそ「beautiful survivor」というチャンスをもらったんだと思うし。それが結局 「gaze at me」がハリウッド映画の主題歌になるっていうチャンスにもつながってるし。僕らが良質なファンに恵まれているのも、そういう風にやってきたからだっていう認識もあります。負け惜しみでも何でもなく、あのときに中途半端に売れて、変な 見え方にならなくてよかったなって、そう思うようにしてるし、実際思ってます。だから「beautiful survivor」でCMの仕事をやらせてもらったことは本当に感謝してますね。

——じゃあセールスに関してはあくまで副次的なものとして。

そうです。自分が今こういうモチベーションになってることと、音楽産業が衰退に向かっているっていうこととの間に相関関係はないですから。

——そうですね。

あとね、売れる売れないっていうけど、僕はお金が入ってきても使い道があんまりない人間なんで。酒飲むか洋服買うか、あと機材買うくらいですからね（笑）。もちろんそういうものをまったく目指してなかったわけじゃないけど、でも音楽産業っていうもの自体がもうすぐなくなるでしょ？っていう状況ですから。ビジネスとしてあまりにも小さすぎるし。だから研磨したものが数多くの人に認められることは悪いことじゃないけど、でも反応速度が速いものを作ることだ けがすべてじゃない、っていうのはやっぱり思いますよね。