シンガーの堂村璃羽が5thアルバム「夜景」を配信リリースした。
18歳のときにツイキャスやYouTubeなどに“歌ってみた”動画を投稿し、その後、オリジナル曲を発表し始めた堂村。体だけの関係を赤裸々に描いた「FAKE LOVE」がSNSで話題を集めたあとも、リアルな恋愛、死生観などをテーマにした楽曲で10~20代を中心に支持を広げてきた。“夜”をテーマにしたアルバム「夜景」には、リード曲「Prima Stella」をはじめとする新曲と、「共依存」「溺れ愛」など既存の人気曲の再録バージョンが収められている。
音楽ナタリー初登場となる今回のインタビューでは、堂村の音楽的なルーツ、アルバム「夜景」の制作、アーティストとしての活動スタンスなどについて聞いた。
取材・文 / 森朋之撮影 / 曽我美芽
「俺は有名になる」音楽という“媒体”の中で試してみたかった
──堂村さんが音楽を始めたきっかけから教えてもらえますか?
中学、高校は吹奏楽部だったので、音楽には親しんでいましたが、自分でやり始めたのは18歳のときです。地元の兵庫県の大学に入って一人暮らしを始めたんですけど、朝起きられなくて(笑)、全然単位が取れなくて。入学したときに買ったパソコンを開いて、Logic(音楽制作ソフト)を使い始めたのが音楽を始めたきっかけでした。最初はカバー動画を投稿して、ちょっとずつライブも始めて。あるとき「人の歌を歌ってるのに、MCで自分の思いを語るのは違うな」と思い、オリジナル曲を作り始めました。ジャンルは意識してなかったんですけど、もともと日本語ラップが好きで、自然とヒップホップ寄りに。でもゴリゴリのラップではなくて、R&B寄りのテイストにしてみたり、何が自分に合うのかいろいろ試しながら制作してました。それが20歳か21歳くらいのときですね。
──その時点でアーティストして活動していくビジョンがあった?
そこまで明確なものはなかったですね。ただ、高校のときから「俺は有名になる」と周囲に言ってたんですよ。今振り返るとだいぶイタいやつなんですけど(笑)、大学に入ってからもそういう感じだったから、普通の仕事をするのではなくて、表に立つ人間になりたいというのはあったと思います。具体的なことは何もなくて、漠然と思ってただけですけど。
──世に出る方法、有名になる方法はいろいろありますが、音楽を選んだのはどうしてですか?
音楽ってどこでも流れてるし、日常的に耳に入ってくるじゃないですか。「このアーティストが好き」とか「この人は好きじゃない」という好みはあっても、音楽自体が嫌いという人は、おそらくほとんどいない。音楽という大きい“媒体”の中で、自分の曲がどれくらい愛されるか試してみたかったんですよね。たくさんの人に聴かれるかもしれないし、一部の人にだけ刺さるかもしれない。どっちにしても自分の人生的には面白いかなと。
──なるほど。そして大学2年生のときに中退して、上京したそうですね。
無一文で上京しました(笑)。やっていたのは配信が中心だったので、別に東京に来なくてもできたんですけど、自分を追い込みたかったんでしょうね。大学をやめたのも、逃げ道を断つためだったし、「失敗すれば死ぬだけだから」と思ってました。
──考え方が極端ですね……。
ハッキリしてるんでしょうね(笑)。とにかく音楽をやるために東京に来たので、曲を作って、リリースして、ツイキャスでライブをやって……試行錯誤の連続でした。SNSで曲がバズったことで軌道に乗ったんですけど、それまではずっと1人だったし、寂しかったです(笑)。
──それをセルフプロデュースで続けてきたのはすごいですよね。
僕が活動を始めた5年くらい前はTikTokも流行ってなかったし、1人で発信する方法が今ほど確立されてなかった。誰も教えてくれなかったから、お金をかけないで数字を伸ばす方法を自分で見つけてきたんですよね。最初はツイキャスで生配信をやってたけど、あるときYouTubeのほうがたくさんの人に届けられることに気付いたり。
狙いを超えていった「FAKE LOVE」
──まさに徒手空拳というか。最初にバズった楽曲は?
最初のEP(2019年リリース「ESCAPE」)に入っていた「FAKE LOVE」と「共依存」ですね。特に「FAKE LOVE」はすごく伸びて、いろんな人に知ってもらえるきっかけになりました。
──「FAKE LOVE」は「身体は重なり合ってる だけど愛はずれたままで過ごしてる」というフレーズで始まる楽曲で、生々しい歌詞が話題になりました。
いろいろ考えながら作った曲ですね。「FAKE LOVE」で歌われていることに対して「汚い関係だな」と思う人もいるだろうけど、それをきれいなメロディで中和させれば、いろんな人に届くんじゃないかなと。「スッと入ってくるんだけど、歌詞はゴツい」というバランスの曲を作ってみようと思ったんです。「FAKE LOVE」がバズったときは、狙い通りだなと思いつつ、「こんな伸びるんだ?」とびっくりしました。ただ、今もそうですけど、バズったからと言ってうぬぼれちゃダメだなと自分を戒めてます。
誰かの生きる理由になるとか、これ以上のことはない
──聴き手に刺さることを意図した曲がバズったことで、「このやり方で間違いない」という確信が持てたのでは?
そうですね。「FAKE LOVE」「共依存」でファンになってくれた方も多いし、これらの楽曲が自分のイメージの1つになったと思います。それを裏切らないというか、イメージに沿えるような楽曲を定期的に発表してきました。一番聴かれている「都合いい関係」も、まさにそうですね。
──リスナーが好きなタイプの曲も継続してリリースしてきた、と。
はい。自分の経験をもとにして書いた歌詞のほうが少ないんですよ、実は。例えば「ひとりぼっち」(堂村がたかやんと組んでいるユニット・STUPID GUYSの楽曲)という曲もそう。片親の子が主人公なんですけど、僕自身はそういう境遇で育ったわけではないので、妄想、想像を膨らませながら歌詞を書きました。そういう書き方のほうが多いですね。もちろん、全部やりたくてやっていることです。
──ファンの方から「堂村さんの楽曲が精神安定剤」と言われることもあるとか。
それはもう、うれしいのひと言ですね。「堂村さんの音楽で命をつないでます」というメッセージをもらうこともあるんですよ。好きになってもらうことを目指して始めた音楽活動なのに、それが誰かの生きる理由になるとか、これ以上のことはないなって。YouTubeのコメントも毎日見ているし、エゴサーチもしてます。ファンの方との距離感を近く保つことも大事だと思ってます。
──ライブに関してはどんなスタンスなんですか?
12月に愛知と大阪でライブをやったばかりです(インタビューは1月上旬に実施)。すごくよかったですね。200人程度の規模だったんですけど、会場に来てくださった全員と写真を撮って、話もして。「堂村さんの音楽のおかげでがんばってこられた」みたいなことも直接言ってもらえたし、そういう機会を作るのはやっぱり大事だなと。2023年はツアーもやりたいし、ライブの数も増やしたいです。
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月は「自分に優しくすること」の象徴